【連載第37回】あなたとわたしのPCゲーミングライフ!!


佐藤カフジの「PCゲーミング道場」


日本のFPS界に誕生した“プロゲーマー”とは?
「スペシャルフォース」で“プロ”となった2人の選手、その舞台裏を覗く!


色々な意味で業界の「最先端」を走る、PCゲーミングの世界。当連載では、「PCゲームをもっと楽しく!」をコンセプトに、古今東西のPCゲームシーンを盛り上げてくれるデバイスや各種ソフトウェアに注目。単なる製品の紹介にとどまらず、競合製品との比較や、新たな活用法、果ては改造まで、様々なアプローチでゲーマーの皆さんに有益な情報をご提供していきたい。



■ NHN Japanが新たに開拓を目指す、プロゲーマーという職業

「スペシャルフォース」大会のステージで行なわれたプロゲーマー契約
NHN Japan所属のプロゲーマーとして活動がスタート

 去る4月29日、サードウェーブが主催するPCゲームの祭典「秋葉原PCゲームフェスタ」において、NHN JapanによるオンラインFPS「スペシャルフォース」の大会が催された。多くのファンを集めた会場で、NHN Japanは新たな試みを宣言された。2人のゲーマーの“プロ化”である。

 その2人とは、以前より「スペシャルフォース」のトッププレーヤーとしてめざましい実績を残してきた高橋“SpyGea”恵氏と、荒木“Yuti”祐介氏だ。SpyGea氏とYuti氏は、会場に集まった多くのファンの面前で“契約書”にサインをしてみせた。こうしてNHN Japanより正式にプロゲーマーとして認定されることになったわけだ。

 しかし、今回の発表でこのような疑問を持つ人も多いはずだ。そもそもプロゲーマーとは何なのだろう? SpyGea氏とYuti氏はこれから何をして、我々に何を見せてくれるのだろう?

 プロゲーマーとは、他のプロ選手と同様に、ゲームの腕を活かしてお金を稼ぐ職業のことだ。熱心なゲーマーにとってある種の格好良さや憧れを感じさせる生き方である一方、将来に渡って安定的な収入を得られる職業ではない。レールが敷かれておらず、マニュアルのない生き方である。

 ただ、すでに世界にはプロゲーマーと呼ばれる人々が少数ながらも存在していて、プロと呼ぶにふさわしい名声と収入を獲得している人間もいる。世界中に存在するプロゲーマーにはいくつかのタイプがある。プロゲーマーという概念が誕生しはじめた初期に、欧米を中心に多かったのが「賞金稼ぎタイプ」のプロゲーマーだ。高額の賞金が賭けられた大会に出場し、勝利して食い扶持を稼ぐ。

 もうひとつは「サラリーマンタイプ」のプロゲーマーだ。トップゲーマーが企業のスポンサーシップを受けることが普通になっていくと、逆に企業がゲーマーを雇ってプロに仕立てるケースが多くなってきた。このタイプは、オンラインゲーム企業がゲーム市場のイニシアチブを握っている韓国や台湾に多い。

 今回、NHN Japanの元でプロとして活動することになったSpyGea氏とYuti氏も、どちらかというと後者のタイプだ。彼らは「スペシャルフォース」の普及・発展のためにゲームの腕前や人柄を活かすかわりに、その活動にNHN Japanからの支援を受ける。少なくとも契約期間中の生活の安定は保証されるという契約の形になっている。また、2人はDELL AlienWare、およびSteelSeriesと、ゲーミングPC&デバイス企業2社からのスポンサーシップを受け、ゲームに使用するデバイス面での支援を受けることになっているという。

 連載第39回となる今回の「PCゲーミング道場」では、この2人の選手にフォーカスを当て、NHN Japanが開拓しようとする日本でのプロゲーマーという職業について迫ってみたい。



■ 強豪チームのエースからプロゲーマーへ

台湾の強豪チームと対戦するクラン“Racpy”。国内でのエキシビションマッチでの一幕だ
アイ・カフェでの定例イベント「PIA」第1回でファンと遊ぶ2人
会場では2人の使っているデバイスも確認することができた

 NHN JapanのオンラインFPS「スペシャルフォース」は、2006年にサービスを開始し、すでに4年以上が経過した日本でも最も長い歴史を持つタイトルだ。そのゲーム性はシンプル、そしてスピーディで、「爆破ルール」をメインとして多くのクラン戦が行なわれているFPSでもある。

 その「スペシャルフォース」で長く活動を続けてきたゲーマー、SpyGea氏とYuti氏はいずれも、サービス開始からまもなく本作で頭角を現し、強豪クランに所属して結果を残してきた。

 最も大きな成功は、2人が強豪クラン“Racpy”に所属して日本代表チームとして参加した、2009年の世界大会。台湾で開かれたその大会では、日本代表チームが破竹の快進撃を見せ、次々に世界の強豪チームを撃破。決勝戦まで上り詰め、最後に台湾のトップチーム“Weyi-SPIDER”に敗れたものの、準優勝という大きな成果を残している。

 その後、2人が所属していたクラン“Racpy”は2010年末に解散したものの、その中心メンバーが集まって新たなクラン“UHS Athelete”を結成、日本トップレベルのクランとしてオンライン、オフラインの各種大会で常勝の強さを見せつけている。

 そんな形でゲームの腕前を縦横無尽に見せつつ、SpyGea氏とYuti氏の2人が力を入れつつあるのが、ブログや生放送の配信を通じての活動だ。プロとなった2人は、NHN Japan支援のもと公式ブログを開設。そこで日々の活動や個人的な思いを記し、ファンを増やすための地道な活動を続けている。

 それと並行して、毎週水曜夜には「プロナンデス」という生放送をUstream上で配信。また、オフラインの活動としては秋葉原にあるネットカフェ、アイ・カフェにて「プロゲーマーと一緒に遊ぼう(PIA)」というファン参加型のイベントを、月2回ペースでスタートしたばかりだ。

YUTI OFFICIAL BLOG
http://blog.livedoor.jp/yutitarou/

SPYGEA OFFICIAL BLOG
http://blog.livedoor.jp/spygea/

 いずれの活動も、いまだ暗中模索の実験段階という印象が強いのが実情だが、それもそのはず、日本にはプロゲーマーなる職業の前例はほとんどないため、すべてはプロとなった2人と、その活動を支援するNHN Japanが自らを定義し、手段を作り出し、試していかなければならないものなのである。

 しかし、そこにはNHN Japanの「スペシャルフォース」チームが目指す大きな目標がある。2人の若者がプロゲーマーとして五里霧中の世界に身を投じるだけの価値を持つ何かがある。何を思い、何をしていこうというのか、そのあたりを中心に、NHN Japan「スペシャルフォース」プロデューサーを務める佐野亘氏と、当事者であるSpyGea氏、Yuti氏に話を聞いた。


アイ・カフェで月2回開催予定のイベント「プロゲーマーと一緒に遊ぼう(PIA)」の第1回。参加人数は15名程度と小規模なもので、決まったイベントプログラムも存在せず、成り行きに任せた実験的なイベントとなっていた。今後こういったオフラインイベントをどのように発展させていくのか、気になるところだ



■ 「プロ」になるまでのゲーム歴を披露。Yuti、SpyGea両選手インタビュー

インタビューに答えるYuti氏(左側)とSpyGea氏(右側)
プロデューサーの佐野亘氏

── 「スペシャルフォース」のトッププレーヤーであるおふたりですが、そこに至るまでのゲーム歴というのはどんな感じだったのでしょうか?

Yuti選手:子供の頃からゲームは好きで、友達の家でよく遊んでいました。休みの日は20時間とかぶっ続けで……(笑)。そして中学2年生の頃、野球のクラブチームでピッチャーをやっていたんですが、肩を壊してしまいまして。挫折を味わっていたころに、たまたま「メイプルストーリー」というオンラインゲームを始めました。そこですっかりハマってしまって、サーバーで2位という、“廃人”みたいなところまで登りつめてしまいまして……。それがオンラインゲームと出会った始まりでした。

── なるほど、ゲーマーであると同時にスポーツマンだったんですね。FPSの上手な人は運動神経も良い人が多いように思います。いまも肩のダメージは残っていたりするんですか?

Yuti選手:ゲーマーにはスポーツ出身の人は結構多いですよ。サッカーやってた、とか、野球やってたという人。肩はいまはもう大丈夫だと思いますけど、野球はずっとやってないんで運動神経はだいぶ落ちたかもしれません(笑)。

── そして「スペシャルフォース」を始めたきっかけというのは?

Yuti選手:「メイプルストーリー」をやっていたときに、3年前に一緒に世界大会に出場したdelpiero選手と出会ったんですよ。彼はわざわざ他のサーバーから煽りに来たりしていて、そのうち仲良くなったんですが、「メイプルストーリー」に飽きが来ていたころに始まったばかりの「スペシャルフォース」を見つけて。そうしたらたまたま、delpieroもプレイしているということで、一緒にプレイすることになりました。「スペシャルフォース」のサービスが始まって半年くらいの頃だったと思います。

── それが初めてのFPSだったんでしょうか?

Yuti選手:オンラインだとそうですね。オフラインだと、Nintendo 64の「ゴールデンアイ」を友達の家で何時間もやったことがあって、銃撃戦的なゲームは面白いなあという印象は持っていました。

── なるほど、「ゴールデンアイ」がルーツというのは、結構王道な感じですね。SpyGeaさんのゲーム経験はどんな感じですか?

SpyGea選手:実家が岩手県のずいぶん田舎なところにありまして。友達と遊ぶにも交通手段がなく、休日をずっと自宅で過ごすようなことが多かったです。そうすると暇になることが多かったので、パソコンでネットゲームを検索して遊んでいました。最初に出会ったのがハンゲームの「バトルカート」というアクションゲームでした。今はもう無くなってしまったんですけど(編注:2007年5月サービス終了)、そのゲームでかなり上位のほうに行っていました。

 次に「ゴールドウィング」というシューティングゲームに移りまして、その時点でアクションとかシューティングが好きだったと思いますね。そのゲームの中で「GUNZ」というゲームの噂を聞きまして、やり始めました。そして今度は「GUNZ」の中で「スペシャルフォース」というゲームが出るという話を聞いて、こちらに移ってきたという感じです。

── 「スペシャルフォース」が出てすぐプレイを始めた感じなんですね。

SpyGea選手:そうなんですが、パソコンのスペックが足りなくて、やりませんでした。

── え?!(一同笑)

SpyGea選手:しばらくスペックが足りずにできなくて、パソコンを買い換えたんですけども、今度は田舎で光回線が通ってなかったので、ラグがひどくて。それでしばらく、「スペシャルフォース」は軽く遊ぶ程度で、メインで活動するということはなかったです。

── しかし、そこからトップレベルのプレーヤーに上り詰めたわけですよね……。

SpyGea選手:回線が悪かった時代からスナイパーをやっていたんですが、ラグの影響で、照準を置いて相手の動きを待つ方法でも“相手のほうが情報が早い”といいますか……。すごい速さで撃っているのに、何で相打ちになっちゃうんだろうなという経験が多かったです。それで、光回線にしたら強くなれるんじゃないかという思いがあったんですよね。それで、高校卒業してから宮城の専門学校に行き、そこで一人暮らしをはじめた際に光回線を引きました。そのタイミングで「スペシャルフォース」をメインでがんばっていこうという思いが出てきて、クランにも所属するようになりました。

── 回線が改善されたことが、本格的にプレイをはじめる大きなきっかけだったわけですね。

Yuti選手:SpyGeaがあまり有名じゃなかったときに、SpyGeaのゲスト部屋に入ったことがあるんですよ。本当に回線がメチャメチャ悪くて、上手いんですけど(※ラグで)全然死ななかったりとか(笑)。その時たまたま、知り合いのチームの2軍に彼がいたので、「あいつメチャPing高いなあ」みたいな話をしていました。そのチームの1軍の人も、「SpyGeaはPingが高すぎて1軍に上げられない」みたいな話をしていましたね。

── ラグってるけど上手いってことは皆わかるほどのプレーヤーだったんですね。

Yuti選手:上手いんだけどひとりだけ凄いラグってて、海外から接続してるのかみたいな(笑)。

SpyGea選手:こっちの画面では、相手がちょっとだけ見えるようなスキマから当てたりしているのに、相打ちだったりとか、最初はそんな感じでした。



 ちなみにSpyGea選手は中学時代にバレー部に所属、県大会で上位入賞の経験がある。Yuti選手は小学時代に野球で関東大会に出場経験があり、千葉ロッテスタジアムでの試合も楽しんだという。中学時代は地元の軟式野球クラブチームでピッチャー、キャプテンとして都大会に出場と、2人とも子供時代はスポーツで才能の片鱗を見せていた。




■ プロゲーマーという未知の職業。その思いとは?

前々からオンラインゲームに関わる仕事がしたかったというYuti氏。実家の手伝いもあるということで、1年間のプロゲーマー契約を結んだ
SpyGea氏はプロゲーマーとしての活動のため、仙台から東京へ移転。その事情もあって、NHN Japanに正社員として登用されている

── そしておふたりとも、「スペシャルフォース」の強豪チームに所属して世界大会を経験し、今回プロとして新たなキャリアを積んでいくことになったわけですね。しかし、少なくとも日本ではプロゲーマーという職業のしっかりとした定義がないですし、何をしていくのか、生活できるかもわからない。NHNから声をかけられて決断する際、不安はありませんでしたか?

Yuti選手:僕は前々から、オンラインゲームに携わってみたいと思っていたので、むしろチャンスだなと思いました。企画や運営の仕事に興味があったので、ゲームの腕を生かせるならと。あとは、「スペシャルフォース」のバグ対処や運営の色々なところにプレーヤーとして満足していなかったので、そこを変えたいなという思いを何年も前から持っていて。知り合いからも、「運営に入って変えてくれよ」なんて冗談交じりに言われたりしてたので(笑)。

── なるほど、それは大きな動機ですね。SpyGeaさんの方は、仙台から東京に住まいを移して新生活を始めたと聞きます。大きな決断だったのではないですか?

SpyGea選手:そうですね……。タイミング的に今回の大震災とかぶってしまって、その面では不安でした。ただプロゲーマーとして仕事をしていくという面では、今までやってきたプレイの成績、実績や、それまでやってきていた生配信やブログといった成果が認められたのは嬉しかったですし、その点での不安はあまりないです。

── 契約形態としてはどんな感じなんでしょうか?

佐野亘氏:Yuti選手については、1年間のプロゲーマー契約ということで、毎月固定でお金が支払われるという形になっています。SpyGea選手は社員として登用してまして、FPSチームのプロゲーマー兼プランナーという形になっています。

── そのあたりは、おふたりの境遇の違いを考慮してのということでしょうか。

佐野氏:そうですね、もともと弊社で「FPS Field」というコミュニティサイトを通じてFPSを盛り上げていこうという動きがありまして、そこに関わっていくなかで、プロモーション活動の一環としてYuti選手とSpyGea選手にプロゲーマーとして活動してもらいたいという意向がありました。SpyGea選手の場合は仙台に住んでいたということもありましたので、弊社内で話をしまして、東京に住んで活動できるよう、社員として登用しましょうということになりました。

── なるほど。しかし、日本ではプロゲーマーという職業の前例がないに等しく、実際に何をしていくのかということなど、イメージがつかみにくい部分がありますよね。NHNとして今回、おふたりを登用し、“プロ”として扱い、プロゲーマーの活動を定義していくことの、そもそもの理由はどこにあるんでしょうか?

佐野氏:すごく簡単に言うと、きっかけは世界大会だったんです。いろんな国でいろんな形でプロゲーマーをやっている人たちがいるんですけれども、僕らが本当に凄いなと思った世界大会は、2009年に日本代表が準優勝した台湾での大会でした。経営陣と一緒に観に行ったのですが、FPSというものを通じて会場がすごく盛り上がっていて、「こりゃスゲー!」と。その風景が頭の中にあって、日本でもこのようなEスポーツとかFPSの盛り上がりを作っていければと、それがそもそもの理由です。

 その大会から2年が経過しているわけですけれども、その間に韓国や台湾のプロゲーマーの事情を調べてきました。台湾の事情を考えてみると、プロリーグというものが出来上がった経緯は、欧米や韓国の賞金稼ぎタイプとは違って、パブリッシャーがプロチームを立ち上げて、複数のパブリッシャーでリーグを作るという形だったんですよね。先行事例として、これは日本でも実現不可能な話ではないなと。そういう風に思って、今回、その本当に第1歩を踏み出したという感じですね。

── なるほど。そうすると大目標はリーグの成立であると。そうなると、NHNだけではなく、他のパブリッシャーにも趣旨を理解してもらい、広げていくことが次に必要になってきそうですね。

佐野氏:そうですね。他のパブリッシャーさんにも、ということもなんとなくは考えているんですが、各社さんそれぞれ違いがありますので、悩みどころですね。もちろん、基本的な目的としてはEスポーツ、FPSを盛り上げていくために、リーグを作ることができれば、より世間の目にも触れられるものにしていけるのではないかということです。

── そういった大きな目標がある中で、特にYuti選手とSpyGea選手というおふたりをパートナーとして選択した、特別な理由はありますか?

佐野氏:世界大会を通じて、Yuti選手は3年間、SpyGea選手とは2年間のお付き合いがあります。そのなかで、彼らのゲームのうまさと、人柄、それからビジュアル的な部分ですかね。カリスマ性というか、手前味噌で申し訳ないですけど(笑)。

 台湾に行ったときに、彼らは衝撃的に台湾の人たちに受け入れられたんですよ。クランメンバーが5人並んでいて、Yuti選手が真ん中に、両側にSpyGea選手と、Rkp選手というデカい2人がいて、並ぶと凸凹してすごく特徴的で。アメリカや韓国のプロチームに全然ひけを取らない存在感があるように映ったんですよね。

 そのなかで、大会ではSpyGea選手が凄い活躍を見せてもいて、台湾のアナウンサーがずっと「SpyGea、SpyGea」と連呼しているような、大きな存在感がありました。そしてYuti選手は3年間リーダーとしてチームを引っ張ってきていますし、チームをとりまとめて、運営側ときちんと話をしてきてくれていたこともあって、僕の中で大きな信頼感がありました。

── これまでのゲーマーとしての戦績だけでなく、そのなかで培われてきた人間的な信頼感というのも大きなポイントなんですね。プロになったおふたりにとっても、世界大会に出場した経験というのは、人生経験として大きなものがあったのではないですか?

Yuti選手:海外の選手と交流するのはすごく楽しいなと思いました。やっぱり、同じ趣味を持っているというか、同じゲームをプレイしてるので……。言葉はあまり通じなくても、なんとなくわかりあえるみたいな感じですかね。身振り手振りで話をしたりとか。

佐野氏:試合の間はあまりコミュニケーションがないんですけど、その後の懇親会みたいな場ですごく盛り上がって、仲良くなるような風景でしたね。

── お友達もできましたか。

Yuti選手:そうですね、ずっと大会に出ているので、毎年会う人もいます。「久しぶり~」みたいな感じで。あとはFacebookやメッセンジャーなどで交流をしたりとか、台湾のサーバーに行って一緒に遊んだりとかしています。英語は、時々勉強しようと思うんですけど、いつも挫折しています(笑)。翻訳サイトに頼っちゃう感じで。

SpyGea選手:僕の場合は、世界とか台湾のプレーヤーというより、逆に台湾の、普通に「スペシャルフォース」で遊んでいる代表選手じゃない方達との交流が多いです。

佐野氏:台湾では、このふたりはもちろんですけれども、日本代表チームの全員が一般の方からサイン攻めに遭ったりするケースが結構多かったんですよ。写真も取られましたしね。

Yuti選手:そうですね、あんな体験は生まれてはじめてでした。

── ゲームを通じて、普通はできないような経験をする。いいものですね。佐野さんはよく、「ゲームを通じた人間的な成長」ということを仰っていますが、まさにそういう感じですね。

佐野氏:ええ、本当に目の前で成長していく様を見てきているということもあって、やはり、それはいいことだと思っています。そしてふたりにはプロゲーマーになるという大きな決断をしてもらったということで、しっかり責任をもって育てていきたいと考えています。




■ プロゲーマーとしての生活。練習に秘密は?

2人とも、「スペシャルフォース」を練習するときは楽しむことが1番だと強調。上手くなるかどうかは才能次第?!

── プロゲーマーとして活動していく中で、ゲームの腕を維持向上させるために毎日何時間は練習をするなど、特に気を付けていることはありますか? 

Yuti選手:特に時間は決めていなくて、気分で決めています。チームとしての活動があるときはもちろん参加して、気分が乗っているときは野良でひたすら練習したりしていますが、気分が乗らないときはやらないですね。そういう時は無理にプレイしても内容が悪いですし、無理にやってつまらなくなるよりは、継続することが大事だと思っています。そういうときは気分転換に他のゲームをプレイしたりしていますね。

── 「スペシャルフォース」以外にはどんなゲームをプレイしているんでしょうか?

Yuti選手:「Counter-Strike 1.6」をちょくちょく触っています。「スペシャルフォース」でFPSに興味が湧いて、色々と調べてみたときに「CS 1.6」には強い人がいるという情報が多かったんですよ。それでなんとなく憧れみたいなものを感じて、プレイ動画を見たりして、購入してプレイするようになりました。「CS 1.6」のトッププレーヤーだったKeNNyさんやNoppoさんは本当に尊敬しています。最近になってやっと交流を持てるようになって、嬉しいです。

── SpyGeaさんは、日頃どのように「スペシャルフォース」を練習していますか?

佐野氏:私の見た印象だと、もう食事中にもやっているという感じですね(笑)。

SpyGea選手:やってますね……(笑)。逆に、他のFPSをやるってことはまずないですね。ちなみに4,000時間くらいプレイしてきています。

Yuti選手:プレイ時間が僕の2倍くらいあるんですよ。回線が悪かったはじめのほうはあまりやっていなかったはずなので、一気に追いぬかれた感じです。

SpyGea選手:一般のルームで遊ぶときは、楽しむのが1番なんですけれども、僕の場合はモチベーションを上げるために、自分が不利になる状況をわざとつくって、それを打開するような遊び方をしています。1日15分でも30分でもプレイするようにはしているんですが、気が乗らないときは、「スペシャルフォース」の動画を見たり、ブログを更新したりで、自分なりに楽しいことを見つけてやっています。

── こうして聞いてみると、楽しみながら自然に上手くなっていったという感じですね。逆に、うまくなるために苦しみながら必死にプレイするようでは、ここまでにはなれないのかな、という。FPSのスキルは才能による所が大きいのかなという印象です。

Yuti選手:僕の場合は、実はあまり反射神経がよくないんです。その不利を、立ち回りでおぎなう戦い方をしているんですよ。人と違う立ち回りを常にして、特に裏を取る動きが1番好きです。成功すれば大きいですけど、失敗すると大幅に不利になる、賭けみたいなものですね。そういう立ち回りを重視した戦い方を目指しているので、僕が作戦を立てると「奇抜すぎて使えない」とか、たまに言われます(笑)。

── SpyGeaさんはスナイパーをやっているということで、エイミングや反射神経に自信がありそうですが。

SpyGea選手:うーん、どうなんですかね……。反射神経とかは、あまりわからないです。

Yuti選手:僕が言うのもなんですけおど、SpyGeaの反射神経はオカシイですよ(笑)。見ていると、反応速度がメチャメチャ速いです。特に、「置きエイム」で相手が出てくるタイミングで撃つスピードが、凄い速いんですよ。絶対当てるくらいの感覚ですね。観戦すると、時々見えない敵が死んでるんですよ。何も無いところで突然撃ち始めて(笑)。多分一瞬見えた隙に撃ってるんでしょうけど。

SpyGea選手:田舎で回線が悪かった時代にはもっと凄いことやってたんで、そのおかげですかね(笑)。本当にもう、当てないと死ぬくらいの勢いでやってました……。

── Yutiさんのレベルでもそう見えるというのは、本当に凄いですね。

Yuti選手:日本で1番上手いです。ただ、エイミングは本当に凄いんですけど、たまに、立ち回りはワケわかんないことがあるんですよ。エイムに集中しすぎているのか、何やってるのこれ、みたいな感じの動きをすることがあって。それが治ったら間違いなく最強です。

SpyGea選手:ああ、そう? 価値観の違いかな……結果的に勝ててるわけだし(一同笑)。

── 立ち回りのYuti選手、反応速度のSpyGea選手というわけですね。




■ 地道に進めていく「プロ」としての活動。その目標とは?

Yuti氏の公式ブログ
SpyGea氏の公式ブログ

── 今後、プロゲーマーとしての活動をどういった方向に広げていきたいですか?

佐野氏:そうですね、最終的にはリーグの実現、というところまでのイメージはあるんですが、それ以前にまずプロゲーマーのふたりが、「スペシャルフォース」のお客さんに知られていくことが大事だと思っています。次に他のFPSのお客さん、そしてFPSをやらない方々にも。今年は認知度を上げていくことがメインの目標だと考えています。その次にプロチームを作るということが、第2のステップということになります。

── 具体的には、どのような催しを通じて認知度を上げていく考えですか?

佐野氏:現在のところ2つの催しを定期的に開いています。ひとつは、アイ・カフェで「プロゲーマーと遊ぼう」というオフラインのイベントで、もうひとつは、「プロナンデス」というUstream上での番組です。オフラインイベントのほうはまだカッチリとした方向性はないんですけれども、今後、講習会のようなものを開くことができればいいかもしれない、というアイディアはあります。それから、彼らはそれぞれブログを持っていますので、そういったものを通じてWeb上でもアピールしていければと。

── 形の上で“プロ”ということになって、周りの反応など変わったことはありましたか?

Yuti選手:いや、そんなに……(笑)。いちおう、mixiとかでリアルの友達から「凄いことやってんじゃん」みたいなコメントをもらったりとかはしてますけど。前から世界大会に出てましたし(笑)。最初の世界大会は高校の時に出たんですけど、「世界大会に行くので早退します」といったら、友達が手でアーチを作って送り出してくれたり。それでちょっと、学年内で有名になったりしました。「あいつゲームやべえ」みたいな(笑)。そんな感じで、以前から知っている人が周りには多いので、プロになってもあまり変わらないですね。

SpyGea選手:僕の場合は、「スペシャルフォース」の練習と活性化という意味でルームをいつも作成しているんですけど、やっぱり人の入りがすごく早いですね。「SpyGeaのルームだ!」といって、どーっと入ってきます(笑)。あとは、「期待してます」など、声援のメッセージをよく頂くようになりました。

── 専門学校での周りの反応はどうだったんでしょう?

SpyGea選手:言ってないです……。世界大会に行くときも、こっそり3日間居ないみたいな(笑)。

── 意外と淡白な感じですね(笑)。自分からは言わないタイプなんですか?

SpyGea選手:そうですね、聞かれたら言いますけど、自分からは。自慢してるみたいな嫌なイメージはつけたくないですし……。でも、先生に突き止められたんですよ。何で3日間居なかったんだって。それで「世界大会に行きました」と説明したら、態度がいきなり変わって、「学校に張り紙出そう」とか……(笑)。でもなんか違うなと思って(一同笑)。

── いやー、クールですね。しかし今回は色々とお話ししていただいてありがとうございます。最後に、プロゲーマーに就任してはや1カ月が経過しましたが、今後の目標を聞かせてください。

Yuti選手:やはり、佐野さんも言うように認知度を高めていくことが当面の目標です。最近、「スペシャルフォース」もやっているんですけど、イベントに行くと結構、僕の事を知ってくれている方がいるんですよね。でも、オンラインでSkypeを使ってプレイしている人たちがいるんですが、そこに行って話をしてみたら、全然僕のことを知らなくて。だから、イベントとかに来ていない方は僕のこと全然知らないんだなと思ったんです。まずはそういうところから認知度を広げていければと、「ニコニコ生放送」を使った配信など準備をしています。他のFPSのプレーヤーの方にも知ってもらって、みんなで盛り上げていければいいですね。

SpyGea選手:「スペシャルフォース」のお客さんは年齢の低い方が多いですので、自分は今後、プロゲーマーとして模範になるような行動をしていきたいと思っています。それを通じて、お客さんのモラルというか、マナーがきちんとなっていくようにしたいなと。そのために自分が配信などでちゃんとしたモラル、マナーを見せていかないといけないなと意識しています。そして、若い人達がこれからプロゲーマーというものを目指していけるような環境を作っていければと考えています。

── ありがとうございました。

(2011年 5月 30日)

[Reported by 佐藤カフジ ]