【特別企画】

「どうぶつの森」は第3世代へ! 世界が認めるコミュニケーションツール「あつまれ どうぶつの森」に込めた“伝統と革新”

9月4日開催

 いまや“国民的ゲーム”と呼んでも過言ではない「あつまれ どうぶつの森」。その勢いは日本のみならず世界中に広がり、世界販売本数は2,240万本(2020年6月時点)とシリーズ記録を大きく更新しただけでなく、Nintendo Switchを代表する超ヒット作となった。

 筆者は、2001年にリリースされたNINTENDO64の初代「どうぶつの森」から数えてかれこれ19年の付き合いだが、シリーズのファンとして何より驚かされるのは、「こんなにヒットするとは!」ということではなく、第1作から本質的に遊びが変わっていないことだ。とたけけは、昔から渋かったし、たぬきちは当時と比較するとずいぶん丸くなったが借金を背負わせるところは変わってないし、お金を稼ぐためにあれこれ活動するのも変わってない。一番のお友達は19年変わらずブーケ。これは凄いことだ。

【『どうぶつの森』 記念映像 ~15年の感謝を込めて~】

 それでいて、「あつまれ どうぶつの森」では、革新的な要素が山盛りだ。一例を挙げると、ネットワークを介してオンラインマルチプレイや、Nintendo Switch Onlineを介してボイスチャットが手軽に楽しめる。とたけけライブという中期的な目標を与えられることで、サンドボックスゲームが苦手なノンゲームファンの心もしっかり掴んだ。さらに無料アップデートでコンテンツが追加されるのも嬉しいところ。8月は遠方で暮らす姪っ子と花火大会を楽しんだが、今年の夏の良い想い出になった。

【夏の想い出】

 “伝統と革新”。これこそが「どうぶつの森」を語る上で重要なキーワードとなるが、CEDEC 2020では「『あつまれ どうぶつの森』~シリーズにおける伝統と革新の両立を目指すゲームデザイン~」と題したセッションが行なわれ、今年を代表するタイトルである「あつ森」のゲームデザインの要諦が語られた。セッションスピーカーは、第1作から開発に携わり、本作ではプロデューサーを務めた野上恒氏と、GDCでも講演経験のあるディレクターの京極あや氏。

 今回のセッションで語られたのは、「ゲームデザインの変遷」、「開発体制の変遷」の2つ。野上氏が最初に携わったNINTENDO64「あつまれ どうぶつの森」から現在の「あつまれ どうぶつの森」までシリーズ全作品を対象に、守り続けてきた“伝統”と、探し求めてきた“革新”が語られた。初代から遊び続けている筆者にとっては思わず膝を打ちたくなるような納得感のある、素晴らしいセッションだったので丁寧に紹介していきたい。

【スピーカー】

「どうぶつの森」は「インターネットを使わないオンラインゲーム」

 「どうぶつの森」とはどういうゲームだろうか。模範解答は「かわいいどうぶつたちとのんびりきままにくらすゲーム」となるが、重要なのはそれを実現するために何をしているかだ。

 「どうぶつの森」のコアはコミュニケーション。どうぶつたちとのコミュニケーションは、あくまで1パートに過ぎず、本質は人と人とのコミュニケーションとなる。「どうぶつの森」は、これをネットワーク環境が不十分な2001年から実現している。

 それが「非同期コミュニケーション」だ。前作「飛び出せ どうぶつの森」や今作「あつまれ どうぶつの森」からプレイし始めた人はあまりピンとこないかもしれないが、これこそが「どうぶつの森」の一貫して変わらないコアバリューだ。

 筆者自身気づかなかったが、そのコンセプトは、初代「どうぶつの森」のパッケージに書かれている。「ひとりよりふたり、ふたりよりよにん、よにんよりたーくさん」。これは繰り返すが、どうぶつを指しているわけではなく、他のプレーヤーと一緒に遊ぶことを意味している。

【非同期コミュニケーション】

 初代「どうぶつの森」が画期的だったのは、複数人で1つのセーブデータを共有するというゲームデザインだ。セーブデータは村単位で行なわれ、そこに複数のプレーヤーが暮らすという仕組みから生まれたデザインだが、これにより誰かが遊んだ足跡がセーブデータに残され、第三者のプレイに影響を与えることができる。たとえば、木を植える人、くだものを収穫する人、木を切る人が、全員別の人物である可能性がある。こうして「どうぶつの森」は“非同期のオンラインプレイ”を初代から楽しんできた。

 この楽しさを指数関数的に加速してくれる存在がどうぶつたちだ。初代「どうぶつの森」で200人、「あつ森」で400人以上いるというどうぶつたちは、独自の記憶を持っている。プレーヤーに会ったこと、そこでの経験、場所、日付など記憶し、第三者にそれを伝える役目が与えられている。「あつ森」でおでかけすると、島のどうぶつたちは、別の島のプレーヤーの情報を語ってくれるが、あれだ。あのシステムは初代「どうぶつの森」から続く大事に守られてきた“伝統”の1つだ。

【どうぶつがもたらす記憶の連鎖】

 重要なのはこの先だ。自身がおでかけから帰った後は、その島のどうぶつたちは、プレーヤーと話した経験を記憶し、別のプレーヤーに語っていく。つまり、自分の情報がどんどん別のセーブデータに広がっていくわけだ。

 かつての「どうぶつの森」シリーズにはオンラインプレイがなく、どうぶつの引っ越しなどによって緩やかに伝播が行なわれていたが、「あつ森」ではあらゆる手段で他のプレーヤーと繋がることができるため、その伝播のスピードは過去作とは比べものにならないほど加速しているという。

 これを野上氏は、「インターネットを使わないオンラインゲーム」と呼んだ。「あつ森」は依然としてオンラインプレイに対応したゲームであって、MMORPGのようなオンラインゲームではないが、個々のプレーヤーが持つセーブデータの繋がりは、まるでサーバークライアント型のオンラインゲームのように凄まじい数のプレーヤーと結びつき、なんらかの影響を及ぼしている。これは今やかけがえのない「どうぶつの森」のアイデンティティとなり、その積み重ねが「かわいいどうぶつたちとのんびりきままにくらすゲーム」を下支えしているわけだ。

【インターネットを使わないオンラインゲーム】

【確立された「どうぶつの森」のアイデンティティ】

「どうぶつの森」第3世代の「あつまれ どうぶつの森」の“革新と伝統”とは?

 そんな「どうぶつの森」だが、過去作からプレイしている方はご存じの通り、良い意味で刺激の少ないのんびりとしたゲームデザインを採用しているため、新作の開発は常に“飽き”との戦いになっている。「あつ森」ディレクターの京極氏は、GDC 2014でも「とびだせ どうぶつの森」について、そのものズバリ「飽きへの克服」をテーマに講演を行なっており、ずっとシリーズの飽きと戦い続けている。

 野上氏は、GDC 2014に続いて、再びWii版「街へいこうよ どうぶつの森」について言及し、「ボイスチャットによる同期コミュニケーションや、Wii Connect 24という新しい取り組みを導入したものの、肝心の遊びの変化の少なさが目立ち、あまり変わらないという印象を持たせてしまった」と語り、新作には「目に見える変化が必要」という教訓を得たと語った。

【シリーズ毎のチャレンジ】

 そして次に開発された「とびだせ どうぶつの森」では、「村長になって村おこしをする」という、現在の「あつ森」の“島おこし”にも通じるわかりやすい新要素を導入して新しさをアピールしつつ、携帯ゲーム機の特徴に合わせたコミュニケーション機能を数多く取り入れるなどして、シリーズのマンネリ化を脱却。「とびだせ どうぶつの森」は、過去最高のヒット作となった。

【とびだせ どうぶつの森】

 そして満を持して投入された「あつまれ どうぶつの森」は、ゲームとして世代が新しくなっているという。初代からゲームキューブ版まで、非同期コミュニケーションをベースとしたタイトル群を第1世代とすると、同期コミュニケーションを徐々に取り入れたニンテンドーDS「おいでよ どうぶつの森」から3DS「とびだせ どうぶつの森」までが第2世代で、「あつ森」は第3世代に突入しているという。

【「あつ森」は第3世代】

 どの辺が第3世代なのかというと、間口を広げるために、シリーズ未経験者でも楽しめるように、「どうぶつの森」シリーズそのものを再定義したことだ。それまでは、続編では、どちらかといえばシリーズのファンに向けて新要素を用意していたが、この第3世代の「あつ森」では、ファン向けの要素も大事にしつつ、新規ユーザーに向けての取り組みをゲームデザインの柱とした。

 具体例として紹介されたのは、1台のNintendo Switch、1つのセーブデータで、同じ島で暮らす人と同時に遊べる「パーティーモード」の採用や、「マイデザイン」の共有システム、あるいはパスワードを使った島への招待機能など、シリーズのファンよりも、ノンゲーマー層でも手に取りやすくするためのわかりやすい進化をたくさん取り入れた。

【「あつ森」で新たに取り入れられた工夫の数々】

 さらにシステム面では、シリーズではじめて目標を取り入れた。シリーズのファンなら誰でもご存じの通り、「どうぶつの森」は、表向き「かわいいどうぶつたちとのんびりきままにくらすゲーム」だが、「たぬきちから半ば強制的に背負わされた借金を返していくゲーム」でもある。ただ、これも強制ではなく、別に返さなくても家を追い出されることはない。要するに目的は自分自身で探さなければならないゲームだ。

 ところが「あつ森」では、「島おこしをしてとたけけのライブを行なう」という明確な目標が提示される。「あつ森」から始めた方は「へえ、そうなんだ」と思ったかも知れないが、これはシリーズ史上画期的な出来事だ。これにより新規ユーザーのみならず既存ユーザーも、飽きずにゲームを楽しむことができた。

【過去作と「あつ森」のゲームシーケンスの違い】

 そして「あつ森」が素晴らしいのは、とたけけのライブの開催は、ゲームとしてのゴールではないことだ。一定の達成感を与えつつ、実は通過点に過ぎない。京極氏によれば、「とたけけのライブ」はだいたい2週間ほどのプレイで到達できるような作りにしており、その先は、島の造成といった上級者向けの要素も開放しつつ、目標を自分で見つけて楽しむ“いつものどうぶつの森”が幕を開ける。

 「あつ森」は無人島の移住からとたけけライブまでが丸ごと“導入”で、その後が“いつものどうぶつの森”という二段構えになっており、導入に革新的な要素を取り入れ、新規ユーザーからシリーズのファンまで無理なく楽しんで貰いながら、集落への発展し、とたけけライブも開けるぐらい成長した後は、伝統的な「どうぶつの森」の世界が幕を開ける。これこそが「あつ森」の“革新と伝統”であり、第3世代とする理由だ。

【「あつ森」の革新と伝統】

 セッションでは、CEDECの本義である開発者向けに、その開発体制の変遷や、開発体制が肥大化、複雑化する中での対応策などについて触れながら、シリーズの持続的成長に必要なこととして「変化無くして持続させることはできない」と結論づけた。そのためには、俯瞰した視点での相互理解と、部分最適にこだわらず全体最適を心がけることが大事とし、「ゲーム開発は楽ではないが楽しい!」と結んだ。

 「あつ森」はご存じの通り、“いつものどうぶつの森”スタート後も、別軸として無料のシーズンアップデートが用意されており、常に新鮮さを感じながら島の暮らしを楽しむことができる。今回語られたような開発体制、ポリシー、テーマで開発されている「あつ森」の勢いはまだしばらくは誰も止められなさそうで、もともと「どうぶつの森」シリーズは、1作品あたりの息が長いタイトルだが、「あつ森」はとびきり長いタイトルになりそうだという実感を掴めたセッションだった。

【開発体制の変遷】

【変化なくして持続なし】