東京ゲームショウ2009レポート

SCEJブースレポート:PS3番外編
PS3「人喰いの大鷲トリコ」上田文人氏インタビュー


9月24日~27日 開催(24日、25日はビジネスデイ)

会場:幕張メッセ

入場料:1,000円(一般/前売り)、1,200円(一般/当日)、小学生以下は入場無料


上田文人氏

 米国で6月に開催された「E3 2009 SCE PRESS CONFERENCE」にて発表され、国内外のゲームファンを驚かせたPS3用タイトル「人喰いの大鷲トリコ(英題:The Last Guardian)」。今回、本作を手がけるクリエイター・上田文人氏とのインタビューが実現した。

 「ICO」、「ワンダと巨像」など、作品作りにおいては、同業他社のそれと明らかに異なる“空気”をかもしだす上田氏だが、その手腕は最新作「人喰いの大鷲トリコ(英題:The Last Guardian)」でさらに輝きを増している。単純にプラットフォームがPS3になったからという意味ではなく、情報を受け取る側の心理のゆさぶりかたが、より巧みになったように感じられるのだ。

 現時点でトレーラーとスクリーンショット数点しか情報がないにも関わらず、そのなかには必ず「受け取った側が想像の羽を伸ばさざるをえない何か」が含まれている。触れたが最後、それを起点に“疑問”という名の枝葉がどんどん枝分かれして伸びていく。まるで「覗き込まずにはいられない穴」を突如目の前に穿たれたかのようだ。

 会期中のヒトコマという限られた時間ではあったが、筆者なりに、上田氏に色々な質問をぶつけてみた。上田氏のファンや「人喰いの大鷲トリコ」に期待している人はもちろん、興味がある方はぜひ目を通していただきたい。




■ トリコと少年が触れ合い、次第に心を通い合わせていく物語

本作のロゴ。“人喰いの”と“大鷲”と“トリコ”でフォントのデザインが微妙に違う点に注目

編集部: インタビューに先立ち、広報の方から「今回はロゴデザインに、かなり意味が込められている」と聞かされたんですが、具体的に教えていただけますでしょうか?

上田文人氏(以下:上田、敬称略): いや、そうでもないんですけど(一同笑)。大鷲のデザインのミックス加減というか。少し違和感が残るようなミックスの仕方にしているんです。

編: 違和感、と申しますと?

上田: デザインの完成度でいうと、なんていうんですかね……あまりしっくりきてない、というと変ですけど。少し違和感があるんじゃないかな、と。

編: それは、デザイン的な“フック”と捉えてもよろしいのでしょうか?

上田: そうですね。こちら的には、そういう狙い。少し違和感を残したデザインにしています。ロゴも同じく、少しフォントを変えてみたりとか。

編: ロゴの話ですが“人喰い”という部分がどうしても先にきて、これは怖い話なのかな? と思ってしまうんですが。

上田: ここ(人喰い、の部分)、ちょっとフォントが変わっているのは、そういう意味もあって。そう呼ばれている、ってことですね。人(を本当に喰うの)は、ちょっとレーティング的にもまずいので(笑)。でも、童話や寓話でも使われる言葉ですよね。

編: 気になる作品のテーマについてお話をうかがいたいのですが。

上田: う~ん、難しいですね。あまりテーマとか意識して作ったことはないんですけど。そうですね……このゲームの肝というかメインのところは、細かいパズルであったり、ダンジョンであったり、ステルスであったりとか。いわゆるゲームの要素も大事なんですけど、それよりは、この不思議な生物。大鷲のトリコ自体の魅力というか。生きている感じ、リアクション、そういうものがゲームのメインかな、と自分では思っていますね。

編: ムービーを拝見した限りでは、ベースは鳥なんですけど、犬的なかわいらしさ、人に懐く部分であったり、猫っぽくもあり、肉食的でもあったり、凄く複雑で、そこが魅力的です。これをデザインする際、最初にイメージしたのは、どんなものなんでしょう? 漠然としたものから、少しずつディティールを煮詰めていった、とか?

上田: 色々な理由、ですね。見た目のフックも確かにそうですし。あとは、ゲームデザイン的な理由もあるんですよね。たとえば、もう少し犬っぽいデザインにすることもできるんですけど、ステージを進行していくときに、アクロバティックな動きができなくなる。犬って関節が硬いですから。それで猫っぽくしたりとか、(爪が)つかまりやすい形であるとか。あとはストーリーですね。ストーリーに関係したデザインであるとか。尻尾の長さもそうです。ま、これからも微妙に調整は入ると思いますけど……ゲームのチューニングにあわせて、というのがあると思うんです。

編: 基本的に、ステージクリア型というイメージでよろしいんでしょうか?

上田: そうです、ね。はい。ただ、ステージクリア型といってしまうと、あまり面白くない感じがするんですけど、ゲームの進行は、フリーローミングみたいな形で色々なところに自由にいけるというよりは、決まったステージの順番で移動していくというものです。

少年とトリコ、1人と1匹は最初から一緒にいるわけではないという。どのような形で“出会い”が描かれるのか今から興味が尽きない

編: 少年との係わり合いが気になるんですが、今話せる範疇で、なにかトピックスなどございますか?

上田: 最初は懐いていないとか。

編: ムービーではいきなり頬をスリスリしてきましたから、雛から育てていたのかな、と思いました。

上田: あぁ……そういうことではないですけど。元々、1人と1匹は別々でスタートします。

編: それで、自然に心を通わせていく?

上田: そこが肝といえば肝です。

編: いわゆる「動物との触れ合いモノ」といえば、皆さん絶対に「フランダースの犬」的なオチを想像すると思うんですよ。「きっとこれは、そういうオチに違いない、とか。そこは王道路線ですか? それとも、いい意味で期待を裏切ってやろう、とか?

上田: 両方ありますね。ぼく自身、ゲームのストーリーテリングっていうものは、最初に見た瞬間“ある程度、結末が想像できないといけない”と思うんですよね。

編: では、先に触れた反応は「いいリアクション」なわけですね。

上田: ええ、そうですね。それがあったうえで、その通りになるのか。それとは違うようになるのかというのは、プレイするモチベーションになると思うので。

編: 少年の名前は、もう決まっているんですか?

上田: 決まってないですね。

編: 名無しの少年?

上田: そうですね。これまでと同じですね。これまでの2作、「ICO」も「ワンダと巨像」も、もう本当に制作の終盤で名前を決めるというような形だったので。

編: それは、やはり名前がないとマズイという話で?

上田: そうですね。呼び名がないと……っていう形で。

編: 漠然と“少年”ではダメ?

上田: 「ICO」のときも、男の子と女の子って呼んでましたし。「ワンダと巨像」は青年と呼んでたのかな? これ(トリコ)は少年ですね。

主人公の名前には、あまり興味がない上田氏。プレーヤー視点云々ではなく、そもそも興味がないという

編: 上田さんのなかでは、主人公の名前というのは、あまり意味がないですか?

上田: そうですね。あまり興味がないですね。名前……自体は。

編: 記号的であって欲しい? それとも、プレーヤーのゲームだから、ということですか?

上田: いや、ゲームだから、っていうのでもなくて。あまり興味がないってことですね。映画とかもそうですし、小説とかも、名前に関しては興味がないですね(笑)

編: むしろプレイ内容とか、どう行動するかみたいな流れとかが重要?

上田: そうですね。キャラクタライズというか、性格付けであったりとか、動かし方であったりとか。そういうほうに興味がありますね。

編: そうなると、ゲームのなかではトリコをどう動かしていくか、誘導していくかが主題になっていく?

上田: そうですね。ただ、自律的、自分で考えて行動しているものなので。なんていうんでしょう……自分の命令どおりに動くかどうかっていうのは、そこいらへんはちょっとわからないですね。

編: AIがだんだん成長していくイメージなのでしょうか? クセを覚えていく?

上田: ええ、そうなります。

編: では、最初はわりということをきかない子なんでしょうか。

上田: そうですね……。

編: 今、意味深な顔をされましたけど?

上田: いや、どこまで言っていいのか(笑)。

編: これまで作ってこられたゲームは、たとえば「つかまってのぼる」とか、特徴的なキーポイントがありました。今回のポイントは?

上田: 今回は、まったく新しいワンポイントっていうのはないんですけど。これまで培ってきた(「ICO」などで)手をひっぱる……手はひっぱらないんですけど、キャラクタ同士の“感触”っていうんですかね。そういうものと、最後までよじのぼる。そのふたつを合わせてます。なおかつPS3なので、計算スピードも上がったから、そこをもっと密に見せられるんじゃないかな、というところですね。

体毛の繊細な表現など、PS3のハードパワーが遺憾なく発揮されている。物理エンジンはSCEI製をチューニングして使用

編: “トリコとの触れ合い”というのが、ワンポイント。その点で、PS3の表現力は大きかったのではないでしょうか。

上田: そうですね。「ワンダと巨像」と同じようにつかまって移動はできるんですけど、「ワンダと巨像」の場合は表面が凄く硬かったんですよね。硬いために石っぽいデザインにした、というのもあるんですけど。皮膚が大きくずれたりとか、羽が反応したりといったことは、PS3だと可能。よりつかまっている感じというか、重力の存在を感じたりとかっていうのは、あると思います。

編: PS3になって、これは驚いた、これでこのアイデアが実現できる! といったことはありましたか?

上田: ちょっとありきたりですけど、物理計算。これまで本格的な物理計算はやったことがなかったので。今回、物理計算がちゃんと入ったことで、なんていうんでしょう。あまりお膳立てしなくても、結果「物理の法則でそうなる」ということが、自分たちも楽しかったりしますし。そこは面白いですね。

編: グラフィックスや物理エンジンは新たに作られたのでしょうか? それとも他社製?

上田: 物理エンジンはSCEI製ですね。他社のものではないです。それはなぜかというと、やりたいことっていうのが、つかまったりとか……他のメーカーさんであまりやられていないようなことを実現するためには、それをチューニングしていかないといけないんですよね。だから、内部が公開されているエンジンじゃないといけない。

編: というと、今回も「つかまって」というのは大きなポイント?

上田: そうですね。ビデオゲームは、やはり“感触”が大事だと思うので。

編: 先日の基調講演でモーションコントローラ(仮)が登場しましたが、感触という点では良さそうです。

上田: どちらかというと、モーションコントローラ(仮)は入力のほうですよね。感触っていうのは、振動であったり、モニターの解像度であったり、とアウトプットのほうというイメージです。真逆かなというイメージがあります。

編: ということは、グラフィックスはかなり突き抜けた方向性を目指すと言うことでしょうか?

上田: そうですね、そうしたい、ですね。まぁ……制約が嫌いなほうではないので。「この制約のなかで作れ」というのは、楽しいは楽しいです。どうしても上限はあるので「これ以上は無理だ」と。じゃぁ「そのなかでどう工夫しようか」みたいなのは、作っていて面白いですね。

編: では、ステージ構成なども広げていくのではなく、アウトラインを作ってからデザインするタイプ?

上田: それはないですね。何かを作ろうとしてて、壁がどうしても発生しますよね。じゃぁ、それをどう乗り越えよう、迂回しようかと考えて作る感じですね。

編: 感触やつながりなど、従来の要素とは違った“新要素”というか、新システムなどは導入されるのでしょうか? 離れた状態でなにか働きかけるとか、笛を吹くとこっちにくる、とか。

まだまだ開発途中ということで、色々と含みを持たせたコメントが……

上田: あ~、それはまだ秘密ですね、すいません(笑)。

編: じゃぁ、逆にいえば「ある」ってことですね!?

上田: ノーコメントで(笑)。

編: トリコは人ではないから、ペット的なニュアンスで触れ合っていくのかな、と思いました。

上田: まぁでも、しゃべってもわからないですからね。

編: そこは凄く気になるんですけど。

上田: そうですね……ぼくも気になりますね、そこは(ニヤリ)。

編: 脳に直接話しかけてくるとか? 色々妄想はふくらみます。

上田: まぁ、実際に生きている動物を飼われている人と同じ感覚だと思いますよ。そこはそこなりの苦労がありますし、何かを覚えさせたり、やらせたいとか。

編: トリコは、常に自律的に動き回っているようなイメージなのでしょうか? 「おいでおいで」をするとこっちにくる、みたいな。

上田: そうですね。

編: バーチャルペットという感覚もある?

上田: 育成ゲームといわれると、それはちょっと違うかなーと。細かくケアしたりとか、っていうのは、どちらかというとぼくは面倒くさがりなので、やりたくないんですよ。当然そういう要素もあるんですけど、それはあくまでキャラクタとしての実在感を出すためとか、感情移入させるための演出のひとつでしかないですね。

編: では、ゲームを進めていくとトリコが成長していく、ということはない?

上田: あ~、それもノーコメントですね、はい(笑)。

編: 成長が強調されるのではなく、触れ合いがユーザーにより感じられるような展開を目指している? 成長させていくんだ! みたいな育成ではなく、心の動きの表現?

上田: それもありますね。あと、ゲームの進行にもからんでいったりというのもあります……っていう。いや、どこまで言っていいのか(笑)。

編: そういった“次の情報”が、いつ出てくるのか気になります。我々ユーザーも相当期待してますし。最終的に、調整が凄く重要なゲームだと思いますが……ずばり、どれくらい出来ているのか。

上田: 当然ぼく自身もいちゲームユーザーなので、楽しみにしているタイトルは早く遊びたいというのがあるんですけど。……なんでしょうね。“自分の期待に満たないようなもの”であれば、あまり欲しくないかなと思いますし。制作者側として「いつ」と言ってしまうと、どうしてもそれに間に合わせなければならなくなる。自分たちも早く作りたい、全速力で頑張ってるんですけど「いつ」って明言するのは、今は避けたいと思います。

編: それでは最後に、期待しているユーザーの方々にメッセージをお願いします。

上田: プレッシャーを感じつつ作っているんですけど、期待を超えるようなものにすべく、もう少し時間が欲しいかな、というところです。なので、お待ちください。期待してお待ちください。

編: 本日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。我々も続報を心待ちにしてます!




■ 最新スクリーンショット ~叙情性に満ちた繊細なタッチに注目!~


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(2009年 9月 28日)

[Reported by 豊臣和孝]