Xbox 360ゲームレビュー

EPIC Gamesが打ち出す2Dアクションの新潮流
伝統と革新を融合させた新たなゲーム性

「Shadow Complex」

  • ジャンル:アクション
  • 発売元:マイクロソフト
  • 開発元:CHAIR Entertainment/Epic Games
  • 価格:1,200マイクロソフトポイント
  • プラットフォーム:Xbox 360
  • 発売日:8月19日(発売中)
  • プレイ人数:1
  • レーティング:CERO A(全年齢対象)

Xbox LIVEアーケードに登場した、Epic Gamesによる「本気の2Dアクションゲーム」。そのゲーム性は新鮮な驚きにあふれる

 Xbox LIVEアーケード(XBLA)では、いわゆるカジュアルゲームと呼ばれる、パッケージゲームに比べて手軽に楽しめるタイプのゲームが数多く配信されてきている。今回ご紹介する「Shadow Complex」もまた、ゲーム性においてその流れを汲む作品だ。しかし本作は、グラフィックス、演出、各種表現のリッチさや、ゲーム全体のボリューム感といった面で、既存の「カジュアル」の枠組みを打ち砕くほどの内容を持っている。

 本作の開発はEpic Games傘下のゲームデベロッパーであるChair Entertainmentが担当している。Chair Entertaimentは2007年末に「Undertow」という、2DアクションシューティングゲームをXBLA向けに開発した企業だ。それが今回Epic Gamesの傘下となったことにより、本作では現世代最高のゲームエンジンのひとつである「Unreal Engine 3」を新たに採用。伝統的な2Dベルトスクロールアクションと現代的な3D表現とを融合し、2Dゲームの常識を覆すゲーム性を実現した。

 1,200マイクロソフトポイントで購入できるゲームが、プレーヤーにどれほどのものを提供できるのか、という観点で見ても、本作はかつてない水準にあるゲームだ。本稿では、Epic GamesとChair Entertainmentが実現した「本気の2Dアクションゲーム」である、「Shadow Complex」の魅力に迫ってみたい。



■ 「メトロイド」的なフィーリングを持つ戦闘と探索に、3D表現を生かした新たなゲーム性が融合

ジェイソンとクレア。平和なピクニックが一転、謎の地下施設での戦いに巻き込まれる
ゲームは横スクロールで展開。パズル的な謎解きが無数にちりばめられている
新たな装備を手に入れて、進める場所がさらに広がっていく

 本作の舞台はワシントンDCの某所。ヒロインのクレアに誘われて洞窟探検に出かけようとしていた主人公ジェイソンは、秘密の地下施設に潜む、恐るべき陰謀に巻き込まれていく。ジェイソンは「忍者修行」をしてきたと軽口を叩くような平和主義で明るい男だが、実はエリート軍人の父親の薫陶のもと、高度な軍事訓練を受けてきた過去を持つ。謎の組織にクレアをさらわれたことをきっかけに、戦うことを決心したジェイソン。巨大な地下施設で待ち受ける運命やいかに!?

 といった設定で展開する「Shadow Complex」の世界は、全編3Dで表現されていながら、ゲームカメラは横からの視点にほぼ固定された2Dベルトスクロールアクションの世界だ。ゲームステージは自然あふれる地上から、広大で複雑な地下施設まで、完全に連続した2Dマップとして表現されている。プレーヤーは数々の謎解き、トラップ、戦闘を乗り越えながらゲームクリアを目指す。

 プレーヤーの基本アクションは上下左右への移動、ジャンプ、しゃがみ、射撃となっており、基本的にはシンプルなものだ。しかしながら、壁を使って三角跳びをしたり、ゲーム後半に手に入る「グラッピングフック」を使ってあらゆる地形を自由自在に移動したりと、2Dゲームらしいカジュアルなテンポでありながらも、非常にダイナミックなアクションが可能だ。

 それに加え、ゲームを進めていくにつれて手に入る様々な武器やアイテムにより、プレーヤーにできることがどんどん増えていく。たとえば、空中で2段ジャンプができるようになる「ジェットパック」。特定の扉を破壊できるようになる「グレネード」や「フォームガン」、「ミサイル」。特に「フォームガン」は、足場を作ることにも利用でき、様々な場面で応用ができる。全編に共通するのは、そういった新たなアイテムを手に入れることで、探索できる地域が広がっていくということだ。

 このため、本作のマップは非常に広大であるにもかかわらず、いちど通過した地点に再び舞い戻り、新たに手に入れたアイテムの力を使って別のルートを開拓したり、以前は進入が不可能だった通路に入り込んで、新たなアイテムを入手するといった形でさらなる広がりを見せる。こういった深みのある探索要素が、本作の基本的な性質といっていいだろう。

 本作に存在するゲーム展開のフィーリングは、かつて日本のゲームに多く見られたものだ。代表的なものとしては任天堂の「メトロイド」シリーズが挙げられる。古きよき2Dベルトスクロールアクションゲームのエッセンスが、本作ではゲームの基本的骨格として息づいている。


野外から地下施設の深部まで、完全3D(?)で表現された2Dマップが、上下左右に広がる。各所とも繰り返し訪れることになるが、行く先々で新しいアイテムを手に入れることで新たなルート、新たな進み方が可能となり、同じ場所が別の顔を覗かせるようになる



敵キャラクターは三次元的に展開。奥行き方向を含む空間の戦いとなる
ときには完全な3Dシューティングに変貌することもある
近づいてBボタンを押せば近接攻撃が発動。静かに敵を葬ることができる

 伝統的2Dゲームのエッセンスを基本に据える本作だが、古臭さは微塵も感じさせない。その秘密は、「Unreal Engine 3」による3D表現を生かして文字通り3次元的に展開する奇抜なゲーム性だ。それが実感できるのはなんと言っても戦闘シーンだ。

 3Dグラフィックスで表現された本作のフィールド構造は、当然ながら奥行き方向にも広がりを持っている。それは3Dに見えるだけでなく、敵キャラクターにとっては完全3Dの広大なフィールドだ。その3D空間を敵キャラクターは自在に移動し、プレーヤーに向かって射撃し、障害物を使って身を隠す。それに対してプレーヤーは2D平面上でしか移動できないが、きちんと敵の方向に照準を向ければ、自動照準機能が働き、奥行き方向に弾丸を飛ばすことができるのだ。

 戦闘のフィーリングは実に3Dシューティングライクだ。本作の射撃ボタンは右トリガーで、移動を伴わない照準操作は右スティックで行なうのだが、これは「Gears of War」シリーズなどとまったく同じ操作方法である。違いは、プレーヤーが2D平面上でしか動けないことくらいだ。精確に照準して敵の頭部に弾丸を命中させれば「ヘッドショット」となって一撃で倒すことができることも、3Dシューティング的なフィーリングに拍車を掛けている。

 場所によっては本当に3Dシューティング化してしまうこともある。固定砲台を使って大量の敵を倒しまくるような場面だ。こういった2Dゲームの枠にとらわれない表現が組み込まれていることで、「画面に収まらないような巨大な敵と、画面奥行き方向の距離を挟んで相対する」ような迫力ある戦いも可能になっている。プレーヤーにとっては驚きの連続だ。

 また、銃撃で正面から戦う方法だけでなく、背後から気づかれないように近づいて、近接攻撃でしとめる方法や、パイプにグレネードを打ち込んで、パイプの出口にいる敵を遠隔から爆風で倒したりと、本作では様々な戦法がとれるようになっている。敵が多い時にはスニークアクションゲームのように、ひそかに行動することも必要だ。

 こうして、プレーヤーは、移動時にはフィールドの2D構造を意識し、戦闘では3D構造を意識しながらプレイするという、これまでのゲームにはなかった感覚を常時体験することになる。それでいて、ゲーム性はあくまでカジュアルにまとまっており、軽妙なプレーヤーキャラクターのアクションは、慣れるにしたがって操作する気持ちよさを提供してくれる。


銃撃戦では右スティックを使い、敵の頭に照準を合わせて射撃すると効率が良い。ヘッドショットや格闘攻撃を決めれば1撃で倒せるだけでなく、経験値ボーナスが与えられる

巨大なボスとの戦闘も各所に用意されているほか、固定砲台を使った戦闘もそこかしこにある。3次元的な立ち回りを演じてくる敵に対しては正確な照準で応戦しよう
道に迷ったらフラッシュライトを使おう。緑色に輝くドアはグレネードで、紫色はフォームガンで、赤色はミサイルで破壊して通ることができる。迷いなく進んでいくには多少の慣れが必要だ



■ 2週目からがゲームの本番! レベルを上げ、アイテムをコンプリートして最短ルートを目指せ

序盤はプレイの選択肢が狭いので少々窮屈な感じを受けるかもしれない
選択肢の広がる序盤以降は、仕掛けも豊富になり、本作の面白さが一気に花開く
広大なマップの中には隠しアイテムが100以上ちりばめられている
時折見つかる「金塊」。全部集めると……

 本作は上記で説明したような探索要素と3Dシューティング的な要素を軸としているため、そのゲームテンポは独特なものになっている。初回のプレイでは、そのテンポに戸惑い、ゲームの面白さより先に、不慣れな操作への不快感や、謎解きに詰まって先に進めない苦々しさが先に立ってしまうかもしれない。特に「右スティックで照準する」という操作をマスターするまでは、あらゆる場面で不自由を感じてしまうだろう。

 筆者の個人的な印象から言うと、本作はプレイ開始から全体の3割程度進めるまでは、使える武器やアイテムが限られていることもあって、あまり面白さを感じられない時間帯が続く。また、本作の謎解き要素は、全体的に少々難しめにバランスされているので、初プレイでは失敗してリトライ、またリトライという事態に直面して、心が折れそうになってしまうこともある。

 しかし、右スティックの照準操作をはじめとする本作の独特の操作系に慣れ、ゲームが進んで「ジェットパック」による2段飛びなどダイナミックなアクションができるようになると、俄然面白さが見えてくる。そうして気がつけば、ゲームの中盤あたりから夢中でプレイしてしまっている自分に気がつくのである。

 初回のプレイでは、行きつ止まりつ、全体を丁寧にプレイした上で5時間~7時間ほどでエンディングを迎えられる。しかし、それでゲームを攻略した気にまったくなれないのが、本作のいいところである。ゲームクリア時に集計される、「プレイ時間」、「アイテム収集率」といった数字に、数々の「実績」を解除するための目標水準が設定されており、それを達成してこそ本作を本当にクリアしたと言えるからだ。それにクリア時のタイムや総合スコアはランキングシステムで評価され、フレンドとの競争も意識してしまうつくりになっているので、拍車がかかる。

 2週目以降では「アイテム収集率100%でクリア」を目指すのも良いし、さらにゲームの全体像を把握できてきたら「アイテム収集率13%未満でクリア」という条件の「実績」解除を狙ってみるのもいいだろう。そのいずれも、ゲームをクリアしても引き継がれる「レベル」の要素などがプレーヤーの目標達成を助けてくれる。

 「レベル」はゲーム中で敵を倒したり、アイテムを獲得することによって向上していく要素だ。レベルが上がるたびにプレーヤーの攻撃力、防御力、ヘッドショット率が高まっていくので、より高い難易度のプレイが容易になっていく。また、レベル20で「マップ全体が見えるようになる」、レベル30で「フォームガンの弾薬が無限になる」といった特別な効果があり、本作に「マスターチャレンジ」として用意されている超高難度のクリア条件を達成するための必須要素となっているのだ。

 このほか、ゲーム中で見つけることのできる特殊なアイテム「金塊」を全て見つけると、その後の周回プレイで圧倒的な力を与えてくれる、ある隠し要素が解除される。マスターチャレンジの「アイテム収集率4%以下でクリア」といった無茶苦茶な条件も、それによって可能なものになっていくので、まずは2週目、3週目で収集率100%のクリアを目指そう。

 プレイを続けるうちに、初回のプレイで5時間以上もかかったクリアタイムが、3時間、2時間、あるいは1時間くらいに縮まり、まったく別のゲームの姿が見えてくるはずだ。そうなってくると、本作は本当に面白い。ひたすらプレイを洗練させていくというミニマルな楽しみを与えてくれて、ついつい繰り返し遊んでしまうのである。

 ちなみに現在筆者は「2時間以内にアイテム収集率100%でクリア」というマスターチャレンジに挑戦しているが、ルートの最適化など事前に計画するべきことが多く、もはや戦略ゲームのような様相を呈している。まず「グレネード」、次に「フォームガン」をとって、行ったり来たりを最小限にするためのルートはこうで……。ああ、悩ましい。


1週目をクリアして2週目以降では、高効率のプレイを目指すことで改めて本作の別の魅力に気がつくことだろう。マップの意外な構造や、各種アイテムの特殊な使い方を利用してメインストーリーの進行を完全に無視することもできる。本当に自由度の高いゲームだ



■ トレーニングステージのチャレンジパックはテクニカルな遊びが満載
 腕を磨いて「プラチナメダル」を目指そう

トレーニングステージは仮想空間のような設定。決まった組み合わせの装備で、なるべく早いステージクリアを目指す
高難度のステージでは繊細なテクニックが要求される。ミスすればメダルはお預けだ
本作のあらゆる仕掛けを使って、様々なステージが用意されている。手ごたえ抜群だ

 やりこみ要素抜群のストーリーモードに並んで、本作のゲームシステムを生かした遊びを提供してくれるのが「トレーニングモード」だ。このモードでは、仮想空間を模した数十のステージでゲームの基本操作からその先にある高度なテクニックまで、プレーヤーの移動や戦闘について学ぶことができるほか、クリアタイムでスコアを競う「チャレンジパック」なるステージが数多く用意されている。

 1から3の3段階の難易度にわけられた「チャレンジパック」には総勢21のステージが用意されている。それぞれのステージでプレーヤーは「ジェットパック」、「グラッピングフック」、「ハイパースピード」など特定の組み合わせの装備を与えられ、独特の構造をもったステージをなるべく早くクリアすることを求められる。要するにタイムアタックだ。

 タイムアタックとはいってもレースゲームのように「走るだけ」とはいかない。本作のシステムを縦横無尽に活用した数々のステージは、動くプラットフォーム、落ちれば即死のトラップ、待ち構える敵など障害物がいっぱいだ。はじめはクリアするだけでも一苦労、な難しいステージもあれば、クリアは簡単だが、好タイムを出すのは一工夫が必要といった個性的なステージが並んでいる。

 チャレンジパックの各ステージでは、クリアタイムの成績に応じて「ブロンズ」、「シルバー」、「ゴールド」、「プラチナ」の各メダルが与えられる。高難度のステージでの「プラチナ」メダルは本当に厳しいタイム水準となっているので、何度も試行錯誤しながらタイムを縮めていく工夫が必要になる。

 さらに好成績を目指すことは、本編の攻略に役立つ様々なテクニックを学ぶことにもつながる。たとえば、「ハイパースピード」で高速走行をしている最中、ジャンプして天井を走り地上の障害物を避けることや、「フォームガン」を使って足場を作り、少々強引に高い場所に上る、などだ。全てのステージを踏破すれば、本作のプレイテクニックのほとんどを使いこなせるようになるだろう。

 ストーリーモードと同じく、トレーニングステージの総合スコアはランキングシステムに登録され、フレンドとの比較が容易にできる構造になっている。ただ、各ステージのクリアタイムはランキングデータに載らないため、競争内容の具体性に欠けるのが難点だ。レースゲームのように具体的なクリアタイムのランキング表示や、トッププレーヤーのリプレイデータをダウンロードして見ることのできる機能があればさらに良かったと思える。

 とはいえ、全ステージで「ゴールド」、「プラチナ」を獲得するだけでも相当手ごたえのある遊びになっているので、プレーヤーが期待するプレイボリュームは十分に満たされることだろう。


苦労してプラチナメダルを獲得できれば感動もひとしお。全21ステージ全てを完璧に攻略するまでにはあらゆる操作テクニックに磨きがかかっていることだろう

始めはどうやってクリアすればいいかすらわからない難しいステージも。工夫を凝らして解法を見つけるのも醍醐味のひとつだ


■ Xbox LIVEアーケードにおける「カジュアルゲーム」を再定義するタイトル

本作の演出面の豪華さは、他のXBLAタイトルの追随をゆるさないレベルにある。さすがEpic Gamesというほかにない
ゲーム性においてはXBLAらしくカジュアルな雰囲気だが、相当な深みも備えている。死角は少ない

 本作は総合的に見てとてもよくできたゲームだといえる。リッチなグラフィックス、2Dゲームならではのカジュアルなゲーム性、そこに加えられた3Dゲーム的な奥行き。さらに、プレーヤーのやりこみを促進してくれる、練りこまれたアイテムやマップの構成など、死角がほとんどない。フルパッケージのタイトルとして、5,000円くらいで売られていても、ほとんど違和感がないほどである。

 XBLAにこれほどのゲームが出現したことは、「カジュアルゲーム」の世界に重要な基準が現われたことを意味しそうだ。Xbox 360ユーザーの多くが、XBLAで配信される1,200マイクロソフトポイント前後のゲームタイトルを評価する際に、同カテゴリーのひとつの頂点として本作「Shadow Complex」を思い出すことになるだろう。

 ただ、本作はEpic Gamesというゲーム界の巨人が、XBLAに大々的に参入するというプライドある野心を持ち、カジュアルゲームの世界では採算度外視ともいえる「Unreal Engine 3」を投入して本気で取り組んだ作品である。冷静に考えて、存在自体が例外というタイトルなのだ。それだけに、本作がもたらすインパクトは、プレーヤーにも、各メーカーにも、大きなものがあって当然とも言える。

 セールス的には、ランキングからのデータを見る限りにおいて、本作は現時点で少なくとも世界で30万本近くの売り上げを達成しているようだ。これをきっかけに、Epic Games以外の各メーカーからも、高水準のゲームがどしどし登場することを期待したい。それと同時にカジュアルゲームの市場がもっと広がり、独立系デベロッパーから奇抜なゲームがさらに登場してくることにも期待を寄せたい。


【スクリーンショット】

(C) 2009, Chair Entertainment LLC. All Rights Reserved. Chair and Shadow Complex are trademarks or registered trademarks of Chair Entertainment LLC in the United States of America and elsewhere. Epic, Epic Games, the Epic Games logo, Unreal, the Unreal Engine and the Unreal Technology logo are trademarks or registered trademarks of Epic Games, Inc. in the United States of America and elsewhere.


(2009年 9月 1日)

[Reported by 佐藤カフジ ]