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【特別企画】台湾ゲーム市場から見た中国でのPS4発売延期の意味

中国の発売延期にも慌てないSCESH。中国にとって大事なのはマーケットか、リージョンロックか!?

中国の発売延期にも慌てないSCESH。中国にとって大事なのはマーケットか、リージョンロックか!?

Taipei Game Show会場で遭遇したSCESH(上海)総裁の添田武人氏。中文簡体字版の交渉等、様々な目的のために参加したという。中国展開については「粛々と進めていきます」と言葉少なだった
「すべてはゲーマーのために」。このスローガンはユーザーから人気を集めたという
2004年3月、中国向けPS2のキラータイトルの1つとして発売が予定されていた中文簡体字版「真・三國無双2」。しかし販売することはできなかった
そして2015年、「真・三國無双7 猛将伝 完全版」で再び参入を目指す
そして「ファイナルファンタジー」。PS2の中国展開ではスクウェア・エニックスはライセンシーリストに含まれていなかったため、コンソールゲームとしては今回が初参入となる
SCESHとして、発売延期発表後の最初の動きとなるユーザーとの食事会。2月13日と15日、北京と上海で開催される

 対するSCEは、PS2の中国展開の失敗で、リージョンロックとセンサーシップの2点が展開のキーファクターであることをイヤと言うほど学んでおり、この2点がクリアになるまで無理に中国展開に動くことはないはずだ。なにしろ、PS2展開失敗の二の舞を避けるために、実に10年以上、正規進出の機会が来るのを待ち続け、PS3においては最終的に展開そのものを諦めるという判断まで下している。もはや数カ月や半年程度のタイムラグはSCEにとって何でも無いはずだ。

 こうした点について中国の関係者や、リージョンフリーのゲームハードの中国展開に反対するユーザーが誤解しているのは、SCEやMicrosoftなどのゲームプラットフォーマーは利益を生み出すことを目的に中国展開を目指しているわけではないということだ。もちろん両社はれっきとした営利団体であり、最終的に利益が出なければ事業を継続できないが、単純に利益だけで言えば、並行輸入業者が勝手にやっている並行品で十分利益を生み出すことができる。にもかかわらず、なぜリスクをどっかり取ってまでわざわざ参入するかといえば、そこにゲームファンがいるからだ。

 かつて日本がゲームのリーダーシップを取っていた時代、日本で最初にハードを発売し、時間差で欧米、そしてアジアに展開することが通例だったのは、製造やローカライズに時間が掛かることもさることながら、もうひとつの理由として大きいのは並行業者がせっせと買い求め、欧米やアジアに流すことで、結果として販売台数が稼げたからだ。販売台数を稼ぐことで、ハードが爆発的に普及する分岐点となるクリティカルマスに早く到達することができ、それによって多くのサードパーティーやユーザーの支持を集め、プラットフォーム戦争に勝利することができる。いわば海外市場そのものが、日本のゲームハード普及のブースターになっていたわけだ。

 しかし、それは言い換えれば海外ユーザーの軽視に他ならない。当時はハード戦争に勝つ必要があり、やむを得ない選択だったという見方も出来るが、そうした“大戦略”が通用する時代はとっくの昔に終わっている。決定的だったのは、2013年12月、PS4が日本より先にアジアで発売されたことだ。日本の数字にこだわりたいならアジアを先にする必要はまったくない。それをあえてアジア先行にしたのは、日本の数字だけを重視するより、アジアとアジアのユーザーを大事にしている姿勢を明確にした方が最終的な利益に結びつくと判断したからだ。その意味では、数に頼んで勢いで押し切る戦略から、ユーザー1人1人の利益を最大化する戦略に変化してきているといえる。

 中国に話を戻すと、今回、SCEやMicrosoftが中国企業にマジョリティを取らせる形で合弁会社を設立し、莫大なMGを支払ってまで中国展開を目指すのは、そこにゲームファンがいて、彼らが正規のゲームコンテンツ、サービスを求めているからであり、そのニーズにキッチリ対応することが最終的な利益に繋がると考えているからだ。また、ゼロからマーケットを立ち上げれば、莫大な雇用が生まれ、外国企業として中国に貢献することもできる。並行品だけの市場だと、ハードウェアとして避けて通れない初期不良や故障に対応できないし、ソフトウェアとして避けて通れないバグフィクス、アップデートにも対応できない。もちろん、ローカライズも論外だ。

 また、正規市場がないことで、海賊版が生まれやすい環境ができてしまうが、海賊版もまた決してゲームファンにとっての理想郷ではない。海賊版は安価もしくは無料でソフトが手に入る反面、言い換えれば出所不明の得体の知れないソフトウェアであり、個人情報の抜き取りをはじめとした様々な悪事の温床にもなる。当然、このトラブルに関してプラットフォーマーやソフトウェアの開発元は一切対応できないし、ユーザーがひとりで、あるいは周りに累を及ぼす形で損を被ることになる。それで本当にいいのだろうか? ということだ。

 長々と書き連ねてきたが、本記事を通じて私が伝えたいのは、リージョンロックの設定と、曖昧なセンサーシップは、現地マーケットの成長を阻害するだけでなく、ユーザーの利益にも繋がらないということだ。それはもう中国でのPS2、台湾での任天堂ハード、そして中国のXbox Oneなどなど、過去の事例が証明している。

 今回の中国でのPS4の発売延期がどのような形で落着するのかは予断を許さないが、今最も必要なのは関係各所との対話、とりわけユーザーとの対話だろう。なぜリージョンフリーなのか、それはどういうことなのか、SCEの意図、ユーザーのメリットをわかりやすく説明し、ユーザーの支持を固めることではないかと思う。

 と書いていたら、WeiboのPlayStationブログが更新され、2月13日に北京、15日に上海でそれぞれ食事会を実施することが発表されていた。食事会にはSCESH(SCE Shanghai)総裁の添田武人氏も出席予定で、招待されたユーザーに対してざっくばらんなトークを行なうようだ。このタイミングで新たな発売時期の発表が行なわれるとは考えにくいが、発売に向けた一歩となることを期待したい。

(中村聖司)