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【G-STAR 2013】韓国スマートフォンアプリ市場がカンブリア大爆発!

揺れるオンラインと、活況のモバイルアプリ――韓国ゲーム市場を読む

11月14日~17日開催(現地時間)

会場:釜山国際展示場(BEXCO)

 17日に閉幕した「G-star 2013」には31カ国から531社のゲームメーカーや関連企業が出展し、過去最大の開催規模となった。しかし、例年に比べると参加者は少なめで、大作の発表もなく、少々寂しいイベントとなった。その中でも、気を吐いていたのがスマホアプリメーカーで、今年は日本のデベロッパーも大挙して参戦するなど、日本から見ると別の視点で盛り上がっているように見えた。

 このレポートでは、4日間に渡って開催された「G-STAR 2013」の様子を振り返りながら、韓国のゲーム業界の状況なども合わせてお伝えしたい。

ゲーム業界を震撼させた「ゲーム中毒法」で混乱の幕開け

中毒法への反対を訴えるための署名活動も行なわれていた
BtoCブースには、おなじみの名前がほとんどなかった

 今年最大の話題は何と言っても、韓国ゲーム業界を揺るがせている「インターネットゲーム中毒予防法(以下、ゲーム中毒法)」だろう。ゲーム中毒法は今年の4月に韓国保守のセヌリ党から代議士14人による議員立法として提出された「中毒予防管理及び治療に関する法律」の中の1つ。ゲームを酒やタバコ、麻薬と同じような“中毒物質”として厳しく規制しようというもの。

 当然ゲーム業界団体は業界を殺す法案として激しく反発。韓国デジタルエンターテインメント協会(K-IDEA)を中心にデジタルでの署名活動が行われ、開始から1週間10万人以上の署名が集まった。「G-STAR 2013」でも、会場の外に署名ブースが作られて、来場者に協力を求めていた。

 韓国では、ゲームの最中に死亡する事件や未成年の長時間プレイなどが、以前から問題視されており、2011年には16歳以下のプレーヤーが0時から6時まではゲームから強制的に切断される、いわゆるシンデレラ法案が試行されている。国による依存症の専門的な治療プログラムもある。韓国ではゲーム市場の約7割をオンラインゲームが占めており、長時間プレイでゲーム依存がおきやすいという事情がある。

 国内には、ゲームを社会悪として糾弾し、不安視する声もあるようで、例えば「G-STAR」はブースにいるコンパニオンの女性が扇情的な衣装で客の耳目を集めることが問題視され、「Girl-STAR」の略だと揶揄された末に服装の規程が厳しくなったりといった一面もある。

 そんな落ち着かない状況の中、今回の「G-STAR 2013」では、NCsoft、NHN Entertainment、Neowiz、WeMadeなどの常連が軒並みBtoCでの出展を見合わせるなど、ゲーム業界の行く末に不安を感じさせる雰囲気での開催となった。

 しかし、2013年の韓国ゲーム白書によれば、韓国の国内ゲーム市場は2012年に約9兆7,500万ウォン(約9,166億円)で、コンテンツの輸出でも稼ぎ頭で2012年の輸出総額は26億ドルに達している。韓国にとっては重要な外貨獲得手段となっている。韓国は国を挙げてゲーム産業を育成しており、与党の議員がそんな国の方針に反するような法案を出すのは異例に思える。それだけゲーム依存の問題が深刻化しているということなのだろう。

飽きられるMMORPG、盛り上がるeスポーツ、オンラインゲームの2極化

さりげなく出展されていたNHN Entertainmentの新作MMORPG「EOS」。今年はMMORPG停滞の年だった
DAUMの「黒い砂漠(仮)」は長い行列ができていた。韓国のMMORPG市場はブロックバスターのみが生き残る、北米のコンシューマ市場に似てきている
Wargaming.netのブースは「World of Tanks」の対戦イベントで盛り上がっていた
NEXONの「DOTA2」ブースでは、対戦イベントやコスプレイベントが行なわれた。今後、「League of Legends」の牙城を切り崩していけるか?
「League of Legends」のRiot Gamesはブース出展はなかったが、会場の外に大きな広告を掲載していた

 だが、今回の「G-STAR 2013」の様子は、ゲーム中毒法だけでは語れない。むしろ、もしゲーム中毒法の騒ぎがなかったとしても、結果は同じようになったのではないかと思わせるようなデータが、韓国の文化体育観光部とコンテンツ振興院がまとめた「2013年韓国ゲーム白書」に載っている。ここ数年で韓国ゲーム市場に起こった変化が、そのまま「G-STAR」の会場に反映されているといってもいい。その変化をいくつかの要素にわけて見ていこう。

 韓国のオンラインゲーム市場は2011年には前年比で30%の成長をしているが、これが2012年には8.8%に急減速し、今年はさらに8.1%へと減少するという見込みだ。この急減少は、2011年から2012年にかけて次々に発売された大作が、期待されていたほどには結果をだせていないことにも要因があると思われる。

 要するに、期待して待ちに待っていたのに、期待したほどではなかったと失望したユーザーがMMORPG離れを起こしたのだと考えられる。そもそもMMORPGは1つのタイトルを長く遊ぶジャンルで、矢継ぎ早にタイトルを出したとしても、ユーザーがついていけない。発表されるタイトルの数がだんだんと減っていったことから考えてもすでに市場が飽和状態なのだろう。

 その一方で、オンラインゲームを遊ぶ場所である韓国版ネットカフェ「PC房」の市場はマイナス成長から+4.5%と伸びている。これは世界的な人気ゲームとなった「League of Legends」(Riot Games)や「Diablo III」(Blizzard)の影響が大きいと思われる。特に「Diablo III」については、ゲーム白書は2012年のPCゲーム市場が前年度から608.3%増と6倍にもなっていることの原因になっていると分析している。

 このMMORPGの衰退、eスポーツ系タイトルの流行は、「G-STAR 2013」の会場でもそのまま再現されていた。Blizzardは例年通り大きなブースを出展し、その隣では「World of Tanks」を擁するWargaming.netがブース内でユーザー同士の対戦を開催して、閉会寸前まで盛り上がっていた。

 そしてもう1つ、大きく会場をにぎわせていたのが、韓国ではNEXONがサービスを行なう「Defense of the Ancients DotA2(DOTA2)」だ。現在MOBA(マルチプレイ・オンライン・バトル・アリーナ)として知られるジャンルの元祖ゲームの続編だ。こちらもブース内の対戦ステージで対戦を行ない、多くの観衆を集めていた。

 韓国でのeスポーツ人気は多様性を増している。以前は、そのゲームのメーカーがプロモーションのために大会を行なっていたが、現在は大会をオーガナイズする専門の組織が出てきて、大会の規模や回数も増加傾向にある。そのため、メーカーとしてもeスポーツを意識したタイトルを考えざるを得ないという状況だ。

 こうしてみると、今年、多くの大手が出展するタイトルがないことを辞退の理由にしたのは、ゲーム中毒法への抗議だけではなく、これまでMMORPGで覇権を握っていた企業が、それゆえに時代の変化への対応が遅れたための本音だったとも思える。

 こんなオンラインゲーム業界の変化で、大きな影響を受けているのが中堅のゲーム開発スタジオだ。高い技術力を持ち、巨額の先行投資が可能な少数のメーカーが一人勝ちの状態になり、資金や技術力に乏しい中堅メーカーは売り上げを落としている。同じことはアメリカのコンシューマ市場でも起こっている。中間が抜け落ちて、ブロックバスターと、インディーズだけになるという状態だ。

 実際、今年の「G-STAR 2013」には、弱小メーカーは大量にいたが、BtoBブースにも中堅メーカーの姿は少なかった。多少はいても、ほとんどは生き残りをかけたスマホアプリをラインナップしていたりと、オンラインゲームでは生き残れない厳しい状況が見て取れた。一例を挙げると、日本でも残念ながらサービスが終了してしまった「タルタロス」を開発していたINTIVSOFTは、「ELHAZ」というモバイル向けのカードゲームを開発しているそうだ。

(石井聡)