インタビュー

PS3/PS Vita「FINAL FANTASY X/X-2 HD Remaster」プレイ&インタビュー

「FFX/X-2 HDリマスター」インタビュー!

「FFX/X-2 HDリマスター」インタビュー!
PS2版スタッフの鳥山氏にも参加頂き当時の秘話もたっぷり

PS2のオリジナル版および、今回のHDリマスターでもプロデューサーを務めている北瀬佳範氏。当時を振り返りつつ想いを語ってくれた
約10年前にオリジナル版をプレイした人だけでなく、未プレイだけどティーダとユウナは知っているというような、若い世代の人にもプレイしてもらいたいという想いからHDリマスターは始まった

――まずはじめに、PS3とPS Vitaに「FFX」と「FFX-2」をHDリマスターして発売することになったきっかけとは、どういったものだったのでしょう?

北瀬氏:理由はいろいろありますが、「FFX」の10周年であったり、PSPで発売された「ディシディア ファイナルファンタジー」でも「FFX」のキャラクターが登場しています。それらのボイス収録の時に声優さんやスタッフと話をしたのですが、「懐かしいよね、またやりたいよね」と盛り上がったんです。本当の最初のきっかけは、そういうところからでしたね。

――リメイクやHD化を希望する声はシリーズ作のどの作品にも多いと思うのですが、「FFX」もやはり要望が多かったですか?

北瀬氏:それも大きな理由の1つです。もうPS2版の発売から「FFX」は12年、「FFX-2」でも10年経っています。改めて出すのに、もう十分な時が経ったのかなと。

 ちなみに私の息子が12歳で、PSPの「ディシディア ファイナルファンタジー」でティーダやユウナといった「FFX」のキャラクターを知っていて、ブリッツボールを使った攻撃も使っていました。でも、PS2のオリジナル版は知らないという、いわゆる逆転現象ですよね。

――なるほど、ティーダやユウナは「ディシディア ファイナルファンタジー」で知ったけど、「それで、この人達は何をした人なの?」ということになっているんですね。

北瀬氏:そうなんです(笑)。それで、PS2で当時プレイした人にまた遊んでもらいたいという気持ちと同時に、オリジナルを遊んだ事のない人にもプレイしてもらいたいと思ったんです。今の若い人達が「FFX」の物語を知らないというのは、もったいないなという思いもあります。

――今のプレイ環境だと、オリジナル版に触れる機会が少ないんですよね。「FF」シリーズは、「ファイナルファンジーIX」まではゲームアーカイブスなりでなにかしら遊ぶ手段がありますが、PS2の「FFX」は現状だとPS2本体か、PS2互換のあった初期PS3でないと遊べないですよね。

北瀬氏:オリジナル版を遊べる環境がかなり減っていることもそうですが、若い人に「FFX」の物語に触れてもらうという点で、そのまま移植するのではなく、HDリマスター化して今のリッチなプレイ環境で楽しめるようにするというのは、意義があるかなと考えました。

 それに「FFX」は、親子のストーリーなんですよね。PS2版をプレイした時は20代だったけど、今は30代で親になっているかもしれない。今HDリマスターで遊んでくれるとまた違う魅力を知ってもらえるかな、というのもありますね。

――あのストーリーは、親子のどちらの視点でみるかで結構変わってきますね。若い時はやはりティーダやユウナにでしょうけど、親であるジェクト側の気持ちが理解できるようになると、また違った感情がわいてくるかもしれませんね。

鳥山氏:アーロンの視点というのもありますよ。今いい年齢になられている方に改めて遊んでもらうと、いろんなキャラクターの想いに魅力を発見してもらえると思います。

PS2版をプレイした人の“思い出補正”に負けないように! 細かな修正を続けているHDリマスター

上はPS2版、下はHDリマスター版の画像。今見るとPS2版の細部は潰れていてわからないのだが、当時、PS2版をプレイした人の記憶の中にある美しさは、下のHDリマスターに近いのではないだろうか
PS2版「FFX」ではイベントディレクターを、「FFX-2」ではディレクターを務めた鳥山求氏。HDリマスターには関わっていないということだが(なにしろ「ライトニングリターンズ」を制作している真っ最中だ)、当時のお話をたくさん聞かせてもらえた

――発表そのものは結構早くに行なわれましたよね。PS Vitaのタイトルラインナップ発表会に出されていて。それもあってPS Vita版の印象が強いというのがあります。

北瀬氏:最初はPS Vita版の発表だったんです。あの時点で、PS3/PS Vitaの両方で制作することが決まっていました。どちらかと言えば、PS Vita版が出るぞというほうがインパクトがあったとは思います。

 発表から結構時間が経っていますが……実を言うと制作が思いのほか大変なんです。やはり普通の移植ではなく、HDリマスターということは、皆さん「(グラフィックスが)綺麗になる」というのを期待されると思います。ですがその期待には、単純に解像度を高くするだけでなく、思い出というか印象というか、当時遊んでいた記憶に見合うようなもの、というものも含まれていると感じています。

――いわゆる“思い出補正”に追いつかせないといけないということですね。

北瀬氏:オリジナル版そのままのデータを高解像度にしました……それでもいいのかも知れないけれども、ファンの方が期待しているのは、美化された思い出に見合うようしっかりと補正されたものなのではないかと考え、そこをいかに作り、補正し、修復するか、そういう工程を行なっています。

 何しろ10年以上前のゲームですから。元のデータが完全な状態では保管されていない部分もあって、まさに修復作業が必要というところが多くありました。

――個人的に気になったのはまさにそこです。「PS2版の元データをどれぐらい活かせるものなのだろう?」と思っていました。

北瀬氏:どれぐらいですかね。「FFX」と「FFX-2」でも違ってきますが、比較的「FFX」のほうは元のデータが残っていました。「FFX-2」の方は結構欠損しているというか、足りないデータやバックアップが残っていないものが多いです。そのあたりをしっかりとプログラムの解析などをしながら、修復しているところです。

――そもそもハードが全く違いますし、リマスター移植というよりは、手作りでオリジナルを再現するようなところも多いのかなと思います。

北瀬氏:最初は、もうちょっと簡単にできるかなと思っていたんですけど、やってみたら意外に……(苦笑)。残っていないデータの復元と、あとはキャラクターモデルのリファインですね。今回はキャラクターモデルをHD用に作り直しています。

 メインキャラクターは、特にアップになるカットシーンも多いですから。当時も、メインキャラクターにはカットシーン用のハイモデルというクオリティの高いモデルを用意しているのですが、ハイモデル、ローモデル共に手直ししています。

――特に表情が、見え方が変わると印象も変わりますよね。ただ解像度を上げただけではオリジナル版をプレイした時のあの印象にはならないというか。

北瀬氏:ライティングや画面の雰囲気を含めて、まだ様々な要素を調整しているところです。不思議なもので、そのまま高解像度にしても「これ何か違うんじゃないかな」と思うんです。

鳥山氏:多分、PS2の環境だとブラウン管的なソフトフォーカスがかかっている状態だったと思うんですけど、それが外れるだけでも雰囲気はかなり変わります。

――先ほどプレビュー版を見させて頂いた時に感じたのですが、高解像度化で画面の雰囲気そのものがガラッと変わりますし、表情がアップになった時にくっきりと見えて、ある意味では見えすぎて印象が変わる、みたいなところがありますね。

北瀬氏:オリジナル版は解像度が低く、画質が粗いことによって細かなところがごまかされていたと思いますね。そこをHD解像度にした時にも、くっきり見えるけどオリジナル版と同じ印象を持てるようにという微妙な調整を行なっています。

 もっと昔のことを話すと、ドット画の時代でも“ブラウン管のにじみを計算に入れてドットを打っていた”んですよ。でも、くっきりと見えるディスプレイになったら手法は変えないといけないですから、今「FFX/X-2 HDリマスター」で行なっている調整はそれと似たようなところがあります。

――ブラウン管の特性によるナチュラルアンチエイリアスというか。ナチュラルソフトフォーカスというか(笑)。

北瀬氏:その違いがSDからHDに持ってきた時にも起きるんです。そこも考慮した上で“くっきりとキレイ!”というものにする必要があるんです。

 PS2のオリジナル版を遊んでいた時と、今のプレイ環境は全く違いますよね。ブラウン管のテレビに、当時はコンポジットケーブルで接続、こだわってる人ならS端子でしょうか。だいぶにじんだ画面を見ていたわけで、当時の画面の印象にはそういう環境も影響していたんです。

鳥山氏:作り方の話が少し出ましたけど、例えば、「ファイナルファンタジーXIII」(以下「FFXIII」)の開発環境はその多くがツール化されていて、誰もがクセのない作り方をできるようになっています。ですが、「FFX」、「FFX-2」の時は全部、職人的なスクリプト言語を手打ちで作っています。そのぶん、イベントシーンひとつにしても作り手の細かな技術というか「こだわり」が乗っかっていますから、そこをHDリマスターで再現するというのも、難しいのかなと思います。

イベントのカットシーンだが、比率が16:9になったことでPS2版とは見える範囲が変わっている。こうしたところに独自の調整が必要なのだ

――鳥山さんは当時「FFX」のイベントディレクター、「FFX-2」のディレクターですよね。イベントシーンはまさにご自身がこだわったところかと思いますが。

鳥山氏:HDリマスター版を最初に見せてもらった時なんですけど、「このイベントシーンで、ここを映るようにした覚えがないんだけど……」という話になりました。

北瀬氏:画面の比率が4:3から16:9になっているからね。

――画面比率が変わったので、構図として映す意図のなかったものが映り込んしまうこともありましたか?

北瀬氏:イベントでは、次のカットに登場するキャラクターが画面外のすぐそばに待機していることもあります。それをそのままにして表示範囲が横に広がると……(笑)。

――待機していたキャラの顔が半分だけ画面に入ると(笑)。

鳥山氏:カメラワーク的にもぐるーっと横に振るなどしているシーンが結構あるので、表示範囲が広くて深くなると本来映らないはずのものが見えてしまうことがあります。当時は、何日も徹夜して作ったシーンばかりなので、HDリマスターには直接的に参加していないんですけど、開発者としての思い出補正でこだわってしまうんですよね(笑)。

北瀬氏:置き換えて終わりとか、コンバートして終わりではないというのが、まさにそういうところですね。今後も手修正の連続です。

PS Vita版も順調に制作中。「FFX-2」もセットになったのは満足してもらいたい想いから

当初は「FFX」のHDリマスターのみが発表されていたが、後に「FFX-2」の同時収録も発表された。2枚の画面写真は現在公開されている「FFX-2」HDリマスターのもの

――制作の流れですが、PS3版とPS Vita版は、PS3版をまず作り込んで、そこからPS Vita版へ落とし込んでいくという流れでしょうか?

北瀬氏:基本的にはそうですね。ベースはPS3版です。ただ、進行としてはPS Vita版もほぼ同時に近いです。

――PS Vitaでも近いクオリティでスムーズにできるのか、というのがユーザーさんは気になるところかと思います。

北瀬氏:そこはご心配なく。どちらかというと、HDリマスターのベースであり、大画面にフルHDを映すという意味では、PS3版の方が気を使っているところがあります。

――なるほど、ベースにかけている労力がまず大きいというわけですね。PS3とPS Vitaのどちらで遊ぶか、両機種持っている人にとっては悩ましいところですね。

北瀬氏:移動中に遊ぶことが多い人なら、PS Vita版の方が便利だとは思いますが、大画面にこだわる人はPS3版のほうが良いでしょう。遊ぶ人のスタイルによって商品を選べるところが今回のHDリマスターの大きなメリットでもあります。

――HDリマスターではありますが、PS Vitaで出る初めての「FF」ということになります。PS Vitaというハードへの印象というのはいかがですか?

北瀬氏:ディスプレイが本当に綺麗です。表示能力もしっかりあります。手は抜けないというか、「FF」のクオリティをちゃんと伝えられるハードだなと思います。10年前にはできなかったプレイスタイルで遊べる。持ち運んで、いつでも遊べていつでも止められる。すごい時代になったなと思います。

――HDリマスター版の発表当初は「FFX」のみでしたが、やはり「FFX-2も入れたい」というような話になっていったのでしょうか?

北瀬氏:構想としては「FFX-2」もやりたいというのが当初からありました。ただ、HD化というもの自体が初めてでしたから、まずは「FFX」を着手して、順調にやれるという確信を持ちたかったんです。

 それから実際に実機上で「FFX」が動くようになり、これなら「FFX-2」もできるという気持ちになりました。ファンの皆さんも「FFX」を出すなら「FFX-2」もと思われるでしょうから。

――なるほど。個人的には「FFX」のHDリマスター版の発売後に、別パッケージで「FFX-2」も出してくれたらなぁと思っていたのですが、それが「セットで一緒に出します!」ということになったので驚きました。

北瀬氏:そこはやはりファンの方に満足してもらいたいですし、そもそも「FFX」をHDリマスターで出すというのも、ファンの皆さんの希望を叶えるというところから始まっていますから、出し惜しみなしです。

(山村智美)