SCEJ、PS Vita「ソウル・サクリファイス」
稲船敬二氏にインタビュー!~プレス向けセッション+インプレッション~
株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEJ)は、東京ゲームショウ2012にて2013年発売予定のPS Vita用アクション「ソウル・サクリファイス」のプレス向けセッションを開催した。セッション後には、株式会社COMCEPT CEOコンセプターである稲船敬二氏と個別インタビューが実現。ここでは、稲船氏インタビューとプレス向けセッション、TGS出展バージョンの体験版ファーストインプレッションをお届けする。、
■ 稲船敬二氏インタビュー ~救済と生贄の選択が1番やりたかったこと~
稲船敬二氏 |
―― 最初に「ソウル・サクリファイス」の情報に接した際、人間の情念というか、メンタル的な部分が強くフィーチャーされているように感じられました。こういう部分から入ろうと思ったキッカケはなんでしょうか?
稲船敬二氏(以下:稲船氏):カッコ良く考えると「ゲームの進化って、どうなっていくんだろう」と……。PS3になってグラフィックが凄く向上した。でも、そこだけじゃないよねって。今後は“見た目”よりも心、“精神の部分”をどうゲームに反映させていくかが、必ず新しいことになる! って読んだんですよ。
もっと精神的な部分をゲームシステムに組み込める……ただ、あまり難しいことをいっても、プレーヤーはついていけないと思うんですよ。僕はわりと新しいことを考えるのが得意なんで、新しいことを考えると7年くらい先にいっちゃってて(笑)。
そうすると「稲船の考えていることは新しいんだけど、まだユーザーには受けいれてもらえないかもしれない」っていうところがある。それを踏まえて、考え方はそうなんだけど、見た目とかやりかた、システムを今のユーザーに合わせる。心の部分をしっかり伝えるために、今回はあえて「救済と生贄、どっちを選ぶの?」といったわかりやすいものにした。
二択なんだけど、その二択がどう心にのこるか、といったことを考えた。
―― ふり幅、ということでよろしいんでしょうか?
稲船氏:ふり幅もそうですけど、なんていうかな……“ゲームをやっている感覚”はなくしちゃダメだと思うんですよ。ゲームをやっている感覚というのは、何かを選ぶってことですよ。でも、心って何かを選ぶだけじゃないですよね。凄く中途半端なものもありますよ。その日によっても違うし、優しくできるときもあれば、辛くあたっちゃうときもあるし、好きなのに辛くあたっちゃうときもあるし、嫌いなのに気を遣って優しくしちゃうとかもあるし。色々なものを持っているんですね。
それを、このなかでどうあらわしていくかということがゲームにできれば面白いだろうな、っていうふうに考えたんです。人生の中で、自分のわがままでもできないし、相手のことを考えてもできないし、といった選択を迫られることがある。でもできないと先に進まないしみたいなことを考えていくと「凄くゲーム的だな」と、ある種感じた部分があって。これからのゲームシステムに組み込めたら面白いな、というヒントにはなってますよね。
―― 先ほど“7年先”という言葉がありましたが、その時点で稲船さんが思い描いていたものはなんですか? ここまでやりたかったけど、とか。
稲船氏:「自分が先を行っているんだ!」という意識でゲームを作らなければいけない。そういうとき、新しいことを入れていかなきゃ、それは“先”じゃないですよ。これは、先ほどおっしゃった心や選択という部分に対して、先をいっている、っていう。本来あるシステムなんだけど、誰もやってなかったでしょ? って。
アクションゲームのなかに選択なんて入れなかったでしょ? RPGで選択するのは当たり前だけど「アクションゲームで、なんでいちいち止められて選択を入れるんだよ」って。でも、それが面白いんだ! って。
―― 確かに、一般的には「なんでアクションゲームで、テンポを止めちゃうんですか?」という話になると思います。
稲船氏:そうなんですよ。常識っていうのをみんな考えちゃって。それはゲームの過去の常識なのに。僕は過去を見ない。“未来の常識”を作ろうとしている。世の中の人は「アクションゲームはこうなんだ」とか「こういうゲームが面白いんだ」と過去のほうばっかり見て、過去に縛られ続けている。そういう人たちはコピーしかできないんで、僕が作ったものの後を追ってくればいいよ、ということなんです。
僕は、それはしたくない。先にいく。過去のものからでも先を見つけるんだ、という形でやらせていただいている。そういう部分を評価されていると僕は思っている。海外で多少好評を博しているのも、そのあたりを外国人の人のほうがわかっているんじゃないですか?
―― 海外のゲームファンのほうが、そういった心情をよりストレートに表現するからかもしれません。
稲船氏:そうですね。そういう意味では、必ず新しいものを切り開いていくんだ! って。彼ら(海外のゲームファン)が「日本のゲームはダメだ」って言ったりするのは、それがないからですよ。僕に対して「稲船のゲームはダメだ」って、誰もいわないです。それがあるから。
「日本のゲームがダメだ」って言われたりするのは、日本のゲームクリエイターの大半が過去に縛られ、過去の常識のなかでゲームを作って「これ面白いでしょ?」っていってるから「面白くないんだ!」っていう形になっていると思います。
―― 保守的になってしまうのは仕方がない面もありますが、そこはもっと攻めて欲しい?
稲船氏:攻めないと絶対に開かれてこない。別のインタビューでもいったんですけど、SCEさんは凄く攻めているんですよ。これ、ブランニュータイトルですよ。見たらわかるとおり、ブランニュータイトル自体、ほとんどないでしょ? 小さいのは別ですけど。
―― 色々言いにくい部分もありますが、確かに多いですよね。
稲船氏:でしょう? SCEさんは「ソウル・サクリファイス」以外にもどんどんブランニューを出しているんですよ。こんなに出しているメーカー、実はない。そこに注目すると、それがチャレンジ、挑戦であって。SCEってJだけではなくA(アジア)もE(欧州)もあって、そこも出してきているなかでいうと、Jもこうやってブランニュータイトルをガンと押す! ということをやっている。
日本のゲームメーカーがそれをガンガンやっていけば、もっと強くなれるはずなんですよ。それをやらずに、リスクの少ないところでどうやって儲けるかということばかり考えちゃってるから(海外のゲームファンから)ずーっと馬鹿にされ続けるなって思ってます。
―― 人の背中しか見られなくなっちゃいますものね。
稲船氏:そうですね。だから、僕自身日本人として海外から賞賛されなければいけないと思っていて、出来る限りチャレンジしていく。こうやってチャレンジを受け入れてくれるSCEさんのような会社と組んでやっていく。まぁ、苦労はあるんですけどね。ゲートを通すのは大変ですからね(笑)。ソニーはゲートはもう半端じゃなく多いです。仕方ないですけど。ゲートが少ないと、やっぱり、ね。クソみたいなゲームを作っちゃう可能性があるんで(笑)。
でも別にゲートが多いのは苦痛じゃないです。ちょっと邪魔くさいなとは思いますけど(笑)。でも、それだけパブリッシャーとしてちゃんと見てくれているっていう部分なんで。(少ないと)不安になりますよ!「ゲート1個です」っていわれたら。
「プロトタイプだけです」っていわれたら、ちょっと不安になりますよね。ちょっとだましてやろうかと思います(笑)。じゃぁ、ここさえ通れば好きにやっていいんだな? って「もう間に合いませんでしたー!」って。できるかもしれない!(一同笑)。
―― 現状見せていただいている範疇で、稲船さんが1番やりたくて具現化できている部分はどこでしょうか?
稲船氏:やはり選択の部分が、1番やりたかったことなんです。これがないとゲームが成り立たない部分がある。救済を選ぶのか、犠牲にするのかという選択は、わかりやすく表現できたし、上手くいったかなっていう。今回のショーバージョンは短いので反映されてないですけど、それも(将来像が)見えているので、そのあたりは1番やりたかったところができたんじゃないかなと思います。
あと細かいところですけど、やられた側が「救済を乞う」とかが入ってるんですよね。「俺は死にたくない! 助けてくれ!」って。「ここは俺を犠牲にして一気にやってしまえ!」くらいの言葉とか。選ぶ側も、死にそうな人間の意志を汲んでやってあげるとか、汲まないでやるとか、そういうのも入っている。そのあたりも、ゲームとしてやりとりできるものが作れたかなと思います。もっともっとチューニングで精査していきますけど、その感じはできたかな、というふうに思っています。
―― そういうお話をきいていると、シングルプレイバージョンの体験版もプレイしたかったですね。今回の出展バージョンは4人マルチプレイオンリーでしたから。
稲船氏:シングルは生贄にされるとか、ある種のランダム要素がない。自分がどう進めていきたいかをわがままにできるんで、それはそれでひとつ、自分の経験を溜めていくという意味では重要なポイントになってくる。
―― プレス向けセッションで「救済か、生贄か。どちらが好み?」という質問で鳥山さんは「生贄」を選ばれていました。稲船さんはどちらでしょう?
稲船氏:今はチューニング度合いでいうと、生贄を選ばざるを得ないチューニングになってて。救済を選ぶメリットが希薄というか、継続していかないとないんですよね。特にショーバージョンは部分的なチューニングなんで、あれは誰にきいたって生贄を選びますから(笑)。実際のゲームはそうなりません。
―― そのあたりの詳細は、先々のお楽しみでしょうか?
稲船氏:そうですね。並べてみないと語れない部分もある。いちからやらないと。最初チュートリアルからやらないといけませんから。
―― 今冬配信予定の体験版は、そこからプレイできるのでしょうか?
稲船氏:全然バージョンが違うところで、それ専用の流れがある体験版を用意しようと思っています。
―― 楽しみが増えてうれしいです。今回のショーバージョンは、ザコを倒してすぐボス戦で終わりになってしまいますから……正直、食い足りないですよ!
稲船氏:「こんなゲームだ!」と思ってもらうと、ちょっと違うんですよね。これは10分で楽しんでもらうためのもの。フルコースの料理を10分間で食べさせようって、コース全部持ってこれないじゃないですか! ぜひコース料理で食べてください! って。そのためにもユーザーのみなさんに(PS Vitaを)買ってもらわなきゃね!
―― 悲しいことにお時間がきてしまいました。最後に本作に期待しているユーザーのみなさんにメッセージをお願いします。
稲船氏:僕がやりたかったことをSCEさんに自由にやらせていただいてて……なかなか、ね。やりたかったことをできるクリエイターが減ってきてるなかで、僕は凄くわがままを通してやらせていただいている。そのための犠牲は払いました。その代償が、ちゃんとSCEさんにお返しできる形のクオリティになってきました。ぜひユーザーの方々にも期待していただいて、PS Vitaごと買って欲しい。PS Vitaと一緒に買っても損のないゲームになっていると思います。ぜひTGSに遊びにきてください!
―― 本日はお忙しいところをありがとうございました。
■ プレス向けセッション ~
鳥山晃之氏 |
プレス向けセッションでは、アソシエイトプロデューサーの鳥山晃之氏が本作の概要を説明。冒頭にて、発売日が2013年春に延期されたこと、今冬にTGSバージョンをアップデートした体験版を配信することが改めてアナウンスされた。
鳥山氏は、TGS出展バージョンの体験版について「本当の意味で、このゲームのマルチプレイの魅力を味わって欲しい」とコメント。一緒に戦う仲間たちを、時には信じ、敵の時間を止めて攻撃を任せたり、無防備な仲間を盾で守ったり、回復させるなど「実際にプレイされると、本作の共闘=マルチプレイ要素を感じていただけると思う」という。
続けて「瀕死の状態にある仲間や自らの命を犠牲にするなど、すべてのやりとりのなかで感じる心の動き、共に戦い敵を倒したときの気持ちを描きたかった。リアルなファンタジーを体験していただける」と説明した。
TGS出展バージョンのシステムについては、まず本作の特徴でもある“魔法”を説明。「ソウル・サクリファイス」では、魔法は“供物”を捧げなくては使えない。常に代償が必要という考え方だが、この回数制限により「もったいなくて使えない」と萎縮し共闘しづらいという観点から、フィールドに隠された“魔法の源”で所有する供物を回復させたり、あるいは供物を消費せずに魔法を発動させるシステムが用意される。
“心眼”と呼ばれるシステムは、フィールドに隠された魔法の源を見つけたり、敵にかけた魔法の利き具合などがわかるというもの。プレイ中は他のプレーヤーと会話などでコミュニケーションが可能になるため、情報交換などプレイを盛り上げに一役買うことが期待できるとしている。
“人魂システム”は、倒れたプレーヤーが人魂になるというもの。本作で死んだプレーヤーはただ倒れたままではなく、人魂として敵や味方の状況がわかるようになる。体力が少ない敵や味方が赤く見えたり、敵を直接タッチして弱らせるなど、これも共闘感を強く意識したシステムといえる。
“救済と生贄”システムは、倒した魔物に対して救済もしくは生贄いずれかを選択するというもの。プレーヤーこと魔法使いは、元々動物や人間だった魔物を駆除する使命を持っている。駆除した際に生贄を繰り返せば、攻撃魔法の威力が上昇。救済であれば防御力や回復魔法、生命力といったものが上昇する。鳥山氏は「いかに使命とはいえ、元は人間だったものを犠牲にしてまで力を求めるべきなのか? 魔法使いたちの行ないは、本当に善なのか悪なのか? そういった苦渋の選択、心の葛藤をユーザーにはシステムとして直感していただきたい」という。
鳥山氏による製品概要の説明。TGS出展バージョンはマルチプレイに特化したもの。まだ全貌の一部ではあるが、会場にくれば一足早く体験できる | ||
TGS2012出展バージョンを使用した、開発スタッフによる4人マルチプレイデモ。救済と選択という本作ならではの選択が随所で顔をのぞかせる |
開発スタッフによるマルチプレイのデモンストレーションの後、音楽に関する説明が行なわれた。従来の携帯機向けタイトルの枠をはるかに超える重厚なBGMを手がけたのは、作曲家の鋒山亘氏と光田康典氏。収録はサンフランシスコにあるSky Warker Soundスタジオを使用。ゲーム本編にとどまらず、サウンド面でも注目度が非常に高い作品といえる。
■ 東京ゲームショウ2012出展バージョン・ファーストインプレッション
上でも触れたとおり、東京ゲームショウ2012出展バージョンは4人マルチプレイ専用。時間が限られていることもあり、他の3人を待たせても悪いので導入部は飛ばし気味にボタン連打。すぐキャラクタークリエイトへと移行する。
キャラクターは性別、外観、カラーなどが変更可能。既に公開されているスクリーンショットなどでご存知だろうが、かなり尖った異形に近いデザインやカラーリングも選べる。筆者が散見していた範疇だが、女性キャラクターを選ぶ人が多いように見受けられた。
本作に防御という概念はなく、×ボタンの回避もしくは方向キーor左スティックと×ボタン長押しによるダッシュで敵の攻撃をかわしていく。攻撃はすべて魔法のみで、キャラクターエディット時に□、△、○といった3つのボタンにプリセットされる3種類×2セットが自由に選べる。3種類1セットの魔法を切り替えるときはRボタンを使用。これまた時間がなかったので、魔法セットはデフォルトのままでパーティに参加した。
フィールドに出現すると、いきなりザコの敵が登場。魔法でダメージを与えていくが、デフォルトの3種類が、近距離、中距離、遠距離をそれぞれカバーできるようセットされており、これが実に気がきいている。ただし、前述のとおり魔法には“供物”が必要で、乱射しまくると早い段階で残量が尽きてしまう。インタビューやセッションで触れられたように、今回の出展バージョンは生贄やフィールドに落ちているアイテムで回復させるのが鉄板だ。
魔法攻撃は、どれも使っていて気持ちがいいものばかり。投擲よろしく孤を描いて飛翔し敵に命中すると爆発、岩の塊になって突撃、岩石の盾など、現時点でかなりのバリエーションがある模様。ボス戦で4人が一斉に集中攻撃を敢行したときなどは、凄まじい派手さと爽快感にすっかり気持ちよくなってしまった。体験版は、ボスのケルベロスを倒すと終了。ただし倒しただけで終わりではなく、人間に戻ったケルベロスを救済するか生贄にするかを迫られる。はたして、あなたはどちらを選ぶだろうか……。
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(2012年 9月 21日)