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アートディレクター吉田明彦氏が語る“斜め45度から見た世界”へのこだわり

吉田氏にとって重要なのは「“斜め45度”から見たときにどう映るか」

吉田氏にとって重要なのは「“斜め45度”から見たときにどう映るか」

施設のラフスケッチ
施設の完成図

 次のスライドは、芝生の上に置かれる施設のラフスケッチが披露された。これら施設も吉田氏が描いている。岡田氏がこの施設について「ノアがバトル中、巨大化して登場するが、これをアニマと呼んでいて、この施設をアップグレードすることで強化を図ることができる。施設自体をレベルアップでき、見た目も変わる。最終的にはかなりごつくなる。黒くて尖っているみたいな(笑)」と説明。

 これに対し吉田氏は、「デザインしたときはアニマという設定はなくて、単に魔法を使う施設だった。魔法を使う施設ということで、最後は凄い黒魔法が出てくるのかなということで、ちょっとごつごつさせたんですけども」と釈明し、元々のデザインコンセプトは“魔法使いの帽子”をイメージし、入り口が目、屋根が黒魔道士の帽子風になている。

 続いてイラストのモデルデータとライティング、それらを組み合わせた完成図が披露された。印象的なのは、3Dモデルの高さがやけに高く、高々とそびえる“魔法タワー”になっているところだ。

 これについて吉田氏は、「イラストの通りにモデル化していったら、ずいぶん潰れたモデルになってしまって、イメージと違っていた」と切り出し、その理由について「斜め45度のパースに合わせて描いていなかったため」とし、現場のモデラーに斜め45度での見た目に合わせて調整して貰ったという。

 レタッチの指定は、「昔のディズニーの背景っぽい質感、『白雪姫』の背景ようなイメージと依頼したが、その後作られたモデルがどうかというと必ずしもそういうわけでもない(笑)」と若干の不満を口にした。

 皆葉氏がイラストを見ながら「葉っぱ一枚、河原一枚にもこだわりを感じますね」と話を向けると、吉田氏は「そこは解像度をプログラマが頑張ってくれた成果。面積を4倍にしたら凄く表現力が上がった」と満足げに語り、皆葉氏が「普通、逆ですよね(笑)」と冷静に突っ込みを入れると、「これまでコンシューマーゲームを作る時は、容量抑えてといっていて、やりくりするところに喜びを感じていたが、今作は逆で、プログラマにもうちょっと行けるでしょと、プログラマ泣かせだったと思う」と認めた。

 こうした工夫の結果、「リトル ノア」では、画面をズームしてもかなり高いテクスチャ解像度で地形や施設が描かれるが、吉田氏は「これでもギリギリ。施設は足りてる。贅沢を言ったらもっと欲しかった」と不満を口にし、笑いを誘っていた。

 これを受けて岡田氏は「スマートフォンは大きい解像度でも表示されちゃったりするが、GPUはそんなに性能高くないので実は内部的には悲鳴を上げていたりする。今回は高画質版と通常画質版の2つを用意し、低スペックのものでも遊べるようにし、高スペックのユーザーは高画質で楽しめるようにする形でなんとか落とし込んだ」とプロデューサーとしての苦労を語った。

皆葉氏がデザインしたボス「鉄巨人」
3Dモデル
疑似スペキュラ

 3つ目のテーマ「リアルタイムモデルとの差異をなくすための努力と検証」については、「リトル ノア」で最初に出会うボスモンスター「鉄巨人」のリアルタイムモデルが大きくフィーチャーされた。実はこの鉄巨人、描いたのは皆葉氏だという。

 皆葉氏は「あまり触れられたくない(笑)」と言いながら、その経緯について、もともと「グランブルーファンタジー」向けにデザインしたものだが、可愛すぎるということでボツを食らったため、「リトル ノア」で復活させたという。ただ、吉田氏によれば、「リトル ノア」のものは“頭無し”バージョンだという。皆葉氏は「そこが僕はさみしい」と語ると、吉田氏は「今後出てくるかも知れない」とフォロー。今後、皆葉氏が「リトル ノア」に何らかの形で参画することがあるのかもしれない。

 ちなみにこの鉄巨人、モデルの凹凸を意識した陰影を付ける「アンビエントオクルージョン」や真上からのライティング結果を反映させた「ディレクションライト」、そして金属風の照り返し表現をフェイクで実装する「疑似スペキュラ」など、リアルタイムレンダリングのキャラクターとしてはかなりリッチなエフェクトが適用されている。

 吉田氏はこれらの監修も行なっており、その狙いについて「1つは小さいユニットはプリレンダーなので、それとの差異をなくすためにライティングを自動化し、質感を揃えようと言うこと。もう1つは、色んな方々がモデルを作ることになると思うので、作り手のクセがあまり出ないように、仮に出てもライティングの陰影で差異が吸収され、結果として同じようなクオリティのものが作れるように」と語り、コンテンツの量産化に向けた施策であることを明らかにした。

 皆葉氏は「スペキュラを当てるとCG臭くなっててかり過ぎちゃうことがありますが、これは良い感じになっている」と褒めると、スペキュラを担当した谷本氏は「キャラリーダーとエンジニアと試行錯誤して、ハイライトのかけ方などを調整していった」と応じ、「実際、ボスなのでかなり大きいモデルになっていて画面映えする。リアルタイムで動くので、ハイライトもグリグリ動くので、結果として疑似スペキュラ適用前より質感があがって採用して良かったな」と語った。

(中村聖司)