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大会屈指の名勝負!「WGL APAC Season 1 Finals」レポート

アマチュア、プロを屠る。Caren Tigerが挑んだ最後の戦いに密着!

この日の対戦表

 8月22日と23日の両日、韓国・ソウルにて「World of Tanks」のアジア・パシフィック地域におけるシーズン1王者を決定する戦い、「Wargaming.net League(WGL) APAC Season I Finals」が開催された。

 大会2日めの23日には、前日の試合結果を受けて決勝戦および3位決定戦が実施。決勝戦はEL Gaming対KONGDOO、3位決定戦はReforn Gaming対Caren Tiger、という構図だ。

 見どころはもちろん、日本から出場のCaren Tigerがどのような戦いを見せてくれるかだ。中国や韓国からプロチームが集まるなかで、唯一Caren Tigerだけがアマチュアのチーム。チーム体制の違いは、特に練習量の差となって現われる。あくまで「遊び」の延長として「World of Tanks」をプレイするCaren Tigerは、いつもユニークな作戦で勝利を目指してきた。今回、中国のプロチームであるReforn Gamingとは初顔合わせとなるが、果たして?

 もうひとつの見どころは決勝戦。このカードは昨年のシーズン2から3シーズン連続で実現した組み合わせで、昨年は両チームともチーム名が異なり「Elong対Arete」ではあったが、過去2回の決勝対決ではいずれもAreteが勝利してきている。果たして今回も同じ結果となるのか? それとも、世界大会2位という実績を残したEL GamingがAPACの新王者に君臨するのか?

会場となったYongsan e-Sports Stadium。前日以上に大勢のファンが集まり、試合の行方に注目していた

Caren Tiger、良さを引き出す積極攻勢でReforn Gamingとの接戦を制す!

前日とは打って変わってリラックスした雰囲気のCaren Tiger
2両のLTTBで広い視界を確保。配置を確認して戦力を集中する作戦だ
的確な戦力展開で優勢を維持。

 前日の試合結果を受けて、Caren Tigerが臨むのは3位決定戦。対するは中国サーバー王者のプロチーム、Reforn Gaming。昨日の試合でReform Gamingは、EL Gamingを相手に一進一退の好勝負を展開した。間違いなくAPACエリアトップレベルの実力を持つチームだ。

 第1マップは「Himmelsdorf」。積極的な戦術を好むCaren Tigerは、攻勢でこそ持ち味が活きる。攻撃側でスタートした第1~第2ラウンドでは、索敵能力に優れたLTTBを2両展開。メイン火力を供給する重戦車5両はマップ全体に広く散らばる格好だ。

 攻撃側のセオリーは戦力を集中させること。それを真っ向から否定するかのような初期配置にハラハラしてしまったが、2両のLTTBがReforn Gamingの車両をひと通り発見すると、素早く戦力を集中し始めた。素早い連絡と移動で数的優位を作り、敵が対応するよりも速く少しでも多くダメージを与えていく作戦のようだ。

 Reforn Gamingはこれにうまく対応できない。Caren TigerがReforn Gamingの連絡線を分断し、合流を難しくさせるような配置で押し上げてくるためだ。わずか数秒でも不利な状況を作られると大きな差となって現われるのが本作の砲撃戦。Caren Tigerは射線に入った敵車両に集中攻撃を浴びせ、効果的に戦力差を開いていった。

 こうして攻撃側2ラウンドを危なげなく勝利したCaren Tiger。防衛側でも似たような作戦で、2両のLTTBで敵の配置をいち早く確認、積極的に迎え撃つ形でさらに1ラウンドを取得した。Reforn Gamingも3ラウンド目ではかろうじて勝利したものの、4ラウンドを終えての折り返し地点でラウンド取得数3ー1とCaren Tigerが大きくリードする。

Reforn Gamingも形を変えて応戦するが、最終的にはCaren Tigerの機動が上回った
息の合ったフォーカス射撃。防衛側でもペースを握る
遊撃役としてカギを握ったopelisk選手
敵戦車のエンジン炎上を誘発すると会場からは大きな歓声が起きた
第2マップは攻撃側の自走砲がカギとなった
奇策投入のRhm.-Borsig Waffentrager、交戦前に自走砲火で半死半生
opelisk選手操るM44自走砲が大活
自走砲+戦車2両による見事なフォーカス

 マップ「Lake Ville」で迎えた後半戦。先日のベスト4マッチでKONGDOOに対して何もさせてもらえなかった記憶がよみがえる。しかし先攻するのはReforn Gamingだ。進行ルートの限られたこのマップ、しっかりと守りを固めれば手堅く勝てるかと思われた。

 しかしそうはいかない。Caren Tigerの持ち味はあくまでもセオリーの斜め上を行く作戦。防衛側であっても同じで、引きこもって普通に守るというのは滅多に見られないチームなのだ。特にこの試合、試合前に余裕の笑顔すら見せていたCaren Tigerのメンバーたち。ダメ元の奇策に出た。

 防衛側で迎えた第4ラウンド、Caren Tigerは「Rhm.-Borsig Waffentrager」を1両投入。MAUS並みの15cm砲を搭載し、当たれば750~950ダメージを叩き出すという火力特化型のドイツ駆逐戦車だ。防御力はないに等しく、再装填時間も長い。およそクラン戦では滅多に見れないというネタ兵器だ。

 これに対してReforn Gamingは自走砲「FV304」を投入、曲射砲の遠距離攻撃能力を活かして防御陣の破壊を狙う。そしてReforn Gamingが1度Rhm.-Borsig Waffentragerを視界に収めると、FV304を操るRG_YU選手はそれに攻撃を集中。哀れCaren Tigerのサプライズ兵器は交戦前に自走砲に叩きのめされてしまった。作戦不発となり、Caren Tigerはこのラウンドを落とす。

 続く第6ラウンドではうってかわり都市ゾーンへの突貫作戦を選んだCaren Tiger。相手が自走砲を入れてくるなら正面火力では勝てると踏んだのだろう。しかしReforn Gamingは一枚上手、これを最初から読んでいたかのように都市ゾーンは最小限の戦力で足止めしつつ、快速軽戦車部隊がマップ逆側から陣地占領を狙う作戦をとった。

 ほぼ全戦力を都市側に集中していたCaren Tiger、はるか遠くの陣地が占領開始されたことに気づいたときにはもう遅く、まともに占領タイマーをリセット(占領中の車両にダメージを与える)することもできないまま、占領を許してこのラウンドをも落とす。これでラウンド取得数は3-3のタイとなった。

 そして第7ラウンド、攻撃側となったCaren Tigerは敵方と同じく自走砲を投入。ただし車種は「M44」。「FV304」よりも射程が長く、ほとんどマップ端から端までカバーできる自走砲だ。弾頭の飛翔時間が非常に長いため、当然ながらきっちり命中させることは難しい。

 しかしそこは「アジアで1番の自走砲乗り」と言われるOpelisk選手、前線部隊から得られる僅かな視界を頼りに、次々に攻撃をヒットさせる。第6ラウンドでは守りを固めるReforn GamingのT-32(砲塔が異常に固く、ハルダウンしての防衛戦に有利)に直撃弾による大ダメージを与え、相手の防衛作戦を完全に狂わせることに成功した。これでラウンド取得数は4-3とリード。試合の勝利にリーチとなった。

 そして迎えた第8ラウンド。試合の流れは第6ラウンドと似たものになったが、Reforn Gamingは丘を利用して自走砲から身を守る位置に3両の重戦車を配置するなど、自走砲を警戒する動き。Opelisk選手もすぐには直撃弾を与えられなかったが、前線部隊が交戦を始めると、敵も多少は機動する必要が出てくる。そこへ的確な至近弾、直撃弾。Opelisk選手がこのラウンドでもゲームメーカーとなって接戦を有利に導いた。

自走砲の直撃が連発、T-32に大打撃
混戦でもopelisk選手の自走砲が的確に命中

 しかしReforn Gamingも、自走砲の射線から逃れる形で強力に応戦。前線部隊同士の打ち合いはほぼ互角で推移していった。そして互いに互いを撃破し続け、最後はRenno選手操るIS-3と、RG_M1選手操るT-54 ltwtだけが前線に残された。どちらも間違いなくあと1撃で終わる、瀕死の状態だ。

 無傷で残っていたOpelisk選手は前線が1対1になったと見るや、全力で敵に向かって急行、自走砲の直接照準射撃で撃破を狙うが惜しくもはずれ、そのままラミング(体当たり)に行くがこれもはずれてしまい、あっさり撃退された。そして戦場に残されたのはたった2両。先に1発当てたほうの勝ちである。

痛恨の体当たり失敗から最後の1on1へ
最後は1on1。いずれもワンショットキルとなるHPで読み合い

 残り時間はまだたっぷりある。Reforn Gamingで最後に残されたRG_M1選手は陣地の占領を開始。これでCaren Tigerで唯一生き残ったRenno選手は時間切れを狙うことが不可能になった。どちらかが破壊されることで決着をつけるしかない。

 占領ポイント近くの家屋を挟んでのにらみ合いへ。ちらりと見えた瞬間の射撃は、互いにギリギリのところで外した。会場からはどよめきか、嗚咽のような声が漏れた。互いに動きを止める。次に見えた瞬間、先に撃ったほうが勝ち。ここでRenno選手が動いた。1度相手を誘っておいて、その逆側から慎重にアプローチ。対するRG_M1選手はぴくりとも動かず、最後にRenno選手を捉えたサイドを狙い続けている。勝負あり。

 Renno選手の忍び寄っての一撃が決まり、Caren Tigerがこのラウンドを勝利した。固唾を飲んで見守っていた会場も、このギリギリの接戦を制したCaren Tigerに盛大な拍手と歓声を送る。これがおそらく、本大会で最も盛り上がったシーンとなった。

 こうしてCaren Tigerは、プロチームReforn Gamingを下し、「WGL APAC」決勝大会での日本勢初勝利を達成。アジアサーバーにCaren Tigerあり、その存在感をこれ以上ない形でアジア・パシフィックの全プレーヤー達に示して見せたのだ。

 これで、個性的な作戦を次々に繰り出すCaren Tigerのプレイスタイルはより広く知られ、国際的にファンを獲得できるに違いない。日本最強のアマチュアチームは、この勝利によって次なるステップへと進んでいくことができる。

Renno選手、読み合いに勝ち見事な勝利を引き寄せた
決勝大会での初勝利に喜びを爆発させるCaren Tigerの選手たち

EL Gamingはどこまで行くのか?! 圧倒的展開でKONGDOOを一蹴

ついに迎えた決勝戦
正確無比のフォーカスショットがKONGDOOを襲う
あれよという間に囲い込み、瞬時に敵を片付けていく

 決勝戦では、アジアサーバー最強のEL Gamingと、韓国サーバー最強のKONGDOOが対決した。白熱した3位決定戦とはうってかわり、こちらは驚くほど一方的な展開となった。

 結果から言うと、3マップ12ラウンド制で行なわれた決勝戦は、ラウンド取得数7-1でEL Gamingが圧勝。しかもそのうち3ラウンドで、EL Gamingは1両も失うことなく完全勝利を果たしている。ラウンド取得数で差がついた数々の試合の中でも、ラウンドの内容でもここまで差が付いた例は、これがおそらく大会史上初のことではないだろうか。しかも決勝戦でである。

 マップ「Steppe」で迎えた第1戦で、攻撃側スタートとなったEL Gamingは自走砲「SU-8」を投入しつつ主力の積極展開でKONGDOOの防衛線をマップ東側に拘束。得意の接近戦に持ち込むと正確無比な集中砲火で次々とKONGDOOの戦車を破壊していく。

 EL Gamingは防衛側に回っても目の覚めるのような作戦を見せる。オートローダーの軽戦車「AMX 12t」をマップ端の茂みに潜ませつつ主力がKONGDOOの攻撃を引きつけ、完璧な伏兵アタックを成功させる。撃ち合いが始まればもう、KONGDOOにとって勝ち目のない形が次々と作られていた。

マップ端の伏兵。KONGDOOは全く気づかずに通り過ぎていく
主力の接触に合わせて背後からめった打ち。そしてパーフェクト勝利
地域決勝レベルでこの形に持ち込めるチームは世界にも稀だろう
圧倒的すぎる展開にKONGDOOのリーダーも苦笑いを漏らす
相手が気の毒になるほどの集中砲火

 第2マップの「Himmelsdorf」でもこの勢いは止まらない。このレベルの試合で、このレベルの相手に、占領ポイントへのラッシュ作戦をストレートで成功させられるチームがどれだけあるだろうか。一糸乱れぬ動き、外れることを知らない集中砲火。プレイの節々でとてつもないレベルの高さを見せつつ、EL Gamingはラウンド6まで連勝。

 このままストレート勝利をおさめるのかと思われたが、ラウンド7で作戦が不発に終わった模様となり、泥臭い撃ち合いでようやく1ラウンドを落とす。しかし続く第8ラウンドでは0ラインラッシュに出たKONGDOOの作戦を完璧に受けとめ、全車両生存のまま殲滅勝利と圧倒。こうしてラウンド取得数7-1となり、EL GamingがKONGDOOを退け、優勝を決めた。

 EL Gamingは、4月にワルシャワで開催された世界大会で準優勝を果たしたのち、さらにどれだけ実力を向上させたのだろうか。KONGDOOとの試合ではあまりにも大きな差となっていたため、計り知ることすらできない。あらゆるパターンで相手の動きを知っているかのような迷いのなさ、むしろ相手を好きに誘導するほどの余裕。創りだした有利な状況を、一糸乱れぬ集団運動と、機械じみた正確さの集中砲火で確実なものにする。

 こうして、「WGL APAC」の決勝大会で1年続いたKONGDOO(Arete)の天下は終わり、EL Gamingが文句なしの新王者として君臨することとなった。

 新王者に対して何もできずに敗北したKONGODOO、そのKONGDOOに圧倒されたCaren Tiger。これから続くシーズン2、シーズン3に向けて、「World of Tanks」のアジアトップを巡る戦いはますますレベルを上げていく。

最終ラウンド。EL GamingはKONGDOOの0ラインラッシュを知っていたかのような動きで対応
度々素晴らしい裏とりを見せていたReflection選手。すべての動きが連動して敵を追い詰めた

(佐藤カフジ)