【特別企画】

京都ヨドバシ転売問題「商品名が言える人だけ予約が可能です!」。転売屋に対し、私達は何ができるのか?

 「京都のヨドバシで転売問題でのトラブルがあった」という話がネットで流れていたとき、筆者は「ふーん」という感想しか持っていなかった。ホビーにおいて転売問題は日常茶飯事だからだ。

 しかしそれが「METAL BUILD エヴァンゲリオン2号機」の話だと知った時、大いに驚いた。その起点になった商品を、筆者も今まさに入手するために懸命に努力していたからだ。

 転売問題は非常に根が深い問題だが、それが外国人まで巻き込み、さらに大きくなっているその現状を改めて思い知った。今回、ニュースやネットの記事を見て、転売問題について初めて知ったという人もいるかもしれない。本稿では、そうした方に、主にホビーを対象に転売問題についてわかりやすく解説したい。

京都ヨドバシがなぜ話題になったか、明らかになった外国人による転売問題

 転売問題はなぜ起こるか? それは「多少高くても買う人がいるから」だ。そういう人に向けて転売することで儲けることができる。それを狙って商品を買い占める人が出てくる中、負の連鎖になっているのが現状だ。弊誌でも以前記事として取り上げたが、転売はもはや「気軽にできるビジネス」となっていて、転売屋が使うブログや掲示板では、靴、時計、服などと一緒にフィギュアやゲームなども並んでおり、人の“好き”を利用しているその醜さに直面したようで、強い怒りを覚える。

 転売ビジネスを容易にしている点はAmazonなどの通販サイトが発売日までお金の振り込みが必要ないところだ。発売日近くまで握っておいて、売れなければ放出するという方法で、多数の商品を確保している人達がいる。

Amazonでの「METAL BUILD エヴァンゲリオン2号機」の販売ページ。定価24,200円(税込)の商品が、転売価格で予約を受付しているのがわかる。暗い怒りが生まれる瞬間だ

 ヨドバシカメラや、ビックカメラはこういった転売を防ぐ対策として予約時に商品の金額を払うことで、欲しい人に商品を届くようにしている。こうすれば商品の確保にそれなりの資金が必要になるため、転売目的の人は少なくなる。確かに半年近く先の商品に対し、少なくはない資金を先払いするのはキツイが、欲しい商品をちゃんと確保するならば有効な方法である。

 しかし、この方法に対し、大きな資金を掛けて商品を買い占め、外国で販売する人達がいるのだ。京都のヨドバシ問題は、そういった転売対策をしているにもかかわらず、大きな資金力を持った中国の人達に商品が買い占められている、ホビー商品までその標的は広がっている。今回、その現状が明らかになった。

 すでにWebニュースだけでなく、テレビでも取り上げられているが、ヨドバシカメラ マルチメディア京都店で、6月24日「METAL BUILD エヴァンゲリオン2号機」での予約受付の際、多くの行列ができた。この際、ヨドバシ側は転売目的の商品購入を防ぐため、商品名を言えなかったり、スマートフォンで商品画像を提示できない客に対し、予約を断ったという。この時、声を荒げる客などもいて、その光景がSNSなどで広まった。商品の名前も言えなくて並んでいた人達の多くが中国の方だったため、「外国人差別」など本来全く関係ない方向にまで話題が広がっているのが現状だ。

先日開催された「METAL BUILD∞ -メタルビルドインフィニティ-」で出展されていた試作品。作り手の想いが伝わってくる素晴らしい商品である。前作の初号機も出来が良く、人気が高いのは当然と言えるが、だからといって転売屋のターゲットにされるというのは、1ファンとして全く納得できない

 正直に言えば、商品が欲しい人にとって、非常に嫌な気持ちになる話である。実は筆者は「METAL BUILD エヴァンゲリオン2号機」の予約が幸運にも何とかできた1人である。その定価は24,200円(税込)。筆者に取ってみれば大事な小遣いを投入して、多くの魅力的な商品から迷いながら選んだ商品である。それが、転売ゲームの標的になっているのは残念としか言いようがない。

 多くの予約サイトは、受注受付の16時の受付開始と同時に完売になってしまっていた。手動ではとても無理としか思えないスピードとタイミングだった。後で調べてみると転売のサイトには「予約ツール」なるものまであり、手動での予約ができた筆者はものすごく幸運だったが、ツールまで使う人がいるのかと思うと、これもものすごく嫌な気持ちにさせられる。

 転売問題では、昨今「チケット不正転売禁止法」が施行され、音楽のライブやスポーツイベントなどのチケットの転売は法律で禁止されるようになった。しかし、商品はこういった規制が難しい。商品はどうしても数が限られる。特に「METAL BUILD」のような製造過程が複雑で、高価な“嗜好品”は生産数も顧客も限られるため、桁の違う大量生産や、今以上に大きなビジネスにはなりにくい。しかしここに転売問題や、外国人の購入が絡んでくれば、全く予測は不可能になる。どのくらい供給すればそれを望むユーザーに届くのか、そこが見えなくなってしまう。

 日本の商品は中国では非常に人気がある。Nintendo Switchが出回ったとき、大量に中国の方が日本に来て買い占めていった、ということも記憶に新しいだろう。国内の正式流通の前にまず日本版を中国で求めている人のために買い占めるという動きは、近年、国内の様々な場所で起き、そしてトラブルになっている。今回のヨドバシカメラ マルチメディア京都店の対応は、そういった事情を受けての、できるだけ商品をそれを望むユーザーへ届けたい、という行動の1つだろう。

 あくまで個人的に、転売には嫌な感情を抱かざるを得ないが、まずそれを副業としている人が多くいること、転売のノウハウを売る人すらいること、中古問題も含め、法律などで取り締まることが難しいこと様々な問題があり、これをなくすことはできない。これに中国ユーザーを見越した組織的な転売業者まで絡んでくるとすれば、私達がちゃんと欲しいものを手に入れるにはどうすれば良いか、暗澹たる気持ちになってしまう。

 これに対し、企業は努力をしていないかといえば、そうではない。1つは通販サイトによる受注生産。タカラトミーモールでは一般販売品も受注を行なっているし、プレミアムバンダイでは準備数に達した場合、2次受付などもあり、発売時期が後ろにずれてしまうものの入手できる環境を整えてくれている。また、販売する際も人気商品は供給量を増やし店頭でも購入しやすい環境を目指している。

 状況は刻々と変わり、変化し続けている。実際、高額のホビー商品は数年前より手に入りやすくなった。それはビジネス規模全体が大きくなり、様々な商品が出るようになったことも大きい。それを利用して生産者でも、正規業者でもないのに儲けよう、という人達に目をつけられてしまっているのは、本当に目の前が暗くなるような怒りを感じるが、それは私達の趣味嗜好が市民権を得て、そういう人達に目をつけられるほどに大きくなっている、ということでもある。

プラモデル製作技術で新しいフィギュア表現に挑戦しようという「Figure-riseLABO ホシノ・フミナ[The Second Scene]」こちらも転売屋が群がり受注開始時期は価格がとんでもないところまで跳ね上がった。しかし発売日から遅れる発送としてプレミアムバンダイで数度受注販売を行ない、筆者も送料手数料がかかるものの、定価で予約できた

 後手に回らざるを得ないが、メーカーも対応しようとしてくれているし、今回のヨドバシカメラ マルチメディア京都店の対応は現場担当者が、少しでも現状を改善しようと努力した結果であることは覚えておきたい。差別問題など間違った情報に流されず、小売店として転売問題に対応するにはどうするか、その流れを問い続けることは大事なことだと思う。

 被害を受けている我々消費者は何かできないかと言えば、メーカーや小売店を応援することがやはり一番なのではないか。ちゃんと予約する。商品希望の要望を出し、きちんと買い、そのビジネスを継続させる。ちゃんと商品を求める声が大きくなれば環境は整えられる。例えば海外流通がもっとしっかりすれば中国向け転売屋はいなくなるだろう。

 弊誌ではゲームだけでなく、ホビー関連も積極的に取材し、作り手の声が読者に届くように努力している。取材では作り手だけでなく、それを生み出す工場の人達、広報の方の想い、そしてユーザーに商品を届ける流通の人達の努力を聞くことも多く、その情報も伝えているつもりだ。

 消費者目線からはこの理不尽な状況は腹立たしいことが多いが、多くの人がこの状況を改善するために努力している。何より魅力的な商品が多数販売されているこの現状には大きく感謝すべきだろう。その上で、ヨドバシカメラ マルチメディア京都店の対応のように、現状を何とかしようと努力してくれている人がいる。私達はそういう働きかけをしている人が多くいると言うことも、忘れないでいたいところだ。