G-Star 2009現地レポート

NTL高宮孝治氏、「ドラゴンボールオンライン」の開発構想を初披露
有名版権タイトルをゲーム化するための要諦は“原作への愛情”

11月26日~29日開催

会場:釜山国際展示場(BEXCO)

入場料:大人4,000ウォン(前売り2,000ウォン)
学生2,000ウォン(前売り1,000ウォン)

 

 G-Starと同じ会場で併催されているコンテンツクリエイター向けのカンファレンス「ICON 2009」は、26日、27日の2日間の日程で40あまりのセッションを開催した。

 「ICON 2009」は、昨年までG-Starと併催関係にあったKGC(Korea Game Conference)と異なり、ゲームに特化したカンファレンスではなく、ゲーム、CG、映画などデジタルコンテンツ全般を扱っており、社会人に混じって多くの学生達が参加していたのが印象的だった。学生が多いというのはICON、KGC共通の現象で、韓国のゲーム関連カンファレンスは米国のGDCや日本のCEDECとは違った進化を遂げつつある。

 講師には日本人も複数招かれており、Gonzo、Oxybot、Mad Houseなど映像関連のメーカーが多かったのが印象的だった。そうした中で数少ないゲーム関連の講演を行なったのがNTL CCOの高宮孝治氏である。高宮氏は、現在、日韓共同で開発が進められている「ドラゴンボールオンライン(以下、『DBO』)」のクリエイティブディレクターを務めており、同作を開発するにあたって乗り越えなければならなかった2つの課題をいかに克服したかが報告された。

 自然、「DBO」の開発情報も数多く披露され、日本では2007年3月の正式発表以来、ほとんど音沙汰のなかった同作の開発状況が、現場のトップから報告されるという非常に貴重な機会となった。本稿では、その模様をお伝えしていくが、スライドの撮影が禁止だったため、テキスト主体のレポートとなることをあらかじめお断りしておきたい。



■ 高宮氏「版権ゲームの制約は、むしろ正確に世界観を表現する上でメリットになる」

「DBO」クリエイティブディレクターを務めるNTL CCO 高宮孝治氏
今回のメインテーマとなっている「ドラゴンボールオンライン」のタイトル画面
「ドラゴンボールオンライン」一色だったCJ Internetブース

 今回のセッションのテーマとなった「DBO」の2つの課題とは、「有名なコミックを原作としてオンラインゲームを制作すること」と「韓国と日本の共同プロジェクトということ」の2つ。

 高宮氏は、「キーは“フュージョン”です」と切り出し、「ドラゴンボール」と「MMORPG」の融合、「韓国スタッフ」と「日本スタッフ」の融合をいかに図ったかが報告された。ちなみにフュージョンは、原作でもゴテンとトランクスの2人が融合して強力なキャラクターになる技のひとつ。本セッションではこの手の「ドラゴンボール」用語が頻出したが、参加者は「ドラゴンボール」ファンが多いのか、特に苦にする様子でもなく円滑に進められた。

 まず1つ目の課題については、版権ゲームは、あらかじめネームバリューがあり、プロモーションに有利な反面、原作を愛するユーザーからのバッシングや版権元から様々な制約を受ける可能性がある。高宮氏は、版権ゲームのメリットは享受しつつ、デメリットは、デメリットとしてとらえず、むしろ正確に世界観を表現する上でメリットになると前向きに考えたという。

 一般的にキャラクター版権ゲームの企画を考える際、ストーリー、キャラクター、世界観といった要素から、おもしろい部分を抽出してゲームとして落とし込んでいくことになる。「DBO」では、すでに同じようなアプローチで作られた先行タイトルが多数存在するため、MMORPGというジャンルを活かすために“「ドラゴンボール」遊び”が楽しめるみんなの遊び場にすることを考えたという。

 高宮氏は例として以下のような適用例を挙げた。

    ・“かめはめ波”を撃ちたい→スキルで再現する
    ・修行したい→クエストやPvE、PvPで表現する
    ・孫悟空に会いたい→NPCとして出すことで再現する
    ・天下一武道会に出てみたい→PvPのトーナメントでできるだろう
    ・ドラゴンボールを集めてみたい→コレクション要素、報酬システムとして実装

 「ドラゴンボール」のファンなら誰でもやってみたいと思う要素ばかりだが、冷静に企画を練っていくと、MMOならではの問題点が出てきたという。ひとつはアバター。既存の「ドラゴンボール」ゲームは、孫悟空を始めとした有名キャラクターになりきるタイプばかりだが、MMORPGでは同じことはできない。その代わりに孫悟空のNPCを出すとしても彼1人にユーザーが殺到する事態は避けたい。そのほか、高宮氏は、ストーリー進行度が異なるユーザーが同じ場に共存する問題や、原作にはない多対多の戦いなどを挙げて、MMORPGには不可欠な要素と原作の世界観が合わない部分が浮き彫りになったことを紹介した。

 そこで「DBO」は、大胆にオリジナルの設定を取り入れ、原作とは異なる3つのポリシーを導入することで、MMORPGと原作の整合性を取ることにしたという。

 1つ目のポリシーは、時代設定を、原作がAGE749年から784年なのに対し、「DBO」ではAGE1,000年としたこと。敵対する存在もオリジナルとなり、彼らの侵攻を食い止めるために、プレーヤー達は現在と過去を行き来して立ち向かっていくことになる。「DBO」では、原作との間に250年間の開きが存在することにリアリティを持たせるために細かい設定を作り貯めていったという。大量にあるので以下、箇条書きにして紹介しよう。

    ・AGE851年にナメック星が崩壊し、ナメック人が地球にやってくる(ナメック人をアバターとして使えるようにするため)
    ・女性の魔人(原作に登場しないため鳥山明氏に依頼して作成してもらった)
    ・登場キャラクターが老けている(寿命の長いピッコロやカリン様が老けて登場する)
    ・各種オリジナルキャラクター(オリジナルだが、原作との関連性を持たせている)
    ・モンスター(サイバイマンなど、原作の中でチラッと登場したキャラクターを参考にアイデアを膨らませて野良モンスターへ)
    ・アーマー/ウェポンバリエーション(原作をベースにしたデザインやカラバリを用意、アイテム課金も意識)
    ・マップ(原作のイメージが強いランドマークを「DBO」でも使い、原作感を得てもらう)

 2つ目のポリシーは、「タイムマシン」の導入。原作ではタイムパトロールの任を担うトランクスが利用したが、この設定を「DBO」にも活用し、タイムマシンを使って原作の時代を行き来することができる。これを「タイムマシンクエスト」と呼び、「DBO」の柱のひとつとして位置づけていくという。

 システム的には、MOタイプのインスタンスダンジョン形式になることが明かされ、タイムアタック形式で複数人でパーティーを組んでチャレンジでき、原作の有名なキャラクターとカットシーンを交えながら原作ストーリーをなぞるようなクエストが楽しめるようだ。なお、低レベル時には、「タイムマシンクエスト」の前段階として「タイムリープクエスト」が用意されている。こちらはソロプレイ用となっており、システムの習熟と、低レベルの段階から原作とふれあえる機会の創出が狙いのようだ。

 3つ目のポリシーは、ゲーム内のすべてのコンテンツに、原作のシナリオ設定を導入するというもの。こちらも数が多いので箇条書きでご紹介したい。

    ・アイテムコレクション/報酬システム→ドラゴンボール収集/シェンロンに願い事
    ・PvPトーナメント→天下一武道会
    ・乗り物→ヤムチャの「ジェットモモンガ」等、原作に出ていた乗り物を再現
    ・ギルドシステム→ギルド=流派、ギルドハウス=道場
    ・クラスチェンジ→レベル30で受けられるカリン様のクエストをクリアするとマスタークラスとなり、容姿が子どもから大人に変わり、新たなスキルやサブウェポンを獲得できる
    ・コンボ攻撃→HTB SKILL=「ドラゴンボール」独自の“ババババ”っという戦いを再現する
    ・スキル攻撃→RP ABILITY=“気”を貯めることで獲得できるRPを消費することで発動できる特殊効果付きの攻撃
    ・パーティーダンジョン→原作のキャラクタが登場する「アルティメットダンジョン」を実装
    ・ポータルや倉庫→ヤードラット(孫悟空が瞬間移動を習ったといわれる星人)が処理してくれる
    ・バインディングポイント→ポポストーン(ミスターポポという神様の召使が地上の修行者たちをサポートしていたことに由来)
    ・GMメッセージ→原作を意識して“鳥山ロボット”が告知
    ・インベントリ→ホイポイカプセルを使うことで大量のアイテムを持ち運び可能に

 高宮氏はまとめとして「『DBO』は新作タイトルですが、真新しい特別なシステムはありません。一般的なMMORPGに沿ったMMORPGとして普通に遊べるものを目指しています。新しいシナリオコンセプトとシステムをマッチさせ新しい世界観を作っている。これが『DBO』の1番のセールスポイントだと思います。これが『DBO』とMMORPGの“フュージョン”だと思います」と報告。ディズニーランドを理想型とした“ドラゴンボールランド”が「我々の目指すところ」であり、「愛がない拡張はダメ」だと釘を刺した。


【スクリーンショット】
あえて「横スクロールアクション」と呼ばないのは、縦方向や斜め方向への移動を行なうダンジョンもあるため。3Dグラフィックスの利点を活かした柔軟なステージデザインだ



■ グラフィックスは日本、プログラミングは韓国。日韓分業の内訳を公開

高宮氏の講演は、“フュージョン”からしてそうだが、随所に「ドラゴンボール」ネタをちりばめた楽しい講演となった
「ドラゴンボールオンライン」試遊台コーナー。熱心にプレイするゲームファンの姿が数多く見られた

 「DBO」のもうひとつの課題が、日韓共同開発体制の構築である。高宮氏は既存の日韓共同プロジェクトの構造的な弱点を指摘するところから始めた。

 高宮氏によれば、よくある日韓の提携の形として、韓国が開発したものを日本にローカライズするというパターンと、日本が企画したものを韓国に開発依頼するパターンの2種類が存在するが、日本が開発する場合、コンソールの開発経験をベースにしているため、オンラインゲームに対する知識が不足しがちで、オンラインゲームのシステムとあわない場合がある。一方、韓国が開発する場合は、版権に対する理解不足により、オンラインゲームのシステムに無理矢理当てはめて開発を行なうため、キャラクター版権の持つ本来の良さが失われてしまうことがある。経験や知識がそれぞれの国や市場に基づいていて溶け合わずわないため、両者で統一した目標がもてず、結果として、「うまくいかない」ということになる。

 こうした悪しき前例に対してNTLは、日韓それぞれに会社を置き、物理的距離は離れていても単一のチームとして機能させることで上記のような問題を解決しているという。韓国側が60人、日本側が12人。韓国側に全体のディレクションを担当するプロジェクトディレクターを配置し、日本側に企画やグラフィックス周りを担当するクリエイティブディレクター(高宮氏)を配置するという構成になっている。企画やグラフィックスこそ日本だが、クライアントおよびサーバーのプログラミングはすべて韓国サイドの担当となっており、大きなひとつの傘のもとに日韓共同開発体制が敷かれている。

 アセットは日韓共通のものを使用し、コミュニケーションはビデオ会議システムを利用。高宮氏を含む幹部スタッフは1週間単位で日韓を行き来する状況だという。ユニークな試みとしては、翻訳辞書ソフトに「ドラゴンボール」用語を多数登録しているところで、これによりメッセンジャー等を通じて簡単に情報のやりとりが行なえるという。また、日韓共同のワークショップや食事会、ゲームカンファレンス等への参加を頻繁に実施することで、お互いの信頼関係を積み上げていっているという。

 高宮氏は、その最終的な狙いについて「韓国のオンラインゲーム開発力と、日本のクリエイティビティを融合し、国や民族、文化を超えたエンターテインメントを提供すること」と明確に規定。最後に高宮氏は孫悟空が描かれたスライドを掲示し、「『DBO』に対してはこの人の力がすごく大きいと思います。この人がいることで共通の話題ができたり、この人のゲームを作りたいと思って集まってきた。この人が持つ吸引力こそがキャラクターIPが持っている強みです。キャラクターIPは決してデメリットではなく、新しいことが始まるきっかけになるパワーを持っているとこのプロジェクトを通じて感じました。その意味では真のプロジェクトリーダーは孫悟空さんだと思います」と語り、講演を終えた。



 その後に行なわれた質疑応答では、講演に関する質問ではなく、「ドラゴンボールオンライン」のゲーム内容に関する質問が相次ぎ、高宮氏を苦笑させたが、裏を返せば韓国ゲームファンの作品に対する関心の高さの表れでもある。「DBO」が出展されたCJ Internetブースでの反応もすこぶる良く、講演の内容を聞いても、その作品に対する愛情に裏打ちされた丁寧な作り込み具合が伺える。日本版権、韓国開発のゲームとしては、日本人として久々に納得のいく仕上がりになるMMORPGになる期待が持てるタイトルだと感じた。

 日本では2007年3月以来、正式な発表はないままだが、韓国ではすでに第2次までのクローズドβテストを終え、2010年の上半期にオープンβテストの開始が予定されている。“韓国展開から半年”が、韓国産タイトルの日本展開の目安のひとつになるが、予定通り行けば日本でも2010年内にお目見えする可能性が高い。正式発表を待ちたいところだ。

 最後におまけとして質疑応答を掲載する。なお、高宮氏へは別途、「DBO」に関する単独インタビューを行なっているので、お楽しみに。



【質疑応答】

Q: 原作のシナリオが入ったクエストは多いが、今後、ユーザーのコンテンツ消費速度に、アップデートが追いつかない場合、単純なレベル上げゲームになってしまうのではないかという心配がある。対策は?

A: 原作やコミックから入ってきた人にもどこかでMMORPGの多人数のプレイに入ってほしいと思っています。タイムマシンクエストや天下一武道会やドラゴンボール集めなど、シナリオの側面から入っていき、多人数の遊びに入っていく。シナリオ頼みにならない導入にしていきます。

Q: トランクスはどこの次代のトランクスなのか。

A: 原作時代のトランクスです。彼だけが、AGE1,000年にタイムマシンに乗ってやってきている設定です。セルらと戦った直後のトランクスと考えてください。

Q: 孫悟空や昔のオリジナルキャラクターとは、タイムマシンクエストで会えるとのことだが、タイムマシンクエストはメインのシナリオになるのか、傍流のシナリオになるのか。

A: 両方で表現しています。メインで進行するクエストの中でも大きなシナリオに準じたものも盛り込まれている。それのキーになる事件もタイムマシンにシナリオ設定しています。

Q: レベル50の変身スキルは、人間がスーパーサイヤ人、魔人が純粋魔人、ナメックが巨大化ですが、ナメックはなぜ巨人化なのですか?

A: 例えば一例ですが、ナメック星人は腕が伸びたりします。遠くにいる敵を腕を伸ばして近くに寄せたり、そういったものをスキルで表現したりしています。ピッコロを中心にスキルは構成しています。そのほかに魔貫光殺砲(まかんこうさっぽう)や、巨大化する能力もあります。マスタークラスになると口から卵を吐いてモンスターを生むようなクラスも用意しています。モンスターを引き連れて戦うようなクラスも想定しています。原作に登場した要素をどんどん抽出して、どれだけゲームにいろいろできるかというのは後からゲームシステムが固まったあとから当てはめるやり方をしていて、ここでお話したようなこと以外にもシステムやバランスをいれながら取り入れていきます。

Q: 初期キャラクターを子どもにした理由は?

A: 子どもから大人に段階的に成長していくシステムを考えたこともあるのですが、原作は子供からスタートします。月日がたって大人になるところをあえてそういった形にしました。僕の感覚ですが、徐々に成長していく表現はかえって違いがよくわからなくて、あまりインパクトがないのです。カリン様に会うという特別な体験を通じて、大人になるという表現にしています。

Q: 「DBO」のAGE1,000年という時代設定は、今後発売されるコミックでもAGE1,000年が盛り込まれたものが出るのか?

A: 現在そういう予定は決まっていませんが、そういう展開に発展していくものと期待しています。原作者の方に認めていただいた新しいストーリーですので、そこから新しいストーリーがさらに生まれていくことはありえることだと思います。


COPYRIGHT BY (C)AKIRA TORIYAMA・BIRD STUDIO/SHUEISYA INC. (C)DBO PROJECT CREATED & DEVELOPED BY NTL, PUBLISHED BY CJ Internet

(2009年 11月 29日)

[Reported by 中村聖司 ]