Game Developers Conferenceレポート

GDC展示会が開幕~新世代グラフィックスエンジンが続々展示

会期:3月19日~3月23日 (現地時間)

開催地:San Jose McEnery Convention Centerなど

就職相談系ブースもGDC展示会場ならでは
 米国カリフォルニア州サンノゼで、現地時間の3月21日より「GAME DEVELOPERS CONFERENCE(GDC)」の展示ブースがオープンとなった。チュートリアルカンファレンスは現地時間の19日より開始されているが、展示ブースは本日よりオープンとなる。GDCの基本コンセプトは「ゲーム開発者のため」となっており、展示会場内ブースの雰囲気は、いわゆる一般的な展示会とは異なっている。

 具体的には、展示会場内に一定の面積を専有して設置されている「ゲーム技術者就職専用ブース」が挙げられる。全米のゲーム開発者が集まるGDCにおいては、ゲームメーカー側はゲーム技術者獲得の場として、ゲーム開発者側は自分の売り込みの場として、このGDCを活用しているのだ。

 そして、一般的な展示会ではほとんどお目に掛からない、ゲーム開発ツールメーカーのブース、ゲームエンジンメーカーのブースが結構目立つ位置に存在しているのもGDCならではの光景。

 この展示会でもAMDやIntelのようなCPUメーカー、ATIやNVIDIAのような大手ビデオカードメーカーのブースが幅を利かせているが、意外にもゲームメーカーの自社新製品展示のようなものはない。ゲームプレーヤー向けの展示会ではなく、開発者向けの展示会であるため、よく考えればもっともな話なのだが。

 ここでは、会場内に展示されていたゲームエンジンメーカーの新製品や、ゲーム制作支援ツール等が提供する新グラフィックステクノロジーにスポットライトを当てて紹介していくこととする。

開発ツール系ベンダのブースが目立つのがGDC展示会場の特徴
NetImmerseエンジンのブース。ゲームエンジンの展示……というのは通常のゲーム系コンベンションでは考えられない。これまたGDCならではのブース展開 インディペンデント系ゲームブースも大盛況 NVIDIAブースで行なわれていたシェーダーコンテスト。といってもCGではなく木炭画コンテスト。優秀者にはQuadro4が贈られる



■ ATIブース ~摂動付きリアルタイムファーシェーダーと色鉛筆画風シェーダーの実動デモ

ATIブース
 ATIブースでもっとも来場者の目を引いていたのは、RADEON 8500を使った「摂動付きファーシェーダー」と「色鉛筆画風シェーダー」の実働デモだった。

 「摂動」とは、力学的な作用で運動が乱れる様を言う。「摂動付きファーシェーダー」デモは、毛の生えたドーナツ状のオブジェクトを回転させたり止めたりすると“その回転運動や停止時の慣性力に翻弄されて毛がリアルになびく”というもの。視覚的にはまさしく“リスの尻尾”そのもので、見ているだけで肌触りが想像できてしまうほどリアルであった。

 開発者は、日本におけるシェーダープログラムの第一人者的存在である狩野智英氏。基本的はパーピクセルバンプマッピングをレイヤーで重ねた、最近流行のファーシェーダー技術を応用して作られたものだそうだが、その毛を構成しているジオメトリデータに対して物理シミュレーションを適用し、摂動を与えているのが最大の特長。

 狩野氏によれば、もともとGeForce3系で制作していたのだが、完成が近づくにつれてだんだん重くなったためRADEON 8500に持っていったのだという。RADEON 8500上では毛の層を20層にするという、かなりの長毛状態でも軽快に動作していた。

 NVIDIAのGeForce4 Ti発表時に公開されたWOLFMANのデモでは、毛の摂動を“異方性反射を適用した毛ヒレポリゴンの変形”でごまかしていたが、本来WOLFMANでやりたかったのはまさにこれだったのだといえる。

 なお、このデモはATIの開発者向けサイトに本日アップロードされた。RADEON 8500ユーザーは、是非ともこの質感を実際に体感してみてほしい。

摂動すると長毛独特の異方性反射の光沢感(人間の頭髪で言うところの天使の輪)が移動するのが気持ちいい 狩野氏によれば、長毛になると異方性フィルタリング(テクスチャフィルタリングの一種)をオンにしてレンダリングしないと、毛同士がくっついてしまってリアルに見えないという

 もうひとつは、最近流行中のノンフォトリアリスティック(非実写的)レンダリング(NPR)の一種である「色鉛筆画シェーダー」のデモ。NPRの代表例といえば、一次元テクスチャを使ったセルアニメ風の質感をだすトゥーンシェイダーが有名だが、これはプログラマブルピクセルシェーダを駆使し画用紙に色鉛筆で絵を描いたときに現れる独特のカスレ具合(実際には紙組織の凹凸が色鉛筆の色によって視覚化される)を再現しているだという。こちらのデモは、まだATIの開発者向けサイトにはアップロードされていない。

影の落ち方に独特のきっちり感があるのがNPRの特徴 こうしたビジュアルを持つゲームが登場してくる可能性も?


■ 「Unreal II」エンジン始動! ~徹底した物理エンジンと音素適応型リップアニメーションの採用

Unreal2エンジンを公開していたEPIC GAMESブース
 EPIC GAMESのブースの奥で公開されていたのが、2002年冬発売予定の第一人称シューティング(FPS)「Unreal II」の専用エンジン、通称「Unreal II」エンジンのデモ。
 ビジュアルは、登場オブジェクトを膨大な頂点数で表現するアプローチで実現しており、これまでのPCゲームのグラフィックスとは一線を画したリアリティを持っていた。デモ中「これはリアルタイムでムービーでない」とアナウンスされると周囲から「フュー」という感嘆の声が漏れるほど。

 デモ自体は、GeForce4 Ti4600で動作していた。「RADEON 8500ではTRUFORM(N-PATCH)がきいてより細かくなる?」という質問には「すでに頂点だらけだから不要!」と即答されてしまった。「Unreal II」は、GeForce4 Tiが想定している超多頂点時代の3Dゲームの代表格として登場しそうだ。

 「Unreal IIエンジン」のそのほかの特徴としては「徹底したリアル指向な人体モデル」と、「物理エンジンの作り込み」が挙げられる。

 人体モデルについては、ボーン数が20以上で構成されているとのこと。顔にもフェイシャルアニメーション用のジオメトリが多数設定されており、顔をしかめたり目玉がキョロキョロするといったアクションを自然にこなす。脇役で登場するキャラクタたちでさえ、一般的な格闘ゲームに登場するメインキャラ並みのクオリティで動き、表情を変える……といった感じなのだ。

 物理エンジンは、背景オブジェクト群と登場キャラクタが干渉しあったときに、正しく物理法則が再現されるように作り込まれているとのこと。デモでは階段から転げ落ちる様や、枝に引っかかって落下する様を披露。体のどの部分に、どのくらいの勢いでどう衝突したかで肢体の運動がリアルに変化するのが印象的だった。

 3Dゲームでは、倒した敵が「小枝みたいな小さな領域に」、「体が折れ曲がらずにうつ伏せで寝てる」というような有り得ない状況をよく見かけるが、「Unreal IIエンジン」では“そのようなことは絶対起こりえない”ということだ。
 敵の攻撃により腕がとれるといった、部位の一部が人体本体から外れるような描写も見られ、こうした表現はまた各方面で物議を醸し出しそうだ。

 「Unreal IIエンジン」では音声エンジンも新設計され、ゲームエンジンとしては初めてではないかと思われる「音素適応型リップアニメーション」を実装している。
 これは、台詞音声を「Unreal IIエンジン」側で解析し、その発音される音声にあった唇と表情のアニメーションを自動的に行なうというもの。ただし、解析自体は事前にオフラインで行なっていると思われる。

 説明担当者によれば「どの言語でもWAVファイル形式ならそれっぽい口の動きになる」としており、我々日本人プレスのためにわざわざ「今日は太陽の日差しが暖かいです」という日本語音声素材をリップアニメーションで再生してくれた。たしかに、それっぽい口のすぼめ方や開き具合をしているように見える。

 ローカライズの際に発生する台詞と口パクアニメの不一致も、「Unreal IIエンジン」ならば起こりえないと言うわけだ。



UnrealR II (C) 2001 Epic Games Inc. Raleigh, N.C. USA Unreal and the Unreal logo are registered trademarks of Epic Games, Inc. ALL RIGHTS RESERVED All other trademarks and trade names are the property of their respective owners. Unreal II was created by Legend Entertainment, an Infogrames studio and manufactured and marketed by Infogrames, Inc. New York, NY, under license from Epic Games, Inc.


■ Lithtech JupiterエンジンはDirectX 8.1完全対応に

 「Alien vs Predator」シリーズや「No One Lives Forever」で有名なゲームエンジン「Lithtechエンジン」の新バージョン「Lithtech Jupiter」が公開された。
 「No One Lives Forever2」(以下NOLF2)はこれをベースにして開発が進められている。Lithtechブースでは実際に開発途中バージョンの「NOLF2」を使ってのデモンストレーションが行なわれていた。
 今回、強化された点を順番に見ていくことにしよう。

拡張型パーティクルシステム

 銃口の火花、雪、蒸気などに適用するパーティクルシステムで、DirectX 8.1のポイントスプライト機能を使って実現しているとのこと。「NOLF2」では、舞い落ちる雪をこれで表現していた。

光筋の表現

 公開されていた「NOLF2」を動かしていただけではわからなかったが、おそらく「Microsoft DirectX Day開催、次世代ゲームグラフィックスの姿とは?」でも紹介したようなボリュームレンダリング技術を使ったものだと思われる。

キャラクタモデル・シャドウイング

 足下に適当な形の影を便宜上置くのではなく、光源から光を受けた形で3Dキャラクタ形状の影が下に落ちるタイプのシャドウイングをサポートする(いわゆるボリュームシャドウ)。

 担当者に「自分自身の影が自分の身体に落ちる“セルフシャドウ”はサポートしていないのか?」と訊ねてみたところ「大勢のキャラクタが一度に登場するこのようなタイプのゲームエンジンでセルフシャドウは処理として重すぎるし、仮にやったとしても誰もそこまで見てくれない(笑)」という理由で、サポートしていないという。
 とはいえ、まともなシャドウイングをやっていなかった「NOLF」と比べて、リアリティが格段に向上していることは確かだ。

プログラマブルシェーダのサポート

 ゲームエンジンとして名を馳せたLithechエンジンが今まで対応していなかったこと自体が意外だが、今回からはプログラマブルシェーダを活用したエフェクトが採用されているという。

 「NOLF2」では、プログラマブルシェーダを活用したサブサーフェース表現(光をいくらかは反射するが、いくらかは吸収または透過するような面)による水面表現を行なっているという。水面は、環境マッピングのような「みせかけ」ではなく、マルチパスレンダリングを使った実際の周囲環境が写り込んだ映像になっており、これが水面の動きで揺らぐ様子を見ることができた。

映り込みの精度と水面の揺らぎに要注目 LITHTECHブース



 ブース内のすべての「NOLF2」デモはGeForce4 Ti4600で動作していた。「Lithtech Jupiterエンジンを採用した実際のゲームを動作させるためにはどの程度のビデオカードが必要なのか?」と担当者に訊ねてみたところ「最低でもGeForce256は欲しい。ハードウェアT&Lがないとつらい」との返答が得られた。

 PCの3Dゲームの最低動作環境も着々と引き上げられていることを実感する。なお、Lithtech Jupiterエンジンのデモ映像についてはLithtechのWebサイトよりダウンロードが可能だ。


□GDCのホームページ
http://www.gdconf.com/
□関連情報
【3月21日】Microsoft DirectX Day開催、次世代ゲームグラフィックスの姿とは?
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020321/gdc02.htm
【3月20日】ゲーム開発者向けのカンファレンス「Game Developers Conference」開幕
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020320/gdc01.htm

(2002年3月22日)

[Reported by トライゼット 西川善司]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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