インタビュー

iOS「NAMCO Sound Player」インタビュー

「鳴らして『ニヤッとする』」サウンドアプリ

配信中

価格:85円(NAMCO Sound Player + XEVIOUS(ゼビウス))

各85円(追加サウンド)

 バンダイナムコゲームスが2月21日よりiOS向けに配信中のアプリケーション「NAMCO Sound Player」。手軽に歴代ナムコサウンドを鳴らして楽しめるこのアプリ、バンダイナムコスタジオのサウンドチームにより監修・プロデュースされた製品を発信している「NAMCO SOUNDS」ブランドからリリースされた。

 販売価格はベースアプリケーションとなる「NAMCO Sound Player + XEVIOUS(ゼビウス)」が85円。追加サウンドが各85円となっており、すべて揃えると「765」円になるという粋な価格設定になっている。

 「ただ音を鳴らして楽しいの?」という方がいらっしゃるのは当然だが、ラインナップにあるタイトルを実際にプレイしていた世代の筆者は、このアプリを試してみて、「なるほど!」と感じるところがあった。自分のタイミングでBGMを鳴らし始め、プレイしていたときに鳴っていたSEを、ゲーム進行を思い浮かべながらタイミングよく鳴らす。あまたのゲームの中でも強烈な個性を発していたナムコ(当時)のゲームは、BGMはもとより、SEも自分の脳内に刷り込まれていることをこのアプリを通して再認識させられた。

 今回、この「NAMCO Sound Player」を手がけたバンダイナムコスタジオ 大久保 博氏と、プロデューサーの岩間克彦氏にお話を伺った。(文中敬称略)

「NAMCO SOUNDS」とは?

「NAMCO SOUNDS」のロゴ

――まずは、「NAMCO SOUNDS」に関してお伺いします。iTunesで楽曲を配信されていますが、バンダイナムコゲームスさんの楽曲配信レーベルという認識でよいのでしょうか?

大久保氏:はい。その認識で問題無いですが、今後もう少し幅を広げていこうと考えてます。我々がバンダイナムコゲームスに所属していたときに、iTunesなどでの音楽配信レーベルを始めましょうということで、ライセンス部門とバンダイビジュアルと、サウンド部とで「NAMCO SOUNDS」を立ち上げました。

 その後、バンダイナムコゲームスと、バンダイナムコスタジオは分社しましたが、これまで通りバンダイナムコスタジオのサウンド部が監修する音楽配信だけでなく、我々サウンドクリエイターのセンスを活かした物を制作、プロデュースしていくレーベルとしてこの名前を使っていくことにしました。

サウンドスタッフがデザインした「自分たちが欲しいもの」

「NAMCO Sound Player」

――楽曲配信が先行していましたが、それ以外のアプリの配信なども当初から想定されていたものなのでしょうか?

大久保氏:iTunesでの楽曲配信を始めた時期には想定には入っていませんでしたね。個性豊かなサウンドクリエイター達が作り出すモノを何らかの形で世に出したいとは思っていました。

――今までの流れから言うと、楽曲配信も、ディスクで販売されていたもののiTunesでの再配信、そしてミックスなどのオリジナルのプラスアルファ的なもの、そして「ゼビウス」の30周年記念のトリビュートアルバムと、活躍の幅が広がってきましたよね? それに加えて今回の「NAMCO Sound Player」と。これはいつぐらいから動き始めたものなのでしょうか?

岩間氏:去年の春ぐらいですかね。

大久保氏:岩間さんと飲み屋で、こういうアプリがあったら楽しいよね、という話をしていて。もちろん作るものは僕らのセンスで作りたいので、サウンド発で作りましょうよ、という話で盛り上がって。

岩間氏:そうですねと(笑)。

大久保氏:このアプリは岩間さんがプログラムしたんです。岩間さんもサウンド部所属なんですけれども。

――iOSでのリリースでしたが、Androidでも……という声もありますが? 今まで楽曲をiTunes Storeで配信されてますから、iOSがターゲットというのは当然だと思うのですが……?

大久保氏:今まで楽曲を配信してきた流れもありましたが、僕らが当初やりたかったのは、iTunes内のNAMCO SOUNDSのページの中でアプリも売りたい、ということでした。他のプラットフォームでの話はないわけではないですが、とりあえずスタートはiTunesでやることにしました。

――岩間さんはもともとプログラムを手がけてらっしゃったんですか?

岩間氏:javaでプログラムの経験がありまして、iOSで、となるとObjective-Cを使わなければならなくなるので、その勉強がてら作ってみたんですよ。最初は簡易的なものを作ってレスポンスをチェックして、「これなら大丈夫だ」ということで1度まとまったものを作り終えたんです。

 そこでいったん(開発が)塩漬けになったんですけれども、たまに手が開いたときにいろいろ手を入れて試してみたりして。最初作ったテストアプリは、背景をスクロールさせてみたり、キャラクタを一杯並べて動かして、とかいろいろやってみたんですけれども、レスポンスが悪くなったりするので極力排除して、見た目もシンプルでかっこよさを出す、ということで今の形になりました。

大久保氏:カッコよく行きたかったんですよ。「媚びずにとがっている」というか。そんな感じで行きたくて。文字も出さない。楽器的というか、デザイン的な方向でいきたいな、ということで。

岩間氏:最初から「ゼビウス」で作っていて、「ゼビウス」って無機質じゃないですか。その雰囲気を出したかったんですよね。後に他のタイトルも入れていったんで、「マッピー」とかかわいらしいんですが、だからといってボタンに「マッピー」を出しちゃうと、「うーん?」ってなっちゃうじゃないですか?

――なるほど。最初は割り振られているSEが鳴らしてみないとわからないので、ボタンの上に例えば「ザッパー」ならザッパーのアイコン的なビジュアルがあってもいいのかな、わかりやすくなるかな、と思いましたけれども。

大久保氏:例えば、これが楽器として考えるとして、プレーヤーとして超うまくプレイできている状態を考えると、そこまで使いこなしていくまでの差ができるじゃないですか。それを使いこなす楽しみというか。その喜びも含めて、うまくなるまでも遊びだし、例えばザッパーの絵が描いてあるボタンを押したら、ザッパー音が鳴るということが誰から見ても明確だと、プレイ中の俺出来てる感というか、プレイヤーとしての優位性がちょっと……(笑)。

――うまく使いこなした方々に対しての……なんて言ったらいいんだろう、「使いこなした俺、カッコいい」っていう部分がなくなってしまうってことですかね?

大久保氏:そうそうそこです。そこは楽器と一緒で。(うまく演奏して)「でしょ?」って言いたいんですよ(笑)。

――なるほど。確かにアサインされているものがすべて表示されているようになっていたら、それはあまりカッコいい感じはしませんね。

大久保氏:子供向けの楽器に書いてあったりしますが、DJ向けとかには書いてないので。方向性としては「そっちかな」という感覚ですね。いろいろ消しましたもんね(笑)。

岩間氏:消しましたね。最初は「トーロイド」のボタンとか、「ソルバルウ」のボタンとかいっぱいあったんですけれども。「カッコ悪いな」って。

――スキンを切り替えられる感じで、そういうのも見てみたい気はしますけれども(笑)。アプリの容量の問題とかもあるとは思いますが。

大久保氏:いろいろやるとコスト上がりますし(笑)。

岩間氏:コストが上がりますね(笑)。

「ドルアーガの塔」ではSEのボタンが多く、切り替えボタンがついている

――SEのボタンを1画面で16個表示にしたのは、使い勝手とのバランスですか?

岩間氏:世間でいうところのシンセ系のパッドだと、それより多いものもあるし、4パターンしかないものもありますよね。やっぱり使っている中では16ぐらいがちょうどいい。「ドルアーガの塔」では切り替えてもう16ボタン表示できるようにしていますが、1画面に倍表示していたら、やっぱり使ってみると割り当てが覚えられないんですよ。4つだと少なすぎて、切り替えが多くなるので、それはそれで「シーンを再現する」のに楽しくないじゃないですか。「ちょうど収まりがいい」というのが16でしたね。

――「ドルアーガの塔」でシフトボタンがあって、さらに5つ使えるようになっていたので気になっていました。

大久保氏:今回のタイトルの中では「ドルアーガの塔」が1番音色数が多かったですし、他クラシックタイトルを見ても、シフトボタンによる2画面で多分足りると思います。

――SEの4番のボタンを押すと、BGMがそれにあわせて停止しますよね。こういうところが「ゲームを再現する」遊びにのっとった作りなんでしょうか?

岩間氏:一応その仕様にのっとってますね。もともと作っているときは、特にストップの命令も入れずに、BGMが普通になるようにしていたんですが、やっぱり音屋(サウンドクリエイター)がこだわって作っていくと、だんだん「この音リクエストしたらこの音は鳴らないで欲しいな」という想いが出てきて、それをプログラムしていくようになって。そうすると、だんだんゲームプレイができるようになってくる。

 最初は単純に音が鳴るようになるだけで、「ぽく」はなっていくんですけれど、その「本物っぽく」なった先に、本物との相違がだいぶ出てくるじゃないですか。そこを穴埋めしたいというか、本当にゲームをプレイしていくようにするというか。僕らの脳内にある、当時のサウンドの流れをうまく再現したいと思ったときは、爆発音が鳴ったときはこれとこれとこれを止めてってやるのはしんどいので、やりやすいように。

――そのあたりがこのアプリのこだわりなんだろうなと感じました。触る前、最初はもっと楽器寄りなのかなと思っていました。

大久保氏:単純にサンプリングサウンドを鳴らすツールではなくて、脳内にある思い出のゲームシーンを思い出しながら、それを再現するアプリなので。

岩間氏:こだわりはそこですよね。BGMも重なるものと重ならないものがあったりとか、細かいところを調整しています。きっと、ただSEやBGMを鳴らすだけだと、単に鳴らして「懐かしい」で終わってしまうんですけれども、発音を制御することで、「ああ、こうだった!」ということが生まれるじゃないですか。そうすると、それをもっと楽しもうとなって、遊ぶスタイルが出てくるので、そう遊んでもらえれば万々歳ですよね。

大久保氏:開発途中に僕が遊びながら、岩間さんに「何面だ?」って。これは「エリアなーんだ?」って問題出したりするんです(一同爆笑)。

岩間氏:「うわーめんどくせー」って言いながら答えてみたり(笑)。

大久保氏:やってましたね。

――イントロクイズならぬサウンドクイズですね(笑)。サウンドスタッフが作ったからこそのアプリという感じですごくいいですね。タイトルも音で覚えているものが多いですし。

岩間氏:意外とゲームを音で覚えているんですよね。無音で画面を見ていても、なんとなくは覚えているんですが、どっちかっていうと映像よりも音で覚えていることが多くて。音を聞くと画面が「見える」という状態で出てくるんですよね。それが狙いですね。

大久保氏:昔のゲームを立ち上げてプレイしてみると、「こんなもんだったっけ」ってなることもあるんですけれど、音だけ聞くと、幸せな思い出しか出てこない(一同笑)。

――記憶に残っているものを今、そのものを見せつけられると、意外と「あれっ?」てなることもありますが……。

岩間:音は画面が記憶で美化されていても、いい思い出だけをもう1回(脳内で映像として)呼び起こしてくれるので、当時好きだった人は、幸せな気持ちをもう1回味わえてもらえていいんだろうな、と思いましたね。とにかく、サウンドを鳴らせるようになっただけで、もうそこから楽しかった。

――これは個人的な希望なんですが、プレイしたものを記録したかったなと。シーケンサーっぽい感じですが、ゲームプレイを再現するということで、記録したものをネットでやりとりして再生するなどして、人がこのアプリをどうプレイしたのか、見てみたいという気もしました。カメラとかで動画を取ってアップすればいい話ですが……。

大久保氏:そういう話も出たんですけれどね。僕の想いから言っちゃうと、ピアノを演奏するとして、演奏がうまい人のデータをMIDI信号で鳴らすだけだと、実はあまりかっこよく見えなくて。やっぱり「ライブ感覚での、指捌きを含めてのうまさ」がカッコいいと思うんですよ。そういう意味では、うまくプレイできる方には、やはり目の前で披露するとか、動画を撮って公開する、とかしていただきたくて。うまくプレイできる人には今以上の機能っていらないのかなと思って。リアルタイムのプレイのカッコよさが1番だと思ったので「いらないです」って言ったんです。

――なるほど。

岩間氏:「よりシンプルに」というのがやはり念頭にあって。社内で披露するとやっぱり「あれがあるといい」、「これがあるといい」って言われるんですよね。でも、そもそもの「シンプルに音を鳴らして楽しい」というコンセプトが今の形になっているんですよ。僕はプレイ記録ってハナから要らないって思っていて、うまく演奏できることを目的にされると、それは違うと思うんですよ。うまくいかなかったらもう1回遊んでもらって、うまくいったら「ニヤッ」ってしてもらいたくて。

大久保氏:機能をつけることで、逆に遊びを狭めている気がしません? 例えばRECできるとしたら、それが目的になっちゃったり。砂場的に、場所を提供して、そこで何してもいい、という状態にしてあげたほうが、いろいろ遊べていい、という。

岩間氏:今回、このアプリを僕らが作って売りたかった部分は、「昔を思い出して鳴らしてニヤッとして欲しい」というところなので。そこは自分たちがこのアプリを触って絶対的に「楽しかった」ので。そこから先はやり方はいろいろありますし、これを使っていろいろ表現してもらう分には問題ありませんし。

大久保氏:1番楽しい状態を作ってあげる、という観点から見ると「デザインされていない」気がして。多機能で説明が一杯書いてあるものが良いデザインというわけではないですよね?例えばこのアプリのボタンに全部役割が書いてないと遊べないようなモノだとダメだと思うんです。隙が無いというか、逆に楽しく遊ぶための幅を狭めているのでは? と思って。岩間さんは最初から何も要らない、というスタンスでしたね。

岩間氏:そうですね。

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(佐伯憲司)