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DETONATOR、「オーバーウォッチ」部門の活動休止を発表

日本の名門チームがまたひとつ。背景にはBlizzardのビジョンと現実の大きなズレ

5月21日発表

 日本のプロゲーミングチームDETONATORは5月21日、「オーバーウォッチ(Overwatch)」部門の活動休止を正式発表した。「オーバーウォッチ」は、4月にも「Overwatch OPEN DIVISION JAPAN Season3」で優勝したNaturals北海道が解散を発表したばかりで、国内の有力チームがまたひとつ姿を消すことになる。

今回解散を発表したDETONATOR KOREA
Blizzardは「Overwatch League」のために専用のチームを12チーム新たに設立した
「Overwatch League」の登竜門という位置づけの「Overwatch Contenders」
こちらは4月に解散したNaturals北海道
これはBlizzConで行なわれた「Overwatch World Cup」の模様。「オーバーウォッチ」のeスポーツとしての可能性の高さは疑いの余地がない

 DETONATORの「オーバーウォッチ」部門は、現在ストリーマーとして活躍するYamatoN選手、SPYGEA選手らを主力に2016年に始動し、チーム構成やメンバーを入れ替えながら、現在は日本と韓国の2チーム体制で活動を行なっていた。

 中でも韓国チームDETONATOR KOREAは、Blizzard公認のアマチュアリーグである「Overwatch Contenders」に出場しただけでなく、パシフィック部門で初代王者に輝くという素晴らしい実績を残している。まさにこれからの飛躍が期待される矢先の発表となっただけに、業界の衝撃は大きい。

 DETONATOR代表の江尻氏は声明の中で、「現時点でのBLIZZARDが進めるOverwatchの今後のビジョンが私共のような体制のチームには非常に厳しいのが現状です。続けていきたい意志があれどもチームを運営する側からすると現実的ではないです」とコメントしており、「今後BLIZZARDが何らかの形で変わっていく可能性があり希望が見える状態になれば再度活動を再開すると思います」とも付け加え、解散でなく休止であることを強調している。

 この背景にあるのは、Blizzard主導によるeスポーツモデルがうまく機能していないことが挙げられる。

 「オーバーウォッチ」は、2018年からスタートしたBlizzard主催のプロリーグ「Overwatch League」を頂点に、「Overwatch Contenders」、「Overwatch Open Division」という独自のeスポーツピラミッドが構築されている。

 「League of Legends」や「Counter-Strike」、「World of Tanks」、「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」などなど、無数のチームベースのeスポーツタイトルと比較して、「オーバーウォッチ」が決定的に異なるのは、トップリーグである「Overwatch League」には、リーグ用に設立された12チームしか参戦できないところだ。入れ替え戦などもないため、既存のプロチームが参戦する余地がなく、このため「Overwatch League」でのその特異なレギュレーションが明らかになると共に、世界中の有力チームが「オーバーウォッチ」部門の解散を発表した。

 「Overwatch League」がプロ野球だとすれば、さしずめ「Overwatch Open Division」は高校野球、「Overwatch Contenders」は社会人野球というポジションになる。「Overwatch League」は、「Overwatch Open Division」や「Overwatch Contenders」で活躍する新鋭プレーヤーをスカウトすることで常にフレッシュで最高峰の戦いを「オーバーウォッチ」ファンに提供するという野心的なモデルになっている。

 ここで大きな問題となっているのが、「Overwatch Contenders」以下の大会にしか参戦できない既存のプロチームたちへの待遇だ。「Overwatch Open Division」や「Overwatch Contenders」は、あくまで「Overwatch League」への登竜門であり、プロリーグではない。このため「Overwatch League」を始め、「LoL」や「WoT」のトップリーグで支給されるようなサラリーがない。

 また、「Overwatch Contenders」は地域リーグであり、基本的に海外で行なわれる。しかも数日で決着が着くトーナメントではなく、5週間掛けて行なわれる。この滞在費も基本的にはチームの自腹になる。その金額は選手5人、コーチ、監督の生活費、食費で、少なく見積もっても数百万円掛かる。「Overwatch Contenders」は上位に入賞すると賞金が支払われるが、その金額は1位でも22,500ドル(約250万円)に過ぎない。しかも優勝しても「Overwatch League」への昇格の可能性はゼロなのだ。

 実際、3月から4月に行なわれた「Overwatch Contenders 2018 Season 1 Pacific」には、日本からもCYCLOPS athelete gamingとNaturals北海道という、「Overwatch OPEN DIVISION JAPAN Season3」の決勝を争った2チームが出場権を獲得していたが、いずれも出場を辞退している。具体的な理由については明らかにしていないが、金銭的な問題が影響を与えたのは間違いないと思う。

 Naturals北海道に至っては出場を辞退した上で解散するという、筆者は20年以上eスポーツを見ているが、トップチームが世界大会へ出場せずに返す刀で解散するというのは、ちょっと聞いたことがない。いずれにしても「オーバーウォッチ」のeスポーツシーンにおいて、前代未聞の出来事が発生しているのは間違いない。

 不幸中の幸いなのは、「Overwatch League」を頂点としたBlizzard主導によるeスポーツとしての「オーバーウォッチ」は、今年始まったばかりだということだ。今シーズンが終わった段階で、全体の見直しが図られるはずで、そこでどうレギュレーションが変わるのか、あるいは変わらないのか。個人的には、「Starcraft」以降、eスポーツ界のリーダーであるBlizzardが、この状況をそのまま見過ごすことはないと思う。ポストシーズンの動向に注目したいところだ。