CESA Developers Conference 2010(CEDEC 2010)レポート

「Final Fantasy XIVにおけるキャラクター制作 ~品質を支えるワークフローと制作手法~」講演レポート
10年戦えるクオリティを目指したテクニックとワークフローを紹介


8月31日~9月2日開催

会場:パシフィコ横浜



 「CEDEC2010」では、発売を9月22日に控えるスクウェア・エニックスの新作MMORPG「ファイナルファンタジー XIV(FF XIV)」に関する2つのセッションが行なわれた。

 このレポートではそのうちの1つ「Final Fantasy XIVにおけるキャラクター制作 ~品質を支えるワークフローと制作手法~」について紹介する。講師はスクウェア・エニックスのデザイナーで、モデル制作チーフの馬場敬一氏と、キャラクターテクスチャー制作チーフの石井晴也氏。

 大量のアイテムや装備が必要となるMMO開発で、高品質を維持したままバリエーションを増やす手法についての興味深い講演となった。




■ 「FF XI」のデザインを引き継ぎつつ、新しいアイデアを盛り込む

モデル制作チーフの馬場敬一氏(右)と、キャラクターテクスチャー制作チーフの石井晴也氏(左)

 「FF XIV」のキャラクターアバター制作にあたっては、「FF XI」プレーヤーが入りやすいよう「FF XI」のキャラクタービジュアルを踏襲した形でデザインされた。PS2向けに開発された「FF XI」ではキャラクターデザインはデフォルメを強調したものだったが、そのイメージを元に「FF XIV」ならではのデザインに再構築された。使用したツールはSoftimageXSI、MAYA、ZBrush、Photoshopなどだ。

 「FF XIV」用のデザインが描き起こされ、「FF XI」のキャラクターを構成していた記号を引き継いだキャラクターが作られた。「FF XIV」では、今後の追加にかかるコストや手間を考慮してハイポリゴンのモデルが作られていない。ゲーム中にあるカットシーンもすべて同じキャラクターで動かすために、顔のポリゴンはフェイシャルアニメに対応できるよう目や口の周りに多めのポリゴンが使われている。

 キャラクターの体は3Dモデルで直接デザインされている。制作中のモデルを動かしながら、形を整え、全種族を並べてバランスを取るという手法が取られた。「ヒューラン女性」の場合、体に使用されているポリゴンの数は2,310。そこにZBrushというツールで製作したハイポリゴンのスカルプモデルをノーマルマップとして焼きつけることで、リアリティのある肉感を表現している。

 「FF XIV」は1つの種族の中に2つの部族がある。そのうちの1つ、「ヒューラン」の「ハイランダー」は海外市場を意識して作られた。ただ開発側には別の思惑があった。「『FF XI』を開発していた当時、海外で『FF XI』のキャラクターがバカにされていたのを見て、自分たちはこんなキャラクターも作れるんだ、と見せたい気持ちもあった」(馬場氏)のだ。開発内でも人気があり「ごつい外見とは裏腹に、みんなの愛情をたっぷり受けたキャラクターになりました」(馬場氏)。

 また「FF XI」では髪型の形状固定だったので、一番ボリュームのある髪型に合わせて頭装備がデザインされていた。そのためにほかの髪型では装備と頭の間に隙間が開いていた。「FF XIV」では装備にあわせて髪型の形状を変化させることで、違和感のない表現を可能にした。


【スライド】
「FF XIV」では「FF XI」のイメージを踏襲しつつ「FF XIV」らしいキャラクター作りを目指した。左が「FF XI」右が「FF XIV」のキャラクターモデリングとフェイスのバリエーション

【スライド】
「FF XI」のモデルをもとに「FF XIV」用に描き起こされたデザイン画
キャラクターのモデリング。顔はカットシーン用に、目、口、鼻が多めのポリゴンで作られている
筋骨隆々とした男性だけの部族「ハイランダー」は、海外市場を狙って作られた
髪の毛のシェイプ変形や、顔のパーツの細かいバリエーションは「FF XIV」から導入された新しいフィーチャー




■ 2つのハイポリゴンモデルをノーマルマップとして利用

目標となった指針は「今後10年戦えるクオリティを持ったグラフィックス」

 キャラクターの装備作成には、限られた期間やリソースの中で「高品質なグラフィックス」で「膨大なバリエーションを作る」という困難な課題に立ち向かうことになった。特に「FF XIV」はプレイステーション 3にも対応させるためメモリの制約が厳しく、工夫が必要だった。

 装備は「プランナー班」が設定を考え、「アート班」がデザインを考える。実際に作業をするのは「キャラクター班」だ。「キャラクター班」は「キャラモデル班」、「キャラテクスチャ班」、「キャラスカルプト班」、「キャラ顔班」の4つに分かれている。分業が徹底されていたため、それぞれの班の作業範囲が分かりやすいよう班を色で分け、作業チャートやコンセプトワークなどを作成する際にはその色分けでグララフィカルに自分の担当部分が把握できるようになっている。

 実際のデザインはすべて「ヒューラン男性」を基準に作られている。まずは「ヒューラン男性」用に作ったものが、後からほかの種族ごとに加工される。装備はまず、プランナーと現場のモデラーがタッグを組んでコンセプトワークを作る。それをもとにアートスタッフが三面図を起こす。「装備デザイン・テンプレート」と呼ばれる三面図は、今回の開発から初めて導入された。この三面図には、「ヒューラン男性」のワイヤーフレームと、越えてはいけない仕様上の領域が書き込まれている。

 PS3上になるべく多くのキャラクターを表示するために、装備のポリゴン数は1セットで平均5,900ポリゴンに抑えられた。「FF XIII」の1体約30,000ポリゴンと比較すると、かなり抑え気味に作ってあることがわかる。

 ローポリゴンのモデルを、美しく見せるためにZBrushで作成するスカルプチャーモデルとXSIで作成するサブディビジョンモデルという、2種類のハイモデルがノーマルマップ用に作られた。スカルプトモデルの作成では「リアル一辺倒ではなく、キャラクターとしてデフォルメされた“しわ”を入れること」(馬場氏)を心掛けたという。焼きつけには「HappyUltimapper」という内製のツールが使われている。この後、Photoshopによる手書きのノーマルマップの上乗せも行なわれて、さらなるディティールが作りこまれていく。


【スライド】
キャラクター班の中にある4つの班は色分けされて、ワークフローやスケジュール管理などに利用された
プランナーとモデラーがコンセプトワークを作り、それをもとにデザイナーが三面図にデザインを描き起こす
デザイン画から部署ごとの担当が決められ、ベースとなるローポリゴンのモデルが作成される
スカルプトモデルで作った服のしわは1つずつスタッフが手作業でリアルさを表現している。2つのハイポリゴンモデルを内製ツールでテクスチャーに焼き付ける

 「FF XIV」では6カ所の部位で装備を自由に組み合わせることができる。装備には長袖のものや、すそが膨らんだズボンなどのバリエーションがあり、そのまま組み合わせたのでは下の装備のポリゴンがはみ出してみっともないことになってしまう。

 そこではみ出しを修正するためMAYAの機能を使って、特定のポリゴンを隠したり、消したり、シェイプを変形させることで重なる部分の違和感をなくした。そのためにはまず、どこで重なるのかという共通切断面を決めて、装備に「0」から「4」までの強度という数値を割り振った。

 実際の処理では強度が高いものが優先され、低い方のポリゴンを消したり変形することで重なりあった部分の不自然さを消している。この処理を導入したことでデザインの自由度が上がり、組み合わせのバリエーションが増えた。

【スライド】
ポリゴンを部分的に非表示にすることで、重なり合った部分の不自然さを解消する
非表示にしたポリゴンの縁をシェイプ変形させることで、手袋の中に袖を入れたように見える
ポリゴンを消したり変形させる基準となるラインはあらかじめ決めてある
装備にはデザイナーによって5段階の「強度」が設定されており、「強度」が弱い装備が変形する




■ テクスチャーとシェーダーパラメーターでバリエーションを実現

 「FF XIV」では合成で装備を作るが、合成に使う材料によって同じ装備でも色や素材に変化のあるものが作成可能になっている。これを実現しているのが、テクスチャーとシェーダーパラメーターによるバリエーションだ。「合成レシピによってバリエーションが増えるのは、遊びの幅が増えるという意味でも重要なので、その準備には時間がかかっています」と石井氏。

 合成に使われるアイテムのリストを作り、そこに使われるマテリアルを金属、革、布などの素材別に約250種をライブラリに登録してある。その中でテクスチャーは約60種類ほど。それらの色違いは、すべてシェーダーのパラメーターで作成されている。

 例えば靴の装備に使えるマテリアルは上限が2つで、複雑なものが作れない。この問題を解決するために、1つのマテリアルに2つのシェーダーパラメータを持てるようにした。これで1つマテリアルで2つの素材を表現できるようになった。

 テクスチャーはマテリアル数に関係なく、1つのアイテムごとにディフューズ、スペキュラー、ノーマルの3つが使われている。ノーマルマップのマスクデータで2つのマテリアルを使い分けている。この手法で、1つのポリゴンモデルから雰囲気の違う何種類ものバリエーションを生み出すことができるようになった。

 モデル形状のバリエーションには、着せ替えの処理と同じ、ポリゴンの表示、非表示、シェイプ変形を使っている。質感のバリエーションとモデル形状を組み合わせることで、より多様なバリエーションの作成が可能になり、実際に1つの帽子モデル9つのテクスチャーから、50種類ものバリエーションが違う帽子が作られている。

 バリエーションに関する設定はすべて「SSD(Spread Sheet Data)」というドキュメントを作って一括管理が行なわれている。SSDには大きく分けてアイテム用、プレーヤー用の2つがあり、アイテム用には上で説明してきたアイテムのバリエーション関係の情報や、種族対応の情報が入っている。プレーヤー用は肌、髪、瞳の色の3つに分けられている。

 1つのアイテムを呼び出す際に、このSSDを参照して処理が行なわれる。例えばノースリーブの装備の場合、腕のパーツも装備として作られている。その腕の部分だけをプレーヤーが設定した色に置き換えるといった方法で、装備デザインの自由度を実現している。SSDという手法を採用したことで、大量のデータを全体のバランスを見ながら後で調整することができるようになった。

 シェーダーは数を絞って、汎用的なものだけが使われている。管理の容易さ、担当者ごとに複雑なシェーダーで悩むコストを削減できる、ものによるばらつきがなく統一感が出せる、後でシェーダーの大きな変更があっても簡単に対応できるといった理由からだ。シェーダーは種類ごとにマスターがあり、そこからマクロで作っているので、一括修正が可能だ。

【スライド】
なるべく多くのアイテムバリエーションが欲しい、というプランナーからのオーダーを実現するために、3つの方法が編み出された
ゲーム内に登場する約250種のマテリアルは、ライブラリの中に登録されている。シェーダーパラメーターを使うことで、1つのマテリアルに2種類の色や質感を反映できるようになった
金属が錆びた感じなどの質感はテクスチャーで、色のバリエーションはシェーダーパラメーターで処理
シェイプ変形を組み合わせることで、さらに変化に富んだバリエーションが実現した
バリエーションは「SSD」というファイルで一括管理されている

 「FF XIV」の環境光はイメージベースドライティングだが、映りこみ用のキューブマップのMipmapを利用しているので1ファイルで環境光と映り込が両方表現されている。

 キャラクターの肌にはトーンマップが使われている。トーンマップは光に対するシェーディングをマップでコントロールする機能。これを使えば、同じ強さの光でも、光の当たり方を調整することができる。トーンマップも2層化することで、マスクでシェーディングを切り分けることができるようになり、細かく肌がでているような装備でもポリゴンを切らずに表現できるようになった。

 また、顔には身体とは違うトーンマップが使われている。しかしそのままでは首のつなぎ目が見えてしまうので、顔用と体用の2層のトーンマップを作って、マスクでグラデーションさせることでつなぎ目を自然にみせつつ、顔をソフトな印象にすることが可能になった。

 こうして完成した「ヒューラン男」装備から、「種族対応」という作業でほかの種族の装備を作成していく。変形には専用のツールがあり、中に組み込んだ骨に一定のスケールと移動をかけることで変形させていく。

 ミコッテの耳や女性キャラクターのバスト部分などは、すべて手て加工している。テクスチャーは全種族でサイズが共通なので、最初から全種族のパーツをどこに入れるか決めて空間を開けておかなくてはならない。最後にそれぞれのアイテムに、プランナーが名前と番号を振って完成となる。

 「クオリティとボリュームを両立させるためには、綿密な計画とセクション間の連携が重要なカギになる」と馬場氏。そして「ものづくりでは工夫が非常に重要」とも言う。「FF XIV」の開発に使われているテクニックは、それほど目新しいものではない。開発費の高騰は次世代機用ゲームの大きな問題だが、最新のゲームエンジンがなくても、工夫することで色々なことができる。

 「FF XIV」のワークフローは一定の成果を出すことができた。大規模開発に分業は欠かせないが、分業による弊害「同じことを続けていると飽きる」というクリエイターにとっては深刻な課題も見えた。MMORPGの開発はサービスが続いている限り終わりがない。現在は品質とボリュームをそのままに、ほかの班が別の班の仕事もこなせるようフロアの改善を進めているのだそうだ。

【スライド】
キャラクターのライティングは、ライトマップと通常のライトを組み合わせている
肌と顔には別々のトーンマップが使われている。不自然さがないよう、2層化したトーンマップをグラデーションマスクでぼかしている
PS3用のテクスチャーは1,024×1,024ピクセルの解像度。ハイスペックPC用のテクスチャーは、PS3用の約3.5倍だ
完成した「ヒューラン男」モデルをもとに、ツールと手作業で他の種族用の装備を作っていく

(2010年 9月 4日)

[Reported by 石井聡 ]