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【A 5th Of BitSummit】通好みのゲームと100万本タイトルの差は紙一重? 安藤氏と四井氏が語る

二木幸生氏が語るゲームシステムのアイデアを出す方法

5月20日~21日 開催

会場:京都市勧業館「みやこめっせ」

 「A 5th Of BitSummit」はユーザーも数多く来場していたが、どちらかというと、ゲーム制作者が集まり、交流を図る場というイメージが強い。会場のメインステージで行なわれた開発者のトークショーの話題でも、開発者の祭典でもある本イベントならではのテーマが見受けられた。それは、「どうやってゲームを作ってきたか?」という話題だ。

 この記事ではそんなテーマの中から、2本ほどまとめてお届けする。1つは、シシララの安藤武博氏と四井浩一氏による「『鈴木爆発』、『ストライダー飛竜』通好みのゲームはどのようにつくられるのか?」。もう1本はグランディングの二木幸生氏と急遽参加したジェムドロップの北尾雄一郎氏による「ゲームシステムのアイデアを出す方法」だ。

「『鈴木爆発』、『ストライダー飛竜』通好みのゲームはどのようにつくられるのか?」

 この講演では、安藤氏が過去作を振り返りながらその時々の想いを語るスタイルで進行していった。「鈴木爆発」は、実写映像とゲーム性の高い爆弾解体のシステムが合わさり、独特なカオス的な内容となり、コアなゲームファンのハートを直撃した。安藤氏は制作当時を振り返り「プレイステーションが登場した当初は、『俺の料理』などユニークなゲームがたくさんあり、ヒットしていた。ユニークなゲームを作れば売れると思っていた。『鈴木爆発』も本気で100万本売るつもりでいた」と語った。ちなみに今でこそカルトな評価となっている「鈴木爆発」だが、当時は10万本ほど売れ、十分開発費も回収できたのだとか。

 また安藤氏は「当時のエニックスでは『ドラゴンクエスト』と同じ物は作るなと、さんざん言われていた」という。「ドラゴンクエスト」も、アクション全盛の時代に、2Dスクロールで進み、テキストでストーリーが語られ、コマンドで戦闘するゲーム性で新しかったと分析。「復活の呪文でゲームを次の日に引き継げるのが新しかった」とも語る。「当時はゲームがポップカルチャーになると言って、裾野を広げようと積極的に様々なゲームを作っていたが、それは今のインディの雰囲気と似ている」と来場者に語りかけた。

 ゲームを作る上でのスタート地点は「1人でも多くの人に買って欲しい、楽しんで欲しい」という気持ちにあるという。ではそれがどうして通好みのゲームになってしまうのか? つまり、100万本売れるタイトルも通好みのゲームも紙一重と言うことなのだ。「新しいワクワクを忘れなければ、うまくいくときもある」と安藤氏。最後に安藤氏は「次は通好みなタイトルにならないよう、作っていきたい」と語り締めくくった。

今なお、自由度の高いアクションは世界的に評価の高い「ストライダー飛竜」
ミカンが爆弾? 意味を求めてはいけないストーリーと、ゲーム性の高い爆弾解体が融合したカオスなゲーム。確かにプレイステーションの当時は変わったゲームも多かったが、それぞれ面白かった
エニックスにおいて発売されずに終わった未完の作品。ハンドル、アクセル、ブレーキの登場しないカーアクションゲームを作るという意気込みからスタートしたという
iPod用RPG。曲からキャラクターを召喚するなど音楽が入っているiPodならではのギミックが盛り込まれていた
安藤氏曰く、これは成功例だという「ケイオスリングス」。100万ダウンロードを突破したという
アクションゲーム「ムーンダイバー」

「ゲームシステムのアイデアを出す方法」

グランディングの二木幸生氏(左)とジェムドロップの北尾雄一郎氏(右)

 グランディングの二木幸生氏と急遽参加したジェムドロップの北尾雄一郎氏による対談のテーマは「ゲームシステムのアイデアを出す方法」。

 二木氏は、「ゲームシステムを作っても、面白いかどうかは人によって違う」と切り出した。この根源的な問題についてどう対処するかについて、「体験から考えるようにしている」という。たとえば、「ストリートファイターII」の場合、“友人と共に対戦するのが楽しい”という体験から入り、そのためになにをシステムに盛り込むかを考えていく。こうしないと「システムから考えると独りよがりになりがち」と問題点を示した。

 一方北尾氏は「自分は比較的システム重視のゲームを作ってきた」と語り、大切にしている部分として、「どうやって駆け引きを発生させて、悩んだ上で選択させるか? しかしただ論理的な選択だけでなく、ランダム的な部分を盛り込んでいる」と語る。この“ランダム的なところ”というのは、二木氏曰く「実力7割、運3割」となる。ある程度“場が荒れる”要素がなければ、勝敗を覆すことができないためだという。

 このほかにゲーム制作の過程において二木氏は「(システムを複雑にして)憶えることを多くしすぎないようにしている。面白いシステムだから憶えてもらえるかというと、そううまくはいかない」という。ただ、どうしてもゲームシステムは難しくなる傾向にあり、どうするかは、常に(どこまで盛り込むかについて)線引きに悩んでいるという。

 一方で、複雑なシステムになることがメリットとなることもある。難しいシステムであるが故にコミュニケーションが発生することは、ゲームにとってマイナスではない。北尾氏は「はっきり言って『モンスターハンター』のシステムは難しいと思うが、それがコミュニケーションに繋がり成功している」と分析。ここでも、コミュニケーションを取るという体験を重要視するゲームかどうかのスタート地点が大切になる。

 また2人は、ゲームのシステム作りの中で重要な要素として、加点評価と減点評価を挙げた。成功すると加点していくのか、失敗すると減点していくのかは重要な部分だ。2人とも「加点評価のほうが気持ちいい」としたが、ゲームはストレスを掛けて、そこから開放されることによる快感が重要な要素なだけに、一概にはどちらが良いかは言い切れない。たとえば溜め撃ちは、どこまで溜めるかの判断はストレスだが、敵を倒せたら快感となる。ゲーム制作過程では、ユーザーに与えて良いストレスなのか、だめなストレスなのかを判断しながら作っていく必要があるとした。

 さて、ゲームシステムを作ったら、効果があるのかどうかを検証してみたいところ。二木氏は「最近、ゲームシステムを作ったら、実況動画をしたらどうなるだろうと考えている」という。考えたゲームを、もしプレイして実況動画を付くったら、盛り上がるかどうか考えてみるという。実況動画が盛り上がらなければ、ゲームシステムに穴があると言うことで、練り直すのだという。

 ゲームの制作は、常にバランスを見ながら作り上げなければならない。目的意識をきちんと持って作り上げる難しさを垣間見た気がする。