「電遊道」~Way of the Gamer~ ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ

ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ【第32幕】

イタヲタのレトロなゲームライフ~ジョン・カミナリのハプニング満載オタク人生~

僕のゲーマーとしての人生を懐かしさたっぷりで語っていきたい。毎回、特定の時代をセレクトして、自分の記憶への冒険をしたいと思う。最終的には1つのストーリーになる。僕というオタクのストーリー。僕という和ゲー好きゲーマーのストーリー。文章だけでなく、クライマックスのシーンをもっとダイレクトに伝えるために漫画も使うことにした。とにかく、日本ではありえないシチュエーションについてたっぷり語っていくぞ!

今回の時代設定:
2004年
イベント:
新感覚のアドベンチャーゲーム、「逆転裁判」が発売!
ハプニング:
コロッセオの前でカプコンスタッフとファーストコンタクト!

 ゲームジャーナリストの仕事を始めてからもう5年が経っていた。ゲーム雑誌出版社の為に日本のゲームを紹介する編集者として働いていた。僕は、イタリア語でローカライズする可能性が非常に低い。しかし、紹介する甲斐がある日本らしいゲームのプレビュー記事を担当していた。RPGやアドベンチャーゲームがメインだったが、有名なアニメをモチーフにしたパチスロソフトの情報も発信していた。

 当時、日本語のレベルを維持する為に、毎日欠かさず好きなアドベンチャーゲームで遊んでいた。特に、チュンソフトのホラーサウンドノベルにハマって、夜遅くまで、妻と一緒に冷や汗をかきながら遊んでいた。時間が経過するのを忘れるほど、画面に表示された文章に夢中になっていた。チュンソフトほど夢中になれるゲームなんて、存在しないだろうと当時は思っていた。

 しかし、2001年にGBA用アドベンチャーゲームの常識を覆すような作品に出会った。それはカプコンの「逆転裁判」だった。日本のゲーム雑誌でその存在を知った僕は早速、日本版ソフトを仕入れていたローマのゲームショップに注文した。これは傑作だと、その時、直感した。元々、裁判系の海外テレビドラマが好きだったので、裁判をテーマにした推理アドベンチャー、いや、正確に言うと「法廷バトル」という響きに強く引かれた。これで、弁護士や裁判官の連発する専門用語も勉強できると思って、とても感激していた。

 直感は的中した。「逆転裁判」を遊んでみると、あっという間にそのユニークな世界観に魅了された。毛布の中でも、バスの中でも、どこでも、GBAを持って集中的に遊んでいた。編集部の仕事の休み時間も「逆転裁判」を進める為に費やしていた。新しい情熱が始まっていた。「逆転裁判」という推理アドベンチャーゲームが、チュンソフトのサウンドノベルと並ぶ、僕のお気に入りシリーズとなった。

 月日が流れ、あれから3年が過ぎた。僕は「逆転裁判」の続編も購入して全てをクリアした。2004年のある日のことだった。編集長が僕にこう告げた。

「カミちゃん、来週ローマでカプコンの新作のプレス向けイベントがあるんですよ。行ってみますか?」

 えっ? ちょっと待って! カプコン?! 「逆転裁判」のカプコン?! 数々の名作を制作してきたカプコンだったが、僕の中では今、「逆転裁判」のカプコンになっていた。

「ほら、日本語ができるのはカミちゃんだけだし、直接日本語でインタビューできるじゃない?」
「編集長、喜んで行きますよ! ところで、どんなゲームなんですか?」
「ゲームは『シャドウ オブ ローマ』と言って、古代ローマを舞台にしたアクションゲームらしいですよ」

 その瞬間、編集長から「『逆転裁判』シリーズ最新作ですよ」という台詞を密かに期待していた。しかし、それは叶わなかった。何故なら「逆転裁判」は欧米向けにローカライズされておらず、日本版しか存在していなかった。

「はい、頑張ってきます!」

 僕にとって初めての日本人へのインタビューだったので、すごく光栄に思っていたと同時に不安の気持ちもあった。果たして「逆転裁判」で勉強した難しい日本語が使えるのだろうか?

 1週間が経過し、いよいよカプコンのイベントの日が来た。イベントの会場は、古代ローマを舞台にしたゲームに最も相応しいと言えるコロッセオの真ん前のホテルの最上階にあった。広大なテラスから、古代ローマが一望できる絶好のロケーションが選ばれていたのだ。

 「シャドウオブローマ」のスタッフとのインタビューが無事に終了した。日本語を褒められ、とても嬉しい気持ちになっていた。誰よりも新作をプレイし、しかもスタッフに会えるという特典もあるなんて、この仕事を選んで本当によかったと、その時改めて思った。

 日本からの宣伝担当者も同伴していた。彼もカプコンのベテランという雰囲気を醸し出していた。インタビューが終わった時、彼は僕にこう訊いてきた。

「カミナリさんは日本のゲームがお好きなんですか?」
「もちろん大好きですよ! 日本語は日本のゲームで覚えたぐらいですから」
「すごいですね!」

 その時、僕の鞄の中にあった頼もしい相棒GBAを取り出した。そして、スイッチオンして画面を見せた。

「今、これにハマっています!」

 しばらくすると、画面には「逆転裁判」のロゴが現われた。広報さんはその瞬間、驚いた。

「えっ? 『逆転裁判』で遊んでいるんですか?」
「1作目からの大ファンです。キャラクターはどれも魅力的すぎて、素晴らしいゲームだと思います」

 カプコンの広報さんは僕の話に聞き入っていた。

「大江戸戦士トノサマンの事件が特に面白かったです。イタリア人の間でも人気が出ると思いますよ!」
「えっ? あのトノサマンが?」
「いや、『逆転裁判』というゲームは、欧米でも大人気になると思いますよ」

 カプコンスタッフとの楽しい会話がしばらく続いたが、他の出版社のジャーナリストが会場に到着した時、僕は会場を離れた。初めての日本語インタビュー。初めての日本スタッフとの出会い、そして、大好きな「逆転裁判」について談笑できた。

 あの日から2年ほど経過した。「逆転裁判」のファーストエピソードがDS用にリメイクされ、そして初めて、欧米版が制作された。あっという間に「逆転裁判」はアドベンチャーゲームファンの間で注目され、伝説的なシリーズになった。日本人にしかできないこと。日本人にしか想像できないこと。欧米人が求めているのは、まさにこれなのだ!

逆転裁判

プラットフォーム:
ゲームボーイアドバンス
発売元:
カプコン
発売時期:
2001年
ジャンル:
アドベンチャーゲーム

 それまでのアドベンチャーゲームというジャンルに新風をもたらしたのは、紛れもなく「逆転裁判」だ。正式なジャンルは「法廷バトル」だが、本作に殺人現場を調べる探偵パートという伝統に、弁護人と検察側との駆け引きが楽しめる、それまで体験したことのない裁判パートが加わった。探偵パートも重要な役割を担っているが、証人の証言に秘められた矛盾をつきつけるというのを目標にした裁判パートは、本作のトレードマークで、類を見ないような斬新なゲーム性を確立した。

 「逆転裁判」の見所は、個性溢れるキャラクター達にあると思う。成歩堂龍一、御剣怜侍、綾里真宵、糸鋸圭介など、裁判所を彩るキャラクターの誰もが、強いインパクトを持っている。「刑事コロンボ」のように最初から怪しい人物が出ていて、彼が紛れもなく犯人だというケースが多く、しかし決定的だと思える証拠を毎回検察側に崩され、鈍感な裁判長が無実の被告人を有罪にしようとしている。

 だが、木槌が振り下ろされる直前に「待った!」というお決まりの台詞が発せられ、成歩堂龍一、イコールプレーヤーが、今度こそ決定的な証拠を示してやるという約束の展開がある。もう負けそうだと思っても、実は切り札がまだ残っていた! 失望と希望という対極の気持ちが交互に味わえるスリル満点の展開が、本作の醍醐味だと思う。

 アリバイによる確信から、決定的な証拠提示によって絶望へと落ちる真犯人の豹変の瞬間もまた見所だ。絶望の瞬間はコミカルな演出とアニメーションで表現され、それも本作のユニークなスタイルを構築する大切な材料の1つになっている。

 成歩堂龍一という主人公を身近に感じるのは、彼が二面性を持っているからだ。未熟でうかつな性質が表に出る場面があれば、ヒーローという名に相応しい自信に満ち溢れた発言をする場面もある。

 アメリカンコミックスのヒーロー「スーパーマン」も、そそっかしいジャーナリストとしての面もあるが、スーツを脱ぐと、カッコいいスーパーヒーローに変身する。そそっかしいと自信満々という全く異なる2つの側面の対立、交替が、プレーヤーの好感を誘う成歩堂龍一という魅力的なキャラクターを生んだと思う。

 音響効果の使い方も絶妙だと思う。所々に台詞を強調する効果音が、文章にきっちりと抑揚を与え、キャラクター達の気持ちがよりダイレクトに伝わってくる。「逆転裁判」はグラフィックス、音楽、音響効果、ストーリー、ゲーム性などのあらゆる面において、最も良くできた日本のアドベンチャーゲームだと思う。

【スクリーンショット】

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