東京ゲームショウ 2011レポート

Razer、Xbox 360用アーケードスティックのベータプログラムを発表
“RazerGuy”ロバート・クラコフ社長にRazerの哲学と将来の戦略を聞く


9月15日~18日 開催(15日、16日はビジネスデイ)

会場:幕張メッセ

入場料:1,000円(一般/前売り)、1,200円(一般/当日)、小学生以下は入場無料


Razerブース

 ゲーミングプリフェラルメーカーの米Razerは9月15日、東京ゲームショウ 2011の会場にて、Xbox 360用アーケードスティックのワールドワイドベータプログラムを全世界に向けて発表し、同時にベータテスターの募集を開始した。

 またこれに合わせて今回、“RazerGuy”として知られるRazerの設立者兼共同経営者、ロバート・クラコフ氏が来日しており、Razerの哲学や長期的な戦略について話を聞くことができた。本稿ではこれらのトピックを合わせてお伝えする。



■ ゲーマーと共同開発するアーケードスティック!テスター募集開始

ブース内にてプロトタイプを紹介するRazerスタッフ
ブース内で展示されていたプロトタイプ。自由に触ることができる
ベータテスター募集ページ

 「Razer Xbox 360 Arcade Stick Community Beta Program」と名づけられた本プログラムは、全世界で500人のベータテスターを募集し、Razerが現在開発中のアーケードスティックのベータテスト、およびフィードバックに基づいた共同開発をするというものだ。

 東京ゲームショウ 2011会場に設けられたRazerブースではこのアーケードスティックのプロトタイプ版が自由に触れる状況で展示されていたほか、発表に合わせてプロトタイプ版の仕様が詳しく紹介された。

 プロトタイプ版というだけあって発売時期は未定、最終仕様も未定で、正式な製品名も与えられていないという段階だが、既にRazerらしいコンセプトが随所に現れたアーケードスティックとなっている。まず最大の特徴は、ケースを解放してボタンやスティックの入れ替えが自由に行えるという点だ。

 他のアーケードスティック製品とは異なり、ケースの解放とボタンの入れ替えといったカスタマイズは、本製品における「保証範囲内」のカスタマイズ操作となる。これを象徴して、ケースの開放は前面中央のRazerロゴが施されたボタンを押すだけで可能となっている。その上で、ケース内部には取り外したボタンを格納しておく窪みが存在するなど、ユーザーによるカスタマイズの利便性を強く意識した仕様だ。

 標準構成ではスティックとボタン部に三和電子製のスイッチを採用。ターボ機能、スティックの十字ボタン/アナログスティック動作切り替えといったコンソール向けスティックとしての基本機能も備えている。また筐体に金属部品が多く使われており、本体重量が非常に重く安定感が抜群である。また筐体表面は規定サイズのデコレーションシールを貼ることも可能で、見た目のカスタマイズ性も意識されている。

 これだけでもすぐに製品化してよさそうな内容だが、Razerでは今回募集を開始したベータテストを通じ、コミュニティのフィードバックを受けて本製品の最終的な仕様を決定していくという。我こそはと思う格闘ゲーマーは是非ベータプログラムに応募して欲しい。また募集ページではベータテスターに相応しいプレーヤーを推薦する枠も用意されているので、身近にトップレベルのゲーマーがいたら是非Razerに推薦してみよう。

アーケードスティックベータテスター募集ページはこちら
Razer Xbox 360 Arcade Stick Community Beta Program

【Razer Arcade Stick Prototype】
プレーヤーによるカスタマイズを受けることを前提としたデザイン。表面の8ボタンのほか、右側面にSelect/Startボタンを装備。ちなみにRazerスタッフによると、Xbox 360用ということになっているが、仕様的にはPCやプレイステーション3での使用も可能になりそうだとのこと

【「Battlefiled 3」コラボレーション製品】
そのほかRazerブースでは「Battlefield 3」コラボレーションデザインの各種デバイスを展示。日本での発売予定は残念ながら現時点では不明




■ 目指すは遠く「技術的特異点」の訪れる日。Razerが抱くゲーマーのためのビジョンとは

“RazerGuy”として知られるロバート・クラコフ氏
RazerのFacebookページは登録者数100万を突破したとのこと
「Razer Blade」は、Razerが目指す未来を象徴する?

 “RazerGuy”としてRazerの顔役を努めるロバート・クラコフ氏も会場に顔を現しており、せっかくのトップ来日ということで話を聞いてみた。クラコフ氏は1980年のシンプルなゲームの時代からのゲーム好き。1990年代にFPSゲームが台頭してきた際に、まともに動かせるマウスがひとつもないことに腹が立ってRazerの事業を始めたという筋金入りの人物だ。

 Razerによる最初の製品であったボールマウス「Boomslang」がデビューして10年あまり。現在Razerの事業領域はマウスやマウスパッドにとどまらず、非常に広い領域に広がっている。

 Xbox 360用コントローラー「Onza」のようにコンシューマーゲーム機用プリフェラルにも力を入れる一方で、「Hydra」のような新種のモーションコントローラー、オリジナルのモバイルゲーミングデバイス「Razer Blade」と、全く新しい世界にも足を踏み入れている。今回発表されたアーケードスティックは、大きく広がったRazerの事業領域のごく一部にすぎない。

 その中でも決して失われないどころか、より増しつつあるのが、各製品に見られる“Razerらしさ”というべき独自性だ。これを推し進めているのはRazerが当初から持つ独自開発へのこだわりであるとクラコフ氏は語る。

クラコフ氏:それは私達の企業哲学に基づいています。私たちは、自分たちで製品を創ることそのものに重点を置いています。出来合いの製品を買ってきて売るということを決してせず、常に自分たちで新しいものを発明していくという道です。そのおかげで、Razerでは全ての製品において、隅々までコントロールすることができています。それなしには、「Onza」や「Hydra」あるいは「SwitchBlade」のような全く新しいカテゴリーに挑戦することはできなかったと考えています。

 そうして事業領域を広げてきてはみたものの、コンシューマーゲーム機の世界に入る際にはかなりの不安もあったというクラコフ氏。「誰もRazerを知らないのではないか」と恐れていたそうだが、蓋を開ければ広く受け入れられた。PCゲーマーの70%がゲーム機でも遊んでいたという調査が後押しした部分もあるようだが、Razerのユーザー層はさらに広がっている。

クラコフ氏:私たちのFacebookページでは最近、登録者が100万人を越えました。また別のものさしで言うと、昨年計算した時点で、Razer製品は年間を通して7秒に1個売れていることがわかりました(つまり年間に450万個)。またゲーミングマウスとキーボードのマーケットでは我々がだいたい80から85パーセント程度で、1番のシェアを得ています。またこれまでに、ニッチだったゲーミングは非常に大きなカルチャーとなって、ゲーミングデバイス市場も大きく成長しています。昔は投資家達がゲーミングデバイス注目することなんてありませんでしたね。今では向こうから「お金は必要ですか?」と提案しにきますが(笑)。

 そういった現在の事業の中でも、今回発表したアーケードスティックのコミュニティとの共同開発プロジェクトは、Razerにとって新たな製品開発手法を確立するための「テスト」だという。クラコフ氏は、これが成功すれば、これまでよりも良い製品、コミュニティに納得してもらえる質の高い製品を生み出していくことができると期待している。そんなRazerが目指す方向性とは。

クラコフ氏:Razerはユーザーインターフェイスの企業です。確かに私たちはゲーム向けのマウスを作ることから事業をスタートしましたが、それがゴールというわけではありません。もっともっと広い意味で、ゲームのためのユーザーインターフェイス、プリフェラルを提供する企業になることを目指しています。

 この発言の真意を如実に表しているのが、Razerからつい最近発表されたばかりのモバイルゲーミングプラットフォーム「Razer Blade」である。軽く持ち運べるコンパクトな筐体にパワフルなCPUとGPUを搭載。カスタマイズ可能なLCDボタンを装備して実にRazerらしい、突飛なモバイルコンピューターになっている。

クラコフ氏:モバイル化の波が押し寄せてきています。例えば、iPhoneの上位5位に入るアプリはほとんどゲームアプリですよね。これはiPhoneに限らず、スマートフォンやタブレットに共通することだと思っています。しかし、人々はただシンプルなゲームだけをやりたいわけではありません。そこで「Razer Blade」です。これでは「Crysis」でも何でも、どんなPCゲームでもプレイできます。モバイル環境でもしっかりとしたゲームを遊べるようにしたい、これが私たちが目指している未来の方向性です。しかしこれは、今日利用できる最新の技術であっても、簡単に実現できることではありませんでした。

 そしてクラコフ氏は、遠い未来への展望を語った。半導体産業の技術革新によってムーアの法則が守られ続け、コンピューターはもっと小さく、パワフルになっていく。そして全てがモバイル化していき、最終的には脳にチップを埋め込むような時代がやってくる。クラコフ氏はアメリカの高名なビジョナリスト、レイ・カーツワイルが提唱する「技術的特異点」を引き合いに出しつつ、目指す方向性を示している。

クラコフ氏:カーツワイルは、これまでに幾度も、非常に正確な未来予測をしてきています。そこまで遠い話でなくても、例えば、Razerは現在「Razer Blade」のプロジェクトを通じてインテルと非常に良好な協業関係を結んでいますが、そのインテルは現在3Dトランジスタの研究を進めています。それがいつ完了するかは予想するしかありませんが、しかし、ごく近い将来に実現するはずです。私たちとしてはそのような未来の技術、新しいパラダイムの到来も見据えた上で事業を考えていきたいと思っています。

 最後にクラコフ氏は、日本についての思いを語ってくれた。

クラコフ氏:Razerは日本に非常に強い関心を持っています。例えばアーケードスティックのプロジェクトはまさに、日本市場のために製品を作りたいという私たちの気持ちの現れです。日本市場は巨大なチャンスであると同時に、米国や欧州とはもちろんのこと、中国や韓国とも全く異なるユニークな市場です。それを理解しつつ、これからもっと日本で受け入れられる製品をお届けできればと思っています。また、日本でRazer製品を長く支持して頂いている皆さんには心から御礼を申し上げたいです。

(2011年 9月 17日)

[Reported by 佐藤カフジ]