Game Developers Conference 2012レポート

【GDC 2012】タイトー石田礼輔氏が語る「忘れられないゲームを作る5つの方法」
「Infinity Gene」と「Groove Coaster」の源泉を探る


3月5日~9日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center



タイトーの石田氏。ゲーム紹介のプロモーションムービーに合わせてダンスを披露して、拍手を浴びていた。

 「Five Techniques for Making an Unforgettable Game, Illustrated in Space Invaders Infinity Gene and Groove Coaster(一生忘れられないゲームを作る5つのテクニック:Space Invaders Infinity GeneとGroove Coasterを事例に)」という長いタイトルのセッションでは、タイトーの石田礼輔氏が、自身の手掛けた2つのスマートフォンアプリを例に講演を行なった。

 「Space Invaders Infinity Gene」は、もともとは2008年に「スペースインベーダー」30周年記念の一環としてフィーチャーフォン向けに配信されたゲーム。その後、2009年にiOSに移植され、2010年にはプレイステーション 3/Xbox 360用のダウンロードコンテンツとして、2011年にはAndroid向けにも配信がスタートしている。ゲームの中で「スペースインベーダー」の歴史をなぞる形になっており、レトロな画面から次第に現代的なシューティングゲームへと進化していく。

 「Groove Coaster」は2011年にiOS向けに発売された音楽シューティング。世界最大のアプリ品評会「2011ベストAppエバーアワード」で「iOSベストミュージックゲーム賞」を受賞した。

 講演の内容は、核となるアイデアを出す方法ではなく(それは人によって手法が違うだろうから今回は語らないとのこと)、核となるアイデアをどのようにブラッシュアップしていけば、忘れられないゲームになるのかについて考察している。


【Space Invaders Infinity Gene】
タイトーの名作シューティング「ダライアス」のボスキャラも登場する、往年のファンにはたまらないゲーム
【Groove Coaster】
ゲーム内のBGMはゲームの中に表示された曲名をタッチすることでiTuneから購入することもできる




■ 1.アイデアをキャッチコピー化する

 例えば「Infinity Gene」では“進化するゲーム”、「Groove Coaster」は”ジェットコースター+音楽ゲーム”がキャッチコピーであり、核となるアイデアにある。たくさんのゲームの中から選んでもらうためには、短いフレーズで表せるような特徴が必要なので、アイデアをキャッチコピー化して吟味するといい。


■ 2.アイデアが引き立つように肉付けする

「Groove Coaster」ではBGMに合わせてステージをデザインしている。またジェットコースターの疾走感を出すため、カメラに工夫をしている

 斬新なアイデアを思いついても、単体ではコアゲーマーにしか受け入れられない可能性がある。カジュアルゲーマーにも商品価値があると思ってもらうためには肉付けが必要になる。とはいえ、アイデアを盛り込みすぎて核となるアイデアが埋もれてしまい、何がしたいのかわからなくなると本末転倒になる。

 「Infinity Gene」では進化をしていくことが核となるアイデアなので、ゲームは往年の「スペースインベーダー」から始まって、次第に敵が増えて複雑になっていくことで“進化”を表現している。「Groove Coaster」は音楽が核となるので、音楽の印象をステージで表現するために、例えばアシッドハウスというデジタルサウンドを扱ったステージでは道を直角に曲げたり背景をグリッドでまとめることでデジタルな印象を表現している。また、ジェットコースターを表現するために、ステージの途中でカメラを寄せたり引いたりすることでスピードに緩急をつけて、ジェットコースターの疾走感を表現している。

 ゲームのメニューやスタート画面のサウンドなど、プレイに直接関わらない部分も核となるアイデアをプロモーションする場になる。特にスタートから数分の間に聞く音楽は、そのゲームの世界観を印象づけてしまうので重要なのだそうだ。「Infinity Gene」はゲームのメニューが進化系統樹の形を、「Groove Coaster」はジェットコースターの形をしている。


■ 3.直感的な操作性を心掛ける

「コントローラーで操るキャラクターに何かをさせるのは、ロボットを操って関節的に何かをするのと同じ」と石田氏

 コントローラーを操作してキャラクターを動かすとき、間接的な要素は必ず操作性とトレードになっている。操作とキャラクターの動きの因果関係を理解しなければ、動かすことはできないが、間に入る要素が多くなるほど感覚的な操作ができなくなる。直感性が下がれば下がるほど、そのゲームを楽しめるユーザーは減ってしまうので、より直感的な操作で面白さを表現できないかを考える必要がある。

 「Infinity Gene」では画面上で指をスライドさせるとキャラクターが動くようにした。弾を撃つというアクションはあえてカットして、移動だけに特化することで直感性を確保した。だが問題が1つあった。指の動きとキャラクターが完全にシンクロしているので、素早く指を動かすと自機が敵を貫通してしまう、つまり無敵状態になってしまうのだ。だが「開発が想定していない難易度の低下があったとしても、ストレスのない操作性を重視してあえてこのシステムで開発しました」。どんなに面白いゲームでも、ストレスがあれば結局は遊んでもらえないという理由からだ。

 操作性で気をつけるべきもう1つの事柄は、操作をしたときにリアクションを返すことだ。タブレットはボタンがないので操作の実感が得られにくい。だから、操作に対するリアクションが、コントローラーを使った操作よりも重要になる。「Groove Coaster」ではボタンではないところを押したときにもキャラクターが光ってSEが流れる。リアクションは少し大げさなくらいにした方がユーザーの満足度が上がる。「腕を組んで何も言わない人に向かって一方的に話しかけるのは、すごくストレスになると思うのです。リアクションが上手な人には、特に用事がなくても話しかけたくなるじゃないですか。ゲームにも同じことがいえると思います」。


あえてショットボタンをカットして、指で移動するだけの直観的な操作にこだわったボタンのないタップ操作では、操作に対するリアクションが重要になる敵を倒した時には、大げさなくらいの演出をした方が、爽快感が増す


■ 4.少し違和感を入れる

左のシンプルなドット絵では地味だという意見で、右のネオンに輝くバージョンも作られたが、結局は左が採用された
「Infinity Gene」が少しストイック過ぎたという反省をもとに、「Groove Coaster」では華やかなイラストで画面を飾った

 たとえアイデアが斬新でも、表現方法が凡庸だと人の注意を引くのは難しい。石田氏は、人目を引くための演出方法について、ビジュアルインパクトを例に説明した。人目を引くには、ぱっと見ですべてがわかってしまうのではなく、少し違和感がある方がいい。「Infinity Gene」はレトロなドット絵に、当時は表現しようがなかったグラデーションをあわせることで独特な印象を作り出している。

 実は開発の途中、社内から「地味すぎるのではないか」という評価が出た。そこでインベーダーをネオンのように輝いているバージョンが作られた。しかし「こういうゲームは世の中にたくさんあるので、あえて光らせない」ことで差別化をはかった。

 「とはいえ『Infinity Gene』は少しストイックすぎたかなというところもあった」ため、「Groove Coaster」では花や生き物をデザインに盛り込んで華やかさを演出した。違和感というとネガティブな印象を持つかもしれないが、ここで言う“違和感”とはぱっと見たときに興味を引くようなもの、という意味合いだ。わからない部分があれば、それがなんなのかを探ろうとする。ただし、あまりにも強い違和感を与えてしまうと、最初から理解をあきらめてしまうこともあるので「少しだけ入れるのがいいと思います」。


■ 5.プラスαの価値観を入れる

「Infinity Gene」のメニューは、プレーヤーごとに形が変わり個性を演出する
「Groove Coaster」のメニュー画面は、自分だけのステージとして遊ぶことができる

 プラスαの価値観とは、ゲームをプレイしている以外の時間に提供される楽しさだ。「そのゲームを持っていることがステータスになって、センスがいいと思われるようなものにしたい」。例えば「Groove Coaster」では、音楽とゲームと映像を融合した新しいメディアの形を提案している。

 もう1つは、ゲームの中にユーザーの個性を反映させることで、思い入れを深めてもらうことだ。「Infinity Gene」の進化系統樹型のメニューはゲームの進行に伴って少しずつ枝分かれしていく。どう分かれていくかは個人の進捗によって異なるので、個性が生まれる。

 「Groove Coaster」ではさらに進化して、自分だけの形になったメニュー画面の道筋をステージとして使うことができる。「Beginningというステージがあるのですが、それがメニューの形と全く同じになっています。プレイしたけど気づかなかったという人もいるみたいですが(笑)」。「Beginning」をクリアするとスタッフロールが流れるが、そこにはユーザーの名前も表示される。

 「一番費用対効果のいい広告はBUZZ(口コミ)です。そのゲームを持っていることを誇りに思えれば、ポジティブなBUZZを多く意味出すことができます」。



 ゲームを開発するときには「ユーザーの内面だけではなく、周囲の環境にも目を向ける必要があると思います」と石田氏。ゲームと世界の関わりとは、つまり「ゲームで遊んだ後で、時間の無駄だったなと思わせないこと」だそうだ。ゲームの文化的な価値を高めることで、ビジネスとしても成功できると石田氏は語り、「この理想に到達するために、これからも斬新なゲームを開発していきたいと思います」と締めくくった。


(2012年 3月 10日)

[Reported by 石井聡]