アクションRPGに重厚感のあるクエストを織り交ぜ、そしてちょっとイカれた多数のNPCで味付けした個性派タイトルが帰ってきた。複数のキャラクタを同時に操るパーティーシステムや、本編とは別の裏フィールドといった新要素が満載の「Beyond Divinity 完全日本語版」のレビュー記事をお届けしよう。
■ 対極に位置する2人の主人公が共に冒険へと繰り出す
BDのゲームエンジンはDDをベースに、ズーム機能等を追加した改良版を用いている。敵味方のキャラクタとスキルのエフェクトのみを3Dで描画し、それ以外の背景等は2Dというスタイルだ。フル3Dグラフィックでないため、動作水準表を見ればわかるようにハイエンドのマシンスペックでなくとも問題なくプレイできるだろう。 BDの基本ゲームシステムは、画面写真を一見する限りでは「Diablo」シリーズに近いアクションRPGだが、実際にプレイしてみるとその印象は少々異なる。マウスの左クリックで移動/攻撃、右クリックでサブスキルの使用といった基本操作方法は同じだが、戦闘時はスペースキーによる一時停止機能を頻繁に用いるため、アクション性は意外と低い。またパーティープレイが前提ということもあり、プレイ時の感触はどちらかというと「Baldur's Gate」や「Pool of Radiance」などといった非アクション系RPGに近い。 アクション要素が薄い反面BDはストーリー面を重視しており、ゲーム開始時から独特の展開を見せる。その導入の流れを説明しよう。まずプレーヤーが扮するキャラクタは、元々は善のヒーローの存在であったが、とある独房に閉じこめられた状態でゲームはスタートする。独房へ入れられた理由については完全に明らかにはされないものの、どうやらヒーローが邪悪なネクロマンサーと戦っている最中に、助太刀してきた悪魔サムエルに呪いを掛けられ敗北したらしい。 しかも、悪魔サムエルは独房に閉じこめたヒーローに呪いを掛けてしまった。その呪いとは、モンスターである「デスナイト」と、魂を強制的に結合させてしまうというもの。プレーヤーは善のヒーロー、そしてデスナイトはいわば悪の下僕であり、完全に逆の立場。しかも、どちらか片方が力尽きた時点で2人共死んでしまうという一蓮托生状態である。この本来敵同士である2人が、お互いを忌み嫌いながらも当面は力を合わせて独房を脱出し、呪いを解くための旅へと向かうのである。
デスナイトは会話イベント時はNPCのように喋るのだが、2人は文字通り逆の立場。そのためヒーローが何か行動しようとする度に厳しいツッコミを入れてくるのだ。たとえばヒーローが病人に水を与えようとすると「奴はじきに死ぬから無駄なことだ」と断言するといった具合で、2人の会話は常にこのような展開である。しかし戦闘時は一転して力を合わせるという、この奇妙な二人三脚は実に新鮮。BDには大小合わせて300種以上のサブクエストが用意されており、これらを進める際の2人のやりとりを見ているだけで楽しめるだろう。
■ 表裏一体の2人のキャラクタを操る斬新なプレイ感覚
ただし戦闘のバランスは全体的にシビアで、敵を見かけたらとりあえずクリックで攻撃といった「Diablo」的なアクション感覚では、命が幾つあっても足りないだろう。特に2人のキャラクタに対し、直接攻撃と回復魔法といったように別々の行動を指示する場合は、リアルタイム進行だととてもじゃないが操作が追いつかない。一時停止機能を頻繁に用いると先述した理由がここにある。 DDは主人公キャラクタが1人だったが、BDは2人に増えて操作の手間が倍になっており、その結果アクション性が大幅に失われているのだ。ゲーム本編は薄暗いダンジョンが主な舞台なので、視界範囲に目を光らせながら少しづつ進み、敵の姿が見えたら先ず一時停止を行なってから2人分の対処法をじっくり考える、といった流れを想像してほしい。恐らくBDに対して、DDや「Diablo」シリーズのようなアクション性を期待すると、肩すかしを受けることになるはずだ。 キャラクタが選択できる職業は大別すると「ウォリアー、ウィザード、サバイバー」の3種類。各職業にはスキルツリーが存在し、これにスキルポイントを自分好みに割り振ることでキャラクタの能力を伸ばすことができる。スキルポイントはレベルが上昇する度に1ポイント得られ、この辺りはDDや「Diablo 2」の経験者にはお馴染みのシステムだろう。 職業はヒーローとデスナイトで個別に選択できるため、お互いの能力を補うような構成がよい。筆者はヒーロー=ウォリアー、デスナイト=ウィザードという構成で進めたのだが、普段の雑魚戦では2人とも直接攻撃を行ない、近づくと逃げる敵や対ボス戦の際はウィザードの魔法による集中砲火という切り替えで、うまく役割分担ができている。 ちなみにもう1つの職業であるサバイバーは、毒による攻撃やトラップ設置等を得意とする。実際にいくつかの組み合わせでゲームをやり直してみたが、ゲームバランス的には2人が同じ職業を選ばなければ、後は極端な不都合は無いと感じた。また、2人分の職業の組み合わせを変えると攻略法ががらりと変わるのは新鮮である。 この時に気付いた点がある。デスナイトはその名前から、てっきり前衛向きのキャラクタなのかと最初は思っていたが、実はそうでもない。例えば2人の装備変更画面を見てもらえば分かるが、ヒーローと比べて装備できるスロット数が半分程度なのだ。仮に2人のスキル及びステータスを同様に割り振って育てたとしても、ゲームが終盤に進むとデスナイトの方が防御力が大幅に少なくなる。基本的にタンク役はヒーローに任せるのをお奨めしておきたい。 スキルに関して特筆すべきは、一度割り振ったスキルポイントを元に戻すことができるということ。この再割り振りにはゴールドを必要とするが、ゲーム展開に応じてキャラクタの能力を変化できるのは実に有り難い。一例を挙げると、BCは武器の種類によってスキルが個別に用意されている。今までは片手棍+盾という構成に特化したスキル構成だったが、仮にとても優れた両手剣を入手してしまったとしよう。このような場合でも、スキルポイントを両手剣用へと振り直すことができるのだ。
「Diablo 2」で誰もが不満に感じていた部分を解消しており、ゲーム展開に応じてキャラクタのスキル構成をじっくりと最適化する課程がなかなか面白い。つまり、BDは操作の手間が2人に増えた分、キャラクタ育成やカスタマイズの面白さもまた倍になっているのだ。
■ 本編とは別に用意されたパラレルワールド「裏フィールド」
裏フィールドに関しては、パラレルワールドとでも説明すればよいのだろうか。これをクリアしても本編には直接の影響を及ぼさないため、なんら義務といったものはない。もちろん、裏フィールド内の戦闘で得られた経験値やアイテムは持ち帰ることができるため、これを活用するのも手である。例えば本編の攻略でどうしても行き詰まった場合、裏フィールドでキャラクタを鍛え直してから再挑戦する、または裏フィールドのNPCに持ちきれなくなったアイテムを売る、といったことが可能だ。 最初に挑戦できる裏フィールドへ行ってみたところ、本編の薄暗いダンジョンとは一転して、広大な屋外エリアを走り回れるのは爽快だった。また出現するモンスターも本編よりはワンランク低かったこともあり、戦術を深く考えることなくモンスターをクリックしまくって突き進むことができた。これは丁度、「Diablo 2」におけるAct1に似た雰囲気である。BCにはこのような裏フィールドが複数あり、それぞれで別々のマップやクエストも用意されている。これらを総て制覇しようとなると、かなり長時間遊べるだろう。
裏フィールドに出現するモンスターは、本編と同様に一度倒すと再出現することはない点には注意してほしい。ただし、ゲーム起動時のメニューに「裏フィールド」という項目があることから、もしかすると本編クリア後はモンスターが再出現するような仕組みがあるのかもしれない。例えば「Diablo」シリーズのように、キャラクタを心ゆくまで育ててみたい、といった遊び方ができるのは歓迎されるだろう。とりあえずは、普通に本編を楽しむ上においては、裏フィールドは枝葉的要素だと考えておいてよい。
■ 激しく遊び手を選ぶが、凡作一歩手前の独特の味に思わず引き寄せられる 個人的にDDシリーズにおける最大の魅力は、膨大な量のクエストやNPCとの会話から紡ぎ出される、情け容赦ない世界観そのものにあると思っている。BDに登場する大半のNPCは頭がイカれており、会話の至る所にとてもじゃないが記事には出せないブラックユーモアが散りばめられている。そのためBDは間違っても紳士淑女にお奨めできるタイトルではないが、これらのブラックユーモアを理解する人であれば、プレイ中は終始にやにやすること請け合いだ。 画面写真を見れば分かるように、全編フル3Dが当たり前の昨今において、BDのグラフィックレベルは完全に前世代の代物である。また操作面に関しても、スキルを選択するためのショートカットキーが無い、NPCと売買を行なう際スクロールバーにマウスホイールが対応していない等、問題点が幾つも見受けられる。 しかし自分で言うのも変な話だが、BDのゲームシステムはこれ位の中途半端さで丁度いいと思えてしまう。なぜならば、まだPCゲームのプレイアビリティが最悪だった頃の、しかし強烈な個性を放っていた頃のRPGの空気を、BDからひしひしと感じてしまうのだ。仮にBDのゲームシステムを「Neverwinter Nights」といった優れたタイトルから流用したら、逆になんとなく物足りなさを感じてしまっただろう。もうひとつ、BDの世界観を構築するために最も重要な、放送禁止用語や罵詈雑言が溢れ返らんばかりの文章をきっちりとローカライズしたスタッフに敬意を表したい。
一時停止を駆使しながら複数のキャラクタを同時に操作せねばならない本作は、アクションRPGとしては一流の出来とは言い難いが、300種以上のサブクエストを含むストーリー面がしっかりしているので、「Baldur's Gate」や「Neverwinter Nights」のような、広大な世界の謎をNPCとのやりとりで徐々に解き明かしてゆくのが好きな人には存分に楽しめるだろう。特に、DOS/V機以前の無茶苦茶なゲームデザインのRPGを懐かしく思う30代以降のゲーマーには、是非ともプレイして貰いたい内容だ。
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□Mystix Studiosのホームページ http://www.mystixstudios.com/ □関連情報 【4月13日】Mystix Studios、「Beyond Divinity 完全日本語版」を5月28日に発売 マップがランダム生成される裏フィールドを導入したRPG http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040413/beyond.htm 【2002年9月17日】ゲームビレッジ、「Divine Divinity」を完全日本語版で発売 ベルギー産「Diablo」タイプの本格アクションRPG http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020917/divine.htm (2004年7月5日)
[Reported by 川崎 政一郎]
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