「ファイナルファンタジー XIV」新プロデューサー吉田直樹氏インタビュー(前編)
「新体制は合議制ではない」。強い覚悟で臨む新プロデューサーの開発ポリシーを聞く


12月21日収録

会場:スクウェア・エニックス本社会議室


 12月10日、スクウェア・エニックスが衝撃の発表を行なった。代表取締役社長の和田洋一氏自らが声明を発表し、「ファイナルファンタジー XIV」の開発体制を一新し、Windows版の無料期間を延長すると同時に、2011年3月を予定していたプレイステーション 3版の発売時期の無期延期することを明らかにしたのだ。

「ファイナルファンタジー XIV」
12月10日に「The Lodestone」上で行なわれた発表。写真を見て意味を悟った人がほとんどだろう

 「やっぱり」、「非常に残念」、「遅すぎる」。オンラインゲームファンは悲喜こもごもの様々な印象を抱いただろうが、見方を変えれば、「ファイナルファンタジー XIV」をこのまま終わらせないというスクウェア・エニックスとしての明確な意思表示であり、ポスト「FF XI」、あるいは純国産の次世代MMORPGを待ち望むオンラインゲームファンにとって、今回の発表は一筋の光明を見いだした出来事だと言えるのではないだろうか。

 その重大な舵取りを和田氏から任されたのは吉田直樹氏。プロデューサーとディレクターを兼務し、コスト管理とコンテンツ管理を一手に担う、“特命全権プロデューサー”である。出身は意外にもオンライン開発チームからの抜擢ではなく、「ドラゴンクエスト モンスターバトルロード」シリーズのディレクターという、言わば畑違いの人材である。

 今回は、就任間もない状況ながら、インタビューに応じて頂けたので、期待半分、不安半分で、その覚悟を聞きにスクウェア・エニックスを訪ねた。まだ新体制への移行の過渡期ということで、具体的な内容については口が堅かったものの、彼自身実は大のオンラインゲームファンであり、質問の先手を打つような水際だった回答ぶりや、ユーザー視点から演繹的に改善の必要性を明言する明快な開発ポリシーが非常に印象に残った。具体的なコミットは1月1日以降ということだが、オンラインゲームファンにとっては大いに期待の持てるインタビューとなっている。

 ロングインタビューとなったので前後編でお届けする。前編では吉田氏率いる新体制の開発ポリシーや吉田氏本人のオンラインゲームプレイ遍歴、そして気になる「FF XIV」に対する現状評価、Windows版の課金開始時期、PS3版の発売時期などについて話を伺った。後編では具体的なゲームコンテンツの改良や拡張の方向性について話を伺っている。ぜひ合わせて一読頂きたい。



■ 「FF XIV」新プロデューサー/ディレクター吉田直樹氏について

新たに「ファイナルファンタジー XIV」ディレクター兼プロデューサーに就任した吉田直樹氏
吉田氏がディレクターを務めた「ドラゴンクエスト モンスターバトルロードII」。「ドラゴンクエスト」シリーズの世界観をモチーフにしたアーケード用カードゲーム

編: 吉田さんは「FF XIV」及び、「FF XI」ファンからすると、あまり名前を耳にする機会がない方ではないかと思います。まずは、これまでのスクウェア・エニックスでのキャリアをお聞かせいただければと思います。

吉田氏: 当然ですが、スクウェア・エニックスに入社する前からゲーム開発には携わっていて、来年でゲーム開発は18年目になります。スクウェア・エニックス入社後の代表作としては「ドラゴンクエスト モンスターバトルロード」シリーズになります。それ以外に未発表のタイトルもあります。今後発表されれば僕のキャリアとなりますが、現時点ではどう関わっていたかお話しすることはできませんが。

編: 吉田さんはこれまではどちらかというとエニックス系、「ドラゴンクエスト」系のクリエイターですよね?

吉田氏: どちらか、といわれれば確かにそうですが、今回発表した新体制スタッフとは、元々仲は良かったですし、誰にでもずけずけと物を言うタイプなので、エニックス系とかスクウェア系とか、関係ないキャラですね、自分は。

 僕が結果的に「FF XIV」に関わるようになった理由はいくつかあります。僕がスクウェア・エニックスに入社した時期は、テクノロジーが目に見えない変化を遂げていた時期でした。2Dグラフィックスから3Dグラフィックスになった初代PSの頃は、目に見える大きな変化でしたが、PCゲーム市場の小さかった日本では、今の現行機で当たり前に用いられるテクノロジーは、使う機会がありませんでした。もちろん、プログラマーやデザイナーの一部の人は、「それじゃまずい」と強く警告を発していましたが、日本のゲーム開発全体で見ると完全に出遅れました。ゲームの企画に携わる人間の中で、僕はその変化に割と早く気がついて、ヤバいと思って勉強していた人間です。その辺りは、会社の中でも評価して貰ってるんだろうな、と。

 僕が関わった「ドラゴンクエスト モンスターバトルロードI/II」がアーケード向けで、開発はPCベースで行なってきたのもラッキーでした。市村(龍太郎氏、「ドラゴンクエストIX」プロデューサー)という超強力なパートナーと丸5年一緒に仕事をして、2人で長期間にわたるゲーム運営の舵取りも実践させて貰えた。「バトルロード」は2カ月に1階のバージョンアップを全18回やってきました。オンラインゲームに近い運営を体験できました。後は「総合ゲームデザイン力」ちうところで、会社から評価されている気はします。こういった諸々の経験や評価が重なって「FF XIV」のプロデューサー/ディレクターを任されたんだと思っています。最後に一番大きかったのは、開発スタッフの上位層から「是非入って欲しい」と言ってもらえたので、じゃあがんばってみようかなと。

編: オンラインゲームそのものの開発の経験はありますか?

吉田氏: ありますが、まだコメントすることができません。ごめんなさい。

編: 今回、「FF XIV」の開発スタッフが刷新されました。開発リードメンバーにはきら星のようなというと褒めすぎかもしれませんが、豪華なメンバーが名を連ねていますよね。こちらの人選はどなたが?

吉田氏: 人選は自然と、という感じで、役割の振り分けは基本的に僕がしました。「FF XIV」は会社としても、お客様からも高い期待値があります。これに応えるためには、僕らが本気で取りかからなくてはならない。サイズ、コンテンツ量、スケールも大きく、現場から求められる声も大きい。今回のリードメンバーは「吉田が立ってくれるなら、俺達も死ぬ気で支えるから」と言ってくれまして、とても嬉しかったですね。

編: 全体的な傾向としては、橋本さん(善久氏、「FF XIV」テクニカルアドバイザー)や皆川さん(裕史氏、リードUIアーティスト兼リードWebコンテンツアーティスト)など、エンジニア系のスタッフが充実している印象があります。

吉田氏: 日本のゲーム開発は現在テクニカルの面で難しい局面にあります。「絵に描いた餅」としてのアイデアはある意味素人でも出せますが、それを具現化させるのは難しい。それ以上に今回の体制変更のキモは、スクウェア・エニックスに対しての「信頼回復」だと僕は思っています。「約束をきちんと守る」この当たり前のことをやるために、テクノロジーの支えが必要なのです。スケジュールを正確に立てるためにも、開発パフォーマンスを上げるためにも必要です。これだけ巨大なプロジェクトである以上、僕が一言言っただけで、ガラッと変わるわけではないので、号令を素早く具現化できる構造にするための人選です。

編: それは「FF XIV」をテクノロジーから変えていくという明確な意思表示と考えていいですか?

吉田氏: そうですね。技術方向から変えていきます。ローンチ直後である以上、パッチをもっと潤沢に当て、素早くアップデートすべきだと思っています。そのための体制を早く、確実に作ることで、僕の口から皆さんに発表したものが、ちゃんと予定通りに発表した内容で届く。それをもっと短いサイクルで繰り返すことで信頼を回復して行かなくてはと考えています。信頼が崩れるのはすごく簡単だけど、回復するのはすごく難しい。1つ1つ予定通りに、早く、正確に続けていくことでお客様の信頼を回復していきたい。プレイしているユーザーだけでなく、カスタマー、小売りの方も含めて、全てが僕たちにとってのお客様です。まず信頼を回復していくことが目標ですね。結果的にゲームももっと改善されていくことになります。

編: 今回、吉田さんはプロデューサーとディレクターを兼任するわけですが、これはどのような意味を持つのでしょうか。

吉田氏: 僕はずっと「FF XIV」を開発という意味だけでなく、もっと全体を客観的に見ていて、まず情報の一本化をしていきたい、1つに集約した上で判断を間違わないということを心がけたいと思っています。約束を守るためには、そもそも今その約束してもいいのか、という判断が必要となります。いつ実現できるのか、スケジュールの精査はできているのか、何のためにこの約束をするのか。それを全て理解することで最適なパフォーマンスが出るものだと思っているのです。

 逆にこれだけ巨大なプロジェクトだからこそ一旦1カ所に集めて、最適な配置をもう一度し直さなくては、僕の考える最大パフォーマンスは出ないというのが結論です。例えばお客様から見て、開発に対する安心感を与えるのが目的なら、表に出るのは僕じゃない方がいいはずなんです。僕という人間は「FF XIV」、「FF XI」のユーザーの方には、まだ馴染みがないと思うので、松井や皆川などユーザーが知っている人間が立った方が最初の安心感は強いんじゃないかと。そうではなく、僕がこの位置に立つ意味は、情報を一本化し、判断、優先順位付けを間違わずに行なうことが重要だからです。お客様の声をちゃんと聞いて、開発と運営を見た上で、「だから次はこれをやる」と決断し、スタッフ全体に伝播していくためだと。僕自身はそう思っています。

編: 田中さん(弘道氏、前「FF XIV」プロデューサー)はどちらかというと現場に任せるタイプのプロデューサーでしたが、吉田さんは吉田さんを中心とした中央集権型の開発体制を目指しているわけですね。

吉田氏: 今回、インタビューを1人で受けさせていただいているのも、それが理由です。新体制は合議制ではありません。こういうと独裁に聞こえますが、そうではなくて、スタッフそれぞれの得意分野があり、調査報告と提案があり、それらのリスクヘッジなど全部総合して、最後は僕が決めるという流れになっています。各リードスタッフ全員が、常に同じ情報レベルになることは限りなく難しいので、全体の情報は僕が押さえているという状況を作っています。僕が決定し、各担当者は、それぞれのタスクフォースで、物事をこなしていく、という形を取ります。間違った判断をすれば、それは間違っていると、と言ってくれるスタッフばかりなので、ある意味安心ですが。

編: 現時点で、すでにそういう開発体制に移行していますか。それともまだ過渡期ですか。

吉田氏: リード層は移行していますが、全体で見ればまだ過渡期です。僕は元々MMORPGのヘビープレーヤーで、MMOのコンテンツの膨大さは誰よりもわかっているつもりです。判断を誤らない、約束を守るということを大事にするために、現在は、そもそも各担当者にどのような指示が出ていたか、何をやっていたかを調べています。

 スタッフはやる気があり、スケジュールに対しても、とても真摯にがんばっている。ただ空回りしているところがあるのか、テクノロジートラブルのために進められないのか、そこを精査しています。クライアントは現在何処が悪いか、僕自身実際触って確かめています。僕たちが言わなくてもネット上で沢山の意見があるので、やることはある程度明確化していて、あとは何からやるべきか、それを決めて、最大パフォーマンスを出したいと思っています。



■ 吉田さんのオンゲー遍歴と「FF XIV」の現状評価

吉田氏は実はハードコアなオンラインゲーマーだった。「DAoC」を6年というのは、かなりディープといっていい。「WoW」を経験してるのもグローバル展開を行なう上ではプラスに作用する
吉田氏がプレイしていたMMORPG「Dark Age of Camelot」(Mythic Entertainment)。「ウルティマオンライン」、「エバークエスト」に続く世代の北米産MMORPG。RvRにフォーカスした大規模な対人戦が大きな特徴となっている

編: 少し話が横道にそれますが、吉田さんのオンラインゲームのプレイ経験はどのようなものですか?

吉田氏: 初代「Diablo」を丸1年、「Unreal Tournament」などのFPSも始めて、FPSは今でもやっていますね。その後、「ウルティマオンライン」を2年半、「Diablo II」を拡張パック含めて1年半、「エバークエスト」は半年、「Dark Age of Camelot」は丸6年プレイしていました。このゲームでは、プレーヤーとしてもかなり上位までいったんじゃないかと。その後、「World of Warcraft(WoW)」をローンチから、どっぷり3カ月プレイしていましたが、僕はストイックな性格で、生活をすべてMMOに注ぎ込んでしまう。プレイしていると、ゲーム開発のためのアイデアや知識が、MMOやオンラインゲームに寄ってしまうんです。だからちょうどこの時期、仕事のオーダーが家庭用ゲーム機に特化したこともあって、すっぱりMMO断ちしていたという感じです。

 MMOで求められる開発のあらゆる要素は、コンシューマーゲームとは違うと僕は思っています。MMOはいわばテーマパークであり、テーマパークには、必ずメリーゴーランドがあり、観覧車と、コーヒーカップ、お化け屋敷、ジェットコースターがある。同じようにMMOには求められる基礎的なコンテンツがあり、箱庭の中にそれを詰め込んでいくんだと思っています。最後にそのテーマパークの独自性があって、方向性が決まるということです。ディズニーランドもディズニーシーも、同じくディズニーのテーマパークですが、根本的な方向性が違いますよね。

 一方、コンシューマーゲームは、たとえばジェットコースターという1つの楽しさに対して、様々な味を持たせている。世界一高速なコースターとか、世界一崩落差が大きいコースターとか、回転ポイントの数が世界一、というようにです。1つのコンテンツに対して、特化集中させ、他タイトルとの差別化を示していく。当然、MMOとコンシューマータイトルでは、開発に使うテクノロジーやアイデアが異なってくるというわけです。

 このため、僕は一度梶を切って、コンシューマー開発のためにMMOをやめました。とはいえ、オンラインゲームのローンチはいまでも気になります。ほとんど趣味ですが(笑)。昔のMMOは、それぞれの切り口が目新しく、競合相手がいなかったのですが、現在は6~7年運営しているMMOと時間軸関係無しに比較される。立ち上がりの時コンテンツ量、バグの多さ、パッチのリリースタイミング、サーバーの安定度には、やはり興味があるので、MMOのプレイは辞めても、情報として追い続けていました。

 たとえば、ローンチ直後の「WoW」をプレイしたときは、NPCの頭の上に出る「?」と「!」が、ゲームの情報としてとてもわかりやすいと思いましたね。ずいぶん割り切ったな、と。Blizzardのゲームが、アジア圏で強くヒットしていたことがあって、ドラッグアンドドロップという、アジア圏で親しみやすいインターフェイスを採用している意味も理解していました。

 今回の体制変更があって、社内の「WoW」好きの連中ともディスカッションは重ねています。だけど、ゲームのどこに楽しさを感じているかは、みんなバラバラなんですよ。MMOは様々なコンテンツがあり、始める時期が違えば、関わらずコンテンツも異なる。当然ながらプレーヤーの思い出も異なります。現在は10人で遊べるRaidコンテンツが人気ですが、10人だからこそ濃いレベルデザインができる。しかしそれは、6年運営し続けたからこそ、できる姿なのではないかとも思っているんです。コミュニティレベルは小さくなっていくものなので、「25人なんて集められないよ!」ということですね。

 「FF XIV」をアップデートしていく上で参考にさせてもらうとして、最大効率になるコンテンツは何なのか。「WoW」には希望を出しておくと、他の人とのインスタンスダンジョンに途中参加できる「Dungeon Finder」のシステムがあり、今もなお、とても便利です。「FF XIV」でも必要な手軽さだなと思う反面、そもそもパーティーを募って冒険に行こう! というモチベーションになって貰うことのほうが先だろうなとも思っているのです。

編: MMOのコアプレーヤーである吉田さんから見て、現在の「FF XIV」はどのように写っていますか。

吉田氏: 一言で言えば「わかりにくい」ゲームだと思っています。おもしろさを伝えるのに四苦八苦している。「ドラゴンクエスト」関連で、堀井雄二さんと仕事をさせていただいたとき、最も勉強になったのが「わかりやすさ」と「インターフェイス」でした。ゲームやシステムのルールがわからなければ面白いも、面白くないもない。インターフェイスが直感的に使えなければ、結果的にゲームのルールもわからない。不必要に用語を増やすべきではない。ルールがわかりやすければ、人によって面白いか面白くないか評価してもらえる。

 「吉田君、このUIは便利だけど、わかりにくかったら意味がないんだ」。便利さよりもまず、わかりやすさだと言うことをすごく教えていただきました。「FF XIV」は限られたスケジュールの中で、一生懸命やったスタッフの熱意は感じるのですが、「突っ走ってしまった感」があります。ちゃんと交通整理をする必要があります。コンテンツの数は着地のタイミングを考えれば充分あったと思います。ただし、アイテムの消費のさせ方や、序盤から移動をショートカットさせてしまうやり方など、もったいないと思っています。わかりにくいからこそ、面白い、面白くないの前に「うーん、わけがわからないなあ……」となっている印象があります。

編: では吉田さんのタスクは、まずはわかりやすさの追求、ということになるのでしょうか。

吉田氏: そうですね。しかし、それはどのゲームでも言える話で、「FF XIV」がこれからサービスを開始するなら、それをやるべきですが、今の「FF XIV」は事情が違います。いまなおプレイしている方、PCを買い換えるまでしてくれたのにやめてしまったお客様、PS3版を待っていただいているお客様、求めるものはそれぞれ違う。

 その中で今なおプレイしているお客様、フィードバックをきちんとくれている方々は、その「わかりにくさ」をある意味越えてしまっている方々だと思っています。彼らの評判が良くならない限り、新しいお客様は来ない可能性がある。現在の状態の交通整理を優先してしまうと、「わかりにくさの先」をプレイしている人の「エンドコンテンツがもっと欲しい」という声に応えられない。だからこそいま僕のやるべきは、正確に皆さんの声に耳を傾けることだと思っています。そもそもコンテンツの追加よりも、ユーザービリティの向上が最優先なんじゃないの?とも思いますし。

編: なるほど。それでは質問を変えますが、「FF XIV」のメインコンテンツは何だと考えていますか?

吉田氏: それはまだお話しできません。なぜなら、それをまずこれから僕が開発に提示するからです。その次に、「FF XIV」はここを目指します、ということをユーザーの皆さんにお伝えするべきだと思っているので、もうすこし時間をいただきたいと思っています。おぼろげながら見えていますが、「FF XIV」はこういうゲームだ、ということを、どのくらいのスケジュールで、いつ、どういったスパンでやっていくか、ということをきっちり話すには、もうすこし時間を下さい。いまはお客様の声を聞きたい。お客様はどんな人達なんだろう。それをちゃんと見ないと、僕の声は届かないと思います。

編: なるほど。確かに公式サイトなどを見ても、まだ「吉田イズム」は感じられませんよね。それはいつぐらいから見えてきますか?

吉田氏: 2011年1月1日にThe Lodestoneでコメントを出したいと思っています。年内は旧体制で、お客様にしたお約束を守ることをしていきます。1月1日からは新しい体制でしていくことと共に、ちょっとしたことを考えています。

編: ちょっとした事というのは、コンテンツの発表でしょうか。

吉田氏: 新体制の姿勢がわかるものと、これから何をしていくのか、そのきっかけみたいなものです。皆さんも楽しんでください、というものですね。ゲームは楽しくないと意味はないと思いますので。

編: 発売前から、共同で船が作れることなど様々な発表もしていますし、アップデートに関するロードマップも提示していますが、今後そういった発表済みで今後実装予定の内容について一部否定することもあり得るのですか?

吉田氏: 過去に発表したものが、何処まで妥当なのか見てみないとわからないですね。ざっくりした方向性はそんなに差違はないと思っています。それをもっとわかりやすい明確な形で早期に開発、運営のみんなに根付かせた上で、終始一貫した形で皆さんに告知したいです。時期を入れられたら入れて、それを守っていきたいです。その体制を作るのがまず最初です。お約束するのは、その後です。

編: オンラインゲームってあまり先のアップデートに関して確約したがりませんよね。それはユーザーの意見にも十分に耳を傾ける必要があるから、その微調整に時間が掛かるからですが。しかし吉田さんはアップデートロードマップを出し続ける?

吉田氏: 僕は「日割り」スケジュールが大好きなんです。今日何をやるのかを全員分設定するのが好きなんです。スケジュールは日割りが一番トラブルが起きない。大変ですが、だからこそあまり長期的な設定ばかりを追うべきではない。完成形の目標がきちんと存在し、その前にいくつもマイルストーンがあって、その一番近いものに日割りで設定していく。ですので、目標設定と正確なコスト精査ができれば、ちゃんとロードマップは提示したいと思います。



■ 気になる課金再開の時期、無期延期のPS3版、そして中国語版について

吉田氏は月額課金制による課金の開始と、PS3版の発売を明言。ビジネスにおいては既存のスキームは崩すつもりがないようだ
E3 2009のSCEAプレスブリーフィングで正式発表された「FF XIV」PS3版。プレイできる日はまだ少し先になるようだ

編: 今回、ある程度予想できていたことですが、課金開始が再び延期となりました。新たな「FF XIV」の課金開始時期はいつぐらいを想定していますか。またその際の条件とは何でしょうか?

吉田氏: まず「FF XIV」の品質や将来性について具体的な項目を出し、その実装のお約束ができなければとてもじゃないけど課金はできないのではないかなと。MMOはサービス業だと思っています。お客様の声を聞かないサービス業は存在しないし、お客様が「お金を払っていいと思える」サービスをするために努力をします。ですので、課金をさせて頂くのは、僕が考えている最低限のサービスがご提供できたとき、もしくはできる確認が得られた時にしたいと思います。いつぐらいにそれが来るかと言うことも、しっかりわかれば事前にお話します。

編: それは1月や2月というレベルの話ではなく、春とか夏とかのスパンで考えていると言うことですか。

吉田氏: そうなる可能性がないとは言いきれません。それくらいスクウェア・エニックスは本気だと見ていただきたいと思います。

編: 一方、これだけ無料が続くと、お客がそれに慣れすぎてしまう懸念もあります。今後、例えば無料のまま、アイテム課金型のビジネスモデルに転換するということもありえるのでしょうか。

吉田氏: 僕は月額課金モデルをやめて、すべてをアイテム課金モデルへ移行するということは考えていません。「FF XIV」のためにPCを買い換え、パッケージを買ったユーザーさんが沢山いらっしゃるんです。パッケージを買っていただいている以上、そもそも無料という感覚は僕の中にはありません。月額制をきっちり実施するのがまずやることだと思っています。

編: 今回の数々の発表の中でユーザーさんが残念に感じたのはPS3版の無期延期ではないかと思います。改めてその理由と、新しい発売時期の目安を教えてください。

吉田氏: 延期の理由としては、現状動いている「FF XIV」のPS3版は、UIの操作性や、バトルのバランスの問題などをそのまま含んで動作しているものです。現在のPS3版では、いまのPC版のユーザーさんが感じている問題点をそのまま感じてしまう。それはダメだろう、というのが延期の理由です。PC版の水準をまずきちんと高くして、完全動作させることが、PS3版を着地させても良いタイミングだと思っています。PC版の有料サービスをいつから開始していいだろうかと精査しているタイミングで、PS3版がいつ発売できるかは、お話しできる段階ではありません。

 わからないことはわからない、やっていないことはやっていないと言う。ただし、約束したことに関しては意地でも守る、僕はそういう人間だと思っていただければと思います。所信表明で、「PS3版は必ず作ります、必ず出します」ということは約束させていただいています。僕らとしては、会社としてもですが、できるだけ早く出したいというのが本音です。が、いまはお話しできません。

 MMOがローンチに躓いた場合、その後のアップデートでユーザー数が大きく跳ね上がるケースはないと言われています。それをご存じの方は「FF XIV」はどうなるだろうかと、ご覧になっている方も多いと思います。MMOの強豪タイトルがこれだけある中で、リローンチする難しさは知っているつもりです。「FF XIV」はハードランディングではありましたが着地はしています。次のPS3という着地点はとても重要だと思っています。まずは信頼を取り戻して、その先にあるものだと思っています。

編: そのPS3版の仕様についてですが、PC版は非常にハイスペックな環境を要求するゲームになっており、PS3にそのまま入れ込むことは難しいと思います。いくつかの取捨選択が必要不可欠ではないかと思いますが、そこの判断についてはいかがですか?

吉田氏: 「FF XIV」が3年、5年、10年戦っていく中で、絶対守らなくてはいけないラインを死守すべきだと思っています。例えば、いずれRaidやPvPを導入するならば、このスペック、このキャラクターの表示数、エフェクト、そしてフレームレート、そういうボトムラインを設定した上で、判断しなくてはいけないと思っています。

編: なるほど。PS3版向けのカスタムエンジンを作っているのが、橋本さんというわけですか?

吉田氏: いや、橋本が新世代エンジン責任者だからと言って、それだけが本分ではありません。人を立てたからうまくいくわけではなく、ゲームデザイン上何をしたいのか、今後に向けて何をするべきなのか、グラフィックスで何を目指したいのか、ちゃんと仕様を切ってあげることで橋本の能力が活きてくる。それに0から作るものではなく、既に運営されているものですから、運営を続けながら最適なものにするにはどうするべきかという難仕事が橋本の大きな役割です。決してPS3だけがメインなわけではありません。むしろそれだけだと勿体ない。

編: PS3の“新要素”というのはどういうものになるかお話しできますか。

吉田氏: PS3オリジナル要素、というわけではありません。現在遊んでいただいているお客様のご要望によって改修が行なわれたものがPS3版でも遊べる、という意味であって、その間追加されたコンテンツなどももれなく遊べます。

編: 正式サービス前の9月16日に、盛大との中国展開が発表されましたが、こちらは吉田さんの新体制下ではどうなっていきますか。

吉田氏: それはもちろん今後順次展開していきます。時期に関しては、正直に言えば、今の段階で手を広げるのは得策ではありません。きっちりとできたもの、信頼回復したものを作り上げてから、さらに世界中の人に遊んでもらおうと思います。まずはプレイしていただいている人達の満足度、信頼度を上げていきたいと、それが最優先だと思っています。

(後編に続く)


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(2010年 12月 29日)

[Reported by 中村聖司]