PS3/Xbox 360ゲームレビュー

バイオショック インフィニット

丁寧に描かれる2人の関係。パラレルワールドが関係する本格的なSFストーリー

丁寧に描かれる2人の関係。パラレルワールドが関係する本格的なSFストーリー

過酷な運命に翻弄されながらも、エリザベスは立ち向かうことを決意する。ブッカーとの2人の関係の変化に注目して欲しい
エリザベスの守護者であり、監視者「ソングバード」。強力な存在であり、ブッカー達は逃げることしかできない
キネトスコープの映像はプロパガンダ色が強い。社会的な矛盾も感じられる
様々な場所で現われる謎の2人。彼らも物語に関わってくる

 ゲーム性、システム面で様々な新要素を取り入れている「バイオショック インフィニット」だが、それでも最大の魅力はストーリーといえる。本作では、エリザベスとブッカーの関係を深く描いていく。解放されて浮かれるエリザベスは、自分の運命に直面し、激しく動揺する。自分の行動のために人が争い、命を落としていく。さらに自分の“正体”に直面することにもなる。“外”に出たエリザベスには過酷な運命が待っている。

 ブッカーは必ずしも“彼女を支える優しく強い人間”ではない。彼は目的のために敵を倒すことに躊躇しない人物であり、エリザベスに繰り返し自分のことを自嘲気味に語る。彼は人に言えないような凄惨で暗い過去を持っており、その罪悪感を抱えている。ストーリーは彼の過去にも触れていく。彼の“罪と罰”もまた、物語の重要なテーマとなっている。

 ブッカーは、「パリに行く」と言っておきながらも、エリザベスをニューヨークの依頼人に連れて行こうと思っている。そのことが2人の間に決定的な溝を生むのだが、そこからストーリーは大きく変化していく。その鍵となるのはティアだ。この世界と少し違った世界へ繋がる扉。エリザベスの力は、物語を意外な方向へと導いていく。

 2人の関係を丹念に描きながら、別の世界とこの世界の関係性や、繋がることでの変化など、世界そのものが大きく揺らぐ“SF”としての要素が濃くなっていく。架空の理想社会とその矛盾を描くというストーリーに、さらに“パラレルワールド”という要素が加わっていくのは、SFファンの筆者としては背筋がぞくぞくするような“喜び”を感じた。

 パラレルワールドとはこの世界には無数のほんのちょっと異なる世界があるという考え方で、パラレルワールドをテーマにしたSFは、その異なる世界に行くことで、望んだことを実現させたり、次元移動行為そのものが世界を大きく変える、といったストーリーが展開する。“現実”が揺らぎ始めるような、奇妙な感覚が体験できるテーマである。「バイオショック インフィニット」はこのパラレルワールドというテーマを真っ正面からとらえ、物語に活かしている。少し難解な部分もあり、1回プレイしてから再度プレイすると様々な伏線が見えてきたり、とても味わい深い物語を実感できるだろう。

 “コロンビア”の魅力も強調しておきたい要素だ。コロンビアの各所には「キネトスコープ」という機械があり、ここで映像としてコロンビアの過去を見ることができるが、かなりプロパガンダ的なものになっている。コロンビアの表通りに貼ってある広告は耳障りのいい言葉ばかり。コロンビアはビーチや遊園地などもあって、永遠に続く休日のような、“理想的な生活”が強調されている。観光気分で楽しむこともできる。

 しかしゲームが進むと社会の病巣がはっきりしてくる。それは楽園のような世界にいる白人達の会話の端々からも感じるし、建物の隅では労働者階級がこき使われている。労働区画にくればそれはされにはっきりする。また、反カムストックの動きも目にすることができる。ユートピアを追求し絵画のように美しく描く部分と、鋭い社会批判が同居しているのが面白い。

 「バイオショック」に登場した海底都市「ラプチャー」は滅びてしまった世界だったが、今作は“生きて”いるのだ。理想と残酷な現実、そのどちらにも力の入った描写がなされている。プレーヤーは現実の自分たちの社会にも思いを馳せることとなるだろう。

 最後に触れておきたいのは声優達の熱演である。「バイオショック インフィニット」日本語版は、吹き替え音声で声優達の演技をたっぷり楽しめる。運命の激変の中、それでも自由を望むエリザベスを演じるのは沢城みゆきさん。時にははしゃぎ、時には打ちのめされ、様々な葛藤を抱えながらも運命に立ち向かうエリザベスは、沢城さんの声で一層魅力的になっている。

 エリザベスはとにかく良くしゃべる。エリザベスはプレーヤーが見ているものに小さく声を上げて反応するし、戦闘中様々なものを投げるときの声も何パターンもある。錠前を開けるときの声にちょっと自慢げな調子があるのがかわいらしい。

 ブッカーを演じる藤原啓治さんの声はとても渋い。暗い過去を持ち皮肉屋っぽい所も感じさせるブッカーと、エリザベスの掛け合いはゲームの大きな魅力だ。エリザベスを“借金帳消しの手段”と見ながらも、彼女に対して、優しさや思いやりを感じさせる部分もある。変化していく彼の心情を藤原さんは抑え気味の演技の中に込めている。

 もちろんその他の声、漏れ聞こえる会話や、流れているラジオの声なども全て日本語化されている。特に様々な場所に現われる謎めいた2人組のとぼけた会話が最高だ。複雑で凝ったSFストーリーを、雰囲気たっぷりの日本語で楽しめるのはうれしいところだ。物語と世界観をじっくり楽しみたいという人に、「バイオショック インフィニット」は特にオススメのタイトルだ。

【スクリーンショット】
コロンビアは美しく、天国のように見える。デザイナーが“理想”を視覚的に追求しており、ゲームの大きな魅力となっている
人種差別や、露骨なプロパガンダ、悲惨な労働環境など、コロンビアの理想と現実のギャップの描き方も秀逸だ
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(勝田哲也)