CESA Developers Conference 2010(CEDEC 2010)レポート

 

「ネオロマンスシリーズ」におけるキャラクター制作

デザイナーが意思疎通役となる一風変わった開発手法


8月31日~9月2日 開催

会場:パシフィコ横浜



コーエーテクモゲームス ソフトウェア開発本部 CG部シニアリーダーの大森まゆこ氏

 株式会社コーエーテクモゲームスの「ネオロマンスシリーズ」は、1994年に発売された「アンジェリーク」から続く、女性向け恋愛ゲーム。現在は「アンジェリーク」のほか、「遙かなる時空の中で」、「金色のコルダ」、「ネオ アンジェリーク」と4つのシリーズが展開されている。さらにそれぞれに漫画やアニメ、CD、舞台イベントと幅広く展開し、現在も女性向け恋愛ゲームの代表格として衰えない人気を誇っている。

 「CEDEC 2010」では、このネオロマンスシリーズについて、「ネオロマンスゲームにおけるキャラクターメイキング」と題されたセッションが開かれた。この講演では、コーエーテクモゲームス ソフトウェア開発本部 CG部シニアリーダーの大森まゆこ氏が、試行錯誤の中から生みだしたキャラクター制作手法を紹介した。




■ 漫画家とシナリオ担当の間に立つ、社内デザイナーの仕事

キャラクターデザインは漫画家が担当。その上で社内デザイナーは何をする?

 大森氏はキャラクターデザインを担当しているが、ネオロマンスゲームにおけるキャラクターデザインは、一般的なそれとは異なる部分がある。まずネオロマンスゲームでは、キャラクターデザインは漫画家が担当している。そしてキャラクターの設定を作っているのは、社内に別にいるシナリオ担当。社内デザイナーは、「漫画家とシナリオ担当者の主張を繋ぐ」ことが仕事の1つだという。

 漫画家にデザインを発注する際には、シナリオ担当が作った設定が渡される。その後、漫画家から上がってきたキャラクターデザイン案をシナリオ担当が確認し、イメージをすり合わせていく。その際、シナリオ担当は「威厳を出したい」、「可愛らしく」といったあいまいな要望を出すので、そこに社内デザイナーが入り、修正方針を具体的な形にしていく。

 例として、「金色のコルダ3」の「八木沢雪広」が挙げられた。シナリオ担当は「地味なキャラクターを」と発注したので、漫画家も特徴のない地味なキャラクターを上げたところ、デザイナーから「恋愛対象としては地味すぎてユーザーに受け入れられない」と批判が上がった。シナリオ担当とデザイナーの言い分の矛盾を解消せねばと考えた大森氏は、シナリオ担当に意図を確認したところ、「ゲーム上で熱い展開の演出があるので、普段は地味にしてギャップを見せたかった」ということがわかり、デザイナーも納得して漫画家のデザインにOKを出した。


「八木沢雪広」は発注どおりの地味なキャラクターが上がってきたため、デザイナーが不安を感じた。シナリオ担当が演出上必要な設定だという説明をデザイナーにも理解してもらうことで、当初のデザイン案が採用された

 また別の例として、同じく「金色のコルダ3」の「東金千秋」を紹介。こちらは「派手で尊大なキャラクター」という設定で発注し、上がってきたものをシナリオ担当が確認すると、「器を大きくしてください」という要望を上げてきた。どういう意味かと確認すると、本作では登場する高校を戦国時代の各軍に見立てたイメージを持たせており、「東金千秋は伊達政宗のような人物」と答えが返ってきた。漫画家にそういった裏設定まで含めて伝えると、負担を増やしすぎてしまうのでできない。そこで社内デザイナーが、シナリオ担当の要望に応じてデザインの微調整を行なった。


「東金千秋」は漫画家のデザイン案に、社内デザイナーが微調整を加えた。印象の変化がおわかりいただけるだろうか?

 次にキャラクターメイキングについて。単純に美男子を描くのではなく、「物語と舞台設定の把握も大切な仕事」という。「金色のコルダ3」は、現代の夏、場所は横浜、登場キャラクターは高校生、目的は音楽コンクールの優勝といった設定から、衣装は制服を中心としてデザインしていった。

 また鎌倉時代を舞台とした「遙かなる時空の中で3」では、義経と弁慶をキャラクターとして登場させた。どちらも美男子にデザインしているのは当然として、衣装のデザインや柄などは時代考証をもとにして作られている。これは歴史シミュレーションゲームを多数手がける同社の強みも活かされている。


美男子にデザインされた義経と弁慶。全くのフィクションながら時代考証は行ない、家紋をもとに衣装の模様を作るといった手法が取られている

 続いて、色設定について。ネオロマンスゲームでは、ゲームのイメージカラーとキャラクターカラーを予め設定している。この色は衣装や目の色などにさりげなく反映されるという。また漫画家にデザインを発注する際にも、このイメージカラーやキャラクターカラーを先に伝えておくのだという。ただそれ以外の部分については、漫画家のセンスを重視するという。


事前にイメージカラーやキャラクターカラーを設定し、漫画家に伝えている



■ 作業細分化により効率化と品質安定を図った工程管理

 ネオロマンスシリーズでは、2Dキャラクター制作における工程管理でもユニークな手法を取っている。1本のタイトルに対して、平均200点以上のCGが作られるが、その制作期間は3~4カ月と短い。この短期間で実現するため、全工程をPhotoshopで行ない、作業の細分化を行なっている。

 Photoshopは、素体製作から目・口のアニメーションまで全てで使う。紙は使わず、ペンタブレットで作業する。同社ではチェックが厳しく、様々な要望に対応する修正作業が発生するので、紙ベースだと書き直しになり負担が大きい。またパーツ類の流用が容易になり、描き間違いや描き忘れが防げる。


全工程をPhotoshopで行なうことで、修正作業を容易にするほか、描き間違いや描き忘れを防ぐ

 作業細分化は具体的に、下絵、ラフ、線画クリンナップ、色マスク、着色、目パチ口パクアニメの6工程に分けられており、それぞれの工程ごとにチェックを行なう。これは工程の逆戻りを防ぐことを目的としている。例えば着色工程まで進んでからポーズを変えてほしいと言われれば、本来ならば下絵の工程からやり直しになる。工程ごとにチェックするのは一見作業が増えるように見えるが、リスクを回避するとともに、負担軽減にも成功しているという。

 また作業の細分化により、個人に求めるスキルを限定できるという利点もある。1人で全ての工程のスキルを身につけるのは、相当な時間と、それを指導する人員が必要になる上、個人個人の向き不向きもある。またタイトル間の人の入れ替えも激しい。分業によってスキルを限定し、各工程のチェック担当者を置くことで、最終的なクオリティにばらつきがでないようにしている。

 ただし、大量のCGを短期間で作る中での人員育成は難しく、ネオロマンスシリーズ全体を見られるデザイナーは少ない。大森氏は「こういった人材の育成がシリーズの今後を決める」と述べた。

 最後に総括として、「殺伐とした雰囲気に陥りがちの開発現場だが、思いやりの心と相手を尊重する心が大事」と述べた。シナリオ担当と漫画家の間に立ち、多人数で細分化された作業を管理するという立場において、全体の調和を図ることが最も大切なことだというメッセージが伝わった。


作業細分化により工程を6つに分け、それぞれでチェックを行なう。チェック回数が増えるように見えるが、工程の逆戻りが防げることで、結果的に負担軽減に繋がったという



CEDEC 2010の初日には、「ネオロマンスシリーズ」でのメディアミックスについてのショートセッション「キャラクターゲームにおけるメディアミックス ~ 金色のコルダ2『プロジェクトf(フォルテ)』より」も開かれた。プランナーの園部知子氏が、専任の「IPプロデューサー」を中心とした体制で、綿密なスケジュール調整や、ゲームとは異なる展開が楽しめる小説・アニメなどの展開によって、効果的に連動したメディアミックス手法について紹介した

(2010年 9月 2日)

[Reported by 石田賀津男]