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カメラ制御に秘策あり!Rift用本格ADV「Edge of Nowhere」開発秘話

万全の研究・計画で未知のVRゲーム開発も危うからず?

3月14日〜18日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

「Edge of Nowhere」
Insomniac Gamesのクリエイティブディレクター、Brian Allegeier氏

 昨年のE3にてOculus Rift製品版の発表に合わせて披露されたOculus Rift用の本格ホラーアドベンチャーゲーム「Edge of Nowhere」。広大な氷の大陸を舞台とし、「Tomb Raider」的な探索とラヴクラフト的なホラー演出を融合させた意欲作だ。Oculus Riftのローンチからまもなく、今春の発売を予定して鋭意開発が進められている。

 本作を開発するのはInsomniac Games。最近ではXbox One用アクション「Sunset Overdrive」を手がけたことでも知られる、実力派のゲームスタジオだ。その彼らにとってしても、VRゲーム開発は完全に未知の領域だった。しかし今、彼らは「Edge of Nowhere」をこれ以上のないほどの自信を持って開発している。

 誰にとっても暗中模索となりがちなVRゲーム開発。彼らはどのように方向性を定め、作品の制作を進めてきたのだろうか。その一端が示されたセッション「Explorers in VR: Walking the Edge of Nowhere」というセッションの内容からお伝えしよう。

【Edge of Nowhere - A VR Adventure - Reveal Teaser】

徹底的なプロトタイプ検証による入念な「計画」

本セッションで繰り返し登場したアムンセンの言葉
はじめはFPSのVR化に魅力を感じていたというが、VR酔いの問題があり方向性を模索することに
開発の方向性について基本的なインスピレーションを与えてくれたという「Lucky's Tale」
3ヶ月で実証デモまで開発しようという無謀にも見えるスケジュール

 本公演を行なったのは、Insomniac Gamesのクリエイティブディレクター、Brian Allegeier氏。代表作はPS2時代の2001年から続くアクション・アドベンチャーゲーム「Ratchet and Clank」シリーズで、3Dゲームの開発については超ベテランだ。

 そのAllegeier氏にとっても、VR開発は初めての冒険だった。氏はその“冒険”について、1910年台初頭に行なわれた南極点到達レースを引き合いに出し、当時熾烈な競争を繰り広げたアムンセン隊とスコット隊による探検の有様を比較。

 緻密な計画とシンプルな装備で臨んだアムンセン隊は早々に南極への到達に成功・生還した。これに対し、大量の人員・多くの装備・複雑な組織で臨んだロバート・スコット隊は、多くのトラブルに見まわれ、到達レースに1ヶ月も敗北し、しかも南極点からの帰還中に全員が死亡するという悲劇に見舞われている。

 この明暗を分けたのは何か。Allegeier氏が引き合いに出したのは、勝者アムンセンの言葉だ。曰く、「Adventure is just bad planning(冒険とはずさんな計画にほかならない)」。逆に言えば、きちんと準備・計画をしておけば、あとはそれを遂行するだけ。“冒険”になどならない、という意味だ。

 未知の冒険に思えるVRゲームの開発も、Allegeier氏にとっては同じこと。研究・計画をしっかり行ない、ものごとをシンプルに止めれば、百戦危うからず……。

 という哲学にのっとり、2015年1月にVRゲームのプロジェクトをスタートした開発チーム。まずは最初の1ヶ月で4種類のプロトタイプを作り、VRゲームの開発で常に問題となるカメラ演出にひとつの答えを出している。

4つのプロトタイプ

・プロトタイプ1:見下ろし型三人称ゲーム
 カメラの回転は無し。キャラクターに追尾してのカメラ移動のみ。ゲーム空間は全方位に広がっており、違う方向を向きたいときは方向スティック+ボタンで即座に方向転換。結果としては最悪で、ほとんどのテスターが10分経過するまえに気持ち悪くなり、プレイをストップしてしまった。

第1のプロトタイプはカメラ制御とステージ構造に難があり、すぐに気持ち悪くなった

・プロトタイプ2:「Lukey's Tale」インスパイア
 3人称カメラを思い切り引いた位置にし、移動方向を奥行き方向のみに限定。カメラ回転はユーザーのヘッドトラッキングのみ。結果としては非常に快適性が増し、ほとんどのテスターがクリアまでプレイ。しかし「全く臨場感がない」との弱点が露呈した。

第2のプロトタイプは、奥行き方向のみに進むという構成をとり、成功。ただし臨場感が低くVRでやる意味がわからないものだった

・プロトタイプ3:近接三人称カメラ+物理パズル
 カメラをキャラクターに近づけて臨場感を高めつつ、物理ブロックを用いたパズルをゲームの中心に据えることで移動時間を軽減。良い結果が期待されたが、実際にはゲームプレイ要素がプレーヤーの周囲に散らばることになる結果、前後の移動や首振りが必要となり、VR酔いが多発。却下となった。

あまり動かなければ大丈夫だろうと物理パズルをフィーチャーしたプロトタイプ3は、ユーザーがキョロキョロといろんな方向を向いているあいだに気持ち悪くなり、失敗

・プロトタイプ4:最終形
 プロトタイプ2の「奥行き方向のみに移動」という部分を踏襲しつつ、カメラを近づけて臨場感を向上させた。奥へ奥へ進むだけというゲームデザイン上の制限はあるが、結果は大成功。高い臨場感と快適性が同時に達成された。

プロトタイプ2をベースに、カメラをよりキャラターに接近。ステージ構成で横方向のベクションが軽減される上、プレーヤーは正面にのみ集中すればよく、快適で臨場感のあるプレイが実現

 プロトタイプ4が成功したポイントは、カメラがユーザーの期待に沿った動きをすることと、ユーザーがキョロキョロといろいろな方向を見回さずにゲームをプレイできるという部分が大きい。この規則が守られていれば、演出的にカメラを揺らすのは十分に許容できることもわかったという。

 こうして「Edge of Nowhere」の雛形となる実証デモの開発がスタート。この段階で「Edge of Nowhere」で見られる、不安定な足場を次々に渡っていくスリリングなゲーム性や、巨大なモンスターを見上げるスケール感など、多くの要素が試されているのが興味深い。

実証デモ。E3で披露された「Eyes of Nowhere」で見られるスリリングなシーンに加え、ステルスアクションの要素が色濃く見られる

すべてをシンプルに保とう

本作の世界観の元ネタとなったラヴクラフト作「狂気の山脈にて」
極限までシンプルに保たれたE3デモ版の操作方法
レールカメラを用いる上でのステージ構造の工夫
敵をチラ見せするなどプレーヤーの想像を煽り、ここぞというところで驚かせる、という基本スタイル

 ステルスゲーム要素の強かった検証デモの開発を経て、開発チームは90Hzを維持するためのシーン設計や、ゲーム体験の密度を上げるためのコツを掴んでいった。こういった入念すぎるほどの準備を経て、いよいよE3 2015でお披露目するための本開発の開始だ。

 この時点で残りの開発期間が2ヶ月しか残っていなかったというのも驚きだが、ゲームシステムのベースとなるカメラ制御についての知見が十分に得られていたこともあって、制作はスムーズに進行。成功の鍵を握ったのは、犬そりだけで南極点到達を果たしたアムンセン隊のように、ものごとをシンプルに保ったことだ。

・奥行き方向へ進んでいくだけのステージ構成
・カメラのパンはユーザーの動きに任せる
・カメラは規定のレール上を前に進むのみというシンプル実装
・Aボタンだけで全てのインタラクションを解決

 こういったシンプルさを保ったからこそ、2ヶ月で開発されたE3デモの時点ですでに、想像を掻き立てる効果的なホラー演出や、ベースとなる三人称体験に突如として一人称体験を盛り込む演出手法(プレーヤー頭部の背後からモンスターの触手が伸びるなど)といった、VRならでの魅力をもり立てる要素の実装に成功している。

 本作の製品版では操作可能な要素が大幅に拡張され、オブジェクトとの様々なインタラクションや、様々な武器を使った戦闘なども可能となるらしい。E3 2015で披露されたデモの時点から、どれほど進歩したゲームになっているだろうか。

 Oculus Rift専用タイトルとして今春発売予定の「Edge of Nowhere」。今後多数登場してくるであろうVRアドベンチャーゲームのトップバッターとして、どのような作品に仕上がるか楽しみだ。

E3 2015で披露された「Edge of Nowhere」デモ版。ほんの5分ほどの体験の中に、高所を命からがら渡っていくスリル、暗闇の恐怖、未知の存在に対する不気味さ、そして巨大なモンスターの迫力……といった様々な体験が詰め込まれ、非常に密度の濃い作品となっていた。製品版でどれほどグレードアップするか、見てみたい。

(佐藤カフジ)