Game Developers Conference 2012レポート
【GDC 2012】「SMARTPHONE & TABLET GAMES SUMMIT」レポート
PremiumからFreemiumへ。2つの成功事例セッションを紹介
GDC 2012の「SMARTPHONE & TABLET GAMES SUMMIT」のセッションでは、ダウンロードおよび利用料金を無料とする、フリーミアムタイトルについての講演が多く行なわれている。
フリーミアムとは、上記のような無料で利用できるサービスのビジネスモデル全体を指す言葉で、スマートフォンなどのアプリに関しては、Premium、Freemiumと区別して語られる場合が多い。
ここで述べられるPremiumとは、ダウンロードに費用がかかるタイトルのことを意味している。日本ではあまり馴染みのない言葉だが、「GDC」をはじめとした英語圏ではこの違いをはっきりと表すため、よく使われる用語として定着しつつある。
本稿では、この流れを大きく汲み、ビジネスモデルの変化として象徴的な「Premium to Freemium」と銘打たれた2つのセッションを扱う。1つのセッションでは、プレミアムモデルとしてスタートながら、さらなる発展を求めてフリーミアムへと切り替えた例が、もう1つは、ブラウザゲームやプレミアムモデルのタイトルとして発表されていた「BEJEWELED」シリーズをフリーミアムモデルにした「Bejeweled Blitz」の事例が紹介された。
■ タイトルの再起をかけてフリーミアムへ転換した「Trucks and Skulls」
米Appy EntertainmentブランドディレクターのPaul O'Connor氏 |
まず紹介するのは、米Appy EntertainmentブランドディレクターのPaul O'Connor氏によるiOS用「Trucks and Skulls」についてのセッション。プレミアムモデルだった「Trucks and Skulls」をフリーミアムに切り替えた事例を説明した。
「Trucks and Skulls」は、発射台に置かれたトラックを発射させる方向と勢いを決めて、フィールドにあるオブジェとドクロにぶつけて破壊するという、「Angry Birds」に代表されるような発射と破壊を楽しむゲーム。
同社からフリーミアムモデルのアプリは2つ出ている。ここでは「Trucks and Skulls」が取り上げられた |
「Trucks and Skulls」は2010年のリリース直後こそ順調に利益を出していたものの、その後は2カ月ほどで利益は下げ止まり、低空飛行を続けることになった。そこでゲームの刷新を図るため、2011年夏にダウンロード無料のフリーミアムモデルへと切り替えを行なった。
すると、途端に収入は150%増加し、ダウンロード数は5,000%増えたという。O'Connor氏は、プレミアムからフリーミアムへと切り替えた理由として、「将来的にどれほどのプレーヤーがゲームに支払いをするのか」、「そのゲームの利点は何なのか」を知るためだと話した。フリーミアムモデルでは、料金がかからないのでそれだけ多くの人の手に渡る可能性が高まり、それらの情報のフィードバックが狙える。
運営の方針としては、O'Connor氏はゲームからは何も取り除かず、既存の要望に応えることを大事にしたという。フリーミアムだからといってクオリティを下げるのではなく、基本となるゲーム内通貨にも報酬をあげるようにしたり、長くやっているプレーヤーにはさらに報酬をあげることで、プレーヤーの確保を行なった。
これらの運営を続けた結果、O'Connor氏は、「フリーミアムはゲームを高めてくれ、何も失うことはない」と感じたと話した。またプレーヤに与えらえる報酬はゲームプレイにリンクしたものにすることや、新しいゲームを紹介するよりも、既存のアプリの置き換えを考えたほうがいいことなどが今回の事例からは学び取れたそうだ。
O'Conner氏は最後に、フリーミアムのいい点と悪い点を紹介した。いい点としては、「利益とダウンロード数を向上させること」、「多くの顧客を獲得できること」、「アップデートをしても誰も文句を言わないこと」などがあった。悪い点には、「途中で切り替えを行なったゲームは、どちらか専用に作られたゲームよりもマネタイズがスムーズにいかないこと」、「コストが高い事」などが挙げられた。
グラフを見れば、フリーミアム転換後の数字が跳ね上がっているのがわかる。ただし、途中からモデルを変更するのはマネタイズが大変だったそうだ |
■ 成功の秘訣は面白さという“科学”。「Bejeweled Blitz」の事例
米PopCap Gamesフランチャイズ ビジネスディレクターのGiordano Bruno Contestabile氏。氏はイタリア出身だそうで、冒頭ではマリオの帽子を頭におどけて挨拶をした |
続いて紹介するのは、米PopCap Gamesの「Bejeweled Blitz」の事例。登壇したのは、同社フランチャイズ ビジネスディレクターのGiordano Bruno Contestabile氏。「Bejeweled」はiOSでもプレミアムモデルの「BEJEWELED 2」が配信されていたが(現在は「BEJEWELED」が99セントで販売されている)、それと置き換わるようにしてフリーミアムモデルのiOS/Facebook用「Bejeweled Blitz」が配信されている。
「Bejeweled Blitz」は、8×8マスに並んだ宝石を動かして消していくパズルゲーム。3つ以上並べると宝石が消えて、消えたところには上から宝石が落ちてくるので、それを利用して連鎖を狙える。制限時間は1分と決められており、その中で高得点を競う。
Contestabile氏自身もつい何度もやってしまうほど、中毒性の高い「Bejeweled Blitz」 |
シリーズの中でも「Bejeweled Blitz」に特徴があるのは、ゲーム中にギミックを利用できる点にある。これはゲームの点数によって稼げたり、購入して得られるコインを消費して使用できるもので、宝石全体の左右の場所を入れ替えたり、制限時間を5秒伸ばせたりする。これらは「Boosts」と呼ばれているもので、ほかにも猫の目からレーザービームが出たり鳳凰が登場する派手な演出で点数を一気に稼げる「Rare Jems」などもある。
こうした演出がある「Bejeweled Blitz」は、既存のシリーズとはまた変わったフリーミアムモデルのゲームとして、より多くのユーザー獲得を狙ったものだという。
そして「Bejeweled Blitz」のローンチの結果は、プレミアムモデルのシリーズと数字を比べた時、「Bejeweled Blitz」は1日のダウンロード数の平均が9倍、週間平均のアクティブユーザー数は5倍、1日平均の収入は5倍に増えたという。
どんなゲームにもプラットフォームの適性はあるが、それが違うとこんなにも差がついてしまう |
Contestabile氏が挙げたデータとして興味深かったのは、同じ「Bejeweled Blitz」の中でもiOS版とFacebook版を比べたものだ。iOS版はFacebook版に比べて週間平均のアクティブユーザー数がわずか33%でありながら、DARPUは196%、1日のゲームプレイ回数は208%、ユーザーからの支払いは205%と圧倒的な数字の差を見せていた。
これはiOS版の総ユーザー数がFacebook版の2倍いることも影響しているが、「Bejeweled Blitz」のゲーム形態がモバイルのサイズに最適だったとContestabile氏は振り返った。当たり前のことだが、同じフリーミアムモデルでも、適するインターフェースがあるということだ。
「成功の秘訣は面白いこと。これは“科学”」と宣言する結論。フリーミアムになっても、基本は変わらないという好例 |
Contestabile氏は、最後に「Bejeweled Blitz」が成功した“秘密”を語った。Contestabile氏によれば、それは「より面白いものを作る」という1点にあるという。より面白いものを作れば、それがユーザーとの出会いの機会を増やし、持続させ、多くのマネタイズに繋がる“科学”だそうだ。
なお「Bejeweled Blitz」では、Facebookの友人と点数を競わせる機能も付いている。そういった要素も内包している本作だが、Contestabile氏は「最終的には、競争ではなく面白さだった」と語った。
フリーミアムモデルが一時代を築き、ゲームデザインにも大きく影響を与えている中で、成功に必要なのは結局は「面白さ」だったという結論は、ビジネスモデルばかりに目を奪われてはいけないという忠告も同時に発しているように感じられた。
記事で紹介したどちらの例でも、フリーミアムモデル版をローンチした途端に、数字は跳ね上がっている。このほかにも、「Bejeweled Blitz」で得られた知識を参考に、フリーミアムモデルについてのフィードバックが話されていった |
□「GDC 2012」のホームページ(英語)
http://www.gdconf.com/
(2012年 3月 8日)