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【CEDEC2017】「チェインクロニクル」がたどってきた4年間とは? 開発、運営でのこだわりを披露!

8月30日~9月1日 開催

会場:パシフィコ横浜

 パシフィコ横浜で開催されている「CEDEC2017」では、「スマホゲームで物語を更新し続けること。~4年間のストーリー製作コンセプトの変遷をファクトに重ねて~」と題して、セガゲームスが展開するスマートフォン向けゲーム「チェインクロニクル」のセッションが開催された。登場したのはセガ・インタラクティブのモバイルインタラクティブ研究開発部 部長 松永純氏だ。「チェインクロニクル」を展開するにあたってどのような工夫をしたのか、またその結果どのような事実が発生したのか、その結果とどう向き合ったのかを4年間繰り返した話を語った。

 まず松永氏は、シナリオは定量化しづらいと思われているが、そこは分析して向き合い、システム的な工夫がうまくいっているのか考えることが必要であると話す。ただしその際に重要なのは「コンセプトを変更しないこと」。ここを変えてしまうと、ユーザーに何を届けるのかわからなくなってしまうからだ。「チェインクロニクル」のコンセプトは、「スマートフォン向けのRPGで熱くて泣ける物語を提示すること」、「『仲間が増える』ことが最高にうれしいRPG」の2つ。これはブレずにやってきたのだと語る。

セガ・インタラクティブ モバイルインタラクティブ研究開発部 部長 松永純氏
「チェインクロニクル」のコンセプト

 このコンセプトを元に、シナリオのコンセプトを作るにあたって「全キャラクターに専用ストーリーを作る」、「1話あたりの構成をスマホ用に特化」、「王道のメインストーリーを提供」、「スマホだけどエンディングを作る」という4つの工夫をした。「全キャラクターにストーリーを作ったのは、仲間が増えることがうれしく感じてもらうため。ただのユニットではなく、キャラクターとして描かれることが必要と考えた」と松永氏。

 しかも重要なのが、低レアリティのキャラクターに対する扱い。ゲーム中の強さという観点ではほとんど無価値だが、あえて重点を置いて作った。それは、多くのユーザーが目にするキャラクターだから。「提供するタイミングが多いので、クオリティの高い物語を与えた。ストーリーの方向性についてもレベルデザインを実施し、わかりやすく、泣けるストーリーを入れる工夫をしている」(松永氏)。その結果、☆1のキャラクターの方が、過去に悲しい物語があって、それを乗り越えて進んでいるという、誰にでもわかるストーリーが展開されることとなった。このため「レアリティの高いキャラクターについては、分身の術を使うメイドなど、マニアックな設定を入れている」(松永氏)。加えて、キャラを引いた瞬間は仲間が増えるという実感を持ってもらえるとき。そのためキャラを引いた時に短いドラマを導入し、それをキャラだと感じさせる工夫をしているとのこと。

レアリティの低いキャラだからこそストーリーを厚く
カードではなくキャラクターと意識させる工夫

 また1話あたりの構成については、間に必ずバトルを挟むストーリー構成にし、1プレイが5分以内で終わるボリュームにしている。これもRPGとしての緩急をつけつつ、スマホに最適化するためだ。そしてメインストーリーは「王道」の展開にし、スマホ初の本格RPGとして、誰もが楽しめるようにした。そして本作の最大の特徴は、スマホゲームなのにエンディングがあること。「厚くて泣けるコンシューマーRPG以上のものを作るなら、ストーリーに終わりがある物にする」(松永氏)。

 こうした工夫をした結果、1年目にはキャラクターシナリオのスキップ率が30%という数字に。「これが高いか低いかだが、当時のスマホのシナリオやアーケードのシナリオモードはスキップ率が45~50%。半分近くが飛ばすのに30%はいい数字」(松永氏)。またキャラクター人気ランキングを取った時も、最下位の投票数が20票。「ジャンプを読んでいると、最下位の脇役の票数は1ケタ。1番人気がないキャラでも20票入ったのはよいこと」(松永氏)。そしてメインストーリーのスキップ率も一般的には40~50%前後だったのが、約25%という結果となった。

 低レアリティのキャラクターのストーリーを重視した結果、スキップ率は高レアキャラと同じで、ビュー数で言うと高レアキャラの約10倍となった。「低いレアリティのキャラクタのほうがシナリオを読まれている。キャラクターの深掘りができた」(松永氏)。またキャラ獲得時にドラマが凝っているキャラについては、シナリオビュー率が5%程度上向いている傾向が出た。この結果から、プレイしているユーザーの2~3割はそもそもシナリオに興味がなく、5~6割の人は何でも読んでいることがわかった。「その間の“浮動票のユーザー”が読む読まないを考えた時、5%は非常に高い」(松永氏)。

 そして王道のストーリーを提供したことで、メインシナリオのスキップ率は約25%、新章追加時の復帰率は約20%と非常によい傾向に。そしてエンディングを作ることにあたっては、最後まで議論があったと松永氏は語るが、「コンセプト実現の柱でもあったので断行した」。代案として、第2部の製作を同時に発表することにした。結果として離脱率が増加したものの、アクティブユーザーが増えたため特に問題にはならなかったという。「またエンディングを実装することがセンセーショナルな話題となり、引きとなったこともある」(松永氏)。

キャラクターシナリオのスキップ率は30%程度
メインシナリオもスキップされずに読まれた
低レアリティのキャラクターのビュー数が高い結果に
カードではなくキャラクターと意識させる工夫
王道のストーリーは支持される結果に
離脱率は増加したがアクティブユーザーが増えたために問題にならなかった
1年目のまとめ

問題が発生した2年目

 こうして1年目が過ぎたが、第2部を開発するにあたっては「ストーリーのネタがきつい」、「運営しながら作るのがつらすぎる」という問題が発生してしまった。そこで2年目からは異なる大陸へと舞台を移し、世界観的に王道から1歩踏み出した内容を取りそろえることに。また大陸ごとに組み替え可能な構成にして、運営の都合で構成が変わっても受け入れられる立て付けにした。

 運営のイベントは第1部を中心とすることでスピード感を持たせ、作りやすい世界観にしたという。この結果、新章追加時の復帰率は維持できたものの、テーマ的に重い内容のものだと離脱やスキップが出る傾向が見て取れるようになった。加えて第2部に登場するキャラクターの人気が出ないということも。「深掘りをし続ければそうなるのは当たり前」(松永氏)。そしてさらなる問題として、メインストーリーの到達率が悪くなるということも起きてしまった。「ストーリーがつながっていく以上、だんだん減っていくのは当たり前。第2部の最新章まで読んでくれる人が少なくなる」(松永氏)。こうして対処療法的になり、問題が増え続けていったのだという。

シナリオによりスキップする傾向が
第2部のキャラクター人気が上がりにくくなった
メインストーリーの到達率が減少
新たな課題も生み出した2年目

運営が佳境にさしかかった3年目

 そして3年目となり、第2部の物語に終わりが近づく中、最終章への到達率が低く、エンディングを作れば離脱率が上がるという状況。また第1部では話題になったエンディングも、すでにやってしまっているので話題作りもできない。ここで採ったのが、コストをかけてエンディングを作り、最終章を全3章に渡って展開したこと。「ビジネス上から見ると無謀」と語る松永氏だが、「最終章が盛り上がって長ければ、離脱以上の効果があるのでは。第1部以上のラウンドを作らないわけにはいかない」と考えたという。この根っこにあったのは、コンセプトをやりきりたいという思いだ。

 その結果、最終章展開時にはユーザー数が増加。エンディングを迎えた時には再び減少してしまったそうだが、エンディング到達時の定着率が高いことがわかった。これにより満足のいく物語体験が、きちんとユーザーをつなぎ止めていることが、KPI分析上でも立証できた。「ずるずると物語を引き延ばしてもユーザー数は上がっていくことはない。熱いクライマックスにより、ロイヤルユーザーはより定着する結果となる」(松永氏)。

最終章終了時には確かにユーザーは落ち込んだが
物語をきちんと提供することでロイヤルユーザーは定着する
3年目の総括

そして4年目に突入

 4年目には第3部を作ることになったが、その開発にあたっては多くの課題が並んでいた。「最終章の到達率が下がり続けること」、「テーマによりクリア率に差があること」、「あとのキャラほど人気が出づらいこと」、「本当にもうネタがないこと」。長く続けるが故の問題が山積みとなったのだという。

 そこで第3部では、1、2部をプレイしなくても第3部から始められるようにし、メインストーリーを5つに分割。どれかを最後まで見られるよう、簡単にした。テーマによってクリア率に差があることに対しては、5つに分割した物語に別テーマを与え、自分が好きなストーリーのみ最新話に行くことができるようにした。加えて新主人公を設け、ネタについては5人の新主人公に交代することにした。ここでは、それまでは自分が主人公だったのに対し、名前も与えられた3人称の主人公が登場することになる。その試みは成功し、人気投票では第3部のキャラクターが続々ランクインすることにもつながった。

4年目のまとめ
第3部キャラが人気投票にランクイン

 こうした4年間の結果を踏まえて、ストーリーをユーザーに正しく提供するために大切なのは、「土台となるシステムと物語構成であり、それを長く続けるために結果と向き合い、正しく変えていくことが重要」と話す松永氏。ただし変えていく上で重要なのは、コンセプトを実現するために変えるのだということ。「コンセプトは絶対に変えてはいけない。ゲームが続いているのは、ユーザーがコンセプトを支持しているから。世に出した以上、提案したコンセプトをより強めていくことを追い求めてほしい」と松永氏は語った。