PS3/Xbox 360ゲームレビュー

日米の有名ゲームのパロディが満載のTPS
お笑いのローカライズもすこぶる高い完成度!

「EAT LEAD ~マット・ハザードの逆襲~」



 「これはあのゲ-ムのあのキャラでは?」としか思えない個性豊かなキャラクターが登場する異色のパロディTPS「EAT LEAD(イートレッド) ~マット・ハザードの逆襲~(以下、『EAT LEAD』)」がついに日本でも発売された。「EAT LEAD」は米Vicious Cycle Softwareが開発し、株式会社ディースリー・パブリッシャーからプレイステーション 3(以下、PS3)とXbox 360向けに発売されたTPSで、ゲーム内には日米の有名ゲームを元ネタにしたパロディがぎっしり詰まっている。

 「EAT LEAD」の世界ではゲームキャラクターは人格を持っていて、映画に出演するハリウッドスターのようにゲームに出演するという設定になっている。主人公マット・ハザードは8ビットのファミコン時代からポリゴン創生期まで、数々のゲームに出演したスーパーヒーローだった。だが調子に乗って出したファミリー向けカートレースゲームが超絶クソゲーだったせいで人気は急下降、いつしか忘れられた存在になっていった。そんなマットに業界大手のマラソンメガソフトから新作に主役として出演して欲しいというオファーが来る。「俺はまだやれる!」。マットは再起を決意して新作に望むが、そこには予想外の罠が待ち受けていた。

 公式のキャラクター紹介には8ビット時代、16ビット時代と時代とともに進化していくマットのイラストが載っている。その進化の過程は、ファミコン時代からずっとゲームをしていたような人間にとっては、ゲームとの関わりの歴史にも似て感慨深い。そう、このゲームを楽しめるか否かは、この世界観そのものを楽しめるかどうかにかかっているのだ。

 詳しくは後述するが、本作はTPSゲームとしての出来は及第点といった所だ。だから世界観が楽しめなければ、これと言った特徴のない凡作という評価になってしまうのかもしれない。だが「EAT LEAD」は決して凡作ではない。ではいったい本作の魅力はどこにあるのか。このレビューではそんな疑問の答えを探してみたいと思う。ゲームの性質上、若干ネタバレの部分も多いので、そこは了解しつつ読んで欲しい。


【マットハザード栄光と挫折の歴史がわかるオープニングムービー】
オープニングムービーに出てくるキャラクターやゲームは、全てゲーム内に登場する。歴史を紹介しつつ、キャラクター紹介も兼ねているのだ



■ 冒頭からいきなりネタだらけ。日本人向けに隅々までローカライズされた「笑い」がいっぱい

ロード画面に表示されるTIPSは様々なプレイのヒントをくれ。でも本作では、そこもネタ披露の場になっている
チュートリアルのお約束に文句を言うプレーヤーキャラクターは前代未聞?

 マット・ハザードはかつて8ビット時代から活躍し、初のFPSゲームでメガヒットを飛ばしたゲーム界のスーパーヒーローだった。しかし今は忘れられ、寂しい生活を送っていた。そんなマットの過去作品は、オープニングムービーや公式ホームページで詳細を見ることができる。

 8ビットアクションシューティング「マット in ハザードランド(邦題:スーパーマットランド)」、初のFPS「マット・ハザード3D(邦題:ダイオハザード)」、古代ローマで怪物と戦う「Conflict of the Deities」、地下シェルターを舞台にしたサバイバルホラーシューティング「Nightmare on Biosphere One(邦題:バイオスペース)」など多彩なシューティングアクションゲームが揃っている。中には、ノンバイオレンス水鉄砲TPS「SOAKEM」という作品もある。これらどこかで見たことがあるような作品の数々は、単に設定としてあるだけではなく、本編にも色々な形で登場してくる。チェックをしておけば、ゲームをさらに楽しめること請け合いだ。

 ゲーム内の人間が、自分がゲーム内にいることを知っているといった2重構造を持つ作品を“メタフィクション”と呼ぶが、本作にはそんなメタフィクションの要素がぎっしり詰まっている。例えばゲームの冒頭には必ずあるチュートリアルに、マットがいちいち口を挟んできたり、ゲーム内のキャラクターがグレネードを投げ返すシステムがないことに文句を言ったりと、ゲームのお約束を知ったうえで、そこを徹底的にパロディにしてあるのだ。

 他にもトロフィーや実績に「トイレ休憩」なんて項目があったり、ロード中のTIPSやら、ミッションを指示するテキストがいちいち変だったりと、パロディはキャラクターのセリフだけにはとどまらない。日本人でもすんなり笑いの世界に入れるようにと、本作は台詞をすべて日本語に吹き替えてある。マット・ハザードの声を担当するのは、人気声優の小山力也さんだ。さらに日本語版シナリオの監修は、アニメやゲームのシナリオも手がけている小説家の冲方丁氏が手がけている。そのため直訳とはひと味違う、日本ならではのお笑いネタが色々と盛り込まれているのだ。



【マットの過去作品】
「マット in ハザードランド(邦題:スーパーマットランド)」「マット・ハザード3D(邦題:ダイオハザード)」「Conflict of the Deities」
「Nightmare on Biosphere One(邦題:バイオスペース)」「You Only Live1317(邦題:マット・ハザードは2度死ぬ)」「SOAKEM」
「MURDER FORCE」「Haz-Matt Carts(邦題:マットカート)」最新作は、敏腕一匹狼の探偵役



■ 西部のガンマン、ゾンビ、宇宙海兵隊の戦士が入り乱れて襲って来るカオスな銃撃戦

 ファーストステージは、ヤクザがたむろする「ジャパニーズ焼き肉店」だ。マットは一匹狼の凄腕探偵(という設定のゲームの主役)なので、ハードボイルドなスーツに身を包んで、立ちはだかるヤクザを倒していく。ヤクザたちは倒されると「サシーミ」と奇妙な悲鳴を上げながら死んでいく。そんな“間違った日本人像”を堪能しつつ奥へ進むと、カメ○メ波のような技を使ってくる謎のアフロ格闘家が待ち構えている。このステージの実質上のボスとなるソーリー・ホワッチャだ。この戦いは素手の殴り合い格闘ゲームモードで行なう。

 本作では、何度か素手で殴り合うというシチュエーションが登場するが、その時だけ特別な格闘画面に切り替わる。このモードに入ると、画面下にライフゲージのようなバーが表われる。このバーはライフゲージのようにダメージを受けると減っていくものではなく、一定の長さのバーが左右に動く事で、現在の優劣を表示する。戦闘は格闘ゲームのコマンド入力というよりは、音ゲーに近い。画面上に表示される通りのボタンを押せば、アクションが進んで最後まで間違わずに押すことができれば勝利、1つでも押し間違えると即ゲームオーバーだ。

 ホワッチャを倒して更に奥へ進むと、そこにいるはずのヤクザのボスは不在で、代わりにマットを倒して主役の座を奪おうと企むスティング・スナイパースコープが待っている。スティングは、マットの命を狙うマラソンメガソフト社長ウォレス・ウォーリー・ウェルズリーIII世が送り込んだ刺客だ。銃を奪われ、危なくデリートされそうになるマット、しかし危機一髪で謎の美女QAに助けてもらう。QAは現実世界の人間で、システムをハッキングしてゲーム内に侵入してはマットを手助けしてくれる。

 QAからゲーム内に張り巡らされた罠の話を聞いたマットは、閉じ込められた空間から脱出すべく戦闘を開始する。ここまでは実質上のチュートリアルステージで、真の「EAT LEAD」は第2章から始まる。陰謀が判明した後は、何とかマットを殺そうと、ゲームの世界観に合ってないキャラまで総動員してくるのだ。

 陰謀が露見したために、敵はもうなりふり構わずマットを殺そうとする。本来なら逃げ惑う一般人役のNPC役のキャラクターまで、銃を手にどんどん襲いかかってくるようになる。さらに、突然西部のガンマンが現われたり、ロシア兵が現れたりと、本来そのゲームには登場しないはずのキャラクターまでどんどん投入されてくる。しかもただ表われるだけではなく、一部オブジェクトやBGMも伴って現われるので、精肉工場の横がサボテンの生えた荒野に、秘密カジノがロシア兵の前線基地にとゲーム世界ならではのなんでもあり状態になっていく。当然武器も、ガンマンは6連式リボルバーで、ロシア兵はAK-47とそれぞれ特徴的な武器を持っている。もちろん、敵を倒せば拾って使うことができる。


ほのかに和風の趣がある「ジャパニーズ焼き肉店」。ファーストステージはここを根城にするヤクザとの銃撃戦だ
ソーリー・ホワッチャとの戦いは、格闘ゲームぽい画面のボタン押しゲームで行なわれる
ステージ2以降は、ゲーム世界とは関係ないキャラクターまで襲って来るようになる。西部のガンマンは古いゲームのキャラクターらしく、動きが単調で楽な敵だ


■ 巨大な剣を持ったJRPGのキャラクターも参戦! 敵も味方もかなり個性的

ステージ3で登場する「ビル・ザ・ウィザード」
ステージ5で登場する「マスター・シェフ」
ステージ6で登場する「スーパーカルロ」

 マットはゲーム界の古株だけに、ゲーム世界に多くの友人がいる。しかし、陰謀の魔の手は旧友たちにも迫っていて、序盤から中盤にかけては友人たちの救出がストーリーの要になる。しかもこの友人たち、いずれもどこかで見たようなキャラクターだ。

 例えばステージ3で登場するビル・ザ・ウィザードは剣と魔法のファンタジー「Ovelords of Wizard World(略して、OoWW)」に出てくるキャラクターで、レベル750の無敵の大魔法使いだ。だが魔法の杖を取り上げられ、畠違いの世界に送り込まれてピンチに陥っている。マットは追い詰められているビルを救うために、ライフルで援護射撃を行なう事になるが、その間もビルはずっと魔法で迫り来る的を牽制し続けることになる。

 豪華客船が舞台となるステージ5では、宇宙海兵隊に追い詰められているマスター・シェフが登場する。こちらはアメリカの人気FPS「Halo」に出てくるキャラクター「マスター・チーフ」のパロディだ。マスター・シェフも武器がなく困っているが、そこをマットが颯爽と救出することになる。

 ステージ6では、日本でもおなじみのあの人に似たキャラクターも登場する。舞台は、ゲームのアーカイブだ。アーカイブは、“記録を保管する場所”という意味で、コンピューター用語としては、ファイルをひとまとめにして保存して置く場所という意味で使われる。「EAT LEAD」の世界では、出番のないキャラクターはゲームサーバーの1番下にあるアーカイブの中でスタンバイしているという設定で、倉庫のような場所として描かれている。ここにはゲーム内の大道具や衣装を作る「ドカン社」という会社があり、経営しているのはカメを蹴るのが得意なスーパーカルロという人物だ。キノコに囲まれて動けなくなっているカルロを助けると、宙に浮いている「!」マークの箱を叩いて、土管の中に去っていく。

 もちろん、かつて相棒として刑事物に出演したデスクターや、恋人役として共演をしたキティなどオリジナルキャラクターも多数登場する。これらパロディキャラクターと、オリジナルキャラクターが世界観の違いをものともせずに、平気で共存しているのがこの世界のおもしろいところだ。


ビル・ザ・ウィザードの救出は、遠距離からのライフル狙撃で行なう。このライフルが所詮オモチャだからなのか、エイムのコントロールがかなり難しい
「マスター・シェフ」はバリアー発生装置で障壁を作って援護してくれる。宇宙海兵隊は堅いのでピストルではなかなか倒せない。相手のレーザーガンやプラズマライフルを奪い取って戦おう
ステージ4にいる、かつての相棒デクスター。救出に来てみると、なぜか美女に囲まれ優雅な雰囲気でお出迎えしてくれるが……
かなりギリギリ感がある造形の「スーパーカルロ」。奥さんはどこかの国の姫らしい

 仲間も充分個性的だが、ボスは多彩な攻撃方法も相まって更にパワーアップする。ステージ5のボスキャラクターは、マットの過去作品「Conflict of the Deities(以下、CotD)」に出てくる怪物だ。「CotD」はタイムスリップして神の僕となったマットが、古代ローマを駆け巡り、銃で怪物や神々と戦うという2Dアクションゲーム。おそらく元ネタは「God of War」で、更にタイトルに「Call of Duty」も臭わせるという2段重ねのパロディだ。

 ステージ5の舞台は豪華客船の上なのだが、ボスが出てくるといつの間にか船が中世の海賊船風になっている。そこに出てくる敵は巨大な触手を持つタコの化け物だ。しかも空気の読めない宇宙海兵隊も構わず現われるので、振り下ろされる触手を避けつつ、宇宙海兵隊からの攻撃も避けつつ、その両方を倒さなくてはならない。宇宙海兵隊は、倒さずに放置しているとどんどん増えていくが、たまに勝手に触手に当たって死んでくれる。触手の攻撃には3つの段階があるが、2段階目はある程度タイミングをコントロールすることができるので、触手を操って邪魔な宇宙海兵隊を倒してしまうこともできる。立ち止まっているとかなりの確率で死ぬので、ひっきりなしに動き回る必要があるとても忙しいボスだ。

 さらにいろいろな意味で最強なのが、このゲームを日本で一躍有名にした立役者アルトス・トラトス・クモーリ・アメモヨウだ。アーカイブの底で氷結していたクモーリは、ステージ6のボスだ。彼は、マラソン・ソフトウェア Korean studioが制作したRPG「Penultimate Illusion-XXXVII」のキャラクターだ。クモーリは、いわゆる「JPRG」という言葉で思い浮かぶステレオタイプをこれでもかと見せつけてくれる。

 会話はテキストベースで、非常に回りくどくいちいち大仰だ。さらに日本では無言のニュアンスを表現する「…」が、「なんだよそのてんてんてんは!」と皮肉られている。戦闘はコマンド入力方式で、親切にHPとMPも表示されている。攻撃を当てると、ダメージが数字で表示される。と日本人なら当然と思っている要素がことごとく笑いのネタにされている。

 攻撃はターン制で、使ってくる技は「回復」、「剣技」、「召喚」、「隕石落下」の4種類。「剣技」は剣を振るって放射状に広がる衝撃波を生み出す技、「召喚」は小さめの宇宙海兵隊を呼び出し、「隕石落下」は呼び出した隕石をマットめがけて投げつけてくる。1度倒すと、翼の付いた最終形態に変身して、パワーアップした技を使ってくる。堅くはないのだが、「回復」モードに入ると無敵状態になって回復するので、「回復」モードに入る前にHPを削り切らなければならない。ステージ6のボスだけあって、かなりの強敵だ。

 ボス戦はクモーリ戦に限らず、攻略法を見つけるまでは死にまくる。適当な攻略では倒せないので、ボスごとの倒し方を死にながら見つけていかなくてはならない。そういうパズル的な要素も、ボス戦の楽しみだ。


ステージ5のボスはタコの化け物。勢いを付けて甲板に振り下ろされる触手は、攻撃が当たると即死だ。こんな化け物に銃1丁で立ち向かうことになるとは
発売前からなにかと話題を呼んだ「クモーリ・アメモヨウ」。演出もポーズもいちいちカッコつけが激しい
テキストベースでしか話せないので、声優はいない。マットは回りくどいセリフにイライラしながらもボタンを押して会話する
ターン制の攻撃は、コマンド入力のタイミングを見ていれば避けるのは簡単だ。しかし回復する前に倒せなければ、じりじり追い詰められていく


■ カバーアクションの使い勝手に少々不満。パワーアップ機能は便利で使いやすい

物陰に隠れるカバーアクションは、TPSの基本
水鉄砲兵には、やはり水鉄砲での攻撃が一番効果的だ
敵を氷柱にする「アイス・アップグレード」は最も多用する技能だ
「L1」キーを押せば、ダッシュする

 ここまではキャラクターを中心に紹介してきたが、ではシステムはどうだろうか。本作はTPSスタイルで、銃で敵を倒しながら進んでいく。動作は普通に移動する、早く移動するの2種類で、中腰や匍匐での移動などはない。代わりに弾を避けるカバーの側でボタンを押すと自動的にそのカバーの背後に隠れる。射撃は腰だめの射撃と、照準を定めた射撃の2種類に、カバーの背後から手だけを出して撃つ方法がある。この最後の方法は照準が甘いため命中率が悪いということだが、実際にはサイトさえ合わせればほぼ当たるので、隠れたままどんどん倒していける。

 またカバーに隠れた状態で、前方のカバーに照準を合わせて特定のボタンを押すと、照準を合わせたカバーまで自動的にダッシュで移動する。上手に使えば便利な機能だが、背後に隠れたいのに、横に隠れたりと精度に少々問題がある。カバーには隠れることのできる場所とできない場所がある。木の箱やコンテナなど隠れ場所として一目瞭然な場所では問題ないが、丸っこいものの背後に隠れようとすると、精度の悪さが災いして意図しない結果になったり、実は隠れることができなかったということも多々ある。

 自分でしゃがむことができないので、隠れることができなければ、そのまま蜂の巣にされてしまう。また、後半のステージにはかなりハイスピードで、カバーからカバーへと移動しなければならないシチュエーションもあり、そういった時に予期せぬ動きが出てしまうと、そのまま死に直結してストレスの原因になる。

 武器は「ハザード・ピストル」という基本的な銃以外は、基本的に現地調達だ。銃の種類は実在するものから、水鉄砲、レーザーガンと多彩だ。ハンドガンには「ハザード・ピストル」、「水鉄砲」、「マグナム」、「6連式リボルバー」、「レーザーガン」がある。ライフルには「AK-47」や「スナイパーライフル」、「プラズマライフル」、サブマシンガンには「ウォーター・サブマシンガン」や2丁拳銃で使える「サブマシンガン」がある。他にも「ショットガン」や「グレネードガン」もあるが、敵が投げてくるグレネードを投げ返すことはできない。これにはゲーム内でも、キャラクターが文句を言っていた。

 撃つ以外に、近接攻撃で倒すという方法もある。近づいていって、ボタンを押すだけで100%ヒットするので、堅い敵が相手の時には格闘に持ち込んだ方が楽だ。ただし格闘が通用しない敵もいる。ゾンビはヘッドショットでしか倒せないし、2Dキャラクターは厚みがないので格闘できない。「ハニーズ」という敵は1度銃で撃って動けなくしてからでなければ近接攻撃が通用しない。逆に、堅い宇宙海兵隊や、水鉄砲兵は格闘が有効だ。

 普通に撃つだけでは手強い敵には、一時的に特殊能力が使えるようになる「アップグレード」が効果的だ。「アップグレード」には「アイス・アップグレード」と「ファイアー・アップグレード」の2種類がある。「アイス・アップグレード」は敵を氷に閉じ込めて動けなくしつつダメージを与えることができる。「ファイアー・アップグレード」は武器に炎属性を付けつ。この状態で攻撃すると敵が炎に包まれて継続ダメージを得る。敵を倒すと、青白い魂のようなデータの固まりが自動的に収集される。これを一定量集めると「アップグレード」が使用可能になる。非常に便利で汎用性も高く、ここ1番で役に立つ能力だ。

 もう1つのパワーアップ要素は、フィールド内にたまに設置されている特殊オブジェに近寄ることで発動する「ハザード」状態。「マキシマムハザード」は身体が赤く輝いて、ボス以外の敵は一撃で倒せるようになる。「マスターシールド」身体がメタリックボディになって、一定時間無敵になる。こちらも便利ではあるのだが、効果時間が短いので特殊オブジェの位置によっては、敵をかなり倒してからでなければ近づけなかったり、あるいは気付かないまま戦闘を終えてしまうこともあった。これらの効果を戦闘に生かすには、戦闘に入った時まず特殊オブジェの位置を探す、くらいの慎重さが必要かもしれない。


「アイス・アップグレード」の攻撃は1発目は足止め、2発目、3発目とだんだん氷の固まりが大きくなっていく。足止め状態で放置すると、氷が溶けてまた動き出す
敵に継続ダメージを与える「ファイアー・アップグレード」は、「アイス」に比べて使い所を選ぶ技能だった
特殊オブジェに触れることで「マキシマムハザード」と「マスターシールド」になる。見つけたらとりあえず使うくらいの気持ちでもいいかもしれない


■ TPSとしてはやや難のある完成度。だが作品に込めた濃密なパロディ魂は向かうところ敵なし!

 本作は、ガンシューティングゲームや、全てのゲームへの愛に溢れた良質のパロディ作品だが、TPSゲームとしてはやや平凡だ。パロディが主体だから遊べればいい、ではなくゲームとしてももっと煮詰めておもしろいものにして欲しかったという、残念さはぬぐえない。普段FPSで遊び慣れているプレーヤーは、操作感の悪さやAIの単純さに不満を持つだろう。

 敵のAIは、西部のガンマンのようにわざと単純な動きをさせているものもあるが、基本的には奥から駆け出してきてカバーに隠れ、時々顔を出して撃ってくるという単純な動きをする。プレーヤーの動きに反応して動くので、プレーヤーが動かないでいると単純な動きの繰り返しになってしまう。壁の向こう側で乱射したり、カバーアクションをしている場所がプレーヤーから丸見えの場所でも気にせず撃ってきたりと、あまり賢いとはいえない。

 ゲームキャラクターという無機質さを演出するために、ある程度は意図的にやっているのかもしれないが、1つのゾーンでの戦闘を終えて次のゾーンに入ると、敵がわらわらと出てきて同じような戦闘が始まるというシチュエーションが各所にあって、その部分の冗長さは少々気になった。ボス戦はとても個性豊かで、全てのボスに対して別の攻略が必要になるため飽きが来ない。ボスが楽しいだけに、その道中が退屈なのは非常にもったいない話だ。

 だが、逆に言うと、欧米のガンシューティングは玄人向け過ぎて入りにくそう、と思っているTPS初心者にとっては比較的手に取りやすいゲームだ。ガンシューティングの基本型である、向かってくる敵を撃つという要素をあまり凝った仕掛けなく楽しむことができる。

 もちろんパロディ好きなら、遊んで損はない。アメリカの開発スタッフのゲームへの愛はもちろん、日本のローカライズスタッフがこの作品へ注ぎ込んだなみなみならぬ労力が、本作を日本人でもかなり楽しめるエンターテイメントに仕立てた。

 やたら水にこだわる水鉄砲兵。毎回右から回りこみたがる一般人、まったく空気が読めないロシア兵、そしてマットに関わる全てのキャラクターがみんな生き生きとしていて、ゲーム世界の確かな存在を感じさせてくれる。そもそもこういったパロディ色の強いゲームがPS3やXbox360といった、次世代機で出てくること自体、日本ではなかなかなかなかあり得いだろう。こんな作品から洋ゲーに触れてみるのも悪くはないのではないだろうか。

【スクリーンショット】

(C)2010 Vicious Cycle Software, Inc.
(C)2010 D3 PUBLISHER


(2010年 2月 23日)

[Reported by 石井聡 ]