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「俺の屍を越えてゆけ2」プレイリポート&インタビュー

ゲームデザイナーの桝田省治氏インタビュー

ゲームデザイナー・桝田省治氏インタビュー

当主の「顔」を遺伝させようと思ったら3Dになった

インタビューに答えてくれたゲームデザイナーの桝田省治氏

桝田省治氏: 今回、東京ゲームショウ(以下、TGS)用にアニメーションを作りました。すでに公式サイトで公開されているので見た人もいるかもしれませんが、これは「俺屍」シリーズをやっていない人に向けて説明したアニメなんですよ。このゲームってのは2年しか生きられない呪いをかけられた一族がいて、その人たちが一生懸命子孫のために、呪いを解くために頑張るお話なんだよ、という。そういう所を押さえているんですね。あとは終わりの所にちょろっと新キャラを入れてあるという。まあ、そんな感じです。

―― アニメの最後に表示されたんですが、「2014年夏」、なんですね。

桝田氏: はい(笑)。来年の夏発売をを目指していまして、来年のゲームショウですと発売後になっちゃいますんで、今のタイミングでのご紹介となりました。

【特報! アニメトレーラー】

―― 先ほどTGS版をプレイさせて頂いたんですが、「ああ、3Dでぬるぬる動く『俺屍』だなあ」と言う思いを強くしました。

桝田氏: あんまりこだわりはないんですけどね。3Dにしたことには。もともと要望として、「顔を遺伝させてほしい」というのがあったんですよ。顔を遺伝させるとしたら、少なくとも顔の部分は3D化しないといけないだろう、と。となると、相手方の神様も3D化しなきゃいけない。なので神様のデータも正面、後ろ、横と作らなければいけない。そしてボスとして出てくる神様が3Dになるんだったら、戦闘も3Dだよね、と。

 とっかかりは何のことはない、顔を3Dにしたい、ということなんですね。で、作業量を考えたら、2Dと3Dが混ざるよりも、3Dで一気にやっちゃった方がいいのは自明の理ですよね。そんな感じです。

 2D、平面の世界で、巻物や屏風なんかの世界観でやっていた物を、逆に3Dにするにはどう表現したらいいのだろう、というところは大変でした。試作段階では、日本画風にするのか、それとも木版画を基調にしようとかいろいろあって。浮世絵をフックにして考えたりしました。

 でも浮世絵は実は、色数があまり多くない。浮世絵のトーンで作ると画面がしょぼい。なので時代的にはもう少し後の、明治初期の“ 錦絵”というんですかね、カラー写真が登場する前に使っていた絵のようなイメージを参考にして、ダンジョンの中などを組み立てました。

 こうしたことが3Dになった理由ですね。3Dにしたくてそうしたわけではないんです。

―― 顔を遺伝させたいという所から、顔写真を使ってキャラクターを作る、といった機能が追加されたんでしょうか?

桝田氏: 3Dにするんだったら、データの持ち方から考えて、撮影して座標を見て組み立てるというのも、割と簡単にできるよね、と。だったら、自分の顔を撮って、それを初代当主にしてしまおうという。こういうのが嫌な人もいるだろうけど、やったらやったで面白いでしょうし。もちろん,キャラクターメイク用の顔も用意されているので、お好きな方でどうぞ、という感じでしょうか。

 ちなみにTGS版では用意されていないんですが、PS Vitaのカメラは画面側と背面側に2つあるので、人の顔で始めることもできます。あと、ゲームをやっている途中で、俺屍仲間で集まった時などに、記念撮影をしますよね。そのデータを当主作成とは別の形でゲーム内に取り込むことができます。

 子供を作ったときは、いかにも親子というキャラクターができる場合もあれば、一般世間と同じように、「あまり似てないね」ということもあるわけです。場合によってはお爺ちゃんと似てることもあったり。ずいぶん離れたけど何となく初代当主に似てるな、ということもあるし。

 あと神様は人間だけじゃないので、角があったり、猫耳だったりすることもありますよ。かなり低い確率ですが。とはいえ、しつこくその神様と交神していれば、定着できるはずです。劣性遺伝のデータを管理してるんですね、ゲーム内では。つまり、人間の耳と、猫耳があった場合、猫耳が負けちゃうということもあって、なかなか出ないことになっていますが、何代か重ねていくと出る場合もあります。

 顔認識の機能で言うと、本道の使い方ではないですが、結構遊べますよ(笑)。「変顔」とかあるじゃないですか。そうすると「うわーーっ」ていう顔ができあがりますから。外向きのカメラを使って、写真に写った顔を読み込ませてみたりとか。壁のにじみとか木とか、顔に似ているものも行けるらしいので、それだけで1時間くらい遊べます(笑)。

PS Vita正面のカメラから顔を撮影して取り込むことができる

プレイデータを他の人と共有して遊べる

―― 本作では「拡散」、「共有」、「参加」というのが1つのテーマになっているとのことですが……。

桝田氏: 正確に言うと、それは新しく付け加えた部分ですね。新しく作る上では、いわゆる「続編」としての期待に応えなきゃいけないわけです。その命題には十分めどが立っているんで、それを追うだけだったら今年中には完成して、年度末に発売、ということも可能なわけです。本題は新しく付け加えた部分なわけで。まあ、システムがどうこう、ということではないんですよね。新しく足した楽しさ、というのが正確かもしれません。

 たとえば麻雀を考えてほしいんですが。麻雀は多少ルールが複雑ではあるものの、ゲームとしてはバランスがよくて面白いじゃないですか。なのでスマホとかパソコン相手にプレイしてもそれなりに面白い。その段階が、前作までの流れなんじゃないかと。でも麻雀って、人とプレイするともっと面白いじゃないですか。この人はこんなクセがあるとか、こういうときにはこんな事をするとか。それがわかってくると、麻雀って人とやる方が何倍も楽しい。ゲームだってそうでしょう? それが新しく加えられた、「拡散」、「共有」、「参加」という内容だと思っています。

―― それは具体的にはどういうことでしょうか?

桝田氏: 本作では、プレーヤー毎の違いを共有して、遊べるようなシステムを目指しています。さっきプレイしたとき職業を選ぶことができたと思いますが、前作までは職業が固定されていて、徐々に増やしていくという形になっていました。しかし「俺屍2」では8種類全てが開放されていて、そのうちから3つを選んでプレイできます。スタート時点からプレイしている人ごとに職業が違う。

 また、街ですが、これまでだと全部門に投資しちゃうとそれで終わりでした。でも本作では武器だけ、とか薬屋だけに投資することができます。そうなると町中が武器屋だらけ、薬屋だらけになっちゃう。そうすると街の発展の仕方も人によって違うことになります。

なるべく敷居を下げたゲームシステム

―― ところで、先ほどプレイしたTGS版では、画面の右下にカメラアイコンがあって、そこをタップするとスクリーンショットが撮れるようになっていました。なぜこうした機能を盛り込んだのでしょうか。

桝田氏: 今までは自分の一族史を、ブログで書き込んでいた人が多かったのですが、ちょっとそれは敷居が高いなと感じていまして。たとえばSNSで「俺屍なんとか一族」みたいなアカウントを取って、短いコメントを入れたデータをぱっぱぱっぱとアップできるといいよなあ、と。最低限の、今誰がどこで何をやっているという情報を自動的に付けて、1枚のスクリーンショットと合わせて、ゲームをしながら一族の歴史をアップすることができるようにしました。

 今回は敷居をなるべく下げよう、というテーマもあったんです。これまではユーザーが手作業で何とかしていた部分を、なるべく制作側でサポートしてあげよう、という。その辺もユーザーの要望として上がってきていたものなんですが、PS Vitaならばできそうなものを片っ端から放り込みました。

 そのほか、敷居を下げた部分で言うと、TGSバージョンではコーちんが「ここへ行ったらどう?」と提案してくれたかと思うんですが、あれは今後もっと賢くなります。「安くなってるから○○にこれを買ってあげたら?」とか、「そろそろ○○と○○を交神させたら?」など、かなり細かく教えてくれたりします。見たけど入手していない、黄色くなってるアイテムを全部チェックして「あそこに行ってあれを取ろう」と言い始めたり。

 最近のRPGではストーリー優先で「次にこれをやれ」というRPGが主流ですよね。こういうゲームをやっている人から「俺屍は次に何をやっていいのかわからない」という声もかなり上がってきていたので、少なくとも序盤の2、3年だけは、こうやったらどう? というのをかなり細かくコーちんが教えてくれるようになっています。この手の自由度の高いゲームに慣れていない人でも、とりあえず2、3年コーちんの言うことを聞いていれば死なないで遊べるようになっています。

困ったらコーちんを頼ろう

―― なんだかわからないけど、うろうろしているうちにシステムを覚えていくのも「俺屍」の楽しみだと思うのですが?

桝田氏: まあ、これを必ずやりなさい、ではなくて、選択肢から選ぶような形になってますから。それに、コマンドとしてコーちんが用意されているだけであって、自分で選んで迷宮に行くこともできますから、それは変わらないですね。

 ちなみに、今まであったコマンドもかなり進化しています。「最強装備」も属性やキャラクターのパラメーターを考えて、ちょっとくらい弱くてもこの武器を付けた方が強い、という判定をしてくれます。あと出撃するときの標準的な携帯袋の中身を勝手に作ってくれます。キャラクターの体力などを満タンにするコマンドも用意します。今はまだ詰めている段階なのでTGS版では遊べないですが。

 そういったゲームシステムの助けとなる部分(AIなど)のブラッシュアップですが、80点でいいと思うんですよ。 あんまりしつこくいろいろな状況に対応したマニアックな方にまで行ってしまうと、普通の人が使いこなせなくなっちゃうので。多分、僕や僕の息子が討伐に行くときの携帯袋の中身って、ほかの人と違うと思います。「今回はこのボスをこういうやり方で8ターンで倒す」と思った場合は、そこに必要な道具をそろえていきますから。そこまでやっちゃうと、携帯袋になぜこんなアイテムが入っているのかわからなくなってしまうので(前回インタビューを参照のこと)。そこは平均的なさじ加減で用意するようにしています。

 これまで遊んだことがなかった人って、このゲームについては「何をやったらいいのかわからない」と思うでしょうね。あとはせっかく育てたのに死んじゃう。ストーリーの提示がバラバラで全体像がつかめない(笑)。その辺も今回はできるだけ対応しています。一族史も充実させていますので、1週間プレイしなくて何をやったらいいのかわからないときに役に立ちますよ。まあ、コーちんのコマンドを見てもいいですね。

 コーちんですけど、めちゃくちゃ頭がいいように見えますよね。でも、そうだと鼻に付く感じもありますので、めちゃくちゃ変なしゃべり方をするようにしました(笑)。

―― ちなみにコーちんって、なんでそんな名前にしたんですか?

桝田氏: 一族のやることを拾ってくれるからコーチだろ、と。英語の「コーチング」ってありますよね。あそこから付けてます。ただそれは表向きだけで、実は裏の意味が諸説あるみたいですけどね(笑)。

実は2010年からプロジェクトは始まっていた

試遊・インタビュー会場の中庭にて

――  「制作日誌」とかも見たのですが、実はPSP版のインタビューより前、2010年の段階から「俺屍2」のプロジェクトはスタートしていたんですね。

桝田氏: 「俺屍2」で入れるシステムのさわりをPSP版で入れて、どのあたりがユーザーにうけるのか調べたんですが、評判が良かったものをふくらまして「俺屍2」に入れています。PSP版では剣だけは自分で作れましたが、今回は全部の武器、防具が作れるようになっています。

―― 今回のプレイ時間ってどれくらいを想定されているんでしょうか?

桝田氏: 1番簡単なモードにして、単純にプレイするだけだったら20時間程度かな。あ、今回「どっさりモード」というのを作りました(笑)。PSP版では、赤い火がともっているときに「どっぷりモード」に切り替えて、それ以外の時は「あっさりモード」でプレイするユーザーが多かったので、「だったら最初からそうできるようにすればいいじゃん」ということで。それを使えば20時間切るんじゃないかな。まあ、PSP版だってうちの息子たちがやれば8時間でクリアですからね。

 あと、前作では容量の関係でセーブできるデータの数が1つだったのですが、兄弟で遊びたいとか、前にプレイした一族を残したいなどのご意見が多かったため「俺屍2」は4つに増やしました。また、同じく容量の関係なのですが、一族の人数上限が前作では256人だったのが、「俺屍2」では1,024人にまで増えています。

 まあ、上手でない人も100人いればクリアできますよ。ただしクリアしてから、「うちの一族は全員角が生えてるぞ」とか言い出すと果てしなくなりますね(笑)。

―― 続編を作るに当たって、なぜ「2」とされたんでしょうか。

桝田氏: プラットフォームを変えた、移植もののゲームがありますよね。サブタイトル付けて発売されたり。本作はPS Vitaに移植したものと勘違いされたくなかった、というのはありますね。それにそんなことしたって、発売したらどうせユーザーからは「俺屍2」って言われるだろうし(笑)。なので王道を行きました。

 まあ、来年の夏に発売されることになっているわけですが、王道の「2」という段階だけを言うと、年末にはできあがって、年末には発売できるんですよ。でも前作にはない新しく加えた部分は実際に動かしてみないことにはわかりません。膨大な量の調整に時間がかかります。アルファ・システムのプログラマーの人と仕事が終わったあと一杯やりに行きますよね。その時に「あそこ、こーしてあーしたらこうならない?」というと、「えーと大丈夫です……いや、あー!あー!」みたいなことがあって(笑)。仕事の頭で考えているときにはそこまで気が回らないんですけど、お酒を飲みながらこういう無茶をしたらどうなるかなぁとか、「いやそんなことまでやる人はいないでしょう……あ゛ーー!」と。結構そう言うのがあるんですよ(笑)。

「俺屍2」で俺を楽しませてくれ!

―― 最後に読者に向けてひと言お願いします。

桝田氏: システムとしてはひと通り道具立てて作っていて、十分楽しんでもらえると思っているのですが、ユーザーがどんなプレイをするのか、全部は読み切れてないんですよね。その読み切れてない部分を知ることが、僕としては楽しい。

 何を言いたいかというと、「僕を楽しませてくれ!」ですね。いろんな人がどんな風な遊び方をするのかなんてわかんないですよ。穴は潰してますけど、全部は潰しきれないと思うんです。振り切って言ってしまうと、社会インフラで事故が起きたら大変ですけど、ゲームですからねー。良い意味で所詮遊びだし。でも結構長持ちするゲームだと思いますよ。

【スクリーンショット】

(今藤弘一)