CESA Developers Conference 2010(CEDEC 2010)レポート

 

「アイドルマスター2」は前作からどこが変わった?

こだわりのグラフィックス&アニメーション技術を公開


8月31日~9月2日 開催

会場:パシフィコ横浜



 アイドルプロデュースゲーム「アイドルマスター」シリーズの最新作、Xbox 360用「アイドルマスター2」が、2011年春に発売される。発売まではまだかなりの時間があるが、「CEDEC 2010」では早くも本作のグラフィックスに関するセッション「次期アイドルマスター グラフィクス&アニメーション プログラミング プレビュー」が開かれた。

 講演を行なったのは、株式会社バンダイナムコゲームスのプログラマー前澤圭一氏と竹内大五郎氏。前澤氏がグラフィックス技術関連、竹内氏がアニメーション関連について説明した。




■ 「センシティブトゥーン」の実装などにより、全てが変わった『2』

バンダイナムコゲームスのプログラマー前澤圭一氏

 前澤氏は「アイドルマスター2」におけるグラフィックスについて、Xbox 360向けとしては前作に当たる「アイドルマスター ライブフォーユー!」からどこが変わったのか、という視点から説明を行なった。

 まずキャラクターについて。「アイドルマスター」シリーズでは、3Dキャラクターをセル画調に見せるトゥーンシェーディングを採用している。その上で、前作では3段階程度のシェーディングにソフトフォーカスを加えている。またアイドルを常に光で包み込むようにして美しく見せるため、カメラ視点について回る「View追従光源」を設定。セルフシャドウも採用している。

 「アイドルマスター2」では、髪のハイライト処理を追加。さらに前作ではソフトフォーカスによって生まれていた陰影のグラデーションが、シェーディングの段階から出るようになっている。

 そして前澤氏が「トゥーンシェーディングの新たな可能性」という技術を紹介した。「センシティブトゥーン」と名づけられたこの表現は、手法的にのっぺりとした色づけになるトゥーンシェーディングにおいて、服のシワなどの陰影を繊細に表現する。僅かなシワも敏感に可視化することから「センシティブ」と名づけられているようだ。前澤氏は「トゥーンにはまだ進化の余地がある。未来があるということを記憶にとどめて欲しい」と述べた。


前作でのグラフィックス表現。セルフシャドウ技術や、現実にはありえない位置の光源でキャラクターを綺麗に見せるといった手法が取り入れられている本作ではシェーディングの段階から陰影のグラデーションが出る
従来のトゥーンシェーディングでは出せなかった繊細な陰影を描き出す「センシティブトゥーン」。プロジェクターの映像を撮影したものなので、詳細な表現がわかりづらい点はご容赦いただきたい

 続いてはステージの表現について。「アイドルマスター2」では海岸の波ややしの木の揺れといった背景の動きが追加。ノーマルマップ等を採用し質感も向上している。さらに、アーケードゲーム「デッドストームパイレーツ」で作られたパーティクルエンジンをコンシューマータイトルで初めて採用し、紙吹雪のような表現も一新されている。

 こうしてキャラクターと背景が作られるが、トゥーンシェーディングのキャラクターと、そうでない背景のギャップが発生する。これは前作でもソフトフォーカスと被写界深度を入れることでなじませている。「アイドルマスター2」ではシェーディングの段階からグラデーションがあるためソフトフォーカスの意義は下がっているが、こういった面からなくすわけにはいかないという。また前作では一部ステージに限られていたブルームとフレアを追加している。

 このほかミドルカメラでのフィルタ強化や、セルフシャドウにおいてキャラクター同士の相互干渉を防ぐために、アイドル1人1人を個別のレイヤーに分けてセルフシャドウを適用するといった手法も取り入れている。

 これらの全ての処理を行なう上、さらに本作からキャラクターが5人に増えたため、処理負荷は前作よりかなり増えている。しかしながら「60フレームのダンスは保持する」というのは絶対条件としている。結果として、増大した負荷に対応するため、全システムを1から作っているという。前澤氏は「何が変わったかと言えば、全てが変わった。中身は全くの新作。新しいからこそ『2』という名前がついた」と述べた。


ステージには動くオブジェクトが追加され、パーティクルエンジンも一新された
色々な技術や手法を追加し、負荷が増大している。これに対応するため、全面的に1から開発しなおしているという



■ シンプルな要素で表現力あるアニメーションを実現

バンダイナムコゲームスのプログラマー竹内大五郎氏

 続いて竹内氏が、髪の毛やスカート、アクセサリー、胸部といった、アニメーションする「ユレモノ」の解説を行なった。

 最初の題材は、おさげ髪の動き。アニメーションさせず、固定した状態でキャラクターを動かすと、当然ながら髪の毛がガチガチに堅く見えてしまう。そこでまず髪を動かすため、数個の関節を入れた「骨」をおさげ髪に設定する。根元は頭に固定し、その先の骨が慣性で動くようにする。ただし速度は空気抵抗なりにより減衰するので、それを減衰係数として掛け算。その数字を元の位置に加算することで、次のフレームのおさげ髪の位置を算出する。

 これだけだと、動いた後のおさげ髪が空中に投げ出されたようになるので、自然に下に流れるよう重力を設定する。これで動きはある程度自然になるが、今度は常に垂れ下がるような見た目になりボリューム感が失われる。そこでもう1つ、元の位置に引っ張り戻そうとする力の係数を与える。これら3つの処理が終わったら、骨の長さを元に戻すという処理を行なうと、自然な動きが実現できる。


3つのパラメーターを与えてやることで、十分に見栄えのするおさげ髪のアニメーションを実現

 次にロングヘアの表現。おさげ髪は1本の骨だったが、ロングヘアではそれが複数あるという想定で、複数本の骨を入れて動かす。これだけでもそれなりには見えるが、それぞれの骨を入れた髪にまとまりがなくゴワゴワした印象を与えてしまう。そこで、隣の骨との距離を保つように、骨と骨の間にバネを入れてやる。これによって全体のまとまりができて、ロングヘアのそれらしい動きを実現する。

 動きだけならこれで完成となるが、髪の毛が動くと体にぶつかるので、コリジョン判定のために骨の位置に球を入れる。他にもスカートの縁や、本作から動くようになったアクセサリーなどにも設定して、めり込まないようにしている。

 竹内氏はこれらの手法について、「シンプルな動作とシンプルなコリジョンで、十分な表現力が得られている」とまとめた。プログラマーとしてはさほど複雑な実装をせず、動きをつけるデザイナーは少ないパラメーターで十分な結果を実現できるという、双方にメリットのある手法といえるだろう。


ロングヘアはおさげ髪の応用的手法で実現。骨の間にバネを入れて、髪同士が付かず離れず一定範囲の距離を保つことで、まとまりを出している
髪やスカート、アクセサリーなどがキャラクターにめり込むことがないよう、コリジョンを設定。球と円柱で作られたシンプルなものだ

(2010年 9月 3日)

[Reported by 石田賀津男]