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【GTMF2013】「SOUL SACRIFICE」と「箱! -OPEN ME-」の制作秘話講演
SCE主催によるゲストセッションレポート
(2013/7/24 13:45)
7月23日に東京で開催されたゲーム開発者向けツール&ミドルウェアの総合展示会「Game Tools & Middleware Forum 2013」では、ゲストセッションとして「Making of [SOUL SACRIFICE]」、「6人で作ったコンシューマータイトル『箱! -OPEN ME-』の制作体制」の2つのセッションが開催された。
「Making of [SOUL SACRIFICE]」では、開発を担当したマーベラスAQLデジタルコンシューマー事業部開発本部アートリードの岸隆造氏が登壇し、「SOUL SACRIFICE」のチーム体制や制作方針などが語られていった。
「6人で作ったコンシューマータイトル『箱! -OPEN ME-』の制作体制」では、開発元JetRayLogicより「箱! -OPEN ME-」でプランニングとディレクションを担当した松田太郎氏が登壇し、「箱! -OPEN ME-」で使用されたミドルウェアについて述べられた。
「カバル」体制でモチベーションを高めた「SOUL SACRIFICE」
「SOUL SACRIFICE」では、ゲームコンセプトに対する意識と、開発スピードの向上を目指して制作が進められていった。制作では目標を明確にするため、各マイルストーンごとでのビルドと、トピックになる要素を毎月実装していく月報ビルドを出していたという。月報ビルドを出すことで、実装状況を明示できてクライアントとの信頼関係が強固なものになっていった。
また制作体制の最も特徴的な部分は、「カバル」と呼ばれるチーム編成を組んだことにある。カバルは、「エネミー&バトル」チーム、「魔法」チームなどそれぞれのチームを編成しつつ、1人1人が複数のチームを兼任するというもの。例えば「魔法」チームでは企画、プログラマー、デザイナー、サウンドの数名で編成され、それぞれは他のチームも担当する。
多少複雑にはなるが、メンバー全員がチームを兼任することで他のチームが何を進めているかが自然と浸透するようになり、チーム間の壁のない制作体制を整えることができたという。また1つのカバル内ではブレストから仮実装までを素早く行なうというサイクルを繰り返し、何度もテストをすることでタスク消化のスピードアップと遊びの生み出しに成功した。
グラフィクスの点では、「独自の魔法バトルが4人マルチプレイで気持ちよく楽しめる」ことを前提に、コンセプトとなっている「欲望と代償」をダイナミックに表現することを目指した。
エネミーやステージ背景の全体の方針は、まずエネミー「ケルベロス」とマップ「タルタロスの街」、「オリンピア平原」を最初に制作することで、これらを基点にして他のエネミーやマップを作っていった。期間としてはおよそ3カ月でパイプラインの構築やビジュアルのプロトタイピングを終え、4カ月でPS Vita上でのゲームのプロトタイピングが完成していった。
キャラクターの造形は、すべてはcomcept下川輝宏ディレクターの設定テキストを根幹として、アイディアを膨らまして決められていったという。下川氏とのやり取りを繰り返しながら、「人間だった頃の姿」なども制作され、奥行きのあるキャラクター造形になっていった。
また魔法アクションなどのモーションは、手付けによるアニメーションとなっている。魔法そのものの表現やタイミングの修正は常にプレイしながら行なっていたので、クラッシュ&ビルドを繰り返す状況が求められていた。魔法カバルとプレーヤーカバルはこれを前提として動いていたので、1日で異なるプレイ感が生み出されていたりと、チーム内のレスポンスが非常に早く進められたという。
岸氏は「チーム全員が“ゲーム作り”に加わっていたのでスタッフのモチベーションが高かった」と振り返り、「開発初期段階にパフォーマンス、リソースの配分を決定していたので様々な面での判断が早く行なえた」と語った。
ARライブラリの選出に苦しんだ「箱! -OPEN ME-」
「箱! -OPEN ME-」は、約8カ月で制作されたPS Vita用ソフト。PS Vitaのカメラ機能を利用して、様々な仕掛けがある「箱」をタッチ操作で開けていくというパズルゲームとなっている。制作人数は6人ではあるが、ステージ数はコラボステージ(コラボックス)も含めると総数62ステージにも及ぶ。しかしチームはデザイナー5人に対してプログラマー1人という構成になっており、ミドルウェアなしには到底不可能なプロジェクトだったという。
ミドルウェア導入のきっかけとなったのは、デザイナーとプログラマーで分担作業をするというプロトタイプでの制作フローにあった。箱のプランニング中はプログラマーが暇だったり、コーディング中はデザイナーが暇だったりと、お互いに無駄な時間ができるほか、作業が進むほどプログラマー1人に重い負担がかかってしまう。
そこでミドルウェアを導入することで、プロトタイプ制作後はデザイナー自身がグラフィックス制作や箱の個別スクリプトのコーディング、スクリプト修正作業までを一貫して行えるようになり、制作フローが劇的に改善した。その間にプログラマーはシステムやネットワーク周りの作業ができるようになった。
「箱! -OPEN ME-」で使用されたのは、ARライブラリ「SmartAR」、パーティクルエフェクトライブラリ&ツール「BISHAMON」などとなる。「SmartAR」はプログラマーがシステムに組み込み、「BISHAMON」では松田氏がエフェクトを制作してスクリプトで実装していった。
制作途中で最大のネックになったのは、ARライブラリの選択だったという。ARライブラリには当時Ver1.6のSmartARとWAARがあったものの、マーカーの位置を見失ってしまったり、オブジェクトがグラグラとぶれてしまう問題があったという。すると今度はARマーカーの要らない画期的なMagnetが登場し、これには松田氏も「感動した」というが、CPUやメモリを大幅に奪うライブラリだったため、今ひとつ決め手に欠けていたという。
結局プロジェクトが佳境に入るまでARライブラリを決められなかったが、AKB48とのコラボックス制作のため専用のマーカーが必要になったことや、SmartARがver1.8になったこと、Magnetでは決められたサイズを出すのが難しいということもあり、最終的にSmartARに決まった。
ここで松田氏が感じたのは、「ミドルウェアを使うことは簡単だが、最大限利用するのは大変」だということ。特に取捨選択については、紆余曲折しすぎると余計に苦労することになると話した。
ミドルウェアを利用することの利点と欠点については、工数を減らせたりデザイナーの調整だけで解決できるという一方で、もし実現できないことが起きて改善要求しても、反映される可能性は不透明であることなどが挙げられた。SmartARの場合は、「ソニーの協力を得ることができて非常に助かった」という。松田氏はミドルウェアメーカーとの「関係性を作ることが大事」と語った。