ゼロから始める「League of Legends」

ゼロから始める「League of Legends」

第10回:eスポーツサークルって何? 学生のサークル活動として広がる「LoL」

 学生コミュニティ、サークル活動にも様々なテーマが存在するが、最近になって活動内容に「League of Legends」(以下「LoL」)などを取り入れる「eスポーツサークル」が増えてきている。

 ゲームを主な活動内容に据えているサークルは以前から存在しており、2015年には「日本eスポーツ学生連盟」というeスポーツに特化した学生団体も発足している。これはMOBAや格闘ゲーム、FPSをはじめとした対戦向けタイトルの学生大会運営を、学生自身が主体となって行なう主旨の団体だ。

 「LoL」に関しては、国内サービスが始まったこともあってか、ここ数カ月の間に活動内容として「LoL」を取り入れるサークルが増えてきており、大会やリーグ戦をはじめとした交流イベントも盛んに開催されている。

 今回は、学生が主体となって開催している交流イベントのひとつを訪ねて、その内容をレポートする。また、イベント開催の経緯や普段の活動内容などについても話を聞いた。

気軽に参加できる手作りイベント

 今回取材に伺ったのは、大学生や専門学校生を中心としたオフラインイベントのひとつ「LEAGUE of LEGENDS 学生交流イベント#1」。アイ・カフェAKIBA PLACE店内、PC向け対戦タイトルが遊べる「ALIENWARE ARENA」の一角を借りて開催していた。

 主なイベント内容は、集まった学生同士の交流戦。集まったメンバーは、同じ大学のサークル仲間が誘い合わせて来ることもあれば、学内でつるんで一緒にゲームをしている友達連れなど様々だ。この日は60人を定員としたところに、およそ30人前後が集まった。20名が4チームに分かれて交流戦を行ない、それ以外は観戦参加となる。

 チームの分け方はランク順で、参加者の申告から、チーム全体のランクができるだけ均等になるよう運営スタッフが調整して編成する。事前申し込みのあった参加者を中心にチームへ組み込むのだが、イベントの開催された7月下旬は学生の試験期間とかぶる時期でもあり、受付時間を過ぎても事前申し込みをした人が来なかったり、当日飛び入りの参加者が複数いたこともあって、チーム編成は難航していた。

 交流戦開始時点でプレイ希望者が定員に満たなかったため、筆者と「LoL」経験者でたまたま現場に来ていた弊社のスタッフが駆り出されることになった。この辺の緩さは交流イベントならではのもので、勝ち負けにこだわりすぎずにゲームを楽しもう、という姿勢が見て取れる。

 実際に一緒にプレイしてみると、やはりランク戦に出入りしているだけのことはあり、即席のチームながら連携もとれていて、かなり歯ごたえのある試合になった。対戦チームは声の届く距離でプレイしているので連絡事項はだだもれであるが、そういった細かいことは気にしてはいけない。

 また観戦者に向けて、試合の実況・解説をしている学生スタッフもおり、会場の盛り上げにも一役買っていた。一般的なスポーツと同様、その場にいる全員が競技のルールを理解していれば、画面上で起こっている事象について理解でき、実況・解説の差し込むひとネタにも反応することができるので、多人数が集まるこういったイベントにおいて、盛り上げ役としての実況・解説の存在は非常に重要な役割のように感じられた。

 ちなみにこの学生イベントはアイカフェ福岡駅前店でも同時開催されており、時間があれば店舗対抗戦も実施する予定だったが、イベント開始が押してしまったためこの日はお流れとなった。

受付で渡されるチラシも学生自らデザインしている
ルール説明の時間。出場者のランクは均一に調整されることが伝えられた
当然ながら暴言や煽りは禁止
飛び入りの来場者がエントリーしたため急遽チーム編成を書き換えている
アイカフェ備え付けのデバイスではなく、使い慣れた自前の機材を持ち込む参加者もいた
実況・解説担当も、手慣れたしゃべりで場を盛り上げていた
イベントにつきものの機材トラブルに対処している運営スタッフ
手が足りないということで筆者と弊社スタッフも参加させてもらいました
ライアット提供のノベルティや、イベント協賛社からの賞品が当たる抽選も実施

もっとみんなに"eスポーツ"を知ってほしい

 今回のイベントには、「LoL」の学生コミュニティ支援プログラム「e-Sports×U」が関わっている。ライアットゲームズ、Yahoo! JAPAN、GameBankの3社によって2016年3月から展開しており、eスポーツを通じた学生同士の交流やイベント活動、サークルの立ち上げ、メンバー募集などを支援する枠組みとなる。e-Sports×Uの募集に応募し「eSports Student Partner」(以下ESP)として任命されることで、コミュニティリーダーとしての支援が受けられる。

 本イベントの主催者グループに所属する学生も、ESPに任命されている。イベント開催に踏み切った動機や普段の活動内容、実際に開催してみて感じたことなどについて、主催グループの学生2名に話を伺った。一人は日本大学で「LoL」サークルを主宰しているサモナーネーム「恍惚のてぃらみす」(以下恍)さん、もう一人は、明治大学でeスポーツを活動内容のひとつに据える総合サークルに所属するサモナーネーム「ローズマリン」さん。

この日のイベントを主催したローズマリンさん(左)と恍惚のてぃらみすさん(右)。いずれも「LoL」のサモナーネーム(ハンドルネーム)だ

――このイベントを開催した動機は何でしょうか。

恍:僕自身は今年の3月からeスポーツを活動の主軸に据えたサークルを主宰していて、以前から試験的にサークル内イベントをやってみたりもしていました。今回はほかのメンバーからお誘いいただいたこともあり、またこの規模のイベントを主催するのは初めてなので、良い機会だと考えて、参加することにしました。運営は役割分担なのですが、僕は企画立案やチーム決めなどの事務作業や、ゲーム設定などゲーム内容に直接関わる部分を担当しました。

ローズマリン:私は進行を担当しています。開催の動機については、私自身がまだランク戦にも参加できない初心者レベルなので、プレーヤースキルに関係なく、仲間を作るという意味でも気軽に参加できるイベントがあればいいなと思って、主催として参加しています。

 ゲームを始めたての初心者って、一番友達が欲しいけど、一番声をかけにくい時期だと思うんです。自分が下手だとなかなか声をかけにくいし、でも友達がほしい時期。自分だけじゃなくて、そういう人って多いと思うので、このイベントがフレンドづくりのきっかけになればと思っています。

恍:難しいのは、スキルのレベルに開きがあるプレーヤー同士をどのように交流させるかというところですね。今回は最終的にいい感じに配分することができたので安心しました。

――実際にイベントを主催してみて気付いたことはありますか?

恍:イレギュラーへの対応という部分ですね。今回のイベントは事前登録制にしたのですが、当日急に来られない人が出ると、その部分の調整がすごく大変でした。

ローズマリン:あと“時間”の周知もしっかりしないといけないなと思いました。例えばWebサイトでは受付時間について『12時50分~15時30分』と表示していたのですが、それだとチーム分けが終わってゲームを始める寸前とか、ゲームが終わったタイミングでも参加受付をしないといけなくなりますよね。受付時間に幅があると、今日みたいにゲームを始めるタイミングで人が足りない、ということになってしまいます。この辺りは今後の課題ですね。

恍:あとは、開催時期もちょっと考えないといけなかったですね。試験期間とか、夏だと花火大会とかほかのイベントもあるので、誘っても来てくれないということがありました。

――普段のサークル活動について教えてください。

恍:活動は週2回で、夜9時頃から2時間くらい、オンラインで集まってプレイします。“自由組”と“大会組”"に分かれていて、自由組は初心者とかワイワイしたい人を中心に、カスタムをやったりノーマルに行ったりといった感じです。

 大会組は、いわゆる“ガチ”なプレイをして、学生大会に向けた練習をしています。大会組に関しては、秋口頃から他大学の選抜チームとのスクリム(練習試合)を普段の活動に加えてやっていこう、という話はしています。

ローズマリン:私が所属しているのは『サブカルチャー研究会』といって、アニメやゲームをはじめとしたサブカルチャー全般を幅広く楽しむ趣旨のサークルです。今後の活動内容として、eスポーツにも手を広げてみたいなと思って、今、色々やってみているところです。

――「LoL」でサークル活動をしようと思ったのはなぜですか?

恍:元々はPCでFPSをプレイしていたので、大学に入ったらPCゲームを軸にした活動がしたいなと思っていました。たまたま同じゲームをプレイしていた仲間が大学にいたので、“じゃあちょっとやってみるか”と軽いノリで始めたのですが、思ったより反響があって、募集を始めてから1カ月半ほどで、全キャンパス合わせて45人ほど集まりました。

 初めは「LoL」で活動を始めてみて、10人程度なら他部門も併設しようかなと思っていたのですが、45人をまとめることだけでもちょっと厳しいので、もうしばらくは「LoL」一本で活動して、秋頃になったら別のタイトルを始めようかなと思ってます。

――今後、サークル活動として「LoL」をプレイするうえで、どのような方向性をとっていきたいですか?

恍:僕の通っている日大はスポーツが強いことでも知られているので、“eスポーツも強い日大”にしていきたいですね。eスポーツはコンピューターゲームですが、スポーツとしての側面もあるので、大会で実績を出して、スポーツとしてのeスポーツを大学に認めて欲しいと思っています。正式に“部”として認められると、活動で教室が使えるようになるんですよ。これについては、近畿大学で既にeスポーツで部として認められている前例があるので、不可能ではないと思っています。

ローズマリン:明治大学の場合は、「LoL」のプレーヤーが集まり始めたのが2016年の4月からなので、明確に何を目指そうというのはまだ固まっていなくて、まずは人を集めようというところですね。複数のサブカルチャーを掛け持ちで楽しむ人が多いので、「LoL」に関してはその中のひとつとして楽しく遊んでいる感じです。

――学校間で「LoL」の手腕を認定する大会があるのですか?

恍:非公式ですが、“関東大学「LoL」リーグ”というのを早稲田大学が企画しています。究極的には公式の試合に出場して、プロチームの名前に混じって大学名が出る、くらいのところまで行きたいですね。ゲームタイトルには続編もつきものだし、気がつけば卒業、なんてこともあるので、それもそんなに悠長にはできないよねと。

――今後、イベントを通して何をしていきたいですか?

恍:まずはみんなに“eスポーツ”を知ってほしいですね。“eスポーツ”っていうと「ゲームやってるだけじゃん」って思われがちなんですが、やってみるとプレーヤー同士の交流もあるし、戦術・戦略的に考えることもたくさんあるし、もはや“ただのゲーム”ではなく、スポーツと呼ぶべきだと僕は思っていて、実際、サークルの活動も“ゲームを遊ぶ”というよりは"部活"というノリでやっています。

 あとは、面白いPCゲームとしての「LoL」をもっと広めていきたいです。僕の周囲にはパッドプレーヤーが多いので、基本的にPCゲームはプレイしないのですが、彼らをなんとかして"こっち側"に連れてきて、仲間を増やしたいと考えています。

ローズマリン:“ゲームは子どもの遊び”という認識が根強いですよね。そこを変えていきたいです。

恍:そういう意味では、最近マスメディアでプロゲーマー特集を組んでくれることがあるのはすごくありがたいですね。TVっていろんな人が見るので、ゲームに対する認識を改めてくれることもあると思うんです。もっとやってほしいな、と思います。

ローズマリン:あとは、初心者、特に女性プレーヤーさんが参加しやすい企画を増やしたいですね。「LoL」は初心者の受け口がすごく小さいように思うんです。初心者はあれをやるな、これをやるな、と言われてしまうし、かと思えば専門用語でこれをやれと言われる。"CS"ってなんやねん、みたいな。

 あと、これは米国産のゲームだからかわからないのですが、すごく“煽る”文化がある。これで心が折れて辞めてしまう人もいますしから、まずは初心者が入りやすい環境づくりを通して、もっと"平和に"楽しみたいと思っています。初心者の素朴な疑問に答える講習会みたいなのもいいな、という構想はあります。

オフラインで横並びに遊べる貴重な機会

 一般参加の学生にも話を聞いた。ここでは本人の希望によりAさんと呼称する。

――今回の交流イベントに参加しようと思った動機を教えてください。

Aさん:イベントを知ったきっかけは、Twitterでライアットがこのイベントのツイートをリツイートしたことでした。実際に参加してみようと思ったのは、面と向かって一緒に遊べる仲間を増やせたらいいなと思ったからです。オンラインでは相手のことはわからないですからね。あとは、学外にもいろんなコミュニティが作れたらいいなと思いました。

――今回のイベントに参加してみて、思うところはありますか?

Aさん:こういったイベントに参加するのは初めてだったのですが、こうしてオフラインで集まって、ちゃんと試合形式で遊ぶっていうのも初めてだったので、すごく楽しかったです。

――今日はどのような形で交流されましたか?

Aさん:普段は自分のレート帯でしか遊ばないので、特に自分より高いレート帯の人のプレイが生で見られたといううのは良かったです。LJLとかプロリーグのプレイになってしまうと、あまりにレベルが違いすぎて却って参考にならないというか。

――こういったイベントに今後望むことはありますか?

Aさん:継続して開催してもらえるとうれしいですね。今回のように、オフラインかつ"横並び"で「LoL」を遊べる機会は少ないですから。

取材を終えて

 今回、イベント取材の中で学生と話して感じたことは、eスポーツの認知以前の問題として、自分たちの活動が、世間的に“遊んでいるだけ”としか見られていないことへの苛立ちだった。

 冷静に見れば、eスポーツに取り組む彼らの姿勢は、形態こそ異なるが一般的なスポーツとそれほど差異はない。しかし自分たちの活動と世間からの見る目には温度差がある。ありていに言えば、まだまだ世間的にコンピューターゲームといえば“ピコピコ”であり、“子どもの遊ぶもの”なのである。

 前回の取材でyunn氏が話していた通り、eスポーツとはつまるところ“スポーツ”である。子どもがスポーツばかりにかまけていては学業がおろそかになるが、スポーツにリソースを集中すれば、将来“プロスポーツ選手”として活躍できる可能性がある。少なくともプロに至るまでのパスは想像できるだろう。

 だが現状、日本のeスポーツには、“ゲームで稼ぐためのパス”がほとんどないと言っていい。野球に打ち込む息子を見てプロ野球選手になる将来を想像する親はいても、ゲームに打ち込む息子を見て将来が心配にならない親はそうそういないだろう。

 もちろん、スポーツで稼げる人と同様に、eスポーツで稼げる人もまた一握りだ。eスポーツ自体が一般的なスポーツと比べて新しい概念なので、選手の選べる選択肢が少ないのは至極当然のことだ。しかし一般的なスポーツの方が、プロシーンの第一線からこぼれ落ちた人材の受け皿が大きいのは間違いない。今後は、“eスポーツに関わって食えていけるか”という現実的なテーマに対応する環境の整備が業界の課題になってくるのではないだろうか。

 なお、こうした環境の整備に関連して、一般社団法人「e-sports促進機構」、一般社団法人「日本eスポーツ協会」(JeSPA)、「日本プロeスポーツ連盟」(JPeF)といった複数の団体が立ち上がっている。

 様々な問題を抱えながらも、「LoL」公式大会の入場チケットは売り切れ、ストリーミングの視聴者数は1万人を超えるなど、エンターテイメントとしての「LoL」は進歩を続けている。学生たちの活動にしても、自分たちで団体を立ち上げ、必要なところでは大人たちの助力を得て、大会やイベントを催すなど、徐々に活動の幅は拡がりつつある。今後もこうした活動の行方については、継続して追っていきたい。