ニュース

世界制覇を目指す「モンスターハンター」の確かなローカライズ戦略

ゲームが良いだけでは売れない! ウェスタンゲーマーが満足するローカライズとは?

3月14日〜18日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

 「モンスターハンター」シリーズと言えばカプコンの代表作であり、日本では「ドラゴンクエスト」や「ポケットモンスター」に並ぶような存在の人気フランチャイズだが、海外ではそれほど人気ではないのはご存じだろうか。

日本を代表する人気シリーズの「モンスターハンター」だが、海外ではまだこれからのフランチャイズ
「Monster Hunter 4 Ultimate」ローカライズディレクターのアンドリュー・アルフォンソ氏
アルフォンソ氏は9年間カプコンでローカライズ業務に携わってきたローカライズのプロ

 その理由はメインプラットフォームだったPSPが欧米ではあまりヒットしなかったことや、実際に集まって遊ぶというスタイルが受け入れられなかったなど諸説あるが、ローカライズのクオリティの低さにもその原因があったことが明らかになっている。

 現在、プラットフォームをニンテンドー3DSを変えて、再び世界進出を目指す「モンスターハンター」シリーズだが、2015年2月に北米で発売された「Monster Hunter 4 Ultimate」(邦題:「モンスターハンター4G」)は、米国で63万本(VGChart調べ)と、尻上がりに数字を伸ばしていることが報告されている。今回のGDCでは、その理由について、ローカライズディレクターの奮闘ぶりが報告されたのでお伝えしたい。

 セッションスピーカーを務めたアンドリュー・アルフォンソ氏は、カプコンの大阪本社にあるグローバル開発推進室でローカライズディレクターを担当している。英語と日本語を操るカナダ人で、9年前にカプコンに入社し、「ロックマン」シリーズや「デビルメイクライ」シリーズ、「ストリートファイター」シリーズなど様々なローカライズを担当。今回、「Monster Hunter 4 Ultimate」(MH4U)でローカライズの要となるローカライズディレクターを務めた。

 ローカライズディレクターは、海外のゲームファンに向けて魅力的でストレスのないゲームを届けるのがその仕事となる。アルフォンソ氏は「MH4U」のゴールとして、ハイクオリティのローカライズ、現地スタッフの育成、ゲームそのもののリファイン、プロモーションの強化の4つの目標を掲げた。

【ローカライズディレクターとは?】

 実はローカライズについては、過去に苦い想い出があった。「Monster Hunter 3 Ultimate」(Wii/3DS)では、そのローカライズのクオリティが北米メディアに酷評されていたのだ。問題は単純な文章の翻訳だけでなく、冗長になりがちな日本語表現をわかりやすく簡潔な営業表現に置き換えるか、「モンスターハンター」シリーズのファンだけが理解できるような略語表現をどのように初心者にも伝えていくか、読みにくいとされる3DS版のフォントをどうするかなど多岐にわたった。

 過去、「戦国BASARA」のローカライズでは、タイトルを「Devil King」に変え、主役級キャラクターの織田信長をDevil King、伊達政宗をAzure Dragonに変更するなど、抜本的なローカライズを行なったこともある。

【「MH4U」のゴールと、酷評された「MH3U」】

【「MH3U」の問題点】

【カプコンのローカライズ体制】

 こうした点を踏まえ、アルフォンソ氏はローカライズディレクターとして「MH4U」を「MH3U」より100倍優れたタイトルにするために、大胆なカルチャライズプランをプロデューサーの小嶋慎太郎氏に提案することになる。

 具体的には、あまりテンポが良くない序盤のチュートリアルを幾つかまとめてペースアップを図ったり、モンスターサーチの欄において、実際のバトルにあまり意味のないテキストの代わりに、モンスターのダメージマップを置いたり、説明書きはローディングの間に読ませるようにして、初心者でも手に取りやすいわかりやすさとペースアップを目指していく。

【過去のカルチャライズ例】

【「MH4U」の革新的なカルチャライズプラン】

 筆者は講演を聴きながら思わず、「おー、凄いな、売れたはずだ」とつぶやいてしまった。日本から海外、海外から日本、いずれのパターンにおいてもここまでの工数を掛けてローカライズを行なうケースはほとんどないからだ。

 と思ったら、これは筆者の早合点で、この提案は小嶋氏より丸ごとリジェクトされる。理由は予算的にもスケジュール的にも許容できる範囲を超えていたからだ。しかし、アルフォンソ氏はここで諦めず、目標をホームランではなくヒットに切り替えて、日本流のネゴシエーションに力を注ぐことになる。

【しかし、リジェクトされる】

【そこで考え直す】

 それは日本はトップダウンではなく、全体の合意を大事にする風土があるため、開発スタッフのひとりひとりとコミュニケーションを取り、最終的にディレクター、プロデューサーと全員の合意を取り付けることに成功する。特に小嶋プロデューサーには毎日通い詰め、カルチャライズの必要性を説明したというから凄い。彼もまさにゲームクリエイターだ。

 新しいプランは、効果が明白で、コストの掛からないリファインプランに絞った。具体的には、「MH3U」のユーザー層が19〜34歳の男性ミッドハードコアゲーマーが90%を締めていたことから、メインターゲットはゲームに慣れており、限られた時間でテンポ良く遊びたいと考えているはずだと分析。

 そこでまずはテンポアップを図るために、チュートリアル後のお決まりのダイアログ「もう一度聞きますか? はい、いいえ」のデフォルトを「いいえ」に変える。これにより、メッセージを飛ばし読みしたいがためにボタンを連打するユーザーが、デフォルトの「はい」を押してイライラすることがなくなる。ちなみに「MH4U」には、このダイアログが80回も登場するという。そしてダイアログの早送りやスキップ機能も搭載した。

 次に略語をできるだけ使わずに誰が見てもわかる表示を心がける。この結果、メニューデザインの一部が変更されており、アルフォンソ氏の熱意に開発陣が根負けしたという印象である。また「捕獲」、「火」のような漢字ならではの簡潔な表現を英語に置き換えると「Capture」、「Fire」となって長くなりすぎることから、すべてアイコンに置き換えた。さらにビギナー向けに必要と思われる箇所については追加のダイアログを用意するなど、ウェスタンゲーマー(欧米ゲーマー)がわかりやすいゲームを心がけた。

 なお、チュートリアルメッセージをポーズできないことや、ターゲットカムが自動起動してしまうこと、遠距離武器では常に照準が表示されてしまうことなど、いくつかのやり残したこともあるという。これは次回以降の課題になるようだ。

【「MH4U」で具体的に導入した施策】
「もう一度聞きますか? はい、いいえ」のデフォルトを「いいえ」に
ダイアログを調整可能に
略語を減らす
「捕獲」タブをアイコン表示に
「火」をアイコン表示に
ビギナー向けの追加のダイアログ
やり残したこともある

 4つ目の目標となるプロモーションについては、Nintendo eShopを通じて配信した体験版に焦点を絞り、まだ海外では認知の低い「モンスターハンター」の最新作として、ビギナーでもわかりやすい紹介を心がけた。

 また、体験版においても限られたチュートリアル機能をオンオフできたり、ウェイポイントを付けたりなど、さらにわかりやすく改良を施している。さらにTwitterでは日本の「モンハン部」を意識した「#DidYouKnowMH campaign」を展開し、ビギナー向けを意識したショートムービーなどを公開、YouTubeではゲームプレイ映像を積極的に公開していった。

【プロモーション施策】

 これらのプロモーション施策の結果、「MH4U」は高い評価を受け、とりわけ40%のメディアがローカライズの素晴らしさについて言及するなど、意図したとおりのゴールにたどり着くことができた。

 アルフォンソ氏は、この結果を受け、現地スタッフのローカライズノウハウが蓄積できたほか、「モンスターハンター」開発チームからの信頼度があがり、ローカライズ周りのリクエストが承認されやすくなったという。

 今後もカプコンのローカライズチームでは、ローカライズのクオリティを挙げるために、技術的な能力を上げていくと共に、開発プロジェクトのスタートに合わせてローカライズチームを立ち上げることや、常に欧米ゲーマーを意識したリファインの提案などを目標として掲げた。

【素晴らしい結果】

 アルフォンソ氏はまとめとして、ローカライズの要諦として、現地のゲームのように感じて貰える優れたローカライズを目指すこと。ローカライズディレクターは、海外マーケットで利益を上げるためのナビゲーター的な存在であること。チームの環境に適応すること。ゲームを変えることではなく、計測可能な要素に目を向けることなどを挙げ、最後にもっとも重要なこととして「諦めないこと」を挙げた。

 必ずしも社内的に立場が強くないローカライズディレクターならではまとめ方で、非常に参考になった。現在、アルフォンソ氏自身は、「モンスターハンター クロス」ではなく、未発表の新規タイトルのローカライズディレクターとして活動しているという。強力なローカライズチームを擁するカプコンの海外展開が今後どのようになるのか楽しみだ。

【まとめ】
諦めないこと!

(中村聖司)