ニュース

奇才SWERY氏が語る「D4」が目指した“感覚再現を用いた感情移入”

PC版「D4」を初披露! 「D4」本編もストーリー継続に意欲

3月2日~6日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

 純国産のXbox Oneオリジナルタイトルのひとつ「D4 Dark Dreams Don't Die」。日本ではローンチ直後の東京ゲームショウに合わせて発売が開始され、Xbox Oneユーザーを喜ばせた。今回のGDCでは、「D4」を世に送り出した日本人ゲームクリエイターSWERY氏が、「D4」を通じて実現を目指した“感覚再現を用いた感情移入”についてレクチャーした。

 会場にはゲーム開発者というよりは、“SWERY氏のファン”が数多く詰めかけ、セッション終了後は「Deadly Premonition」(邦題「Red Seeds Profile」)のパッケージを手にサインの列ができた。なお、セッションの後半では、このセッションのために用意したというPC版「D4」を初公開したほか、ファンからの質疑応答にも答えていたのでそれらをまとめてお伝えしたい。

【D4 "DARK DREAMS DON'T DIE" - Mega64】
SWERY氏は、セッションの冒頭に「D4」のMega64ムービーを再生。現実世界で「D4」を再現してみるというMega64らしい企画で、おもしろがったり、不審がられるどころか、罵声を浴びせられたり、警察を呼ばれたりと爆笑必至な内容。これをあえて見せるところがSWERY氏らしい

「D4」クリエイターのSWERY氏

 SWERY氏は、セッションの冒頭、「『D4』は本来、彼女と一緒に気軽に遊べるゲームを目指していた」と告白し、実際にはKinectによるモーションコントロールを使ったQTEシーンを楽しむゲームになったため、その願いは叶えられなかったものの、ゲームファンがゲームに対して感情移入して貰うことには成功したのではないかと自負を覗かせた。

 今回のタイトルともなった「感覚再現を用いた感情移入(SENSORY REPLICATION)」は、SWERY氏が開発前に模式図を作ってスタッフに見せることで、ゲームを作ってくれると思っていたがうまくいかなかったという。

 個性的なキャラクターとして知られるSWERY氏だが、GDCでのセッションも講演時間は60分しかないのに、65個ものレクチャーポイントを用意し、いくつかいい加減な内容も含め、途中を飛ばしながらなんとか最後まで行き着くというSWERY氏らしい“奇天烈”なものだった。

【「D4」における理想と現実】

【模式図と65の項目】

 65項目をいくつかの属性に分類すると1つは、「自分の行動を口に出してみる」、「他人を詳しくメモしてみる」、「メモ帳は手放さない」、「ユーザーの失敗をマイナス評価しない」、「実現不可能なことを目標にしよう」などなど、ゲームクリエイターとしての心構え。SWERY氏は非常にストイックなゲームクリエイターであり、直感や天啓に頼るのではなく、日々の活動の中にこそゲームのアイデアがあると考えるタイプのクリエイターのようだ。

【クリエイターに贈る言葉(一部)】

 もうひとつは、「シンボル化しよう」、「ドラマを楽しむ余裕を残そう」、「予兆が大事」、「入力とフィードバックを一致させよう」、「不必要なモノこそ必要」、「キャラクターには二面性が必要」などなど「D4」を引き合いに、感覚再現を用いた感情移入を実現するためのテクニックに関する解説。

 たとえば「シンボル化する」、「ドラマを楽しむ余裕を残す」というのは、QTEに関して、初期構想では、体を大きく使ったモーションコントロール、画面一杯に表示された複雑な動きのQTEシーンを取り入れていたが、すべて破棄し、何をさせたいかをハッキリさせた上で、シンプルなアクションでそれが実現可能なように改良されている。「予兆が大切」も同様だ。「D4」で、いきなり唐突にQTEが始まっても対応できるようになっているのは、さりげない予兆が挿入され、身構える時間があるからだ。

【「D4」に直接関連したアドバイス】

 その一方で、SWERY氏は、「カッコつけてテキーラを飲もう」、「ロリポップキャンディはお友達」、「彼女はシャラポア」、「バランスボールを導入しよう」、「バランスボールの必要個数」、「バランスボールの上での眠り方」など、“比較的どうでも良い話”も織り交ぜ笑いの絶えないセッションとなった。

 SWERY氏は、「最終的に決めるのは自分」と、しっかり手綱を握るタイプのクリエイターだが、「みんなで映画を見る」、「自分たちのゲームをチームで評価する」、「朝まで飲む」、「チーム内で流行語を作る」など、チームプレイも重視する姿勢を明確にしている。その一方で「怒られたら逆ギレ」、「人の意見に流されない」、「やりたいことだけやろう」、「自分のアートスタイルは守ろう」といったこだわりも持っている。

【バランスボールが好き】

【チームプレイも重視】

 この65項目を通じてSWERY氏が伝えようとしていることは、実際に行動したり、試したり、あるいは第三者の行動をメモすることで、自らの感覚を養い、研ぎ澄ますことができ、その感性をゲーム開発に役立てようという考え方となる。SWERY氏によれば、「テキーラを飲む」こともその大事な行動のひとつということで、何事も自分で体験することはゲーム開発に役立つと考えているようだ。また、65番目の「自分で考えろ」は、いかにもSWERY氏らしい結論と言える。

 そしてセッション後半、SWERY氏は、この感覚再現は、Kinectがなくても実現できると切り出した。マウスを使ってでもできるということで、突然マウスで動作するPCバージョンのデモを行なった。これは今回のセッションのために作成した特別バージョンで、今のところ商用化は考えていないということだが、PAX Eastにも出展予定で、ユーザーの反響次第では発売も考えると言う。

 SWERY氏は、3Dマウスを使ってトイレのふたを開け閉めしたり、コーヒーを飲んだり、フォーチュンクッキーを試したりしていた。家に入るや否や襲いかかってくるアマンダのQTEも難なくあしらい、無事捕捉。ゲームを作り込むことで、Kinectのようなナチュラルデバイスがなくても感覚再現は可能だという。

【PC版「D4」】
突如公開されたPC版「D4」。SWERY氏はあくまで今回のセッション用のものというが、UIも対応しており、すでにかなり作り込んでいることがわかる

 その後は“ファン”からの質疑応答になった。主なものをまとめてお伝えしたい。

――SWERY氏のゲームはストーリーが非常にユニークで個性的だが、どこからインスピレーションを得ているのか?

SWERY氏:
僕の場合は、生活の中で、色んな人に出会ったときにメモを取る。それをゲームに取り入れるのが1つ。また、僕が住んでいた大阪の下町は、右を見ても左を見てもおもしろい人が沢山いる。そういう人たちを小さいときから見てきた経験も生きていると思います。
――個性的な世界の作り方は?

SWERY氏: まず舞台を作って、次にその舞台に出てきそうな場所と人が同時に生まれてくる。その上でキャラクターが生まれてから今までの時系列の年表を作る。シナリオを書き始める時点ではその年表は埋まっていなくていいので、シナリオを書きながら年表を足していくという作業を交互に繰り返していくことで、キャラクターに深みを出していくことができる。

 キャラクターと世界はある種同時。キャラクターは、世界をリサーチした結果、生まれてくるもの。たとえば、「Deadly Premonition」だったらワシントン州シアトルにある田舎町をモデルにして、リサーチしてその結果生まれてきた建物やキャラクターがいます。「D4」もボストンで同じ事をしています。

――VRについてどう思うか?

SWERY氏:かなり興味があって自分でも持っている。VRについて自分が考えているVRのビジョンも持ち始めている。VRは体験なので、よくある景色を見せるものではなくて、体験と呼びうるものを探しているところ。体験として、いま脳内にあるのは、迷子体験、のぞき見体験は、他のクリエイターより、僕がやったら得意そうだなというイメージを思っている。景色を見るだけでは無く、その中に体験を生まないとダメだと思っています。

――「D4」でボストンを選んだ理由は?

SWERY氏:2つ理由がある。1つは「Deadly Premonition」が田舎町だったので、もう少し都会の物語を作ろうと思った。2点目としてタイムトラベルというキーワードが頭にあったので、その設定を活かすためにはアメリカの中でも歴史の古い町で、今都会になっているところを探しました。

 講演終了後に、筆者も質問してみた。一番気になっていたのは、「D4」そのものの今後の展開だ。この点についてSWERY氏は、開発元の立場からはまだ何も言えないとしながらも、まだ多くの物語が残されており、提供の仕方を探っている様子だった。また、今回発表されたPC版については、残念ながらWindows 10向けに開発された最新バージョンというわけではなく、とりあえずKinectの代わりにマウスでも遊べるようにしたWindows 8.1対応のDirect X9バージョンで、PAX Eastでのユーザーの反応を見ながら商用化について検討していきたいという。

 そしてSWERY氏の次回作については、「僕はそんなに仕事早いですよ。いくつか話を頂いているのは事実ですが」と控えめに語り、今年も引き続き「D4」に関する仕事がメインになることを明かしてくれた。まだまだ制作意欲は旺盛なようで、「D4」のアップデートおよび、SWERY氏自身の今後の展開に注目していきたいところだ。

(中村聖司)