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GDC Awardsで最多部門を獲得した「Her Story」とは何か?

快感と同居する気持ち悪さ。画期的な語り口の魅力に迫る

3月14日~18日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

GDC 2016のEXPOエリアでは、本作が試遊できた

 今年開催されたGDC Awardsの中で、一際輝きを放っていたのが「Her Story」だ。

 「Her Story」は、細切れにされた取り調べ映像を見ながら、インタビュー対象の「Her」に何が起こったか? を突き止めていく作品。Steam版とiOS版が配信されており、Steam版は598円(税込)、iOS版は600円(税込)で購入できる。

 GDC Awardsではインディー部門を含めて7部門にノミネートされ、そのうち本部門の革新賞、ベスト携帯/モバイルゲーム章、ナラティブ賞の3つ、インディー部門では大賞とナラティブ賞の実に5部門を受賞した。

 ナラティブ面が特に評価されたことからもわかる通り、本作の注目点はその語り口にある。特定のジャンルとは一線を画す意味でも独特の作品なのだが、今回は改めて本作の魅力に迫ってみたい。

全貌を知るため、映像の「検索」に没頭するゲームシステム

ゲームのスタート画面。プレーヤーは気になる言葉を「検索」して、その全貌を明らかにしていく
取り調べなのにギター? 検索していくごとに、こうした謎と発見が繰り返される

 本作において、プレーヤーができることは少ない。それはデータベースにある映像を検索すること、そして映像を見ることだけ。他にも細かくは色々とあるのだが、この2つがプレイの大半を占める。

 ゲームを立ち上げると、画面は誰かのデスクトップになっていて、そこに映像データベースのウィンドウが立ち上がっている。その検索バーには「MURDER(殺人)」と文字が打たれており、その下にいくつか映像が表示されている。

 映像をクリックすると、再生がはじまる。映像は1つにつき数秒から数十秒で、すべてが「Her」の取り調べ場面だ。映像は時系列がバラバラなので最初は良くわからないのだが、表示されているものをとりあえず見ていくと、これらの映像すべてに「MURDER」という言葉が含まれていることがわかる(内容はすべて字幕表示可能)。

 それでは、と検索バーに会話(といっても喋るのは女性だけ)に出てきた人物名やキーワードを入れてみると、その言葉を含む映像が表示される。

 ここまで来ると本作の内容がわかってくるのだが、つまり、女性の話を聞きながらキーワードを拾い、検索にかけることでインタビュー映像の全貌を明らかにしていく、というものになる。

 といっても本作、明確なクリアというものがない。見た映像についてはチェックされていくので、すべての映像をアンロックすればクリアという認識も可能だが、それは本質的ではない。

 では何が目的化というと、「彼女のストーリー」を知ることである。MURDERという言葉から、どうも彼女が殺人事件に巻き込まれていることがわかるのだが、映像を見ていくうちに、彼女の夫の名前が出てきたり、本人の名前が明かされたり、彼女に関する様々な情報が飛び込んでくる。

 それらの気になる言葉で検索をかけると、今後は第三者の名前ができたり、職業がわかったり、時に感情を露わにして、悪態を吐いたりする。すると今度はその言葉で検索して……と、普段我々がネットサーフィンで行なっているように、「気になる言葉」を連続で検索していく作業に没頭することとなる。

 「普段我々がネットサーフィンで行なっているように」というのが最大のポイントで、データーベースを検索し、彼女の秘密を暴いていくのはあくまでプレーヤー自身の意思である。

 その点で、本作はミステリー小説のようでもあり、「他人の秘密を暴くこと」の快感と後ろめたさもシミュレートさせる作品である、とも言える。「彼女のストーリー」を知りたいと検索を繰り返す一方で、本作では、覗いてはいけないプライバシーを盗み見るような気持ち悪さが生まれてくる。

 優れたミステリー小説を読む以上に、こうした様々な思いをプレーヤーに抱かせるのが本作の真の狙いだろう。ゲームを購入して、プレイを始めたのだから、その全貌を明らかにするのは当然だ。では無邪気に彼女の秘密を暴いたとして、そこにまったく後ろめたさはないか。秘密を知ろうと必死に検索を繰り返す行為は、果たして美しいと言えるだろうか。本作がナラティブ賞を次々に獲得する理由は、この部分にある。

映像は数秒から数十秒で終わる。字幕も表示されるし、映像は止められるので、英語を調べながらでも十分プレイできる
画面はブラウン管を再現しているので光が反射しているが、こちらのような液晶モニター風にも切り替えられる
Amazonで購入

(安田俊亮)