ホビーレビュー

RG Zガンダム

“実在する機械”を求め、MSを再構築する楽しさ。進化していくバンダイのプラモデル技術

西澤氏は、実際の機械への想いも熱く語る
西澤氏のRGシリーズでの次回作となる「RG ディスティニーガンダム」

――次に素材に関して、バンダイのプラスチックの素材研究ってものすごいレベルじゃないかと思うんです。アドバンスMSジョイントの柔らかさと堅さの具合や、クリアパーツの細かさ、関節部とフレーム、外側の装甲の質感の違いなど、非常に優れているなと感じます。

西澤氏: バンダイでも素材研究は重ねられていますが、キットに使用している製品素材はボックスに表記していますね。基本は「ABS」、「PS」、「PP」という3種類のプラスチックでできています。ABSはプラスチックとしては堅いものです。中のフレームで使われています。PSはこのキットで最も使われているものです。外装部分がそうですね。

 PPが柔らかいプラスチックで、アドバンスMSジョイントに使っています。弾力があり、耐久性の強いものです。ビームサーベルなど透明な部品もPSでひとくくりに表記しています。ABSとPSの組み合わせでロック機構を作っていたりします。「RG Zガンダム」の場合、変形をかっちり決めるためのロック機構は欠かせないですね。それぞれのプラスチックの性質を活かして機能を設定していきます。

――プラスチックに関しては、日々新素材が生まれているような印象を受けますが、研究から新しい素材が提示された場合それを活かす機構などを考えるのは、開発側なんでしょうか。

西澤氏: 開発と設計のやりとりは実際は何度も繰り返されます。設計が具体的な機構を決めないと開発が進まなかったり、実際にやってみて不具合が出て修正する場合もある。素材の選択もこの時に行ないます。やりとりは数回は行なっていますね。

 現在は液体の光を当てることで樹脂硬化させる「光造形」という技術がありまして、製品にする前に立体物で確認しながら作業を進めることができるため、構造の確認などもスムーズにできるようになりました。昔よりは文明が進んだなと実感することもたくさんあります。今回展示している作品でも光造形での試作品もありました。

――話題を変えて、設計方面の質問をしていきたいと思います。先ほどから何度も“本物”という言葉が出ていますが、本物を感じさせるために、プラモデルの設計にも、工業製品や、実際存在する機械なども参考にしている、ということでしょうか。

西澤氏: はい。MSといっても、やはり工業製品だと私は捉えています。MSが出るような未来でも、工業製品であるのは変わらない。ですから今の時代の工業製品の延長上にMSはあると思っているのです。どのくらいの機能を持つものが、どのくらいの大きさで、どのくらいのパーツ数で作られているか、実際の工業機械の資料などを見ながら、MSのプラモデルの設計に活かしています。

 ガンプラだから、アニメの設定をディテールアップし、シールをたくさん貼って情報量を増やし、格好良さを追求するという方向性もあるとは思います。しかしRGが目指す“本物”を実現させるためには、ヒンジのサイズはどのくらいかなど、現実にはないMSを実在させるためには、現実にある工業製品のノウハウが必要になってくると思うんです。

 お台場にある1/1 ガンダム立像はまさにそういった現実にある工業製品のノウハウが活かされていると思います。肘のマイナスのモールドが入った部品のサイズはどのくらいか、パーツ分割をどのくらいにすれば強度が維持できるか……そういった1/1ガンダムで得た経験が、「RG Zガンダム」には反映されてます。1/144のプラモデルを作るための設計ではなく、1/1 Zガンダムを作るにはどんなパーツがどういう強度で必要かをまず考えてから、それを1/144にスケールダウンしているのです。

 世の中にはものすごく大きなクレーンや、ものすごく大きなダンプカーを作っている会社があります。スペースシャトルやロケットを運ぶ車両なんてのもあります。世界的に見ればものすごく大きいメカというものはある。そういったものがどういう部品でできているか、機構を支えるためにどのような構造になっているかなどは、とても参考になります。「こんな大きい丸い部品を、ヒンジとして使うのか」など驚かされることも多いです。

――私はバンダイのプラモデルを作ってると、こういう関節の処理の仕方があったのか、この機構は現実の機械にも使えるんじゃないか、と思うことがありますが、実際には現実にある機械を参考に様々な機能を盛り込んでいる、ということですね。

西澤氏: そうですね。ただ、工業製品だけではなく、過去からの蓄積もとても多い。社内では社員同士での情報交換や検討も行なっています。過去の技術の蓄積に関して話を聞いたりすることもあります。RGもそういったこれまでの積み重ねでできています。過去には「MSジョイント」というものもありましたし、ランナー内に複数の色分けがされていたり塗装しなくても組める部分は「色プラ」という製品が過去にあったからです。Zガンダムの変形も過去の蓄積があってのものです。

 一方参考にした、という意味では宇宙関係の資料にとても影響を受けています。先ほどの作業機械や、スペースシャトル、ロケットなど技術的にトップクラスなもの、そして“夢”の部分があります。こう作っているんじゃないか、でもホントのところがわからない。工業製品の大本をたどる方が、企画を現実の形にするのに有利だったりもします。写真やテレビの特番等の資料も当たっています。バンダイホビー事業部では「エクスプローリング・ラボ」という現実の様々な機械や乗り物をプラモデル化するラインナップもあります。これを参考にMSの機構を考えると言うこともします。

――本物、という視点だと、それこそ内燃機関や、可動という方向もあると思いますが。いまは“立体物”という視点でしょうか。可動まで考えた本物を作りたい、というようなジレンマもあるのでしょうか。

西澤氏: ありますね。ただ、例えば「ガンダム SEED」は核を搭載した機体がありますが、核を再現できるかというとそれはできない。しかし内燃機関の容れ物の形は再現できます。それがフレームでどう支えているかもできます。プラモデルという製品の中で、どこまでできるかなど、本物に近づけるという課題は今後もチャレンジできます。

さらなる本物を求める西澤氏の挑戦

ガンプラEXPOで、今後のRGの企画候補として紹介されていたMS
企画進行中のプラモデルも多数展示されていた

――今後西澤さんがトライしていきたいものはなんでしょうか。

西澤氏: 先日開催した「ガンプラエキスポ」のRGのところでイラスト展示していたんですが、ズゴックなどの企画を出しています。RGはアニメの設定を“本物”にしていくというアプローチですが、アニメの設定に本物の説得力を持たせたい。アニメの中でしか動かないMSを工業製品として解釈したとき、どのようになるか。ここが楽しいと思っています。

 展示したイラストの中で例えばズゴックですが、「何で手と足は蛇腹関節になっているのか?」というのは大きな疑問ですよね。ここに本物としての説得力のある回答を与えたい。潜水するという能力で、あのデザインにした理由は何だろう、などなどそういったアニメのモデルから、“本物”としての正しさを追求するとき、どのような物になっていくか、そこを提示していきたいです。1/1 サイズでズゴックを考えたとき、どうなっていくか、挑戦してみたいテーマですね。

――ズゴックなどは30年前のデザインだし、「悪役メカで」といったアニメ的なアプローチも強かったと思います。しかしそのデザインを守りながら、きちんと実在の機械として描く、というのはとても楽しそうですね。

西澤氏: 1960~70年代に思い描かれていた未来は「21世紀の車は飛んでいるんだ」と思われていたじゃないですか。しかし21世紀の我々の世界では車は飛んでいない。それでも文明は進歩してるし、宇宙で観光旅行もできそうな時代になりつつある。工業製品のアプローチもまだまだ進化できると思うんです。RGはそういう進化した技術による解釈で30年前のMSを解釈し直す、ということも可能だと思うんです。

――現在はASIMOなど様々なロボットも登場していますが、ガンプラが提示してきたロボットの進化像とは異なる感じも持っています。「歩くという目的のために作られた機械」と、ガンダムはやはり違うなと。こちらのギャップに関してはどうでしょうか。

西澤氏: 夢と形の融合というところにガンプラ、そしてMSはあると思うんです。目的のためだけの機械じゃなくて、思い描いた夢を形にするという方向です。夢のデザインと機能、そこを融合できるのが今はプラモデルじゃないかなと。機能だけじゃない、夢だけじゃない、そのどちらも持っている“本物”というのが私達の目指す夢と実際の融合だと思っています。

――最後にプラモデルファンに向けてメッセージを。

西澤氏: プラモデルは組み立てることが一番の楽しみだと思っています。組み立てる時間は長くなってしまいますが、その組み立てている中で、MS、ロボットが作られていくかを考えていけるというのは、とても楽しいことだと思うんです。RGは“本物”を目指すというベクトルで作られたプラモデルです。

 今回の「RG Zガンダム」は実在の工業製品としてZガンダムが作られたら、どんな技術が盛り込まれるか、というものを考えてもらえる作品となっています。本物を感じながら組み立ててもらうと、これからのプラモデルももっと楽しくなると思います。色々考えながら組んでいただければ嬉しいです。

――ありがとうございました。

この他にも多数の試作品が展示されていた
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