最先端技術を体感できる「DIGITAL CONTENT EXPO 2009」
任天堂・宮本氏の仕事を振り返る「記念公演『宮本茂の仕事史』」なども実施


10月22日~25日 開催

会場:日本科学未来館、東京国際交流館/他


 去る10月22日から25日まで、日本科学未来館、東京国際交流館などで幅広い分野から集められた最新デジタルコンテンツの展示会「DIGITAL CONTENT EXPO 2009」が開催された。医療や芸術からロボット、そして映画やゲーム、アニメ、CGまで様々なコンテンツが集められ、土曜日などは天候が悪い中にもかかわらず、かなりの人出でにぎわっていた。主催は経済産業省と財団法人デジタルコンテンツ教会。

 「DIGITAL CONTENT EXPO 2009」はCoFestaの一環として開催され、現在研究中のコンテンツなどを体験できる「次世代コンテンツ技術展」、国際的CGイベント「ASIAGRAPH2009 in Tokyo」、注目を集めている3D関連技術を集めた「国際3D Fair 2009 in Tokyo」といった各分野のイベントがコーナー分けされ、それぞれ展示された。

 これら展示物の中には、エヌビディア・ジャパンが「NVIDIA 3D VISION」を出展し大画面で3Dゲームを楽しめたり、バンダイナムコゲームスの3D効果が楽しめる横スクロールアクション「インヴィンシブル タイガー ザ レジェンド オブ ハン タオ」、AQインタラクティブのDS用タイトル。「KORG DS-10 PLUS」などが楽しめた。

 同イベントでは展示物だけでなく著名人を招いてのシンポジウムも行なわれた。なかでも弊誌が注目したのは「ASIAGRAPH2009 in Tokyo」の一環として行なわれた記念講演「宮本茂の仕事史」。任天堂の宮本茂氏と、東京大学大学院教授でありアーティストでもある河口洋一郎氏による講演なのだがこれまでの宮本氏の仕事を振り返る内容で、話題が脱線しながらも非常に楽しい講演となった。

 講演に先駆け、今年から「ASIAGRAPH2009 in Tokyo」において創設された「つむぎ賞」を宮本氏が受賞したと言うことで表彰式なども行なわれたのだが、残念ながら全て撮影、録音禁止であったため、記事ではテキストのみでお伝えさせていただく。


 宮本氏は小学校時代に人形劇に出てくる人形を作る夢を持っていたが、中学時代に漫画クラブを作り赤塚不二夫、手塚治虫、白土三平らに憧れマンガ家を目指して作品を描くことになる。しかし上手い人がたくさんいることを知り挫折。勉強して工学部を目指すが、絵を描くことを忘れられず工業デザイナーを目指す。

 話は前後するが、宮本氏が高校1年生の時に映画「2001年宇宙の旅」が公開され「こういうSFを書きたいな」と思い、高校3年生の時に公開された映画「イージーライダー」でピーター・ファンダに憧れていた。その当時宮本氏は長髪の出で立ちでバンドをやっており、米国のアコースティック音楽“ブルーグラス”を演奏していたという。

 そして1970年代後半に大学を卒業。大学の先生からは「アクセサリデザイナーにならないか?」と誘いを受けたというが、量産された商品を作りたいという想いからほかの仕事を探すも、宮本氏いわく「仕事がない中、父の知り合いの山内溥氏を紹介してもらい、初めてのゲームデザイナーとして就職した」のだという。

 入社後「スペースインベーダー」が大ヒットを記録し任天堂社内でも「これからはゲームですよ」といった話になり本格的なラインがスタートし、宮本氏も「ドンキーコング」の制作に取りかかる。当初、横で見ていても面白いゲームを作ろうと言うことだが、宮本氏は「なぜ100円を投入して遊ぶのか?なぜ200円目を入れるのか?」と仕組みを徹底的に考えたという。「どこかに行くという到達型、画面にあるものを全て消すといったゲームのデザインはわかりやすい。『パックマン』は画面を全て消すタイプで誰が見てもわかるゲーム」と宮本氏は解説し、「ドンキーコング」についてはスクロールするハードウェアがなかったことから画面をジグザグに進む構造を考え、そこを進むだけではただの“労働”となるのでショートカットできるアイデアを取り入れる。さらに「大きなものが逃げていけば誰でも追いかけるだろう」と考え、大きなドンキーコングが女性を抱え画面上部に逃げていくシーンを作っていった。

 これらアーケードゲームを作り上げていったあとファミリーコンピュータに移行していく。ここでも意外な話が繰り広げられる。大ヒットした「スーパーマリオブラザーズ」を作っていた頃はすでにディスクシステムの開発が進んでおり、最後のカートリッジ作品と考えて作っていたのだという。しかし、「カートリッジの『ドラゴンクエスト』が大ヒットして困ってしまった。半導体の進化が予想よりも早く広がっていってしまった」と宮本氏。「スーパーマリオブラザーズ」からブームが始まったように思われがちだが、実は意外な展開だったというわけだ。

 そして「ゼルダの伝説」が登場する。宮本氏は、ゲームは(横スクロールタイプのアクションゲームのように)ただ進んでいくだけだと面白くないと考え、当時PCで登場したRPGをプレイしているユーザーが真夜中に電話でアイテムの自慢をしているのを見て、「成長することが楽しい」という点に着目する。そこでアクションで成長するゲームを作ろうとするが、周りからは「ボロクソに言われた」のだという。ゴールを目指すだけでなく喜びを見つける人をユーザーに設定しているのに、今までのユーザーにとってはゴールがないからゲームの楽しさがわからなかったと言い、ここでもまた徹底的にわかりやすいような工夫を行なったという。最初に誰でも入りたくなるようなわかりやすい洞窟を目の前に作り、入れば剣をくれる。剣をもらったことがうれしいと言うことを理解させ、さらに先に進めていく。この「ゼルダの伝説」は米国で大ブレイクすることになる。

 ここで話題はジョイスティックなどインターフェイス系に移っていく。ゲーム&ウォッチの「ドンキーコング」の時に十字キーを作り、それをファミコンに導入することでコストダウンを図り、対戦させたいという観点から2つのコントローラーを付けることに成功する。そしてスーパーファミコンの時には「スーパーストリートファイター」がヒットしていたことから6つのボタンが必要となった。「あまりボタンが多いのは……」と宮本氏は思ったというが、すでに任天堂社内でLボタンとRボタンの開発は進んでいたと言い、4つのボタンを付けることで6つになると判断し、「そのうち慣れる」と押し切ったという。さらにニンテンドウ64の時は3Dを触るという観点からジョイスティックを導入。宮本氏によれば「真ん中にジョイスティックを置くことが重要だった」といい、その理由は、体の中心にスティックがあればまっすぐ前に倒すことでゲーム内のキャラクターもまっすぐ進む、という理由からだという。

 こうやってインターフェイス系の開発にも携わっている宮本氏だが、アート関係者やインタラクティブの研究者に向けてのメッセージも忘れない。「アート関係者が羨ましい。ゲームを作っている人より自由で新しいことをやっている。僕たちは商品を作っていると思っているので、作品と呼ばないようにしている。僕たちは“今”をやっているが、アート関係者達は“未来”をやっている」と言い、さらに「インタラクティブの関係者ももっとこういった世界に来た方がいい。インタラクティブの技術はもっと広がっていく。僕は世界で1番売れた体重計を作ったことで満足した。これからは別のもっと売れるものを作る」と語った。

 この他にも興味深い話題としては、「米国人はキュートが嫌いでクールが好きだと信じている。だから『ポケットモンスター』や『カービィ』を持って行っても大反対される」と切り出した。今では両タイトル共に米国でも一大フランチャイズに育ったことから「キャラクターを買ってくるのではなく、面白いゲームを作り、それに新しいキャラクタを乗せ育てていく」事が重要であるとした。そのうえで宮本氏は自分でコピーなども考えることを例に挙げ「良いゲームはたくさんあるのに売れないのはなぜだろう?それは“売りにくいもの”を作っているから。どう作れば売れるのか?そこで個性が必要。今では技術目標を決めて全員で作っていくので画一化され誰が作ったかわからない。個性がゲームを仕上げる」とゲーム作りの哲学を披露。

 ゲーム作りは気が抜けないという。「例えばマリオのジャンプが2ドット違うだけで難易度が変わってしまう。最後まで気が抜けない。ゲームシステムは柔軟で、彫塑のようなもの。形が出来ても柔らかい粘土のように動かすことができる」と語り、小さなチームでゲームのコンセプトをきっちり固めた上で、揺らがない所まで来たら新たな人員を投入しまわりを一気に仕上げていくのだという。

 河口氏に「宮本さんは悩みなんかないでしょ?」と言われた宮本氏は「チャレンジしていると悩まない。人生にムダはないし、失敗しても糧になっている。過去の人生を振り返っても暗くならない」と答えた。1日の終わりによく泳ぎに行くという。「1kmから3kmほど泳ぐとしんどくて悩んでいられない。悩めるだけ悩んで疲れるほど泳ぐ」と語る宮本氏。1時間に満たない短い講演だったが、宮本氏の人となりがにじみ出た、面白くてためになる講演だった。


エヌビディア・ジャパンがNVIDIA 3D VISIONを「国際3D Fair 2009 in Tokyo」に出展。ソリッドレイ研究所のコンパクト3Dプロジェクタ「Sight3D」などでゲームを楽しむことができ、多くの人が集まっていた。PC版「バイオハザード5」なども出展バンダイナムコゲームスのブースでは「インヴィンシブル タイガー ザ レジェンド オブ ハン タオ」がプレイできたソニーが出展した「360°メガネなし立体ディスプレイ」。ぐるりと回ってみても、どこから見ても映像が見える。現在は静止画のみだが、近い将来アニメーションさせることも可能だという
「次世代コンテンツ技術展」に出展していた、AQインタラクティブ。「KORG DS-10 PLUS」を多数展示し、デモプレイなども行なっていた公立はこだて未来大学の「IKABO東京来襲!?」。かなり大きなイカ型ロボットを操作できた。インターフェイスは、Wiiリモコンとヌンチャクを利用していた金沢工大学園小坂研究室の「Back to the mouth」。口臭によって敵を倒すという面白いインターフェイスを採用したRPGを出展。しゃれっ気も利いていて、大人気だった

(2009年 10月 26日)

[Reported by 船津稔]