PS3/Xbox 360ゲームレビュー

今日は大切な仲間、明日は葬るべきゴミ。
マフィアの世界を体験できる禁断の遊びが日本上陸!

「MafiaII」

  • ジャンル:クライムアクション
  • 発売元:Take-Two Interactive Japan
  • 開発元:2K Czech
  • 価格:7,140円
  • プラットフォーム:プレイステーション 3/Xbox 360
  • 発売日:発売中(11月11日 発売)
  • プレイ人数:1人
  • CEROレーティング:Z(18歳以上のみ対象)


 イタリア。ファッションの国。パスタの国。プレイボーイの国。そして、マフィアの国。シチリアをベースにした犯罪組織。通常の社会と並行に存在する、もう1つの社会。マフィアのファミリーに入る人間は、絶対的な掟を守らなければならない。ファミリーの利益をどんなことよりも大切にしなければならない。例えば、親戚を殺せとボスから命令されても、それに絶対に従わなければならない。さもなければ、自分がセメントの中に葬られ、どこかの海の底に沈められることになる。今でも存在するとても恐ろしい組織……。

 そして、この「Mafia II」は、マフィアの一員になることを味あわせてくれる“禁断”の遊びなのだ。決して実際の人生ではやってはいけないことをこのゲームでは思う存分にできてしまう。強盗、追跡、侵入、暗殺、麻薬の売買。これは1番下っ端の若手ギャングの“サクセス物語”なのかもしれない。あるいは、マフィアの世界に入ってしまった人間の“後悔物語”なのかもしれない。悪い人間として裕福な人生を生きることに、果たして価値があるのか? マフィアという恐ろしい世界でのし上がる主人公を待ち受けている結末とは? それを知る為には最後の最後まで生き残るしかない……。



■ アメリカンドリームを求めて……

 20世紀の始まりから、多くのイタリア人が、特に貧しい南イタリア、シチリア出身のイタリア人が、海を渡ってアメリカに移住することを決心した。「アメリカンドリーム」というやつを追うために。しかし、アメリカの大都会に着いたイタリア人達は厳しい現実と直面せざるを得なかった。差別と貧困。イタリア人の居住地は“豊か”という形容詞から遥かにかけ離れていたのだ。

 マフィアはアメリカにも渡っていた。地味な仕事を嫌がっていた若者は、女性とお金を約束するギャングの世界に憧れていた。家族の貧しい現状を見かね、地位を上げる為にギャングに入ろうと決めた若者は少なくなかった。ヴィト・スカレッタも、その1人だった。子供の頃から信じていた「アメリカンドリーム」は真っ赤な嘘でしかなかった。イタリア人にはマフィアの道しか残されていないと、ヴィトは信じ始めていた……。

 今夜もギャングの先輩、ジョーと一緒に強盗。簡単なお金。強盗がうまく行けば、たった一夜で、父が1つの人生で稼いだお金を手に入れられる。宝石を袋に入れ、店を出ようとした瞬間、警官に見つかった。ジョーは逃走に成功するが、ヴィトは逃げ遅れ、捕まってしまう。彼を待っていたのは刑務所ではなく、シチリアでの“スペシャルミッション”だった。なぜなら、第二次世界大戦中のイタリアでは現地のイタリア語が理解できる兵士が必要だったからだ……。

最初のシーンはセルジオ・レオーネ監督の名作、「ONCE UPON A TIME IN AMERICA」を彷彿とさせる。大人になったヴィトは過去を振り返り、家族と一緒にアメリカに移住した頃を思い出す。アメリカへの憧れは、辛い現実を知った瞬間に消える。貧しさと闘う唯一の手段は、ギャングになることだった
ジョーとの強盗はうまく行かなかった。警察に捕まってしまったヴィトは兵士として働くことを余儀なくされた。行き先は、第二次大戦中のイタリアだった……



■ 異例のオープニング。ファシスト達と対面するマフィア?

 ヴィトはシチリアに派遣された米軍の兵士として、当時のイタリアを占拠していたファシスト達に立ち向かうことになる。マフィア系ゲームの始まりとしては、新鮮味に溢れている。ここで、本作の核心ともいえるシューティングパートのアクションを覚えることができる。×ボタンで壁や障害物に隠れ、R2ボタンで身を乗り出して敵に照準を合わせてL2ボタンで撃つという、サードパーソンシューティングゲームでお馴染みのコマンドが手軽に行なえる。

 ファシスト達の本拠地に潜入し、新しい武器を拾いながら進んでいく。□ボタンで武器を拾い、そして手に入れた武器は方向キーの方向で選択できる。これもオーソドックスでありながら、とても快適なシステムといえる。ハイド&シューティングの2つのアクションを交互に行ないながらミッションは進行していく。そして、バルコニーからの銃撃戦の最中に、戦車に乗ったマフィアの幹部が介入し、ファシスト達は奇跡的に説得され、白旗を上げてしまう。マフィアのお陰で戦争が一段落ついて、ヴィトは一時的にアメリカに帰ることに。マンマ(お母さん)の温かい家庭料理が彼の帰りを待っている……。

アメリカの空挺部隊に配属されたヴィトは、ファシスト達に占拠されたシチリアで戦うことに。まず、建物の前にいるファシストを撃ち、敵地に侵入する必要がある
ヴィトはファシストの潜む建物に侵入することに成功した。ここで、シューティングパートの主なアクションを学ぶことができる。プレーヤーは優しくゲームの世界に導かれるわけだ
次の目標はMG-42という機関銃を使って、占拠した建物を守ることだ。トラックの給油口を狙えば、トラックが爆発して周囲の兵士達が巻き込まれる。頭を使うことも時々要求される
ファシストの面々。もちろんイタリア語で会話をかわす。1人1人違う“なまり”で喋っているのが、面白かった。イタリア人なら、その出身はすぐわかる予想不可能な展開がヴィト達を待っていた。ファシストの駐留軍はシチリアマフィアのトップに君臨する男、ドン・カロの一声で降伏を決意する



■ 家族を助けるため、再びギャングの世界に……

 本作の舞台である、ニューヨーク的な「Empire Bay」。その中にイタリア人の居住地、“リトルイタリー”もあった。ジョーの車から降りたヴィトは、さっそく、マンマの家へ向かう。キオスクの前を通って、階段を上がる。細い路地に入る。2階のアパートに住む女性に声をかけている2人のプレイボーイが立ち止まっている。ヴィトの姿を目にした瞬間、大喜びのおばさんもいる。不倫が理由でシチリアのなまりで大ゲンカしている夫婦の会話が、2階の窓から漏れている。戦争のせいで店を閉めることを余儀なくされたおじさんの姿も。マンマの家までは短い距離だが、その途中の数々の出会いが、プレーヤーをリトルイタリーという独特な世界へと誘ってくれる。

リトルイタリー。マンマの家へ向かうヴィト。その途中の数々の出会いが、過酷な戦地から帰ってきた彼の心を癒してくれる。細かい演出は、本作の素晴らしいところの1つ


 マンマはイタリア語まじりの温かい挨拶でヴィトを迎えてくれる。マンマはイタリア人にとっては神様だ。もちろん、ヴィトにとってもそうだ。美味しいスープで冷えきった体を温めるヴィト。妹もいる。シチリアでの戦争話でテーブルの会話が盛り上がる。もう深夜だ。子供の頃から使っている古ぼけたベッドが、ヴィトの疲れた体を癒してくれる。

念願のマンマとの再会。お互いの瞳が感動で潤っている。さあ、夕飯だ。マンマの味、チキンスープがヴィトの体を回復してくれる。食べる前に祈りを忘れるな。イタリア人としての掟。キリストへの感謝の気持ち。こういう演出もイタリア人という人種のアイデンティティを物語る
もう2度とギャングに関わるなと願うマンマに対して、ヴィトは曖昧な返事しかできない。彼の運命は既に不可逆的に動いていた……


 翌日の朝、ヴィトは悲しい現実を知ってしまう。マンマのアパートの真ん前で妹はギャングめいた男性に恐喝されている。闇金融に雇われたギャングのようだ。マンマ達は、亡き父の残した借金の返済で苦しめられているらしい。パンチで懲らしめるしかないと思ったヴィトは男に接近する。ここで本作のもう1つの顔である格闘パートのチュートリアルを受けることに。○ボタンでパンチ、△ボタンで強力なパンチ、そして×ボタンで相手の攻撃をかわすといったシンプルな流れになっている。○ボタンを3回続けて押すことでコンボを繰り出すこともできる。格闘ゲームに慣れていないプレーヤーも快適にファイトを楽しめるという点は好印象。

妹のフランチェスカを守るために闇金融のギャングと格闘を始めるヴィト。○ボタンの連打でパンチコンボが繰り出せる。ビギナーにもとても優しいシステムになっている


 家族の抱える借金のことを知ったヴィトは、ギャングの世界に再び入ることを決意する。多額の借金を返済する為には不正な仕事をやるしかなかった。旧友のジョーと協力し、ヴィトは強盗などの汚い仕事を始めることに……。

 始まりは所持金ゼロ。ジョーの汚いアパートに居候。洋服は古ぼけたジャケットだけ。ギャングの道を決めたということは、ゼロから苦労することを意味している。小さな仕事から大きな仕事へと、少しずつ出世しなければならない。マフィアの幹部に呼ばれる時が来るまで。

 “先輩”であるジョーのコネクションを生かし、ヴィトはマフィアの世界の重要人物に紹介される。それが、ギャングとしての“洗礼”。何があっても秘密を漏らさない。シチリアの方言で、“オメルタ”という。マフィアの厳しい世界で生き残る為の鉄則。ヴィトもその沈黙のルールを受け入れ、次のミッションに立ち向かう。


■ 広大な舞台で繰り広げられるドライビング&シューティング

 本作は一見、オープンワールド系のジャンルに属しているように思えるが、実はゲームの流れはいたってシンプル。ニューヨークに酷似した大都会、「Empire Bay」という大きな舞台が用意されており、多種多様な車を使ってヴィトは目的地へ向かっていく。そして、目標地点に着いたら、シューティングをベースにしたミッションが始まるという1方向的な展開を見せる。したがって、「Grand Theft Auto」シリーズのようなオープンワールドを期待していたユーザーは、この作りに不満を抱くかもしれないが、逆にストーリー重視の体験を楽しみたかった人は本作の“選択肢の少なさ”に安心するだろう。

 どちらかというと、「GTA」のバラエティ感までいかなくても、もう少し移動とシューティングの2つの要素のバランスを調節するべきだったと思う。特に気になったのが、目的地までの距離と所要時間。その途中にラジオを聴く以外にほとんど何も起こらない。速度違反をしたら警察のパトカーに止められるが、それ以外スリルを感じるようなサブイベントは用意されていない。人を迷わせない程度のサブミッションやミニゲームを導入したほうが、アドベンチャーのリズムに豊かさを与えられたのではないかと思う。 

 なお、本作はエピソードに分かれている。各エピソードは「上からの指示で○○に行かなければ」で始まり、そこで次のミッションの情報を得、そして車で目標に向かって銃で終止符を打つという構造になっている。スタートボタンでマップを開けば、ひと目で向かうべき場所がわかるので、迷うことは本当にない。そのお陰でビギナーも広大な舞台の走行を楽しめる。

各章の始まりの部分はほぼ似ている。朝起きると、電話が鳴り、それに出て、次やらなければならないことを報告される。タンスを開いて好きな服に着替えると、アパートを出、ガレージに向かう。車種を選ぶと、指示された目的地に向かう



■ 車好きにはたまらないドライビングパート

 本作のドライビングパートは非常によくできており、1つのゲームとして成り立つと思えるほど。「Empire Bay」に駐車されたあらゆる車を盗むことができ、そして目的地に向かう為の移動手段として活用できる。ストーリーは1945年から1951年の間が描かれているので、年が過ぎると共に車種も変わり、もちろん、その性能も良くなる。敵の車を追跡するようなミッションも用意されているので、その際はやはり高性能な車に乗ったほうが有利だ。つまり、車を盗むときは、どの車種を盗もうとしているのか、よくチェックしてから実行に移ろう。

車種の数は多い。ミッションによっては高性能な車が要求されることもあるので、適当な判断は禁物といえる。ちなみに、開錠ピックを使わなくても、窓を割れば車を盗むことが可能


 ちなみに車を盗む為には、武器の店で売っている開錠ピックが必要だ。駐車された車に近付き、△ボタンを押すと開錠ピックを使える。左スティックと□ボタンとの併用で次から次へとカギのロックを解除していく。その間はパトカーの有無に目を配らなければならない。解除中にパトカーに見つかったら、指名手配され、その場から逃げなければならない。ここでいくつかの選択肢が存在する。自分のアパートに戻り、別の服に着替えるか、店に入って新しい服を買うか、あるいは警察に賄賂を払うことで、「Wanted」状態(指名手配)が解除される。現実では、こんなに簡単に問題を解決できないが、ゲームの世界だからこそ警察は大目に見てくれる。個人的には、もう少しリアルな反応を見たかった。

 車自体も指名手配のターゲットになることがある。例えば、パトカーの前で赤信号を通ったり、歩行者を轢いたりすると、必ず警察に止められる。呼びかけに応じなかったら、追跡が始まる。追跡パートでは気持ちいいスリル感を味わえる。どこかの路地裏に入って車を手放して逃げるのもよし、またはカーショップでナンバープレートを取り替えてもらえれば指名手配を解除できる。なお、カーショップでは所持金を使ってエンジンやタイヤなど、車の性能を上げることもできる。これでチェイス中の逃走成功率が上がることは間違いない。

洋服屋で売られている洋服は様々。カジュアルジャケットから、エレガントな紳士服まで、ジャンルは豊富。しかし、どれを買っても指名手配が解除されるので、所持金が少ないときは、安いものを選ぼう!
修理工場では指名手配解除に必要なナンバープレートの取替えだけでなく、エンジンやタイヤの性能も上げることができる


 気に入った車種は、自分のアパートのガレージに戻せば失われずにすむ。ミッションの途中で道に手放した車は戻ってこないので、注意が必要。ここでゲームシステムのある欠点が目立ってしまう。時には、何の予告もなく、ヴィトは敵の車で別の場所に連れられる場面がある。その場合、自分の車はその場所に残ってしまうので、ガレージに戻されない。要するに、高性能な車で来ていた場合、それが失われてしまう。そういったイベントが生じる時は、ヴィトの車が自動的にガレージに戻されるシステムのほうが適切だったのではないか? といっても、「Empire Bay」は車でいっぱいなので、同じ車を問題なく見つけることができるというのも事実だ。

 車のもう1つの魅力。ラジオ。3つのステーションが用意されており、運転中に自由に切り替えることができるが、そのラジオ番組の豊富さに驚かされた。当時の雰囲気を伝える歌ばかり。歌を通じて、時代の移り変わりを感じられる。ヴィトのストーリーが始まる1945年には戦争時代にマッチした曲が聴けるが、中盤の1951年に入ると、車種が変わっていくと同時に、歌も大胆に変化していく。1945年の落ち着いたラブソングに対して、1951年の歌は時代の変化を感じさせるロック色に染められていく。

 ラジオと同じぐらい面白いのが、仲間が一緒に車に乗っている時の会話。これから挑もうとしているミッションの内容だけでなく、女の話や小さな話も聴けるので、この会話を通じて仲間との関係が深まると同時に、ヴィトの分身であるプレーヤーも仲間達のことをもっと身近な存在として感じられるようになる。1つだけ残念なのは、会話は英語なので、その内容を理解する為にもちろん画面の下に表示される字幕を見なければならない。しかし、運転中なので、字幕に目を向けていると、道路の状態に集中できなくなり、事故を起こすことがある。じっくり会話を楽しみたい場合、何処かに車を止めて聴いたほうがいい。

町のマップを開くと、行きたい目的地にマーカーを設置することができる。目的地までのルートを教えてくれるガソリンがなくなってきたら、ガソリンスタンドで満タンしてもらおう。これで、追跡中にガス欠になることを防げる
安全運転が要求されるミッションもある。赤信号や車の速度をチェックしないと、あっという間に指名手配される同乗している人が大切な情報を提供してくれている。しかし、運転中なので、画面の字幕に目を配れない。吹き替えのほうがよかったのではないだろうか?



■ 誰もが快適に楽しめるシューティングパート

 車で目的地に到着したら、ミッションがスタート。敵に見つからないで進行する例外的なミッションもあるが、メインは銃撃戦になる。わかりやすい展開でアーケードシューティングゲーム的な爽快感が味わえる。プレーヤーが交互に繰り返すべきアクションは2つ。壁や柱に隠れるアクションと、敵が弾を装填している隙に身を乗り出して敵に照準を合わせて撃つアクション。タイミングをわかってくると、敵が多いミッションでも難なく勝利を得られる。

シチリアのミッションで役立った知識、車の給油工を撃てば……車が爆発して敵達が1発で倒れる!
銃撃戦は「壁に隠れる」、そして「乗り出して撃つ」という2つのフェーズで成り立っている


 敵の弾を受けてしまうと、主人公のエネルギーが減り、視界もぼやけてくるので、デンジャー状態であることがわかりやすくなっている。その時は壁に隠れて、エネルギーが自動的に回復することを待たなければならない。しかし、自分の身が隠れていると確信しても、敵の弾が届いてゲームオーバーになる場面も時々あった。

 あと気になったのが、ミッション遂行中の回復アイテムのなさ。中盤からは難易度の高いミッションも出てくるので、任意にアイテムを消費してエネルギーを回復できないという点に対して、フラストレーションを感じた。オートセーブが行なわれるチェックポイントが少ないと感じたミッションもいくつかあった。難しい上に、最初の部分を何度もプレイしなければならないというところも不満を感じざるを得なかった。ちなみに僕はノーマルモードで遊んだが、シューティングに自信のないユーザーはイージーモードを選んだほうがいいのかもしれない。

□ボタンを押すと、隠れながら壁や障害物の角を回り込める。過酷な銃撃戦を乗り越える為の非常に重要なコマンドの1つだ


 仲間や敵のAIにも改良の余地があると感じた。仲間と力を合わせて挑むミッションもあり、その場合は銃撃戦に2人で立ち向かうことになる。しかし、力になるべき仲間のほとんどの銃弾が敵に命中しないという事実に気が付いた。目の前にいるのに、弾が当たらない場面も見た。敵に関しては、逆に命中率が高すぎるように感じた。主人公が到着する前から、彼の正確な位置を知っているかのような挙動を見せる。映画用語で言うと、「段取り」っぽい。こちらが動くと、自動的に向こう(敵)が一斉に反応する。単なるゲームとして考えれば問題ないが、リアルな銃撃戦を期待する人は、反応の単純さに納得しないかもしれない。

 欠点があっても、総合的に見ればシューティングパートは面白いと言える。本作に足りないのはライバルゲームに見られた“深さ”とシチュエーションのバラエティ。前述したように、ステルスアクションをメインとするミッションも登場するが、ある意味、シューティングパートよりも面白く感じられた。やはり、ゲームの面白さは各パートのバランスの絶妙さで決まると思う。シューティングとステルスパートの割合を調節すれば、本作の面白さが増していたのではないだろうか?

第三章ではステルスをメインとしたミッションに挑む。警察官に見つからないようにそっと進まなければならない。ちなみにL3ボタンでかがんで歩くことができる。背後から1発で敵を殺すステルスアクションも用意されている。マフィアも忍者だったのか?



■ マフィアワールドを絶妙に再現した「Empire Bay」

 最高のギャングストーリーを語る為には、最高の舞台が必要になる。開発者が創造した今回の舞台、「Empire Bay」はビジュアルの面では文句なしのデキを誇っている。細部にわたった構造は本物の都会を連想させる。マフィアの幹部が住む高級住宅地から貧民が居住する寂れた地域まで、その全てが細かい作業で作られたというのがよく伝わってくる。

 店や住宅のインテリアも緻密に再現されていると感じた。例えば、本棚に並んだ小説や雑誌、壁にかかったポスターや絵画などが、当時の雰囲気をより一層強調する。この再現度があるからこそ、プレーヤーは過去のギャングの世界で動き回っているかのような錯覚に陥ることができるだろう。

 精密に再現された広大な舞台ではあるが、そのほとんどが、実際に干渉できない映画のセットのようになっているという事実も否めない。入れる建物は非常に少ない。大きな舞台を作ったのに、十分にそれを活かせていないという印象を受けた。例えば、都会の所々に電車や線路が細かく作られた駅が存在するのに、それを交通手段として利用できないのは不思議だ。全ての建物に入りたいとは思わないが、せめてミニゲームが遊べるバーやサブミッションが楽しめるスポットもあれば、と思う。

 そして、もう1つ納得できなかったところがある、どんなイベントも、主人公を中心に起きているということ。警察や歩行者のリアクションは早すぎるし、皆がその場で主人公の訪れを予め知っているかのように見える。つまり、主人公はリアルな世界の人間ではなく、明らかにエキストラとは違う存在。もっと個人個人が存在感を持っていれば、リアルな世界で動き回っているという感覚が味わえたのではないだろうか?

歩いても、車で動いても、「Empire Bay」という緻密な舞台に驚かされる。しかし、その美しさは表面的なものでしかない、とも言える
5分前まで建物の中で警察官に包囲されていたのに、外に出てみたら、警察官が1人もいない。運転手のないパトカーが2台。リアルさはどこに行った?



■ 絶妙な演出で語られるストーリー

 これまで述べたゲームとしての不足点は、絶妙に演出されたストーリーで補われている。言い換えると、本作を“マフィア世界のドラマ”として捉えれば、最高の満足を得られるということになる。インスピレーションの源は紛れもなく、マーティン・スコッセシ監督の「グッドフェローズ」だと思う。ギャング映画が好きな人は本作に、あの名作の全ての特徴を見つけられるのではないだろうか。未熟な下っ端としてマフィアの世界に入った若者から、ボスさえも恐れるような大きな存在へと成長するまでのストーリー。昨日まで仲間だった人に裏切られるというお約束のスリル満点の展開。確かに新鮮味はないが、マフィアジャンルの材料が全て入っているので、ファンにはたまらない内容になっている。

お芝居はレベルの高いものになっていると思う。絶妙な演出も、キャストの表情をより一層際立たせる


 一応、一般の人が共感できないような犯罪組織の世界だが、その中には正義や友情という道徳的な価値も見出せると思う。中盤に至るまでのヴィトは、お金や出世の為なら手段を選ばないような不道徳な人間に思えるが、ストーリーが佳境に差しかかると、人間として目覚め始める。何があっても守らざるを得ないマフィアの掟より、大切なものが存在するに違いない。それは仲間かもしれないし、本当の家族、昔からの友人かもしれない。ヴィトは心の葛藤に追い詰められている人間としても捉えられると思う。

 会話シーンの演出も、ハリウッド映画のエレガントさを思い起こさせる。プロの役者と声優の起用で最高のお芝居を実現している。ヴィトは架空の人物ではあるが、若かった頃のロバート・デ・ニーロの強さを持っていると思う。そして、主人公よりも魅力的に感じたのが、仲間のジョー。愉快なその態度は本物だろうか。それとも偽善者による演技なのだろうか。最後の最後まで本性がわからないキャラクター達が、最高のサスペンスを味わわせてくれる。

実物の役者がモデルになったかどうかわからないが、ヴィト・スカレッタの、悪人とは思えないような“イケメンな顔”は魅力に溢れていると思うジョーは主人公をも超えるような魅力の持ち主だ。「グッド・フェローズ」のジョー・ペシと同じぐらいの強さを感じさせるのではないだろうか?


 イタリア語混じりのセリフも見どころ(聴きどころ?)の1つ。「量を増やして欲しい」と思うぐらい、格別な味を出している。残念なところは、日本語の字幕でシチリアの方言をうまく表現できないというところだろうか。最大限に本作の会話を楽しむ為の秘訣は、イタリア語も理解できることだろう。字幕が付いていないイタリア語の会話も沢山出てくるので、聞き逃してしまうのはあまりにももったいないと思った。


■ 史上最強の犯罪者になれるという自由

 本作は正真正銘のオープンワールドではないが、「町中で自由な行動を取れる」という点では「GTA」系のゲームに似ている。手ぶら状態から機関銃を選択し、無実の歩行者をターゲットに乱射することも可能。あるいは車ごと公園に乱入してベンチで休んでいるカップルをひき逃げすることもできる。道徳に反するこのプレイが、果たして本当にプレーヤーの精神に悪い影響を与えるのだろうか?

 賛否両論のテーマだが、僕はその行動自体よりも、その行動がもたらす結果に集中したい。結局、一般の人々を銃殺することによって、ゲームの展開が最低の方向に行ってしまう。

 警察官の群れに包囲され、生き残る可能性が至って低い銃撃戦に巻き込まれる。犯罪者としての自由を試した結果、ゲームオーバーの画面に迎えられるという、ネガティブな結末がプレーヤーを待っている。

 これは逆に、「関係ない人物を絶対に巻き込んではいけない」というメッセージなのではないだろうか? 元々マフィアは、一般の社会と平行にビジネスを展開させる闇の社会だから、何があっても普通の人々を巻き込んではいけないというルールの下で活動を進める主義だ。したがって、マフィアスタイルを極めたい人は無意味なバイオレンスを控えるべきだと思う。殺しの対象は「秘密をしゃべってしまった」、組織内の人間だけだ。

街中で違法な行為をとることはもちろん楽しいが、本当のマフィアは律儀に振舞う。一般の人々を戦いに巻き込まないのが彼らの主義だ



■ 男性ユーザーが大喜び(?)のやり込み要素とは?

 前述したように、本作にはサブミッションやミニゲームの概念はないが、コレクション要素は存在する。その1つとして、用意された全車種を収集することは、車マニアにはたまらないやり込み要素といえるだろう。各車は独自の挙動やエンジンの音を持っているので、全ての車種を見つけて運転を楽しめるというのが、大きな付加価値に違いない。

 さらに男性ユーザーが喜ぶコレクション要素がある。シューティングパートの屋内ステージで発見できる、「プレイボーイ」の美人モデルのポスター。全部で50枚。専用のギャラリーで拡大してじっくり閲覧もできる。しかし、日本版のローカライズにあたって、絵柄はマイルドなものに調整されている。国内の常識に従って取られた決断だから仕方がない。

 そして、最後に少し無意味なコレクションアイテムがある。町中の壁に貼られた指名手配中の犯罪者のポスター。全部で150枚。しかし、遊びに繋がるようなコレクションではないので、見つけたいという気持ちにはならなかった。例えば、見つけたら、それを誰かに持っていき、お金に変換してもらうというシステムのほうがよかった。あるいは、その犯罪者達の行方を自分で探して始末するというサブミッションにしてもらいたかった。結局、ゲームをクリアして、そのポスターの為にまた町中を走行しようと全然思わないのが、正直な気持ち。

 ストーリーが終わったら、2周目のご褒美がないということに驚いた。昨今のゲームが必ず持っている要素だけに、本作にはそれが一切ないということに正直ガッカリした。一応、メインメニューには「ダウンロードコンテンツ」という項目があるので、これから追加コンテンツが予定されているということだろう。「Empire Bay」は面白いロケーションが満載なので、マップの特徴を活かしたサブストーリーの追加に期待したい。

シューティングパートでは、向かうことが予定されていない方向に行ってみよう。プレイボーイのポスターが落ちている確率が高い
集めたプレイボーイのポスターは、あとから、「収集品」モードで閲覧できる。隠れている部分に関しては……本当に残念!
「カーペディア」では、これまで見つけた車種をプロフィールと一緒に閲覧することができる



■ 先が読めない展開のストーリーは秀逸! しかしゲームとしての深さに欠ける、快適クライムアクション

 最後に、感想をまとめてみよう。ギャング映画のファンとしては本作の濃厚なストーリーを十分に楽しめたが、ゲームプレーヤーとしては所々に物足りなさを感じたとも言わざるを得ない。第1の問題は舞台の「Empire Bay」だ。こんなに美しい、こんなに広大なのに、できることは非常に少ない。遊んでいる間に、「もったいないな」と思ったことは、正直多かった。車を修理したり、新しい洋服を買ったり、バーでサンドイッチを食べたりすること以外は、特筆すべきことは見つけられなかった。ミッションとミッションの間には町中をぶらぶら歩いて違法な行為を楽しめるが、サプライズが終わったら、それも新鮮味を失ってしまう。

 しかし、遊びとして不足しているものが、ギャング映画のファンをうならせるような絶妙なストーリーで補われている。シューティングパートやドライビングパートはもちろん楽しいが、それよりも気になるのが、ストーリーの展開。ミッションを早く終わらせて、次の会話シーンが見たくてたまらなかった。マフィア映画ならではの先が読めない展開が、本作の大きな魅力と言える。その面において、開発者達は本当に最善を尽くせたと確信している。

 ゲームの寿命についても一言。僕は17時間でクリアできた。車をある程度収集しながらのプレイだったので、実際の所要時間はもう少し短いのかもしれない。そして、ストーリーが終わったら、「また遊ぼう」と思わせるようなやり込み要素が用意されていないというのが痛かった。プレイボーイのエロチックなポスターと犯罪者の指名手配写真を集める以外は、ダウンロードコンテンツに期待はしているが、本作に寿命を延ばすおまけ的なモードは入っていない。

 単刀直入に言うと、「GTA」的な深さを期待しているプレーヤーはおそらく満足できない内容になっているが、“マフィア世界のドラマ”を体験したかった人は、逆にその快適さに惹かれるだろう。“迷子になってしまう自由度”が苦手なユーザーには、本作の各要素のさじ加減がぴったりくるのではないだろうか。


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ジョン・カミナリ(芸名)
国籍:イタリア 年齢:35歳
職業:俳優、声優、タレント、テレビゲーム評論家
趣味:テレビゲーム、映画鑑賞、読書(山田悠介)、カラオケ
主な出演作品:銀幕版スシ王子!(ペぺロンチーノ役、デビュー作)、大好き!五つ子(アンソニー・ジャクソン役)、侍戦隊シンケンジャー(リチャード・ブラウン役)、ピラメキーノ(テレビ東京、月曜~金曜 18時30分~19時放送中)
ブログ:ジョン・カミナリの、秘密の撮影日記
 イタリアで6年間テレビゲーム雑誌の編集部員として働いたあと、新しい刺激を求めて2005年に大好きな日本へ。子供の頃から夢見ていた役者の仕事を本格的に始める。堤幸彦監督の「銀幕版スシ王子!」で個性的なマフィアのボス、ぺぺロンチーノを熱演。現在もTVドラマやTVゲームなどで、俳優・声優として活躍中。日本語を勉強し始めたのは23歳のとき。理由は「ファイナルファンタジーVII」や「ゼノギアス」などのRPGの文章を理解するため。好きなジャンルはRPGと音楽ゲーム。「リモココロン」のような個性的なゲームも大歓迎。お気に入りのゲームは「ゲームセンターCX」と「ワンダと巨像」。芸名はイタリア人の友達に、本人が雷のように予想不可能なタイミングで現われるからという理由で付けられた。将来の夢は、「侍戦隊シンケンジャー」に出演した時から大好きになった戦隊モノにまた出演すること

(2010年11月11日)

[Reported by ジョン・カミナリ ]