Game Developers Conference 2011レポート

【GDC 2012】2011年のスマートフォン/タブレット向けゲームを総括
ゲーム開発者が厳選する本当に面白いゲームを紹介


3月5日~9日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center


 


 米Joju GamesスタジオディレクターのJuan Gril氏と米Playmatics CCOのNicholas Fortugno氏は3月5日、2011年にリリースされたスマートフォンとタブレット向けのゲームの中で、両氏が最も気に入ったものを紹介するというセッションを行なった。


セッション冒頭に掲げられた、ゲーム選出の3つのルール

 このセッションでは前置きとして、両氏のプレゼンテーションに際しての3つのルールが紹介された。それは、「これはアカデミー賞ではないこと」、「我々は毎年たくさんのゲームをやること」、そして「我々が革新的だと認識したものを紹介すること」。これは両氏の選択したラインナップが、両氏の独断と偏見でありながらも、ゲーム本来の醍醐味である“ゲーム体験”に根ざしていることを意味している。

 日本国内外ではフリーミアムモデルのソーシャルゲームが全盛を極め、「GDC2012」においてもそれが前提となっているセッションが多い。その中で、ビジネスモデルに関係なく「ゲームとしての面白さ」に注目しているのは、他とはまた色の変わったセッションだと言えるだろう。

 登壇した両氏は自らもゲームデザイナーの肩書きを持っており、ゲームファンの中でもトップクラスに目利きであることは間違いがない。このコーナーは、ゲーム好きによる、ゲーム好きのためのセッションとしてご覧いただきたい。なおここで紹介されたゲームは全てダウンロータイプのアプリとなる。


米Playmatics CCOのNicholas Fortugno氏米Joju GamesスタジオディレクターのJuan Gril氏



■ 両氏お気に入りのゲームから4本をご紹介

 初めに、Fortugno氏が最も気に入ったものとして挙げたのが、ニュージーランドPikPok開発の「SLAM DUNK KING」。「SLAM DUNK KING」はダウンロードと利用料金が無料で、画面に打ち上げられるバスケットボールをタッチで掴み、同じ画面にあるバスケットゴールまでドラッグしてシュートするというもの。

 シュートを決めると点数が稼げ、決められた時間内により多くの点数を出すことで、次のステージをアンロックするためのポイントがその分溜まっていく。ただし、打ち上がってくるボールをそのままゴールに入れるだけでは点数が全く稼げない。

   高得点のためには、ボールをゴールの下からシュートして再度跳ね上げたり、1度掴んだボールを空中に放ったりすることでそのボールに点数が溜まり、これをゴールさせることで高い得点が一気に稼げる。点数の溜まったボールをいくつも空中に確保すればその分高得点が狙えるが、他にもボールに混じって飛んでくる爆弾を画面外に投げ返すなどの要素も絡んでくるので、実際には手元が忙しくてたまらない。

 Fortugno氏は、このゲームを「音楽もグラフィックスもいいが、それよりもレベルが上がるごとに高度な技術が必要になる部分がいい。レベルが進めば、より深く、より変化しながら楽しめるので、その面白さがずっと続く。驚くべきレベル設計のコントロールがなされていると思う」と評価した。


【SLAM DUNK KING】
高得点を稼ごうと思ったら、その分しっかり技術がいる。どんなにボールに点数を溜めても、落とせば全てが消えてなくなる。自分の限界と相談しながら少しずつスキルを磨いていくという、見た目からは考えられないシビアさがある

 続いてGril氏が一番に紹介したのが、ポーランド11 bit studiosの「Anomaly Warzone Earth」。これは自動で進軍する人類の小隊を俯瞰視点でサポートしながら、エイリアンが待ち構えている街中に戦いを挑むという、タワーディフェンスを逆転させた内容。

 「Anomaly Warzone Earth」の特徴は、2つの層に別れた戦略にある。まず1つ目が、戦場全体を見渡して、小隊の進路をどのようにするか決めるパートになる。ここではマップ全体の敵の位置を知ることができるので、作戦の大まかな内容を決められる。次のパートは、その作戦を実行に移すパートとなる。小隊は自動で決めた進路に沿って行軍するので、小隊の体力回復などのサポートをしながら、エイリアンを撃滅させていく。

 “タワーオフェンス”と書くと想像がしやすい「Anomaly Warzone Earth」だが、この2つに別れた作戦の層によって作戦の自由度が上がり、そこに煙幕やおとりを発射して敵を撹乱するといったRTSのような要素も入っている。Gril氏は、こういった様々な戦略を考えられる、成功への多様性を評価した。さらにGril氏は、ゲームの中でしっかりと描かれているエイリアンと人類の戦いのシナリオや、美麗なグラフィックスも本作の楽しいポイントだと話した。


【Anomaly Warzone Earth】
基本的には“タワーオフェンス”だが、行軍する進路は随時切り替えられるので、戦略性は実に多様。綺麗なグラフィックスで描かれる人類とエイリアンの死闘のシナリオにも没入できる。ダウンロード価格はApp Storeで170円

 続いて紹介されたのは、両氏それぞれが選んだ第2位のタイトルとなる。まずFortugno氏がここで挙げたのは、米Disneyの「Where’s My Water?」(邦題は「スワンピーのお風呂パニック!」)。これはワニのキャラクター「スワンピー」をお風呂に入らせてあげるため、画面上の土をタッチで堀ったり水道の蛇口をひねったりしながら、水を「スワンピー」の居るお風呂場まで導くというパズル要素の強いゲーム。

 Fortugno氏が注目したのは、Disneyにとっては全く新しいキャラクターブランドをモバイル用のゲームで立ち上げながら、肝心なゲームとしても優れているという驚きにあったという。レベルが上がれば水をスイッチに触れさせて動く壁や、地形を破壊する爆弾も登場し、パズルゲームとしてよくできているとFortugno氏は話した。Fortugno氏は、「キャラクターはかわいいいし、ゲームデザインもレベル設計もよくて、全体のビジネス戦略としても興味深い」とコメントした。


【Where's My Water?】
邦題は「スワンピーのお風呂パニック!」。水は画面下に落ちようとするので、その力とギミックを利用してワニの「スワンピー」に水を運ぶパズルゲーム。LITE版は無料で、有料版はApp Storeで85円

 最後にGril氏が「お気に入りの1つ」として紹介したのは、株式会社タイトーの「Groove Coaster」。「Groove Coaster」は、音楽に合わせてタップをする、いわゆる“音ゲー”の1つ。画面に表示される線に沿ってエフェクトが滑りながら現れるので、そのエフェクトに合わせてタイミングよくリズムを刻む。

 「Groove Coaster」をプレイしていると、ゲームの中でエフェクトや線が縦横無尽に動き、次々に演出が変化して、だんだんと派手になっていく。Gril氏は、この演出が指1本で楽しめてしまうところを高く評価した。

 またGril氏が「Groove Coaster」について印象に残っているのは、日本の地下鉄の中で子供がこのゲームをプレイしているのを見た時だという。電車での移動が多い日本人は、片手で何かを掴んだまま携帯電話をいじるケースが多い。それを考慮すると、指1本で遊べる「Groove Coaster」のゲームデザインはとても自然で、それが素晴らしいと感じたそうだ。


【Groove Coaster】
音楽と映像に合わせて画面をタップするという実にシンプルな操作のサウンドゲーム。操作はシンプルだが、演出は次々と移り変わり、プレーヤーを飽きさせないようになっている。ダウンロード価格はApp Storeにて250円

 なおここに挙げたタイトルのうち、完全フリーミアムモデルのアプリは「SLAM DUNK KING」のみ。「Where's My Water?」もLITE版はダウンロードが無料だが、有料版が本来のアプリケーションとなる。現在全盛となっているフリーミアムモデルのゲームについて両氏は、「私たちが求めているゲームとは、ビジネスモデルがマッチしないのではないか」と述べた。

 Fortugno氏は、両氏が求めているタイトルは「見ても触っても完全な状態であるもの」だと話した。またFortugno氏は「カジュアル」と括られてしまうゲームについても述べ、「シンプルなこととイージーなことは違う。『SLAM DUNK KING』のようにシンプルでもなかなか上手くいかずについ何度もやってしまうものはあるが、イージーなものはそうではないので、私たちは求めていない」と、「シンプルさ」と「イージーさ」の違いをはっきりと区別して説明した。

 ここに紹介したものは、両氏がその中でも革命的だと感じたものを選出しているが、それ以外にも、毎年とてつもない量の面白いアプリケーションが登場するという。「これからもたくさんのゲームを追っていきたい」とFortugno氏は話した。


このほかにも、次点のアプリケーションが紹介された


(2012年 3月 8日)

[Reported by 安田俊亮]