【特別企画】
「サラダの国のトマト姫」40周年!擬人化アドベンチャーゲームの元祖ともいえる作品、そのオリジナルであるPC版を振り返る
2024年4月1日 00:00
- 【サラダの国のトマト姫】
- 1984年 発売
今でこそ、サウンドノベルやビジュアルノベルなども含めた一大ジャンルとして確立されている“アドベンチャーゲーム”だが、日本で話題になり始めたのは1980年代前半からだ。
当時のパソコンゲームは、ゲームセンターのゲームをシンプルに移植したタイプのアクションゲームやシューティングゲーム、またはオセロや将棋といったテーブルゲームなどが主に遊ばれていたのだが、1982年にアスキーからフルテキストの「表参道アドベンチャー」が登場したほか、上部4/5が画像で残りにテキストが表示されるというマイクロキャビンの「ミステリーハウス」などがリリースされたことで、日本でもアドベンチャーゲームのブームが幕を開けていく。
翌年には数々の作品が発売されていくが、そんな1983年にハドソンソフトからデビューした作品が、名作「デゼニランド」だ。それまでは、多い時で月産30種類ものソフトを発売するなど質より量で攻勢をかけていたハドソンソフトだが、1983年末くらいから“厳選した自信作を月1本発売する方針に転換(アスキー刊月刊「ログイン」1984年11月号より)”し、1983年5月にリリースされた「デゼニランド」は、結果として10万本を超える大ヒットを記録する。これを手がけたのは、当時の雑誌などに登場していた竹・中コンビ(竹部隆司氏と中本伸一氏)だ。
一躍有名人となった2人が次に取りかかったのが、原案を竹部氏・脚本を中本氏が担当した「サラダの国のトマト姫」となる。本作は1984年に発売された、野菜を擬人化したアドベンチャーゲーム。今年2024年で40周年を迎えることを記念し、本稿で本作を振り返っていきたい。
キュウリ戦士として、トマト姫を助け出す!
本作をプレイしたことがある人は多いかもしれないが、ストーリーをしっかりと読んだ人はあまりいないと思われるので、ここで紹介しておこう。
銀河系を挟んで地球の反対側にある惑星では、いろいろな種類の野菜が集まって国を作っています。名前をサラダ王国と言い、オニオン王のもと平和な暮らしをしていました。しかし、それが面白くないのが、側近の一人であるカボチャ族の族長パンプキング。スタイルの悪いカボチャ族は国民から嫌われていたため不満を募らせていましたが、ついに怒りが爆発してクーデターを決行、成功させます。族長パンプキングはカボチャ大王を名乗り、オニオン王をスープ・ド・オニオンの刑に処すと、娘のトマト姫を追放しました。そして、これまでの仕返しとして、国民に重い税金を課します。
国は疲弊していき、野菜たちの苦しい生活が続く中、カボチャ大王に反発するグループ・反乱軍があちこちに生まれ、ついにサラダ王国で内戦が勃発する事態に。反乱軍は追放されたトマト姫をリーダーに迎えて戦いますが、戦争は一進一退のまま。この状況を打開するため、カボチャ大王はトマト姫を誘拐し、城に幽閉してしまいます。「反乱軍は、すぐさま無条件降伏せよ! さもないとトマト姫は……」カボチャ大王の通告が反乱軍司令部に届き、もはや全面降伏は時間の問題と思われた時、諸国を漫遊するキュウリ戦士がサラダ王国に立ち寄ったのでした。
プレイヤーは、サラダ王国に立ち寄ったキュウリ戦士として、トマト姫を助け出すのが目的となる。
今やほとんど使われなくなったフロッピーディスクだが、「サラダの国のトマト姫」が発売された1984年は、パソコン雑誌で「フロッピーディスクなんて怖くない!」といった特集が組まれるほど普及してない時代。そのため、大多数のソフトはカセットテープで発売されていた。
また、この当時は数多くのパソコンが売られていたため、ソフトもそれら多数のコンピュータ向けに移植・リリースされている。といっても必ずしも発売されるわけではなく、発売元のさまざまな意向などが絡んでくるため、今と同じく“あのハードにはあのゲームが出てるけど、自分が所有する機種にはあのゲームが出ていない……”ということもよくあった。
今回使用したのは、筆者が1983年当時に購入したNECのパーソナルコンピュータ「PC-8001mkII」向けに発売されたバージョン。今時のコンソール機やパソコンであれば、画面解像度は2k、もしかすれば4kというのも珍しくない。BGMに関しても、どんな音が鳴っても不思議はないが、このパソコンの解像度は320×200ドットで、使えるカラーは固定3色+選択1色。
「サラダの国のトマト姫」では、黒・赤・緑3色と青色というカラーリングだ。音源も、いわゆるブザー(ビープ音)を鳴らせるだけという、とにかく貧弱なハード。この時代のアドベンチャーゲームは、ゲーム中にBGMが流れるといった贅沢な仕様はないので音楽に関しては気にならなかったが、画面は同時代の他機種と比べて少々見劣りして悲しかったものだ。
今ならば、遊びたいゲームをメニューから選んだり、アイコンをダブルクリックすれば即起動だが、当時はカセットテープで供給されていたので、まずはOSからそのプログラムを読み込まなければならない。幸いにして、1980年代のパソコンはスイッチオンで即OSが起動するので、今のように電源ボタンを押してHDDやSSDからのロードを待つとOSがやっと起動、などという待ち時間がないのは良い点だ(笑)。
この時代を少々知ってる人の中には「カセットテープからのロードは長くて、ゲーム開始まで30分くらい待って……」と言う人もいるが、ほとんどのゲームは一回のロード時間はそこまで長くない。おおよそ、5~6分程度待てば遊ぶことができた。
ただし、「サラダの国のトマト姫」はスケールが大きかったため、他のゲームと違い12分ほどかかってしまう。しかも、大作ゆえにカセットテープ1本では収まらず、PC-8001mkII版の場合はテープ3本組となっていた。そのため、1本目の内容をクリアしたあとは別の空テープ(生テープ)に現在の状況をセーブし、改めて2本目のテープを読み込んだ後に先ほどセーブしたデータをロードするという方法を採らなければならないのだ。
ロードが終わるとタイトル画面が表示され、いよいよ冒険が始まる。
「サラダの国のトマト姫」が発売された1984年は、さまざまな会社がオリジナルのパソコンをリリースしていたが、中でもNECとシャープ、富士通は御三家と呼ばれる代表格だった。そのうちシャープと富士通のパソコンは、音楽を鳴らす機能を最初から備えていたのだが、NECのパソコンはその多くが買った状態では楽曲を奏でることはできず、前述したようにブザー(ビープ音)しか扱えなかった。
そのため、大概のゲームはロードが終了するとタイトル画面が静かに表示され、コマンド入力を待つ状態になるという物寂しい始まり方をしたものだが、本作はタイトル画面描画終了と同時にいきなりBGMが演奏されたのだ。これにはとにかく驚かされ、そして「デゼニランド」に引き続き「やっぱり竹中コンビの作るゲームはすげー!」と興奮したのを良く覚えている。
今回、富士通のパソコンFM-7と今回取り上げているPC-8001mkIIの、オープニングミュージックシーンを撮影してみた。FM-7はPSGと呼ばれる音源を搭載しており、8オクターブ3重和音での出力が可能。片やPC-8001mkIIはビープ音のみだが、それでもこの出来映え。初めてオープニングを体験したときは、あまりのインパクトに竹中コンビが神様のように感じたもの(笑)。
ゲームは、当時としてはお馴染みのコマンド入力式を採用していた。特筆すべきだったのは、英語だけでなくカタカナ入力にも対応していた点だろう。例えば、目の前に紙切れがあった場合に入力するコマンドが「LOOK PAPER」であれば、カタカナで「カミ ミル」と打ち込んでも問題がなかったのだ。コマンド入力式のアドベンチャーゲームといえば、制作者が考えたマイナーな英単語をプレイヤーが探す知恵比べという要素も一部分にあり、それこそ英和辞典を片手に片っ端から該当する単語を入力しては「チガイマス」といわれるのを繰り返すのがパターンだったが、カタカナであればそういった苦労からかなり解放されるというのが大きかった。
しかも、マニュアルには「英語と日本語を混ぜ合わせて使ってはいけません。例えば、「OPEN BOX カギ」とか「KEY デ ハコ ヲ アケル」といったような使い方はできないので注意してください」と書かれていたにもかかわらず、ゲームを開始してすぐの場面で「GET WATER スイトウ」と入力して問題なくできてしまったのにも驚かされた。もちろんここだけでなく、あらゆるシーンで混在させることができるのだが、おそらくはどこかでバグってしまう場面が出たので、マニュアルには混同させるなという注意書きが付いたのではないかと想像される。
とはいえ、カタカナ入力をサポートしたおかげで単語探しで悩むことが減り、よりストーリーを堪能することができるようになったのは間違いない。
そんな「サラダの国のトマト姫」だが、前作の「デゼニランド」では序盤から考え込むシーンが多かったものの、本作はそれほど意地悪な仕掛は設定されておらず、中盤まではそれなりにサクサクと進めたのが良かったところ。各場面で“LOOK(ミル)”すれば対象となる物体の単語も表示されるので、いちいち辞書で調べる必要がないのも良いところ。
この時代、ゲームは1人で遊ぶことが多く、特にアドベンチャーゲームの場合は1カ所で悩み始めると先に進むことができなくなり、クリアできるまで延々と考え込むことになるのは良くある話だ。当時のパソコンは、空冷のためのファンを積んでいないものも珍しくなかったので、静かな部屋の中でモニタとにらめっこしながら、1人でうんうん唸って考えている時間を過ごした人も多いだろう。
当然ながらインターネットなどない時代なので、どんなに困っても自らの脳で答えを思いつくしかなかった。そのため、当時発売されていたパソコン雑誌の攻略ページや攻略本などは非常にありがたく、そこに書かれたヒントを見て回答を思いついたことは数多い。雑誌や書籍も1冊だけだとわからないことがあったりするので、5冊6冊と買いあさっていた人もいたのではないだろうか。
アドベンチャーゲームの醍醐味と言えば、何といっても難所を自力で突破した時に得られるカタルシス的な快感。散々悩んだ末に思いついた単語や、ふとしたことから発想を得て入力したコマンドで難関をクリアできた時の気持ちよさといったら、それはもう言葉では表せないほど。
それは「サラダの国のトマト姫」でも同じで、終盤での難所となるカボチャ大王との一騎打ちのシーンなどが良い例だろう。何度繰り返しプレイしても戦いの果てに勝利を掴めないため、“もしかして道中に何かあるのでは?”と考え、そして必殺のアイテムを見つけて勝利した時には、思わずガッツポーズが出たものだ。
こうしてカボチャ大王は宇宙の果てまで逃げてしまい、無事にサラダ王国の危機を救ったキュウリ戦士の物語は終わる。当時クリアした時は、しばらくはえもいわれぬ充実感で心が満たされたものだ。特に、ゲームの少なかったPC-8001mkIIにおいては、このような大作で名作なアドベンチャーゲームは少なかったこともあり、本作は質・ボリューム共に大きな満足感を与えてくれた。
そんな「サラダの国のトマト姫」は、時代を超えて愛されるタイトルになっていったのだが、筆者世代にとっては後に発売されたファミコン版よりも、いわゆるガラケー向けとして登場したバージョンよりも、ロードに時間がかかりコマンドを入力しなければならないパソコン版で遊ぶのが一番面白いと、今回改めて確認した。
さまざまな趣向が凝らされている今時のアドベンチャーゲームやサウンドノベル、ビジュアルノベルも良いものだが、昔懐かしいゲームもまだまだ捨てたものではないもの。今はプロジェクトEGGなどで気軽に遊ぶことができるので、機会を見つけてぜひプレイしてみてほしい。
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