東京ゲームショウ2009レポート
マイクロソフト泉水氏、KONAMI小島氏、カプコン稲船氏、セガ名越氏によるパネルディスカッション
日本のトップゲームクリエイターが「Project Natal」によるゲームの未来を語る
東京ゲームショウ2009が開幕した。初日の9月24日、幕張メッセ近くのホテルにあるカンファレンスルームにて、マイクロソフトによる「Xbox 360 クリエイター パネルディスカッション」と題するイベントが行なわれた。
このイベントでは、Xbox 360向けにコンテンツを提供している3名のトップクリエイターが集い、マイクロソフトが提案する新型ユーザーインターフェイス「Project Natal」が作るゲームの未来についてディスカッションした。そのクリエイター達とは、KONAMI・小島プロダクション監督の小島秀夫氏、カプコンの開発統括本部長の稲船敬二氏、そしてセガの研究開発統括部長の名越稔洋氏だ。
今回、マイクロソフトによる公開ディスカッションの場にこの3名が集ったことと、ディスカッションのテーマが「Project Natal」であることは興味深い。この日マイクロソフトは同社ブースの中で「Projcet Natal」の実物をプレス向けに限定公開していたが、日本の主要なクリエイターにはそれ以前から開発情報を提供しているという。果たして「Project Natal」でどのようなエンターテイメントが提案されるのか、3人のトップクリエイターの考えを見てみよう。
■ トップクリエイターたちに「Project Natal」が与えたサプライズ
イベントの冒頭では、Xbox 360事業のトップであるドン・マトリック氏からのビデオメッセージが紹介された |
マイクロソフト、ホーム&エンターテイメント事業本部長の泉水敬氏が司会進行を務める |
KONAMIの小島秀夫氏、カプコンの稲船敬二氏、セガの名越稔洋氏の3大クリエイターが登場 |
米ロサンゼルスで6月に開催されたE3 2009にて、その存在が発表された「Project Natal」。特別なセンサーテクノロジーを使い、プレーヤーの体の動きや映像そのものをXbox 360に伝えるという、全く新しいユーザーインターフェイスだ。
イベントの冒頭、Xbox 360事業のトップであるマイクロソフトのシニアバイスプレジデント、ドン・マトリック氏からのビデオメッセージが紹介された。そこでマトリック氏は、「Project Natal」の登場はゲームの進化における重要な転換点になると延べ、その活用と普及のためにはコンテンツの充実が重要であるとした。その上で、ゲームの世界に革新を起こし続けてきた日本のゲームクリエイターこそ、「Project Natal」の可能性を切り開いてくれるのではないかと期待を寄せた。
ビデオメッセージが終わり、マイクロソフトのホーム&エンターテイメント事業本部長の泉水敬氏が登壇して挨拶。それに引き続いてKONAMIの小島氏、カプコンの稲船氏、セガの名越氏がステージに登場した。
泉水氏の司会進行のもと、はじめに提示された話題は「はじめて『Natal』を見た時の印象は?」というもの。実は小島氏、稲船氏、名越氏の3者とも、数か月も前にマイクロソフトに招待されて現物を見ているそうなのだ。そして3者のコメントはどれも驚きに充ちたものだ。
特に小島氏は、「2Dが3Dになったくらいのインパクトです」と、「Natal」がゲームにもたらす可能性の奥深さを指摘しつつ「画像から動きを検出するというのはいろんな大学や企業で研究されてますが、ここまで実現しているのは見たことがなかったので、こりゃすごいと思いました」と、各方面のテクノロジーに詳しい立場ならではの感想を語っている。
その上で「Project Natal」の可能性をどう考えるか、というのが次のテーマだ。これについては小島氏、稲船氏、名越氏がそれぞれに異なる着想をしている。
稲船氏は、既存のコントローラーと併用が可能である点に注目している。「体を動かすデバイスというのは、これまでは、今までのコントローラーを捨ててしまうところがあったと思うんですよ。これって僕らゲームを作る側としてはなんとも難しいんですね。新しいことは興味あるんですけれど、今までのものを捨てるわけにもいかない。ですがこの『Natal』は、今あるコントローラーを捨てなくていいんですね。そこから未来に向かえる、そういった可能性があるのかなと思います」。
名越氏は、「Natal」により既存のゲームが生まれ変わるという可能性に期待を抱く。「ハードウェアでできることが増えるということは、ゲームの作り手として僕らができることも増えていくわけです。例えば、すでに完成していたものを、もう一度違う形で新しいものを提案できる。そういったチャンスになると考えています」。
小島氏は、ゲームの枠を大きく超える部分にも「Natal」の可能性を感じているようだ。「稲船さんも仰っていた通り、『Natal』ではコントローラーがあっても無くても良いんですね。バットを持って振ってもいいし、無くてもいい。これが凄いところです。はじめはゲームで使われると思いますが、それ以上に、10年くらい経つと、これによってライフスタイルが変わる可能性もあると思います。銀行の振込みでも、買い物、広告の媒体でも、全部これによって変わるようなパワーがあると思います」。
これにはマイクロソフトの泉水氏も「そこまで想像が広がるなんて凄いですね」とコメント。そして「Natal」をめぐる話題はさらに、ゲームの進化をテーマとして展開していった。
KONAMIの小島秀夫氏 | カプコンの稲船敬二氏 | セガの名越稔洋氏 |
■ 「Natal」によってどんなゲームが可能になる?
クリエイターが予想する、従来のゲームの概念を超えるインパクト
ゲームだけでなく、それを取り巻く文化についても話題が広がっていった |
次なるお題は「『Natal』によって、どのようにゲームの楽しみが広がっていくか」。ゲームコンテンツのエンドユーザーである我々にとって、最も関心のある話題だ。業界のトップクリエイターたちが何をしようとしているのか、ということが浮き彫りになる部分でもある。
稲船氏:「ゲームは、グラフィック面では恐ろしいほどの進化をしていますが、それに比べると、コントローラーの進化というのは全く遅れていたと思うんですよ。ゲーム内のキャラクターに指先でしか話かけられなかったんですね。それが『Natal』ではボディーランゲージのような、体全体の動きで自然に伝えられるわけです。それによって感情も自然に伝わるわけで、そういうところに、優秀なプロジェクトが着目してやっていくんじゃないかなと思います」。
小島氏:「『Natal』によってインタラクティブの概念が1段上がると思うんですよね。僕が重要だと思うのは、これを使ったカジュアルゲームは当然出てくると思うんですけれども、それだけでなく、今までのコアなゲームが『Natal』を使うことによってさらにワンランク上のものになっていくんだと。だから僕としてはコア寄りのゲーマーに対して、違うアプローチを見せることができたらなと思っています」。
小島氏が語るように、カジュアルからコアまで、幅広いユーザーに向けたコンテンツを提供できることが、「Natal」のもつ可能性のひとつだ。それによってもたらされる変化について、名越氏は面白い予測をしている。
名越氏:「日本人って少々引っ込み事案なところがありますけど、極端な話、『Natal』が流行ることによって、皆のパフォーマンスが大きくなって、日本人の感情表現のカタチが変わる可能性だってあるわけです。僕らは子供のころ仮面ライダーの変身シーンを真似ましたけど、これからは色々な動きが、映像のマネではなく、入力として解釈されるようになるわけです。『これは○○というゲームの必殺技だよ』と。そう考えると、『Natal』のゲームがこれまでにない形で、色々な流行を生み出していくのかな、ということを凄く思います」。
ゲーム文化が人々のライフスタイルに与えるインパクトは、「Natal」の登場によって、より肉体的でソーシャルなものになる、というのが名越氏をはじめとするクリエイターたちの考え方だ。
その上で、小島氏は「Natal」によって可能になるゲームの最大の強みとして「自分を認識してくれること」を挙げ、これまでのゲームの概念に囚われない発想を提案している。
小島氏:「『Natal』でゲームを遊ぶ、ということを考えて最も重要なところは、コンピューターが自分を認識してくれるということです。リビングに入った瞬間に、それが誰で、どういう感情で、どういった健康状態にあるのかを理解してくれるという。もしかしたら、『今日は具合が悪そうだね』みたいなことを話しかけてくれる。こんなことは今まで絶対にできなかったことですよね。僕らが子供のころにSFだったようなことが、もう5年先くらいに来ているというので、それが僕は本当にうれしいですね」。
会場には海外メディアの姿も多く見られ、「Project Natal」に日本のクリエイターがどう取り組んでいくかというテーマに対する国際的な関心の高さを伺わせた |
そういった、全く新しいカタチのエンターテイメントを早く作りたいと言う小島氏。だが、それでも「今までのファンを置いていくわけにはいかない」と、性急な移行は避ける考えでもあるようだ。稲船氏は「新しすぎてもユーザーが受け入れられるとは限らない。その距離感は大事」とコメントしている。「Natal」の可能性を模索し、既存ゲームのスタイルも活かし、ユーザーがきちんと吸収できる形で新しいものを提案していきたい。この考え方は、小島氏だけでなく、稲船氏、名越氏と、会場に集ったクリエイター全員に共通しているところだ。
このように、1時間にわたったパネルディスカッションでは「Natal」にまつわる様々な考えが飛び交った。その最後に、泉水氏は3者のクリエイターに対し「『Natal』に対する夢」を聞いている。それに対する各氏のコメントを以下にご紹介しよう。
稲船氏:「ゲームに対してはいろんな夢を持っていますけれども、やはり感情という部分に対して近づいていきたいなと思います。良い映画はものすごく感動するじゃないですか。でも、ゲームでは、インタラクティブであるがゆえに感動を阻害する部分がありますよね。例えば『助けますか、助けませんか」という選択肢になれば、感情ではなくボタンひとつの作業になってしまうと。そういったインタラクティブの弱点を『Natal』を使って変えていくことができればなと思っています」。
名越氏:「ネタをここで発表してしまうことはできませんけど、何と言うか、生命観、命というものを感じられるようなコンテンツを作りたいと考えています」。
小島氏:「先ほど少し話しましたけど、自分を理解してくれるゲーム、というものを作りたいですね。動きとか、表情とか、すべてを含めて、その人の考えていること、体調、何をしようとしているかなど、誰よりも理解してくれるのが『Natal』であると。そうして自分を理解してくれるキャラクターが登場して一緒に冒険できれば素晴らしい。そういう未来、そういうものを考えています」。
ゲームの将来を大きく変革する可能性を秘めた「Project Natal」。マイクロソフトでは、これによってXbox 360の持つ魅力を、新たな段階に飛躍させようとしている。3者のトップクリエイターが語ったように、このようなテクノロジーによって人々のライフスタイルも変わる日が来るだろうか。まずはゲームの分野で何が起きるかを見てみたい。
http://tgs.cesa.or.jp/
□Xbox 360のホームページ
http://www.xbox.com/JA-JP/
(2009年 9月 24日)