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CESA Developers Conference 2010(CEDEC 2010)レポート

スクエニが未発表タイトルの日米共同開発経験を披露
北米ゲーム開発の要諦は「Believable」だった!


8月31日〜9月2日開催

会場:パシフィコ横浜



 CEDEC 2010で力が入れられている部分のひとつとして、海外の開発者が、海外市場を語る「海外トラック」の充実が挙げられる。その影に隠れるような形で、じわじわと充実してきているのが、日本の開発者が自らの経験を元に海外市場を語るセッションだ。日本人の感覚で、日本市場と海外市場の細かいギャップが語られるため、いちいち頷ける話が多く、これから海外で働こうとしている開発者にとっても有意義な情報ばかりだ。

 本稿では、中でも特に膝を打つような話題が多かったスクウェア・エニックスのショートセッション「はじめての日米共同開発 〜日米両国でのディレクション経験を通じて得た、たくさんの気づき〜」をお届けしたい。




■ 日米共同開発の未発表の新規タイトルは、「Metacriticスコア90以上」を目指すAAAタイトル

新規タイトルのクリエイティブディレクターを務める塩川洋介氏
開発タイトルの基本情報。「Metacriticスコア90以上」と目標は非常に高い
新規タイトルはすでに開発着手から1年半が経過している。今回はこの1年半の経験が語られた

 セッション講師を担当したのは、現在、米国西海岸で日米共同開発という形で開発を進めている未発表タイトルのクリエイティブディレクターを務める塩川洋介氏と、コンセプト・アーティストの松澤雄生氏の2人。彼らが扱うタイトルはまだ発表前ということで、イラストやスクリーンショットの類は一切開示されず、シンプルなキーワードをちりばめたスライドを使ったトーク主体のセッションとなった。

 ちなみにスクウェア・エニックスが手がける未発表タイトルの基本スペックは、「未公開新規大型プロジェクト」、「日米コラボレーション開発」、「ワールドワイドに展開」、「コアゲーマー向け」、「Metacriticスコア90以上」、「AAAタイトル」というもの。Metacriticスコアについては発売後に決められるため努力目標ということになるが、極めてハードルが高い目標で、今年その条件に該当するタイトルはまだ「Starcraft II: Wings of Liberty」しか存在しないことからもその難しさが伺える。ともあれ、現在米国西海岸で進められているスクウェア・エニックスグループの大規模プロジェクトのひとつが今回のセッションの素材となった。

 もともとの開発経緯は、日本でディレクター/プランナーを務めていた塩川氏が、1月に“100本の海外ゲームをプレイしてレポートをまとめる”という不思議な業務の中で、和田社長と食事をする機会があり、その際に自らの想いをぶちまけたところ、「だったらやってみろ」ということになり、さっそく企画をまとめて北米でプレゼンをしたところ好印象だったため、本格的にプロジェクトがスタートしたという。

 米国西海岸で開発を担当するデベロッパーの名前は明らかにされなかったが、開発者の中には、「Dead Space」(Electronic Arts)や「Bioshock」(Take-Two Interactive)の開発経験者などもいる(塩川氏)ということで、ネームバリューは不明ながら、それなりに実力のあるソフトハウスのようだ。ゲームジャンルについては、コアゲーマー向けのアクションゲームだという。

 その新規タイトルは、すでに開発着手から1年半が経過しており、プリプロダクションを終えて、これから本格的なプロダクションのフェイズに入る段階だということだ。発表のタイミングや発売時期は一切未発表ということだが、そう遠くはなさそうである。





■ 北米のゲームに必要なのはリアリティではなく「あるかもしれない」と思わせる説得力

コンセプト・アーティストの松澤雄生氏
塩川氏と松澤氏が抱いていた北米開発のイメージ。ステレオタイプだが、誰しも感じているところではないだろうか
「ビリーバブル」というのは、北米市場の特徴を端的に言い表した表現だと思う

 さて、上記の情報を土台に、日米共同開発経験でのいくつかの“気づき”が2人から紹介された。塩川氏と松澤氏は、米国に赴任する前、北米開発について漠然と「リアル志向」、「トップダウン意思決定」、「ドキュメント重視」というイメージを持っていたという。しかし、これらのイメージは、共同開発経験の中で裏切られることになった。

 塩川氏はディレクターとして、米国では“ムキムキマッチョのナイスガイが大活躍するアクションゲーム”が主流を占めることから、自分なりのリアルを追及した企画を提示したところ「地味、おもしろくない、こんなの作りたくない」とけんもほろろの対応を受けたという。

 そこで塩川氏は、日本の強みであり、スクウェア・エニックスのお家芸でもある“ファンタジー”の要素を活かしたものを再提示した。すると「意味不明で理解できない。ウエスタンオーディエンス(北米ユーザー)が求めていることがまったくわかっていないと」と前回と同様に否定されたという。

 こうしたやりとりから気づいたのは、ウェスタンオーディエンスが求めているものは、リアル志向でも、ファンタジーでもなく、「ビリーバブル」(Believable、信じられる、説得力がある)という要素だったという。塩川氏は、なぜ北米のFPSでマッチョ系の主人公が多いのかは、ビリーバブルの視点から考えると見えてくるという。様々な困難を乗り越えるために必要な肉体や経験を踏まえて考えると、彼らのキャラクター設定は確かに説得力があるといえる。この塩川氏のビリーバブルの視点は、日本人ならではの着眼点で非常に的を射た指摘だと思う。

 続いて松澤氏からは、アーティストの立場から残りの2点について語られた。まず「トップダウンの意思決定」については、まったくそんなことはなく、むしろトップダウンを毛嫌いし、みんなで決めるのが一般的だという。その際に重要になるのが空気を読むということで、責任者は独断で決めず、これならオッケーという雰囲気を掴んで決めるのが北米流だという。

 「ドキュメント重視」については、比較的しっかりしていない日本と比較すると、むしろ想像以上にしっかりしていたという。アーティストにドキュメント作りをさせるだけでなく、早いタイミングで細かいところまで一気に仕様を策定し、それを開発のバイブルとして活用していく体制が取られていたという。

 松澤氏はここでバイブルの一例として3つの折れ線を提示した。1つは90度直角の折れ線、1つは緩やかなカーブ、1つは角が2箇所ある折れ線である。これは実は特定のオブジェクトにおいて使って良い線とダメな線を規定したものだという。こうした細かい部分まで仕様をあらかじめ切っておくことで、プランナーとアーティストのコミュニケーションエラーを防ぐという考え方のようだ。

 塩川氏は、最後に「自分の強みを見つめ直して欲しい」と切り出し、「欧米でこれが流行っている。日本のこれはもうダメだ。そういうメディアの情報に右往左往するのは辞めて、ウェスタンオーディエンスに対していかにビリーバブルなコンテンツを届けるかを考えよう」と訴えた。「ご意見がある場合は、こちらにどうぞ」と和田氏のTwitterアカウントを提示して笑いを誘った。いくつもの“気づき”を克服した上で開発が続けられている新規コンテンツとはどのようなものなのか発表が非常に楽しみだ。


【スライド】
空気を読んで決める、あらかじめ細かいところまで決めるというのは、かなり意外だった。質疑応答では、「ビリーバブル実現のためにクリエイティビティが阻害されないか?」という質問が出され、それに対して、「まったくそうは思わない。『Fallout3』では核戦争後の世界を再現するために、コーラを呑むと放射能に汚染されてしまう。本当はそんなことあるわけないが、自然に受け入れられている」とコメント。ビリーバブルの追及に強い意志を感じさせてくれた
 

(2010年 9月 1日)

[Reported by 中村聖司 ]