エマージェントジャパン、ゲーム用ミドルウェア「Gamebryo LIGHTSPEED」を発表
高速なプロトタイピングと製品化を実現するトータルソリューションを提供

4月15日発表
会場:ビジョンセンター秋葉原


「Gamebryo LIGHTSPEED」のロゴ

 ゲーム用ミドルウェア「Gamebryo」の国内展開を推進する株式会社エマージェントジャパンは、3月15日、東京・千代田区にて、新バージョンのミドルウェア「Gamebryo LIGHTSPEED」の発表会を開催した。また、パートナーであるScaleformとCRIミドルウェア株式会社の2社より、「Gamebryo LIGHTSPEED」と連携して利用できるミドルウェア2種の紹介が行なわれた。

 今回発表になったミドルウェア「Gamebryo LIGHTSPEED」は、米Emergent Game Technologiesが2003年より北米を中心に提供してきたゲーム用ミドルウェア「Gamebryo」の最新バージョンだ。「Gamebryo」はマルチプラットフォーム対応のゲームエンジンあるいは開発フレームワークで、FPSに偏りがちと見られる「Unreal Engine」や「Cry Engine」に比べると、ゲームジャンルを問わずに利用できる高い柔軟性を持ち、これまでに250タイトル以上のゲームで採用実績があり、世界で最も利用されているゲームエンジンのひとつとなっている。

 新バージョンの「LIGHTSPEED」は、その「Gamebryo」の柔軟性をそのままに、近年のゲーム業界で広く注目されつつある高速なプロトタイピング、イテレーションプロセス(開発工程におけるテストと改善の繰り返し作業)の効率化を大胆に推進する機能セットを備えた製品だ。今回の発表会では、米Emergent Game TechnologiesのCEO、Geoffrey Selzer氏ならびに主要スタッフが来日し、「Gamebryo」の日本での本格的な普及に取り組む姿勢を改めてアピールした。

 なお、本稿では「Gamebryo LIGHTSPEED」で新たに追加された重要な機能について紹介したい。「Gamebryo」の基本的な特徴については、前バージョン「Gamebryo 2.5」の発表会をレポートした際にお伝えしているので、基礎的な情報についてはそちらをご参照いただきたい。

米Emergent Game TechnologiesのCEO Geoffrey Selzer氏同社マーケティング担当副社長のKaty Morgan氏エマージェントジャパンで国内セールスを担当する清水 工(たくみ)氏



■ ゲーム開発キットとして大きな進化を遂げた「Gamebryo LIGHTSPEED」
  実機でのリアルタイム実行を前提としたオーサリング機能が大充実

会場の様子。およそ50名ほどの業界関係者が集まった

 発表にあたり、まずEmergent Game TechnologiesのCEO Goeffrey Selzer氏が登壇して、「Gamebryo」の実績、そして日本展開にかける意気込みを語った。その中でSelzer氏は、昨年に始まった経済危機の影響で、数多くのゲームデベロッパーが予算を縮小し、開発タイトル数を絞っているという現実を指摘。しかしそれはむしろ「変化を促す機会」であるとポジティブな見方を示した。

 Selzer氏が言う「変化」とは、ゲーム開発工程におけるトレンドが、よりリスクの少ない手法に向かっていることを指す。莫大な予算をかけて力づくでヒットを飛ばすような大作タイトルが減少し、洗練されたアイディアを短期間でしっかりと製品化する確実な方法が求められているということだ。そこでキーとなるのが、プロトタイピングとイテレーションの効率化である。

 プロトタイピングとは、ゲームのコンセプトを実際の製品開発に組み込む前に、ごく限定された期間と予算で、コンセプトの面白さを実証するためのソフトウェアを構築することを指す。ゲームデザイナーのウィル・ライト氏やシド・マイヤー氏、ピーター・モリニュー氏といった歴々が、ゲーム開発にあたり、このプロトタイピングプロセスを非常に重要視している事は広く知られた事実だ。

 またイテレーションとは、実際の製品開発にあたり、ゲームのクオリティを高めるために行なうプレイテストとチューニングの繰り返しを指す。このプロセスもまた、ユーザーに高く評価されるタイトルでは必ずといって良いほど徹底的に行なわれているプロセスだ。

ターゲットマシンへのリアルタイム編集の様子。左がPC画面で、右がプレイステーション3の画面。PC側で変更をセーブすると即座にPS3側に反映される

 問題は、プロトタイピングもイテレーションも、しっかりとした開発基盤がなければ時間と予算がかかりすぎてしまうということだ。そこで「Gamebryo LIGHTSPEED」では、今回のバージョンアップの目玉として強力なリアルタイムプレビュー機能を搭載している。「Gamebryo」エンジンを使うと、3DS Max、Maya、XSIといった一般的なDCC(Digital Contents Creation)ツールから、ターゲットマシンに変更を直接反映することができるほか、Luaスクリプトデバッガーアプリケーションを使って、ゲーム内の挙動をゲームを実行したまま編集することができる。

 強力な開発基盤を持つ大手の開発会社は、実機上でリアルタイムに変更をプレビューできる機能を何らかの形で持っているものだが、大抵は門外不出の技術とされる。「Gamebryo LIGHTSPEED」では、そういった機能を、グラフィックスだけではなくスクリプティングの部分まで実現してしまったというのが大きなポイントだ。ゲームプログラムを再ビルドすることなく、グラフィックやゲーム内データ、挙動、ルールを実行しながら編集できるということで、ゲームのチューニングが極めて高効率で実行可能なのである。

 こういった機能を実現するため、「Gamebryo LIGHTSPEED」では「Toolbench」と呼ばれる統合的な開発サポートツールを新たに備えている。「Toolbench」は、開発を行なうPCとターゲットマシン上をネットワークで繋ぎ、データ編集、監視、アップデートを行なう基本ソリューションで、その上にゲームデータの定義や作成を行なう「Entity Modeler」、ゲームワールドを編集する「World Builder」、Luaスクリプトの作成とデバッグを行なう「Script Debugger」など、必要な機能をプラグインとして任意に追加利用できる。

 そして各デベロッパーの個々のニーズに対応するため、「Gamebryo LIGHTSPEED」に含まれる全てのライブラリ、アプリケーション、ツール類は、Visual Studioでビルド可能なプログラムコードが完全提供される。Emergentでは、それぞれのデベロッパーがそれを改造して使用することを念頭に置いているため、最大公約数的な機能セットを提供しているのだが、そこに独自の機能を付け加えれば、様々なジャンルのゲームが開発可能とされる。

 技術デモンストレーションでは、「Gamebryo LIGHTSPEED」のサンプルアプリケーションとして付属する3Dゲームを対象に、Mayaを使ってパーティクル生成ルールの編集を行なったり、ゲーム内にオブジェクトを配置したり、攻撃判定時の挙動を司るスクリプトを編集して、それらの全てがターゲットマシンで動作中のゲームにリアルタイムに反映される様子を見ることができた。

Mayaで編集したパーティクルが、ターゲットマシン上にすぐ反映され、適切な調整がしやすくなっている「Toolbench」の「Entity Modeler」で、キャラクタの情報を編集しているところ。触ったパラメータをセーブすると、そのままゲーム内に反映される「Toolbench」の「Lua Script Debugger」はVisual StudioライクなUIで、ブレークポイントの設定、ステップ実行、編集結果の即時反映が可能。ゲームデザイナーの最高のツールとなりそうだ

プロトタイピングの例として、4週間で作られたゲームデモ「SALVATION」が紹介された

 また、プロトタイピングについてのデモンストレーションでは、米Electronic Artsのテクニカル・アーティスト2名と、アーティスト2名による4名のスタッフがわずか4週間で制作したというゲームが紹介された。内容はしっかりとしたサードパーソンのアクションシューティングゲームで、キャラクターアニメーション、物理オブジェクトの動きなどなど、極めて現代的な作り込みだ。4人の開発チームは、「Gamebryo LIGHTSPEED」を渡されてからわずか18時間で具体的な開発プロセスに入れたということで、このミドルウェアが持つ設計の良さ、学習性の高さも強調された。

 「Gamebryo」は、既に米国、欧州、韓国、中国にて250タイトル以上の採用実績があるが、Selzer氏によれば、現在さらに100タイトル以上の新規タイトルが開発中であるという。直近の有名なタイトルとしては、Bethesda Softworksの「Fallout 3」、Firaxis Gamesの「Civilization Revolution」、EA Mythicの「Warhammer Online」などが紹介された。また、日本では、2008年11月に発売されたアクワイアの「侍道3」が「Gamebryo 2.3」を利用したという。

 Selzer氏は、これから本格的に日本展開を図るにあたり、どのようにビジネスを展開していくか、意気込みを語った。まず、英語圏と変わらない充実したサポート体制を日本国内で展開する。また、「Gamebryo」利用開発者によるコミュニティ「PULSE」を新たに立ち上げ、そこでライブラリやコードサンプル、開発情報の積極的な共有を進めていきたいとしている。さらに、各種ミドルウェア企業との連携をさらに深めていきたいとも語っており、その結実として早速、CRIミドルウェア株式会社による「Gamebryo LIGHTSPEED」向けのミドルウェア情報が紹介された。

「Gamebryo LIGHTSPEED」に付属するデモゲーム「WARMACHINE: MANGLED METAL」の映像「Toolbench」を使い、ゲームロジックのブロック構造を表示している「World Builder」にて、オブジェクトやトリガーの設定をしているようだ

採用タイトルの例。大ヒットした有名タイトルも多数あるほか、注目したいのはジャンルの広さ。Emergentによれば15ジャンルに渡るという対応プラットフォームはPC、プレイステーション 3、Xbox 360、Wiiとなっているインテグレートできるミドルウェアの数々。「Gamebryo」をハブとして、柔軟に機能を追加できるわけだ

「Gamebryo LIGHTSPEED」の機能は、大別すると基本ライブラリ、コアランタイム、ゲームフレームワークに分類される。全てがソースコード付きで提供されるため、各デベロッパーの都合に合わせて改造利用することができる


■ 「Gamebryo LIGHTSPEED」に組み合わせて利用できるパートナーミドルウェアは多数
  「Scaleform GFx 3.0」、「CRI Movie for GFx」、「ファイルマジック」など

「Gamebryo LIGHTSPEED」は、各社のミドルウェアをインテグレートして利用することを前提に設計されている
「Scaleform」の採用タイトル代表例

 一般的に「ゲームエンジン」と言うと、グラフィックスやサウンド、その他様々なロジックに至るまでオールインワンで提供されると思われがちだが、「Gamebryo」が取る路線はその逆で、特殊な機能はそれを得意とするミドルウェアや、各デベロッパー内製のテクノロジーに任せれば良いという考え方だ。そのことを反映して、Emergentでは、様々なミドルウェア企業とパートナーシップを結び、簡単に「Gamebryo」への組み込みが可能な体制を整えている。

 その中の代表例は物理エンジン「PhysX」、植生生成エンジン「speedtree」、UIエンジン「Scaleform」などで、多くの「Gamebryo」採用タイトルにてこれらの組み合わせ利用がなされている。今回の発表会では、そういったパートナーミドルウェア企業の中から、米ScaleformとCRIミドルウェア株式会社による機能紹介が行なわれている。

 まず「Scaleform」は、「Civilization」シリーズ、「Crysis」シリーズといった有名タイトルをはじめ、多くのゲームタイトルで採用実績のあるユーザーインターフェイス及び2Dグラフィックスのソリューションだ。簡単にいうと、「Scaleform」は、Adobe Flash Creatorで作成したFlashドキュメントを、ゲーム内に持ち込むためのミドルウェアだ。

 ゲーム開発者は、「Scaleform」を使うことにより、極めてリッチなUIや2Dグラフィックスの演出を、Adobe Flashで作成し、そのままゲーム内で動かすことができる。今回は「Gamebryo LIGHTSPEED」対応ということで、「Toolbench」によるリアルタイム編集も可能となっており、パラメータやフラグの調整を実行時に行なうことも可能だ。これにより、極めて柔軟で高速なUI開発が可能となり、プログラマーの負担が減ることになる。

「Scaleform」のデモでは、「Gamebryo」のデモゲーム「MANGLED METAL」のUI要素を、Adobe Flash Creatorを使って編集し、それをすぐにゲームへエクスポートする様子を見ることができた

CRIミドルウェア製品と「Gamebryo」とのインテグレートについて解説したCRIミドルウェアの漆畑祐介氏
「CRI Movie for GFx」の概要。極めてゲーム向きの仕様となっている
「Gamebryo」と「ファイルマジックPRO」を採用したタイトル「侍道3」

 その「Scaleform」と組み合わせて使うことを念頭に開発された新たなミドルウェアが、CRIミドルウェアによる「CRI Movie for GFx」だ。これは動画再生のためのソリューションで、CRIミドルウェアがかねてより提供しているゲーム機用ムービーコーデック「CRI Sofdec.Prime」をFlashおよび「Scaleform」対応としたものである。他のUI演出との兼ね合いを直感的に把握しながら、動画演出を挿入できる。Action Scriptからのコントロールにも対応している。

 またCRIミドルウェアからは、ゲームデータ圧縮ソリューション「ファイルマジックPRO」の導入事例が紹介された。「ファイルマジックPRO」は、CRI独自の圧縮アルゴリズムにより、ゲームデータをおよそ半分に縮め、さらにデータ配置を最適化することにより、ロード時間を大幅に短縮するというミドルウェアだ。ゲーム側からは圧縮フォーマットを意識することなく利用できるため、開発者にかかる負担は極めて低いとされる。

 CRIミドルウェアの漆畑祐介氏の解説によれば、「ファイルマジックPRO」は、アクワイアの「侍道3」で採用され、劇的な効果を上げたという。「侍道3」は、先にも触れた通りマルチプラットフォームエンジンの「Gamebryo」を採用して開発されたため、当初はPC上でゲームを動作させており、平均的なステージロードの時間は5秒程度だった。しかしそれをプレイステーション 3にそのまま持っていったところ、ロード時間が25秒にも延びてしまったという。

 マルチプラットフォーム開発ではありがちな落とし穴だが、その長大なロード時間を解決するためにアクワイアではCRIミドルウェアの助言をもとに複数の解決策を講じた。ひとつは、常時再生しているストリーミングBGM用のバッファサイズを増やし、定期的に発生するBGMファイルへのアクセスを低減したこと、そしてもうひとつが「ファイルマジックPRO」によるものである。

 詳細は下図を参照していただきたいが、当初25秒あったロード時間は、BGMファイルへのアクセスを低減した結果17秒になり、さらに「ファイルマジックPRO」の圧縮・配置の最適化により10秒まで縮められている。「Gamebryo」への組み込みに当たっては、「Gamebryo」がの基本ファイルクラス「NiFile」を拡張したクラスをCRI側で用意しており、プログラムをほとんど変更することなく利用できるという。

 そのほか、「Gamebryo LIGHTSPEED」は様々なミドルウェアとの同時利用が可能だ。それどころか、「Gamebryo」組み込みのグラフィックスパイプラインについても、各デベロッパーが独自に改造・拡張して利用することも可能で、そういった例も実際に多数あるという。それだけ、「Gamebryo」は各デベロッパーの開発スタイルに柔軟に対応できるミドルウェアとなっているわけだ。

 EmergentのSelzer氏の説明によれば、「Gamebryo LIGHTSPEED」は今後数年でやってくるであろう次世代機での利用を念頭に置いた設計がなされており、開発者のフィードバックをもとに随時改良を進めているとだ。今後も「Gamebryo」採用タイトルは順調に増えていくことだろう。

「侍道3」における「ファイルマジックPRO」の効果。また、組み込みに関して、「Gamebryo」のプログラム設計がその助けになっていることが意外な発見だった


(2009年 4月 15日)

[Reported by 佐藤カフジ]