ニュース

世界で勝つためにEA、そして日本に足りないものとは……?日本語実況・解説のYamanobeds氏とMokson氏にインタビュー

12月15日 インタビュー実施

 12月14日より開催中のAndroid/iOS用MOBA「Vainglory」の世界大会「2017 Vainglory World Championship」。OPENREC.tvではYamanobeds氏とMokson氏により、連日の緊迫した試合の模様が日本語で熱く、そして詳しい実況解説が行なわれている。

 準々決勝開催直前の12月15日午前、このタイミングで、弊誌はお2人にインタビューする機会を得た。試合をもっとも間近で見てきたお2人に、グループリーグの結果を踏まえ、EAの現状について色々と尋ねてみた。本稿ではその模様をお伝えしたい。

EAに足りないのは「アグレッシブさ」と「自信に満ちたピック」?

――グループリーグが終了して、準々決勝進出チームが決定しました。ここまで試合を間近で見てこられた感想はいかがですか?

Yamanobeds氏:非常に荒れに荒れた大会だという印象です。昨年の世界大会は世界的な評価通りの結果でしたが、今年は新参のSEA(東南アジア)やCN(中国)が活躍して、強豪であったEA(東アジア)の韓国が予選敗退するなど、結果のわからない展開になったというのが正直な感想です。

Mokson氏:私はもともとNA(北アメリカ)やEU(ヨーロッパ)の「Vainglory8」も見ていて、それを下地にある程度結果の予想もしていたのですが、あれから極めて短い時間しか経っていないにも関わらずそれを大きく覆す結果になっています。「Vainglory」の各地域、チームのレベルの急激な上昇を感じますね。日本代表や前王者の韓国代表が負けてしまったのはとても残念ですが、解説していてとても楽しいですし、いち視聴者としてもとても面白い試合になっていると思います。

――では、これ以降の試合はどんなところに注目してみていけばいいでしょうか?

Mokson氏:おそらく日本の視聴者があまり期待していなかったであろう地域のチームが活躍しているので、このあたりが見どころですかね。

Yamanobeds氏:この2017年の大会で新たなスーパースターが生まれる可能性があると思います。このままいったらNAの1強になるかもしれなかったところ、今ニューフェイスが活躍しているので、それを楽しみにしていただければと思います。

――世界中のチームが集まる世界大会ですが、地域ごとのメタの違いなどは感じましたか?

Mokson氏:小さな流行りというか、細かな違いは地域ごとに感じますね。例えばグループリーグでいうと、「チャーンウォーカー」が大会のメタになっていたかなと思います。EAではパッチ2.9(編注:大会パッチは2.10)の時点で「チャーンウォーカー」が流行していた関係で、パッチ2.10の環境では対策されてしまってあまりピックされていなかったのですが、NAやEUではまだ「チャーンウォーカー」が流行っているような印象を受けました。

――大会では比較的様々なヒーローがピックされていたような印象も受けました。

Mokson氏:それでもキャプテンはあまり変わらない印象ですね。「ライラ」、「アーダン」、「チャーンウォーカー」が3竦みのような関係になっていて、優先的にピックされていました。キャリーとしてどのヒーローをピックするかというのはチームによって特色がでる部分で、特にSEAなどでは"メタだからピックする"というよりも"そのヒーローが得意だからピックする"という傾向も見られました。やはり自信を持ってピックするだけあっていい動きをしている選手が多かったように感じます。

――日本代表のDetonatioN Gamingは残念な結果に終わってしまいましたが、試合をどのように見ていましたか?

Yamanobeds氏:日本のチームというのは非常に実力が高く、優勝できるポテンシャルも持っていると思います。しかし、どうしても競技シーンや大舞台に対して必要以上に身構えてしまって、消極的なプレイやピックになってしまうことが多いんですね。

 DetonatioN Gamingに限らずEAは"勝ちに行く戦い"というか"負けないための堅実な戦い"をする傾向にあるので、EUだったりCNのアグレッシブな動きに対して大きく有利を取られてしまうことが多いのです。あとは、NAのキャスター陣とも話していたんですが、DetonatioN Gamingの1度押されたときに取り返す力が足りないという弱点が今回の世界大会の結果に出てしまったのかなと思います。

Mokson氏:プレイはいつもより緊張もあったと思いますし、少々精彩を欠く部分もあったのかなと思います。今勝っているチームとの差は、自信をもって「この選手にこのヒーローを使わせたら絶対に勝てる」という特別なヒーローがDetonatioNには欠けていたというところにもあるのではないかと思います。

 強いチーム、特にNAのチームは「この選手がこのヒーローをピックしたら絶対に勝つ!」という自信に満ちたキャリーやジャングルのヒーローピックがあるんですね。DetonatioN Gamingにもそういったピックがあれば、また結果は違っていたのかもしれません。

――メタから外れていたとしても自信を持ってピックできるヒーローがない、ということですか?

Mokson氏:そうですね。EAの中であればそれでもよかったんです。どのチームも整った構成にして、ピックでは差がつかないようにしつつ、プレイで差をつけるというスタイルですから。でも他の地域では構成的な噛み合いよりも、自信のあるピックをして勝負してくるんですよね。

Yamanobeds氏:EAでは6:4くらいの有利を狙ってピックをするんですよね。ただNAなどは有利不利はもはや関係なく、自分の能力を最大限生かし切れるヒーローや構成を選んでくるんです。

Mokson氏:そういうのがあるとまたBan&Pickも変わってくると思いますし、精神的に楽だと思うんです。それこそNAのTribeやC9は自信のあるヒーローを1stでピックして勝っているし、それを見た相手は2戦目でbanせざるを得ない状況になったりしてプレッシャーをかけることができていました。

 そうなれば今度はあえて構成的に整ったピックにしたりということもできて幅が広がります。そうして相手に対策"させる"ようなBan&Pickができるようになると、もっと勝てるのではないかと思います。

Yamanobeds氏:「DetonatioN Gaming」は逆に「クラル」をBan"させられて"いたりしたので、そうした意味ではBan&Pickの段階で有利を取られていたのかもしれませんね。

Mokson氏:相手に使われたくないものをBanしている印象だったので、若干ピックがやりづらくなっていたのではないかと思います。

――EAという地域のくくりで言えば、前世界王者の「ROX Armada」もまさかのグループリーグ敗退となりましたが、その原因はなんでしょうか?

Mokson氏:「ROX Armada」のプレーヤースキルは非常に高く、EAに限らず世界でも未だトップクラスなのは間違いありませんが、昨年は彼らのピックのやりかたや特別なヒーローピックに世界がどうしても追いつけない部分があったところ、今年は他のリーグのレベルも上がってきているので、2017年に限って言えば他の地域、チームの成長が「ROX Armada」を上回ったということのなのではないでしょうか。

 かつてのWilly選手(編注:世界大会開催時点では脱退済み。代わってpQq選手が加入)の「ランス」、Mango選手の「コシュカ」や「クラル」、druid選手の「ヴォックス」はまさしくスペシャルなピックで、「Rox Armada」はもともとピックが上手い上にプレッシャーを感じた相手が勝手に対策してくれるという状態にあったのですが、正直今回の世界大会では際立っていいピックはなかったかなとも思います。解説としては試合を間近で見てきて、世界大会でも余裕で勝てると思っていた部分もあったのですが、他の地域のレベルの向上が目覚ましく、そんなに甘くはなくなったのですね。

Yamanobeds氏:韓国のチームというのは去年までは特に集団戦を始めとしたプレイの判断がNAなどと比べて段違いに優れていたので、たとえ何をやっても10分で勝てるくらい並外れて強かったんです。

 しかし、「Vainglory8」という常に戦いながら実力を研鑽する舞台で、他の地域でも日々己のチームの実力を磨いたり、他のチームの対策を練ることができるようになってから、EAはだいぶ他の地域に追いつかれてしまっている状態なのでしょう。

 やはりEAは自分たちがメタの最先端というという自負もあったでしょうし、もしかしたら他のチームに比べて研究が足りなかった部分もあるのかもしれません。もうプレーヤースキルや戦略面だけでは勝てる状況ではないというのが今年はよくわかりました。

Mokson氏:EAの日本や韓国は集団戦が上手くて、序盤負けたとしても巻き返せるということが多々あったのです。しかし、今年のNAとEUは集団戦が確実に上手くなっています。もともとNAやEUは序盤の動きが強いわりに、集団戦では負けてしまうという試合が多かったのですが、ここは今年大幅に改善されているどころか勝ち進んでいるチームは既にEAを上回っています。特に「Tribe」や「Cloud9」からは集団戦の上手さを感じましたね。

――難しいところだと思うのですが、集団戦のうまさというのは具体的にどのようなところでしょうか。

Yamanobeds氏:集団戦そのものもそうですが、そこに至るまでの下準備が大事です。集団戦は基本的に先にいい形で当たれた方が勝つので、それを実行できるようにファームを重ねたり、相手の意表をつくための動きをしてみたり、いかに自分たちに有利な集団戦をするために下準備を積んできているかということが結果に繋がってきます。

 去年までのNAは出会い頭に自分たちのハンドスキルを信じて真っすぐぶつかるというスタイルだったのです。でも今はEAのような落ち着いた、間合いを図るような立ち回りなどが上手くなってきて、そこにNAのもともと持ち合わせていたアグレッシブさというのが兼ね備えられていて、EAより一段上の集団戦の上手さがでていますよね。

Mokson氏:去年との大きな違いはスキルの合わせ方が上手くなっていることですね。去年はもうとにかくスキルを使う、という形で戦っていたので、EAからすれば痛いスキルをキャプテンが受けきって、それからカウンターをすれば勝てるという形だったんです。

 しかし、今年はCC(スタンなどの状態異常)を重ねるのも上手くなっていますし、しっかり相手のスキルやアイテムのクールダウンを気にしながらスキルを使ったりだとか、バーストを重ねて相手を一瞬で落とすとか、チームでの狙いを合わせるコールなどが格段良くなっているように見受けられます。

 持ち前のアグレッシブさをいかしつつも、無理に飛び込むようなこともしなくなって、「押す」、「引く」の判断も上手くなっていますし、特にNAは1年間で格段にレベルは上がっているように感じますね。

Mokson氏:NAのようなアグレッシブさに欠けるというのも、EAが結果を残せていない一因ではないかなとも思います。無理はしなくてもとりあえず少し有利が取れていればOKというような。

Yamanobeds氏:少しの有利を持っていて集団戦が上手い方が最後に勝つというのがEAの一般的な考え方になってしまっている部分もあります。NAやEUはとにかく攻めて、スノーボールを意識して有利を取りに来るんですよね。

――ありがとうございます。それでは最後に一言お願いします。

Mokson氏:「Vainglory」、今年1年間の締めくくりで熱い試合が続きます。1つでも見逃すと「Vainglory」ファンからおいて行かれてしまいますので、1試合も見逃さないでください!

Yamanobeds氏:「Vainglory」の世界大会のレベルというのは去年に比べて格段に上がっています。それに比べてキャスターは落ちたな……と言われないように自分らしい会場の盛り上げ方で頑張っていきますので、これからも「Vainglory」を楽しんでください!

――本日はありがとうございました。