CESA Developers Conference 2010(CEDEC 2010)レポート

「CEDEC CHALLENGE」の結果は果たしてどうだったか?
「超速碁九路盤AI対決」決勝トーナメントと「三日でゲームを作ってみる」報告会をレポート


8月31日~9月2日開催

会場:パシフィコ横浜



 「CEDEC2010」では、初の試みとして開発者自身のスキルを競うコンペティション企画「CEDEC CHALLENGE」が開催された。

 コンペティションはプログラマー用の「超速碁九路盤AI対決」、グラフィッカー用の「Photoshopペイントマスター」、そして3日の開催期間中にゲームを1本完成させてみようという企画「三日でゲームを作ってみる」の3つで、セッション会場ロビーのオープンスペースを利用して行なわれた。

 このレポートでは「CEDEC」最終日にあった2つの総括、「超速碁九路盤AI対決」の決勝戦と、「三日でゲームを作ってみる」結果報告セッションの内容を紹介する。




■ 「超速碁九路盤AI対決」決勝戦後に囲碁AI勝者がプロと真剣勝負!

司会はフロム・ソフトウェアの三宅陽一郎氏
プロ棋士の王唯任四段
プロ棋士の万波佳奈四段

 「超速碁九路盤AI対決」は、ネットワーク対戦サーバーに接続した2台のPCで、囲碁AI(人工知能)を自動対決させるトーナメント方式のコンピュータ囲碁大会。ゲームAI技術の向上や、広い範囲の人材発掘、産学連携の推進を目的に行なわれた。

 対局は、9マス×9マスの「九路盤」という初心者向けの、少し小さめな碁盤を使って、一手が1秒の制限時間で行なわれた。参加者は「CEDEC」のホームページで事前に公募され、腕に覚えのあるプログラマーが自作のAIを持ち寄って知能を競った。

 3日目までに13本の参加プログラムによるリーグ方式の予選が行なわれ、その結果勝ち残ったプログラムで決勝トーナメントが争われた。決勝トーナメントに出場したのは、北陸先端科学技術大学院大学の飯田・池田研究室のnomitanプロジェクトメンバーが製作した「nomitan」、電気通信大学の池畑望さんらが製作の「hope」、電気通信大学OBだという矢野洋平さん製作の「tombo」そして電気通信大学の真鍋和子さんらが製作の「kasumi」の4本。

 決勝トーナメントでは、フロム・ソフトウェアでAI開発を行なっている三宅陽一郎氏が司会を勤め、プロ棋士の万波佳奈四段と王唯任(おうゆいにん)四段がアドバイザーとして試合の解説を行なった。

 勝負の結果、予選から圧倒的な強さを見せつけていた「nomitan」が優勝した。「nomitan」は「モンテカルロシミュレーションを素直に使ったプログラム」(代表:橋本準一さん)で1秒の間に1万回ほどの手を試行して答えを出しているのだそうだ。今回は試行の時間が短かったので、ある程度局面で辺りをつけるようなチューニングを施した。

 講評の後、エキシビジョンマッチとして万波四段と「nomitan」の対戦が行なわれたが、さすがにプロの強さを見せつけて楽々と万波四段が勝利した。万波四段によると、「AIは1秒しか時間がないと石を取りにいくが人間は囲おうとするところが違うのかもしれない」と感想を語っていた。

 三宅氏は講評で「囲碁AIは非連続的でマス目の位置がはっきりしていて、普段私が作っているアクションゲームのでこぼこの空間を連続的に動くAIとは対照的。どう違っているのかを比較したいと思って始めました」と囲碁の魅力を述べた。

 王四段も「囲碁はデジタル感覚とアナログ感覚が両方必要なところが面白い。数字だけではだめで、勘とか空間認識の力が必要です。基本的なルールは簡単なので、コツを学びさえすれば誰でも楽しめます。今回の参加者にはAiを作るために囲碁を始めたという人が多かった。自分が囲碁を知ればもっと強いAIが作れるようになると思います。ぜひ囲碁で遊んでみてください」と奥深い囲碁の魅力を語った。


【会場のオープンスペースに設置された囲碁AIコーナー】
オープンスペースの予選会場では、囲碁教室が開催され、コンピュータ囲碁の体験もできた


【「CEDEC CHALLENGE:超速碁九路盤AI対決」の様子】
観客はほとんどがプログラマー北陸先端科学技術大学院大学の橋本準一さん「hope」の作者、電気通信大学の池畑望さん
「tombo」の作者、矢野洋平さん「kasumi」の作者、電気通信大学の真鍋和子さんプロ棋士が試合の流れを分かりやすく解説してくれた



■ 3日で作った携帯ソーシャルアプリ、その出来は?

最終日の最終セッションでは結果報告会が行なわれた
仮タイトルが決まった直後には早速企画会議が開かれていた
最終日の開発大詰め、PCに向かって黙々と作業を続ける

 「三日でゲームを作ってみる」は、初日に来場者から集めたお題の中から1つを選んで、3日間のうちにゲームを1本作り上げるというチャレンジ。何社かに声をかけた結果、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)のみが名乗りをあげて、会場1階のオープンスペースに会社で日常業務に使っている開発機材を持ち込んで携帯向けソーシャルゲームを開発した。

 参加したのは、ディー・エヌ・エー ソーシャルメディア事業本部ソーシャルゲーム統括部のエンジニア上田智氏、黒田映史氏、越智峻介氏、大和涼子氏、渡部綾歌氏、伊藤理恵氏、サトウテン氏、對馬正氏の8名。

 企画は1日目の午前中に来場者から募集して、DeNAの南場智子社長が投票箱から抽選した。内容は、ゲームプラットフォームの3社が社員を奪い合う「プラットフォームウォーズ(仮)」といういかにも「CEDEC」らしいネタだ。

 決定直後から早速企画案を書きこんだホワイトボード前に集まってのミーティングが始まり、2日目、3日目には通りかかるたびに黙々と作業する姿が見られた。ゲームは最終日の15時にβ版がリリースされ、Twitterにもアドレスが公開された。

 完成したゲームは、D社、G社、m社という3つのゲーム会社のディレクターとなって、「プログラマー」、「プランナー」、「デザイナー」を引き抜きつつゲームを完成させるというもの。登場する社員は期間中に実際の開発者から協力者を募って撮影したもので、業界の有名人がずらりと登場する豪華版だ。

 ゲームの開発費は決まっているので、あまりスタッフ獲得に予算を使っていると大作が出せなくなる。完成するゲームもどこかで見たようなパッケージのものばかりで、「CEDEC」限定の企画だからこそ許されるというパロディが満載だ。

 来場者からの反応はおおむね好評で、開発者の「ジレンマ」をよく表現できていると感心する感想もあった。ゲームのURLをTwitterで公開していたので、ちょうど報告会の最中にはユニークユーザーが319人、PVが12万ほどいた。

報告会で司会を務めた、株式会社モバイル&ゲームスタジオの取締役会長 遠藤雅伸氏

 参加者にはコンシューマゲームの開発者も多く、発表後の質疑応答では携帯ゲームの開発についての質問が連続した。新規タイトルの開発をする時、初期のチームは企画1名エンジニア1名のミニマムな構成で行なうことや、DeNAの人気ゲーム「怪盗ロワイヤル」などでも、イベントの開発は3日程度でやっているということなど、普段あまり耳にすることのできない携帯ソーシャルアプリ開発裏話を聞くことができた。

 そもそも、DeNAがこの挑戦を受けた背景には、携帯ソーシャルアプリの開発現場を知って欲しいという意図があった。スクウェア・エニックスからDeNAへ転職したという對馬氏は「コンシューマ業界で大規模な早期退職の募集があった時にも、あまり応募が来なかった。携帯ゲームの開発はそもそも転職の対象になっていないのです。もっとコンシューマ業界の人に、我々のスタイルを知ってほしいと思いました」と、今回のチャレンジに参加した本音をのぞかせた。

 今年から始まった3つのチャレンジ。評判が良ければ、来年以降も続いていくそうだ。今年Twitterで会場外から参加した人もいるだろう。ゲーム開発者の裾野を広げる試みとして「CEDEC」の新たな顔に成長していくことを期待したい。


【完成したゲームの画面】
実在の開発者がゲームのキャラクターとして登場する
【開発報告会の様子】
来場者から集めたゲームのアイデアびっしりとアイデアが書き込まれたホワイトボード
エンジニアの上田智氏、黒田映史氏、越智峻介氏アーティストの大和涼子氏とサトウテン氏助っ人に入ったUI担当の渡部綾歌氏と、アドバイザーの對馬正氏
報告のスライドと、報告を行なった伊藤理恵氏

(2010年 9月 3日)

[Reported by 石井聡 ]