【連載第42回】大人による大人のための洋ゲー連載

Game Dudeの「大人のための海外ゲームレポート」

リバティシティに中華大戦勃発!!
家宝の剣を取り戻し、父の恨みを晴らせ!
「Grand Theft Auto: Chinatown Wars」

  • ジャンル:アクションアドベンチャー
  • デベロッパー:Rockstar Leeds
  • パブリッシャー:Rockstar Games
  • プラットフォーム:ニンテンドーDS
  • 価格:34.99ドル
  • レーティング:ESRB:Mature(17歳以上推奨)
  • 発売日:3月17日(北米版)

 世界のみんなが大好きなRockstar Gamesがまたもや伝説を作り上げた。Xbox 360やプレイステーション 3のハイデフでゴージャスなゲームに慣れ親しんだコアユーザーは見向きもしなかった携帯ゲーム機ニンテンドーDSに同社の看板フランチャイズ「Grand Theft Auto」の新作を叩き込んだのだ!

 「PSPならまだしもDSとは……」といぶかしむゲームファンを尻目にRockstar Gamesは大胆なチャレンジを行ない、極上のクライムゲームをDSのROMに詰め込むことに成功した。それが「Grand Theft Auto: Chinatown Wars」なのだ。サブタイトルを読んでおわかりになるように、リバティシティの一角に存在した中華街が今回のゲームの舞台、そしてシリーズ初のアジア人主人公の登場である。

 携帯ゲーム機だからといって甘く見てはいけない。ゲームファンを常に驚かせてきた同社のこと、今回も性格のひねくれたコアゲーマーをうならせる要素が満載だ。歴代ファン、海外ゲームファンならずとも本作には注目して欲しい、いや注目せねばならないのだ!!

【お断り】
 当連載でご紹介したゲームは日本国内で流通しているハードウェアでは動作を保証するものではありません。編集部では海外版ハードウェア・ソフトウェアを輸入して紹介しています
 この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はGAME Watch編集部および、メーカー、購入したショップもその責を負いません
 GAME Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません


■ DSを開くとそこはリバティシティだった!!

DSでリバティシティに帰ってきた!
派手な銃撃戦は今作でも健在

 「Grand Theft Auto: Chinatown Wars (以下、『GTA:CTW』)」は、ニンテンドーDS独占の「GTA」シリーズ最新作だ。タイトルの通りナンバリングタイトルではなく、「Vice City」や「San Andreas」のような外伝的な作品となる。ただ、この2タイトルと異なるのは舞台は本編おなじみのリバティシティで、しかも「GTA IV」で新たなリファインが施された街をそっくりそのまま入れ込んでいるため、一種「GTA IV」の外伝と言ってもいいところだ。

 「GTA IV」をプレイしたことのある方であれば、リバティシティの一画にチャイナタウンがあったことを覚えているだろう。本作の舞台はまさにそこ、チャイナタウンで展開される。今作の主人公はシリーズ初のアジア人主人公となるホアン(ファン)・リーだ。組織を束ねるボスの息子だったリーは、香港のクーロンで父親が殺されてから人生が激変する。リバティシティで活動している叔父のウーの命令で父親がかつてカードゲームで勝ち取り家宝にしていた「ユ・ジアン」と呼ばれる一振りの剣を届けるため、リバティシティに向かう機上から物語は始まる。

 飛行機が着陸し、叔父の使いで迎えにきた手下と挨拶をかわした瞬間、何者かから襲撃を受ける。リーは頭部に銃弾がかすり昏倒してしまい、家宝の剣は謎の襲撃犯に奪い去られてしまう。瀕死の状態で見捨てられ、リバティシティで独りになってしまったリーは、果たして家宝を奪い返し復讐を遂げることはできるのだろうか……?

 とまあ、ゲームはこんなプロローグシーンからスタートする。歴代主人公の中でも1番最悪の境遇と言っても良さそうだ。その後、主人公はリバティシティのあちこちをまわることになるが、「GTA IV」プレイ経験者であれば見た目と縮尺は違えど、しっかりと街全体をゲーム中に盛り込んでいることに感心するだろう。アルゴンキンの小ぎれいで緑豊かなビジネス街や、対するボハン地区のうらぶれ感など、地域ごとの景色は本作でもしっかりと表現されている点に注目したい。

 ゲームの開発はRockstar Leedsが行ない、本編を手がけるRockstar Northが監修をつとめている。開発を行なっているRockstar Leedsというスタジオは聞き慣れないかもしれないが、もともと英国にあるMobius Entertainmentという、ゲームボーイアドバンス向けの開発を行なってきたデベロッパーだ。これまでに様々なゲームの移植を行なっており携帯ゲーム機ソフトの開発ノウハウは傘下のスタジオの中では最も豊富ではないかと思われる。

 Mobius EntertainmentはRockstar Gamesに買収された後はRockstar Leedsと名称を変更。Leedsとはそのまま同社が所在する英国ウエストヨークシャーの街「リーズ」から取っている。組織が変わってからは同社タイトル一連の携帯機向けタイトルに携わっており、代表作としては日本でも発売されたPSP版「GTA」外伝2作や「Manhunt 2」、Wii版「Table Tennis」などの移植を手がけ、そして今回「GTA:CTW」の開発を担当という流れになる。

 ちなみに2005年からPSP用オリジナルタイトルとして「Beaterator」と呼ばれる音楽ゲームの開発も進めているようだ。今年発売という噂だが、4年ごしのタイトルゆえにどこまで信頼が置ける話かはわからないのがちょっと気になるところだ。


シリーズ初のアジア人主人公登場DSならではの演出が楽しい
様々な人物との出会いもある警察の戦いとも待っている


■ DSでどこまで「GTA」してるのかをチェック!

主人公ファン・リーはこれでも20代
家宝の剣を叔父に渡すためリバティシティへ

 ニンテンドーDSは、現在発売されている主要なゲーム機の中では、スペック的には1番劣っているプラットフォームだ。そのDSでどこまで「GTA」の世界が再現されているのか、これはどのユーザーも多いに気になるところだと思うので、ざっとチェックしてみた。

 まずはビジュアル面だが、「GTA」シリーズと言えば、シリーズ3作目「Grand Theft Auto III」の大ヒットですっかりサードパーソン・アクションゲームのイメージが定着してしまったが、実は2作目までは俯瞰視点で上から見下ろすスタイルのゲームだったのは古参の海外ゲームファンであれば覚えているだろう。

 「GTA:CTW」は主にDSのスペック面における影響だろうが、原点回帰ということでこの俯瞰視点が復活している。注目したいのは、クルマなどのオブジェクトはキチンと3Dのモデルで描かれており、車にダメージが加わればドアが開きっぱなしになったり、ボンネットが飛んだりと、細部までしっかりと描かれているところだ。

 人々もきちんと街中を歩いており、人がクルマに引かれれば救急車が飛んでくる、何かしらの犯罪をおかしたのか警官(あるいはパトカー)に追われたりしているのも変わらない。小さいDS用画面でクルマよりもさらに小さく表示されるため、主人公を含めて視認性があまりよくないときもあるものの、きちんと生活感ある街並みの雰囲気は出ている。

 DSのわずか256×192ドットの中に職人技のようなこだわりがギッシリと詰まっている。プレーヤーもろくに注目しないような個所でも手抜きを一切しないなど、Rockstar流のこだわりは健在だ。

 キャラクター同士の会話などはさすがに表現力が厳しいためか、コミックタッチの静止画とテキストによって展開されるようになっている。既存のシリーズとは絵のタッチが異なるため好き嫌いは分かれると思うが、携帯機の特性上から冗長な会話やストーリー展開が難しいため、今までのシリーズとは異なり会話シーンやキャラクターの性格付けはアッサリ目であり、シリーズ中としてはゲームを進めるテンポはかなり早い方ではないかと感じた。

 このデザインは一長一短あって、手早くミッションやキャラクターの性格が理解できる反面、ゲーム中に登場するキャラクターの印象がどれも薄い。キャラクターの表現力には病的なまでのこだわりがあるシリーズだけに、あっさりひかえめなテイストはやや残念であるものの、ゲーム全体のバランスを考えるとこれで正解。

 次に「GTA」シリーズでは欠かせないラジオだが、局数(曲数の面でも)は全部で5つに減っているものの、本作でもその魅力は健在だ。ラジオから流れる曲はヒップホップやロックなどジャンル別に分かれている。DSの音源を使った曲のみで、他のシリーズのように実際のヒット曲が流れる訳ではないのが残念ではあるが、これはこれで面白い。

 「GTA IV」にはPCと携帯電話が登場したが、「GTA:CTW」もそれに代わるPDA、というよりはスマートフォンに近いものが用意されている。GPSとネット端末を兼ねた機能を持っており、GPSを使う場合は目的地をタッチすれば順路を表示してくれる優れもの。その他要人はカテゴリ別にまとまっており、地図上をわざわざ探さなくても済む。

 ネット機能はメールが主だが、こちらから書いたり返事したりすることはできない。相手からの指令書代わりに存在していると思えば良いだろう。「アミュネイション」と呼ばれるネット通販サイトが利用可能で、武器は基本的にこの通販を使って買うようになった。注文してしばらくすると自宅前に購入した品物が小包で届くという仕掛けだ。ちなみに家は他のシリーズと同じように地域ごとに空き物件があるので現金に余裕があればその場で購入できる。

 本作向けに独自のアレンジが加わっている点としては、お店の類がスクラッチカードに集約された程度。スクラッチカードの店に入ると、体力回復、現金、武器、家などがあたるカードを買うことができる。これをタッチペンでスクラッチしてみごと当たれば該当の賞品が当たるというシステムで、持ち金に余裕があるとついつい何枚もチャレンジしてしまう。運が良いと数十ドルで家一軒ゲットも夢ではない。

 その他、移動時間を短縮するためにタクシーを使ったり、特定車両を奪えば副業ができたりと、見た目以外は実にマジメに「GTA」をしている。物足りなさなどは一切感じないし、むしろここまでの内容をよくまとめきったものだと感心してしまうこと間違い無しだ。


何者かに家宝を奪われ殺されそうに!!タッチペンでガラスを割って脱出せよ
ファンの叔父・ウーの依頼を受ける紅一点のリン、容姿とは裏腹に殺人技に長けている


■ タッチスクリーンをとことん使いこなしたゲームデザインに脱帽

武器はネット通販で買う時代
メールで様々な連絡が入ってくる

 ゲームの基本的な流れは今までのシリーズと同じ。主要な人物から依頼を受け、様々なミッションをこなしていくことでストーリーが進んでいく。ただ今までのシリーズとは異なるのはゲームに「DSらしさ」を取り入れた点にある。ここで言う「DSらしさ」は無論、デュアルスクリーンとタッチスクリーンのことだ。

 「GTA:CTW」ではそのどちらもフル活用している。従来のDS向けゲームは、どちらかといえば、低解像度による情報量の少なさをデュアルスクリーンで補うようなスタイルのものが多いが、タッチスクリーンによる様々なアクションに着目した仕様を多数盛り込んでいるところがいかにもDSらしくて面白い。

 タッチスクリーンを採用したアクションゲームは、ゲームを面白くする要素であると同時に、快適なゲームプレイを阻害する要因になることもある。中途半端にDSでタッチスクリーンを活用して「DSらしさ」を無理矢理出してひどい結果になったゲームも多々存在する中、本作は任天堂と互角かそれ以上にタッチスクリーンをうまく使って楽しくプレイさせることに成功した希有な例だ。

 導入例としては、ガソリンスタンドで火炎瓶を作る時には、ビンにガソリンを注いで布でフタをする動作や、スクラッチカードをこする、クルマのカギを使わずにエンジンを直結させるなどのテクニックを使う際にタッチ操作が活かされている。これは非常に直感的でわかりやすく、かつミニゲーム的な要素がきちんと確立されており、単調さを微塵も感じさせないゲーム展開は、時間の経過を忘れさせてくれる。

 また、手榴弾や火炎瓶攻撃、消防車の放水をするといった特定の場所に物を投げるようなアナログ的な操作はタッチスクリーン上で方向と距離を指定して行なう。何度か火炎瓶を投げ損ねて火だるまになってしまったが、慣れれば好きな方向に投げることができる。

 本作だけの要素としては、街中にあるゴミ箱を漁ると組織が隠した武器や薬物が出てくることがある。ゴミ箱のフタをあけ、ゴミ袋をかきわけて探す動作は全てタッチペンで行なうのだが、警官に追われている最中に武器が尽きて必死に銃を探すような境遇になった時は、実際に焦りながら探しているような雰囲気が出ており、これまたグッド。

 各ミッションも「タッチ」を使った要素が多く盛り込まれており、上記のような基本テクニック以外にも爆弾解除や、クルマのセキュリティ解除などたくさんのアイディアが盛り込まれているため、他のシリーズと同じ世界観でありながら見事なまでに「DSのGTA」としてのアイデンティティを築き上げることに見事成功している。おためごかしのDS対応でお茶を濁さず、真っ向からDSの特徴をどうゲーム内に活かすかを考えぬいた開発陣の意欲を、プレーヤーはゲームの進行を通してヒシヒシと感じることだろう。


ミッション内容は様々だスクラッチカードにチャレンジ!
同じ絵柄が3つ揃えば特典が制限時間内にエンジンを直結させろ
セキュリティ解除中GPSで経路を検索


■ 麻薬ビジネスで一攫千金も目指せる!

自室にある怪しい箱の中味は「麻薬」
麻薬リスト。“お薬箱”の中に入っている

 「GTA」シリーズでは、サイドビジネスを通じて様々なお金稼ぎができる。本作も実に色々な手段で金を稼ぐことが可能だ。本編にも絡んだ要素として大きなものとしては「麻薬ビジネス」がある。ゲームの前半にあるミッションをこなしてから、麻薬売買に携われるようになる。ヘロイン、コカイン、エクスタシー、アシッド、ダウナー、ウィードといった全6種類の麻薬を、街中のあちこちにいるディーラーから安く買い付け、別のところで高く売ってひと財産築くわけだ。

 ディーラーはリバティシティのあちこちにいるが、例えばコカインを安く卸してくれる、ヘロインを高く買ってくれるといった特徴がそれぞれあるため、あっちで仕入れてこっちで売りさばくという具合に街中をかけずり回って稼がなければならない。様々な人物を開拓して自分なりの交易戦略を立て、その結果として自分の資産がどんどん増えて行く様子は、やる気を駆り立てる。

 ただ、言うまでもなくゲーム中でももちろん犯罪行為なので、取引終了時にランダムで警察の摘発に遇うことになる。最初から☆マークが2つ付いた手配レベル2の状況で追われるため、セーフハウスまで速やかに逃げ込まなければならない。万が一警察に捕まると所持していた武器と麻薬は全て没収される。手ぶらの状態で捕まっても幾らかの罰金を取られるだけで解放されるが、取引直後に大量の麻薬を持っている状況で捕まると目も当てられないほどの損につながるため、うっかりミスで逮捕されるのは避けたいところ。

 警察のやりすごし方は、基本テクニックとしては逃げるしかないのだが、本作はちょっと遊びの要素が入っていてパトカーを「Burn Out」のように特定台数をクラッシュさせることで警察の手配レベルを下げることが可能だ。クラッシュ方法はパトカーが加速している時を見計らって壁にぶつけたりすればOK。ちょっとしたカーチェイスも楽しめるようになっているところが心憎い。

 その他やり込み要素も用意されており「GTA IV」のハト撃ちに似たような、街中に配置された監視カメラを破壊してまわる「監視カメラ撃ち」やレースなどで脇道に逸れた楽しみ方もできる。今までにクリアしたミッションもセーフハウス経由で再チャレンジが可能になっており、ゲームとしての充実度・満足度は据え置き機用のゲームと比較しても全く遜色のないレベルだ。


ディーラーからのお誘い路地裏に1人怪しい人物が
さあ取引だ安く仕入れて高く売るべし


■ 今年は携帯ゲーム機戦争の兆しあり、DSとPSPに注目せよ

 「GTA:CTW」は期待通りの内容と面白さでシリーズファンであれば間違いなく大ウケすること確実の1作だ。「GTA IV」に慣れてしまっていると、見劣りを感じてしまうかもしれないが、演出面に関する過度な期待をしなければ、まだ決めるには早いが本作は今年のベスト携帯ゲームソフトに選ばれてもおかしくない1本だと思う。

 今年の欧米市場は、「GTA:CTW」を皮切りに、携帯ゲーム機向けのタイトルが盛り上がりを見せつつある。ニンテンドーDSiがこの4月に米国市場に投入され、いよいよ海外でもDSi Wareの提供が開始されたこともその盛り上がりの要因のひとつだ。Wii Ware同様に日本とはまた違った魅力的なオリジナルゲームが多数登場することが予想され、子供のおもちゃとして見られがちだったDSがいよいよ大人のゲームファンへの普及が期待される。

 ライバル機であるPSPも人気音楽ゲーム「Rock Band」を筆頭に多数のサードパーティーから大作級ゲームが移植され、発売以来今ひとつ盛り上がりに欠けてきた欧米のPSP市場に再度喝を入れる準備が着々と進んでいる。今年はiPhoneを含む携帯型ゲーム機が市場に大きな影響力を与えていくのは間違い無さそうだ。

 携帯ゲーム機は、海外ゲームを好むコアなゲームファンにとっては軽めに扱われがちだったが、最近は制限の多い環境下で素晴らしいアイディアと開発陣のセンスが光るゲームが多数登場しつつある。そのことを証明すべく次回もDS用のゲームを紹介したい。こちらも「GTA:CTW」に負けず劣らずの秀逸作だ。こうご期待!

ガソリンをビンに詰めて……布でフタをすれば火炎瓶の一丁あがり
警察につかまると武器や麻薬は没収される街中を走る特定のトラックを奪うと……
中華系以外の人物も出てくる高速料金の支払いもタッチペンで

(C)2009 Rockstar Games. All rights reserved.