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【CEDEC 2014】雑用ばかりの「プランナー」から脱するには?

「ゲームの面白さ作り」に特化する専門職業としての「ゲームデザイナー」の話

9月2日~4日 開催



場所:パシフィコ横浜



参加費:15,000円(デイリーパス)~

ゲームデザイナーの下田賢佑氏。裏でUnity 5の講演が行なわれていたが、立ち見が出るほど盛況だった

 ゲーム企業の中で「プランナー」というと、企画屋のようなイメージがある。だがその実態は、企画立案以外にも、プロジェクトのマネージメント、デバッグ、雑用などもこなさないとならない。

 そのような「プランナー」の存在に対して、異を唱えたのがCEDEC 2014初日に開催された「脱『プランナー』~ゲームデザイナーの仕事~」という講演だ。登壇したのは、ゲームデザイナーの下田賢佑氏。自身もプランナーとしてキャリアをスタートさせたというが、現在ではゲームデザイナーとしてスマホ用タイトルの「バーコードフットボーラー」や「ファイナルファンタジー アギト」などの制作に関わっている。

 「ゲームを作る」のが本来の仕事であるにも関わらず、雑用ばかりを引き受けてしまうような「プランナー問題」に対し、下田氏はゲームを作る専門職としての「ゲームデザイナー」への道を提案する。講演では下田氏がキャリア形成の中で感じてきたことや、ゲームデザイナーになる方法が示されていった。

専門分野に特化しないプランナーの問題点とは?

日本のゲーム企業に潜む「プランナー」問題が講演のテーマ

 そもそも下田氏は、「ゲームデザイナーになりたい人にゲーム会社への就職を勧められない」という問題意識を持っていたという。ゲーム会社に就職したとしてもプランナーとしてキャリアがスタートし、ともすれば雑用を引き受け続け、専門スキルを持たないまま勤続年数が伸びていってしまう。

 この「プランナー」の問題は、仕事の範囲が広いことが問題なのではなく、それぞれの仕事に関連性がないことが最大の問題だと下田氏は話した。ゲームデザイン的な仕事を求められる一方で、プロジェクトのマネージメントもしなくてはという場合もあるが、これは本来は全く別の仕事になる。むしろ「ゲームデザインとマネージメントは衝突する」ものであるため、その役割を1人に担わせること自体がナンセンスだとした。

 また仕事が1つの分野に特化していないため、雑用だけでは専門家としての自覚に欠け、また必要スキルが会社やチームごとに不明瞭であるという問題もある。

 下田氏自身のキャリアは、2005年にスクウェア・エニックスに研修生として入り、「ファイナルファンタジーXI」にて敵のAIをひたすらスクリプトで書いていくという作業をこなしていったという。そこではプランナーはゲームを作ることに特化しており、正式に「FFXI」チームに配属された後も20人近くいるプランナーの1人として、膨大なデータ作成作業のほかに、ボス戦などの特殊戦闘コンテンツや季節イベントの考案と実装、クエストのストーリーとカットシーンを2~3カ月単位で作っていった。

 下田氏は2~3カ月単位のサイクルが良かったと述べ、自分の手で「FF」クオリティのコンテンツを作り続けること、またユーザーからの評価が適度な頻度でわかることが大事だったとした。これにより、スクエニからは、「ゲームを作ること以外考えないこと」、「理想の実現は自分の責任で行なうこと」、「企画書や仕様書を書かなくてもゲームは作れること(とにかく面白い実物を見せれば周りが納得すること)」を学んだという。

色々挙げられた「プランナー」の問題点。専門スキルが得られない可能性もある
下田氏が関わった「FFXI」では、とにかくコンテンツを作りこむことができ、それが原点になっているという

専門スキルを養うには本来の意味での「レベルデザイン」を繰り返すべし!

コンテンツを作りこむのが、本来の「レベルデザイナー」の役割

 ここで下田氏は「レベルデザイナー」という言葉を持ち出し、改めてその役割を確認した。下田氏によれば、「難易度調整」や「バランス調整」という意味合いは明らかな誤訳で、本来の役割が見落とされているのだという。

 「レベルデザイン」とは、ゲームプレイを「調整する」のではなく「内容を作りこむ」工程になる。「レベル」は「面」と訳されるが、これはゲームの区切られた単位を指しており、1人が1つの「レベル」をまるごと作る役割として「レベルデザイナー」がある。

 欧米では「レベルデザイナー」は1つの役職として認識されており、FPSやアクションゲームではマップ単位で担当することとなる。レベルデザイナーはこの作業過程でUnreal EngineやUnityといったゲームエンジンに触れることとなるが、レベルデザインは触れば触るほどクオリティが上がり、また担当箇所が具体的なため、実績や評価が明確になる。レベルデザインの作業に没頭することで、「ゲームを面白くすること」に関してのスキルを集中的に獲得できる。

 下田氏はスクエニ時代にこの感覚を学ぶことで、ゲームデザイナーとしての道が開けた。「バーコードフットボーラー」ではリードゲームデザイナーとして参加し、マネージメントや雑用など「ゲームを面白くする」部分以外の作業はやらなかったという。チームとしては「プランナー」はおらず、ゲームの面白さに責任を持つ「ゲームデザイナー」、タイトル全体の責任を持つ「ディレクター」、商品としてどうかに責任を持つ「プロデューサー」と、はっきりとした役割分担ができた。

 下田氏が主張するのは、ゲームデザイナーは高度に専門化された技術の集約だということ。「マネージメントや雑用をやりながらできるほどゲームデザインは甘くない」そうで、はっきりと役割をわけることで作品のクオリティアップに集中でき、無駄なものを排することができたとした。

 下田氏いわく、「ゲームデザイナーはストライカー」だという。ストライカーはどんどんシュートを撃って点を取ることが最大の役割だが、この得点は「ゲームの面白い部分をどんどん作っていくこと」と同義になる。とにかくシュートを撃ちまくり、ゲームの1シーンのクオリティを保つことがゲームデザイナーとしての重要な仕事となっている。

 では具体的に、ゲームデザイナーになるにはどうしたらいいのか? 下田氏は中小のデベロッパーの「Unityエンジニア募集」に応募し、プログラマーとしてスタートするのが良さそう、とした。必ずUnityに触れるようにし、本来の意味でのレベルデザインを工程に組み込むこと。そしてアイデア先行でどんどん実装し、周りにアピールしていく。また加えて、とにかくゲームを作っていくことが大事だとした。

「バーコードフットボーラー」と「ファイナルファンタジー アギト」での下田氏の関わり方も紹介された
ほかにも下田氏からは様々なアドバイスが。ゲームを作りたいなら「プランナー」ではなく「ゲームデザイナー」を目指すべき! という思いが伝わってくる

(安田俊亮)