G-STAR 2012から読み解く韓国モバイルゲームの最新動向
箱庭系とアクション性を両軸に、韓国ゲーム市場で確かな存在感を示すモバイルゲーム
スマホアプリの存在感がどんどん増大中 |
モバイルソーシャルゲームの登場以来、日本でも業界の勢力図を激変させるような変化が起こりつつあるが、韓国でも同様の現象が起こっている。しかもその激変ぶりは日本以上だ。今年の「G-STAR 2012」でスペースの多くを占めているのはスマートフォンのゲーム。そしてそのゲームを提供している大小さまざまなプラットフォーマーだ。
韓国は昔から家庭用ゲームのシェアが小さく、ゲームと言えば長らくPCで遊ぶオンラインゲームが主流だった。最初に変化の兆しが見えたのは2010年。このときにはまだ、Facebookゲームの大流行を受けた数点のソーシャルゲームが実験的に展示されているだけだった。しかし、2011年にはCOM2USなどのアプリパブリッシャーが大きなブースを出展して、スマートフォン向けのソーシャルゲームやスマホ用のアプリを数多く展示した。そして今年、PC向けのヘビーゲーマー向けオンラインゲームと、スマホアプリの勢力図は逆転しつつあるように見えた。大手ゲームデベロッパーを含めたほとんどすべてのブースにスマホのゲームが並び、毎年恒例の会場外ブースもほとんどがスマホアプリやスマホのサービスに絡んだものだ。
筆者が韓国入りして以来、空港からホテル、ホテルから会場までの道筋に地下鉄を使っているのだが、その車内では必ずと言っていいほどスマホでゲームをプレイしている姿を目にした。特に目についたのは、韓国の無料電話サービス「カカオトーク」のゲームプラットフォームのタイトルだ。日本でLINEが初めたLINEゲームと同じように、カカオトークの友達と遊ぶゲームが韓国の若者ユーザーをしっかりと捕まえている。
他にも現在はキャリアが提供するゲームプラットフォームや、デベロッパーが運営するプラットフォームなど、日本と同様にソフトプラットフォームがしのぎを削る戦国自体に突入している。「G-STAR 2012」には、韓国の大手キャリアSKテレコムの子会社SK Planetや、自社プラットフォームでゲームを提供しているCOM2US、GAMEVILなどが大きなブースを出展していた。また、WemadeやNEXONら韓国大手ゲームメーカーもそれぞれモバイル用のブランド名でスマートフォンやタブレット用のゲームを出展していた。日本ではLINEゲームやハンゲームブランドのゲームを提供しているNHNは、iOSとGoogle+用の2タイトルを展示していた。
日本ではスマートフォンの祖社ルゲームと言えば、カードゲームを指すほどにジャンルが絞り込まれているが、韓国のソーシャルゲームシーンの中では、カードゲームはむしろ少数派だ。携帯大国だけに、日本よりもスマートフォンゲームへの抵抗感が少なく、スマートフォンでゲームをすることは当たり前という風潮が、多種多様なゲームが登場する地盤となっているのだろう。以下に、非常に多いジャンルをまとめてみた。
■ 【箱庭系ソーシャルゲーム】チマチマと自分だけの空間を作っていく楽しさは世界共通
カフェの多い韓国で大ヒットした「I Love Cafe」 |
PCゲーマーの多い韓国ではFacebookのソーシャルゲームからスタートしたため、Facebookに多い箱庭系が根強い人気を誇っている。スマートフォンの性能向上に合わせて、驚くほど緻密な2Dのイラストや、フル3Dの画面が当たり前になっており、スマホアプリ=チープというイメージではなく、このプラットフォームに合わせた独自の文化を持つゲームへと進化している。
自分だけのカフェを作る「I Love Cafe」(PATISTUDIO)は今年大ヒットしたタイトル。現在、実在するカフェチェーン「caffe bene」とコラボしたプロモーションを展開している。2011年の「G-Star」レポートで紹介したCOM2USの「TINY FARM」は、ペットを育てて増やしていくという要素が当たり、看板タイトルに成長した。他にもメイプルストーリーの世界観を使った自分だけの村作りゲーム「Maple Story Village」(JCE&NEXON)や、宝探しをしながら港町を作る「POKET ISLAND」(ORANGEDREW)、列車で友達と物資を交換しながら町を発展させていく「train City」(RocketOz)など実に多彩な箱庭ゲームが出展されていた。
■ 【パズルゲーム】カカオトーク発の国民的ヒット作「Anipang」がパズルゲームブームを牽引
大ヒットした「Anipang」 |
SUNDAYTOZが開発し、Kakao TALK(カカオトーク)からサービスされている「Anipang」は、「ビジュエルドブリッツ」系のパズルゲーム。宝石の代わりに動物を入れ替えて消していく。全国的な大ブームを起こしたゲームで、筆者も電車の中でプレイしている人を頻繁に見かけた。Wemadeのブースでは、本作の直後にサービスが始まった「Candy PANG」(Wemade)を使った対戦イベントが開催されていた。
「アングリーバード」のパブリッシャーRovioの「Bad Piggies」と「Angry Birds Seasons」はSK Planetからの出展。COM2USからは同じように物理エンジンを使ったパズル「Swing Shot」も注目を集めていた。
■ 【アクション】スマホコアゲーマの多さを感じさせる多彩なアクションゲーム群
SK Planetにはカプコンの「ストリートファイターIV」も出展されていた |
アクションゲームは家庭用という固定概念がないためか、実に多種多様なタイトルが取り揃っていた。特にWemadeは出展してるゲームの半分以上がアクションゲーム。ソーシャルゲームだけではなく、ソロで遊ぶゲームやオンラインゲーム的な多人数同時プレイが可能なものもある。PCオンラインFPSの定番「スペシャルフォース」をタッチ操作で遊べる「Special Force NET」(mobicle)は、ルームに入ってリアルタイムの多人数対戦が楽しめる。SK Planetにはカプコンの「ストリートファイターIV」が出展していた。
タッチ操作から生まれた名作アクションゲーム「Temple Run」の派生作品もいくつか見かけた。コスプレ姿の女の子天使が逃げる「ANGEL RUN」(
LUNOSOFT)はキャラクター以外ほとんど同じだが、列車の隙間を縫って警官から逃げる「SUBWAY SURFERS」(M2M Entertainment)などは、3列あるラインを使い分けながら進んでいくゲームで操作感的にもかなりの違いがある。
スポーツゲームは韓国で人気のある野球が多かった。またつりをテーマにしたゲームも、各社からそれぞれに特徴のあるタイトルが出展されていた。その中でも筆者が注目したいのは、NHNからiOSとAndroid向けにサービスされる「FISH ISLAND」だ。ルアーを投げる場面から、魚を釣り上げるところまで、段階に応じていろいろなアクション要素がちりばめられており、釣れた時の嬉しさがひとしおだ。3Dの画面はどちらかというとアニメ的な鮮やかな色調で、キャラクターも可愛く遊んでいて楽しいゲームだった。
他にも「Diablo」風のハック&スラッシュゲームや、リアルタイム対戦が可能な対戦格闘ゲーム、背後視点のTPSなども当然のように置いてあった。NVIDIAのブースには、Nexus7の試遊機が置かれ、Bluetoothのコントローラーを使って家庭用ゲームのノリで遊べる「ソニック」も展示されていた。
■ 【それ以外】スマートフォンがすべてのゲームジャンルのプラットフォームになっていく
「運命のクランバトル」(セガ) |
カードバトル系ソーシャルRPGも何タイトルか出展されていた。その中には、セガとポケラボが開発した「運命のクランバトル」の姿もあった。韓国でのサービスは秋と書いてあったが少し伸びているらしい。日本勢では他にカプコンの「逆転裁判123HD」なども展示されていた。
他にもギター、ドラム、ベースの中から楽器を選んでオリジナルの楽曲で競うリズムゲームや、タワーディフェンスゲーム、レースゲーム、MORPGやMMORPGなどを見ることができた。これまで、PCをプラットフォームに少しずつ家庭用のテイストに近づいているように思えた韓国のゲームは、スマートフォンというプラットフォームでぐっとカジュアルさを増した。これまであった家庭用、PCオンラインゲームという日韓の差はスマートフォンという共通のプラットフォームでこれから縮まっていくだろう。韓国産のスマホアプリは続々と日本に入ってきている。そんな中で、今回日本勢の存在感が小さかったのは残念だ。日本のスマホアプリも更なる多様化を求められる時代に入ってきていると思う。
(2012年 11月 9日)