インタビュー

韓国ゲームファンに最も愛された日本人 SCEKプレジデント川内史郎氏インタビュー

難攻不落の韓国市場に挑んだ5年間。今後はSCEJAでソフトウェア全般を統括

11月収録



会場:BEXCO

 韓国のゲームショウG-STAR 2015で、韓国国外メーカーでもっとも注目を集めていたSCEK。今年はG-STAR開催1週間前にプレスカンファレンスを開催して、PlayStation VRを韓国で初公開すること、韓国発のオリジナルタイトルやハングルローカライズタイトルの出展をアピールしたことも奏功し、連日大賑わいの人気振りだった。

G-STAR会場では常に記念撮影を求められていた

 プレスカンファレンスでは、アジア地域の中で韓国がもっともPS4のセールスが好調なことが報告されるなど、PS3時代は為替レートの急変やPSNの長期停止などの影響により、不振続きだったことがウソのような好調に沸いている。

 そのSCEKを5年以上にわたって舵取りをしたのがSCEKプレジデントの川内史郎氏だ。2010年5月にSCEKプレジデントに就任し、2012年からは韓国ソウルに単身赴任する形で韓国市場を担当し、2013年12月のPS4の韓国ローンチを成功に導いた。川内氏の韓国での人気はあたかも“日流スター”のようで、G-STAR会場の通路で川内氏と会話しようものなら、たちまちファンに取り囲まれ、会話を強制中断させられるほどだ。ゲーム業界において、クリエイターや声優が人気を集める例は多いが、“販社の社長”がここまで人気を集めるケースは川内氏ぐらいではないだろうか。

 今回は、G-STAR会期中に、川内氏に単独インタビューを行なう機会を得たので、その模様をたっぷりお届けしたい。なお、“舵取りをした”と過去形で書いたのは、すでにSCEKプレジデントを退任しているからだ。川内氏はG-STARの出展を最後に、SCEJA ソフトウェアビジネス部門のバイスプレジデント(VP)として、日本とアジアのソフトウェアビジネス全体を統括する立場となる。

 なお、参考までに川内氏が韓国でブレイク(!?)するきっかけとなった川内氏登場動画を3本掲載しておくので、ぜひ1度見てみて欲しい。

【川内史郎氏、男泣きする】
川内氏が、PS4ローンチイベントでの挨拶の途中、ファンの熱い歓声に耐えきれず男泣きする。川内氏の出番は50分あたりから

【川内史郎氏、SCEKの広告塔になる】
SCEKでは経費節約のつもりで川内氏を登場させたところ大人気となり、それ以降、川内氏を前面に押し出した映像を作るようになった。小刻みに織り交ぜられる川内氏のオヤジギャグに注目したい

【川内史郎氏、「Bloodborne」で心が折れる】
そして韓国で今年最も話題を集めたのがこの動画。ノンゲーマーの川内氏が「Bloodborne」に果敢にチャレンジし、怒り、呻き、そして心折れる様子を余すところなく描いた衝撃の話題作(閲覧注意)

PSVRの韓国ローンチはどうなる? プレスカンファレンスとG-STAR出展について

SCEKプレジデント川内史郎氏
SCEKプレスカンファレンスではPSVRがアピールされた
韓国との昨年比のデータを公開し、アジアにおいてもセールスが伸びていることをアピール

――まずはじめに11月4日に開催された発表会についてですが、2時間超に渡ってボリュームもたっぷりでしたね。

川内氏:すいません。あんなに長くなるとは思わなくて(笑)。

――2014年はG-STAR初日のオープニングにカンファレンスを実施していましたが、それをなぜ1週間前にやることになったのですか?

川内氏:韓国ではPlayStation VRを一般の人に触っていただくのは今回が初めてだったのです。まずはメディアさん用の場所を設けさせていただいて、まずはメディアさんに触っていただきたいというのが1つあったのと、発表内容がいろいろとあったのですが、特にG-STARの発表がたくさんある中に埋もれないような形にしていただきたいなというのがもう1つありました。

 後はVRに関して発表会後にデベロッパーさん向けのGDCがあったのですね。東京の方からSCEWWSの吉田修平が来て、まずはVRを紹介させていただいて、デベロッパーズカンファレンスでは実際に制作担当からご説明させていただく時間を持たせていただきました。一連のそういう流れをぎゅっと詰めてやりたかったので1週間前の開催になりました。

――韓国市場の現況を語った織田さん、PSVRを語った吉田さんとそれぞれ内容があってVRに特化した発表会なのかと思いきや、川内さんが次から次に韓国タイトルを発表して驚きました。

川内氏:今回のG-STARでは特別ブースも設けましたが、韓国デベロッパーさんをフィーチャーしたかったというのがありました。私の中で、韓国産タイトルを盛り上げたいという気持ちがあって、今回の発表会ではデベロッパーさんに対するお礼と、しっかり強調したいという思いが強かったんです。

――今回の発表会で印象的だったのは、10月1日に値下げをしたことによる影響をアピールするために、アジア単体のデータをグラフで出してましたね。ああいう出し方は珍しいですよね。

川内氏:私もびっくりしました。出しやがったなという、それはウソですが(笑)。何故出したかというと、社内でも値下げをした後って北米欧州はそれなりにずっと伸びてきましたけど、まもなくワールドワイドで3,000万台(編注:11月25日に3,020万台達成を発表)というところで、日本、アジアってどうよみたいな話があり、好調ぶりを示す良いサンプルとして韓国に白羽の矢が立ったわけです。そんなこともあったので、あえてデータの資料を使ったのかなという。傾向としては、日本を含めたアジア全域でだいぶ効果が見て、韓国が顕著にそれが出ていたので、台数は出ていなかったと思いますが、流れとして傾向として伸びているというのを出したかったのだと思います。

――PS3よりもいいですか?

川内氏:ぜんぜんいいですね。総数ではまだですが、PS3の倍くらいのスピードできてますから。

――来年度で抜くとか?

川内氏:来年度で抜く可能性が、大か小かというと中(笑)。

――韓国ではPS2がヒットした時代がありました。ミリオンヒットを達成したことを記憶していますが、そのPS2と比較していかがですか?

SCEKマーケティング部ゼネラルマネージャー ハ・スンジュン氏:PS2の時代よりいいですし、台数的にも確実に抜くでしょうね。それはもう自信を持って言えます。

――それは香港や台湾といった他のブランチと比較しても韓国が1番調子がいいですか?

川内氏:値下げ以降のカーブの高さというのは韓国が上ですね。

ハ氏:PS4の好調なセールスには大きな意味があると思っています。PS2の時代はモバイルや他のコンソールとの競争がなかった時代です。韓国にはまだ任天堂やXboxが入ってなかった時代です。今は競争相手が幾らでもいます。その中でこの調子なのは素晴らしいと思っています。

――今回韓国タイトルを25タイトルも発表しましたが、韓国産のPSタイトルはなかなか新規タイトルが生まれませんでしたが、いきなり25タイトルはすごいですね。水面下でずっと動いていたのですか。

川内氏:すべて私の腕です。それはウソですが(笑)、Bluesideさんの「Kingdom Under Fire II」をPSで開発しますという発表は、5年前のG-STAR 2010の時に一緒にさせてもらいました(参考記事)。当時PS3での発表だったのですが、まもなくPS4の発売を控えていたこともあり、やはりPS4でやりたいと。それで1回PS4でやってみると、PS3に比べて非常に開発しやすい。彼らはもともとPCでやられていたので、PCと同じかそれ以上のパフォーマンスが出せるということがわかったということを結構デベロッパー仲間の間にも拡散してもらったというのがあって、それが効果としてあったと思うのです。

 あとはPS4が全世界的にもヒットしたということで、プレイステーションっていうフォーマットに乗っかっておきたいよねという追い風が吹いていること。その1つの背景事情として、韓国ではPCオンラインゲームの需要がまだまだものすごくあるのですが、それが徐々にモバイルゲームにとって変わられてきている。そのことにやはり多少の危機感があって、PS4が非常に露出がでてきて、しかも開発しやすく、移植も非常にやりやすいということで、その相乗効果として成果が出てきているというのはありますね。

 VRについても、2015年のGDCからお見せしていますし、まだまだ協議させていただいている方がたくさんありますし、開発機材を貸して出しているところもあって、その中でも開発しているというのが25社ということです。今検討している、もしくは開発に向けて検討段階にはいっているところはもっとあったと思います。そういう意味では私自身もこの速さにびっくりしますね。種まきをしてきたのが、だんだん芽が出てきているという実感があります。韓国のタイトルは質が高い。彼らが来ることによってPS4のパフォーマンスが、我々が期待値として持っている能力をちゃんと引き出してくれますから、非常にありがたいですね。

「KIDO」(Next Door)
「Whiteday」(ROI Games)
「Until Dawn: Rush of Blood」(Supermassive)
PSVRのローンチラインナップで重要なのはクオリティだという

――発表会を終えた後の反応はいかがでしたか?

川内氏:あの後も韓国デベロッパーさんを何社か回ったりしているのですが、さらにもっといいパフォーマンスを出しますみたいなことを言ってくれたり、開発期間が縮んだという話をしてくれたり、というのがビンビン伝わってくるので、やっていただいているところの皆さんにもいい影響というか、やる気が出ていただいているし、いま考えていただいているところにもさらに具体的に乗っかってきてもらうことをどんどん進めているところです。

――韓国メーカーのジレンマとしては、PS4がうまくいっているといっても、それはあくまでPS3との比較での話であり、韓国におけるライバルであるPCオンラインやモバイルと比較すると市場的にまだまだ小さいというところがあります。それにも関わらず、色々なデベロッパーさんが入ってきているのはやはりグローバルを見ているということですか?

川内氏:そうですね。もちろん韓国だけではなくグローバルに展開できるという、それも私たちのセールストークのひとつです。韓国で開発していただければ、ローカライズの問題もありますけど、私たちのネットワークでちゃんと全世界に展開できるリソースを持っているという話もしています。

――彼らが意識しているのはグローバルでいうとどの辺りになるのですか?

川内氏:もちろん日本ですが、北米も見てますよね。後はヨーロッパです。台数的にいうと、ヨーロッパ、北米は大きな市場ですので。

――欧米ですか。

川内氏:そうですね。やっぱり北米ヨーロッパがデカい。3,000万台という台数を知ってますから。PS4で展開することを考えたらやはり北米ヨーロッパをみますね。その展開に関しても我々が相談に乗るという感じだと、プレゼンをするのであれば場を設けて、現地の方で今も当然やっていますしね。

――発表会で紹介された韓国タイトルに「KIDO」というアクションゲームがありました。G-STAR会場で遊ばせてもらいましたが、初出展でいきなりクオリティが高いですね。

川内氏:「KIDO」に限らず全部高いんですよ。この間のヨーロッパのゲームデベロッパー向けのコンテストでも韓国のゲームが賞をとっていたり、クオリティがすごいのと、コンセプトが面白い。いろんな局面でゲーム開発者の層が広いということをものすごく感じます。

――どうしてもPSは、日本と欧米のゲームプラットフォームというイメージが強いですが、そこに韓国発の新たな感性のゲームがどんどん出くればさらに面白くなりますね。

川内氏:そうですね。あとは我々が見ているのは、中国ですね。まだ中国は、まだ始まったばかりで普及率、普及台数としてはそんなに多くないのですが、大きな市場があります。PSは中国でもかなり盛り上がって、開発をしていただいている会社さんが多いです。

 韓国も台数的にはまだまだなのですが、ものすごい角度でいま伸びています。これは社内的にも非常に注力してもらっているのですが、10月1日に価格を変えたのがかなり効果があり、ずーんと上がってきています。これからも中国韓国の、彼らの展開という意味からしても、注目していただきたいですね。

――今年は3月に中国市場が正式にスタートして、中国市場を見る機会が多くあったので中国市場の印象が強いのですが、今回の韓国の発表会では、韓国もまだまだおもしろくなるなという印象を受けましたね。中でも、初のVRタイトル「White Day」は意欲的でしたね。PS4向けのホラーかと思いきや、「VRかよ!」という。

川内氏:大きな反響がありましたね。実はVRをお見せする前から話をしているデベロッパーさんの1つです。

――では、あれは途中でVRに変えたわけですか?

川内氏:もともと同名のPCゲームが存在していて、その移植をVR化するというものです。

――触ってみていかがですか?

川内氏:期待作ですよね。思った通りの話題性もあるし、クオリティが高いので楽しみですよね。ジャンル的にはホラーですね。「ほら、いったでしょ?」みたいな古典的なホラー(笑)。

――パリでは「Until Dawn」のVR展開が発表されました。あれは遊んでいた時からVRに適しているなと思っていたのですが、ああいう感じのホラーですか?

川内氏:似た感じというか、似て非なるものというか、感覚的に近いところがあるかもわからないですね。

――「White Day」はPSVRの韓国ローンチタイトルになりますか? それともグローバルローンチに合わせていきなりグローバル展開しますか?

川内氏:ローンチに何を揃えるかはSCE内部でも色々と議論がありますし、ワールドワイドに国によって何をローンチタイトルにするかは地域によって違います。当然、日本だと今まで話題になっているタイトルをすべて揃えたいよねというのがありますし、それはアジアでも同じです。

 ただ、ローンチタイトルで大事にすべきなのはクオリティだと思うんです。VRって最初に触って紹介したタイトルが、例えば3D酔いしてしまうとそのあと触ってもらえなくなりますし、結構ローンチタイトルの選び方は大事だと思うのです。ですからローンチだけではないのですが、やはり最初期に触っていただくタイトルについては、一定以上のクオリティを備えた、VRを嫌いにならないようなタイトルにする必要があって、ローンチにどれを揃えるかというのは簡単には決められないところです。ただ色々なものをそろえて、ローンチタイトルとして揃えておきたいなというのがあるので、どんどん開発していただきたいです。

――コンテンツ側のビジネスモデルは、1タイトルあたりいくらみたいな売り切りの形になるのですか?

川内氏:これもいろいろな考え方がありますよね。VRって本当にやってみないとわからないところがあって、まだ何も決めていない段階ですが、たとえば、PS4持っています。PSVRが出たので買いました、となったら、まずはどんなものか体験したいじゃないですか。ですから、それが可能になるように、お試しみたいなものも揃えないとダメでしょうし、さらに今後も面白いタイトルが出るから、それを買おうというところに繋げて欲しい。コンテンツはゲームに限らず、ノンゲームだったり、単に映像を見ていただくようなものがあったり、そこからゲームをしてもらったり、色々なものを総合的に組み合わせていくべきだろうと。そこは東京の方(SCEJA)でも日夜激論を交わしているところです。

(中村聖司)