インタビュー

3DS「ファンタジーライフ」ディレクターインタビュー

少ない会話で「そのキャラの人生を」
キャラに話しかけたくなる魅力的な会話の秘密

少ない会話で「そのキャラの人生を」。キャラに話しかけたくなる魅力的な会話の秘密

開発途中は毎日のように事件が起きていたという

――「苦労されたのはどんなところですか?」と聞きたいところですが、これはもう聞くまでもなく苦労したところだらけですよね(笑)。

菅野氏:そうですね(笑)。開発中は毎日が海外ドラマ「24(トゥエンティーフォー)」みたいな感じでしたね。いろいろなところで事件が起きました(笑)。開発規模の大きさも理由の1つなのですが、メインの世界観を構築していただいたブラウニーブラウンさんが全体の3分の1ぐらいで、3Dプログラムやグラフィックスの強いハ・ン・ドさんがもう3分の1ぐらい、あとの3分1がゲームデザインや各ディレクションを主導したレベルファイブのスタッフ、そのほかいろいろな開発会社さんや外部のスタッフさんに参加していただいていたんです。

 それが1つのプロジェクトに集まったので、カオスなわけですよ現場は(笑)。2社でもなかなか上手くいかないこともあります。そこが1番難しかったところですね。ただ、全員が「いいゲームを作りたい」という想いで取り組んでくれたので乗り越えられました。本当にたくさんの人にお世話になりました。

 “いろんなライフがある”というゲームですけど、開発に関わったスタッフにもそれぞれの場所にいろんな生き方をしている人がいて、みんなで頑張ったから良い作品になってくれたかな、という想いがありますね。

――楽曲を植松伸夫さんが手がけたり、イラストを天野喜孝さんが手がけていますよね。この2人をはじめ、そうした才能ある方がそれぞれ頑張ったことで、ある意味頑張りがバッティングするようなことも起こったのではないかと思います。まとまりを良くするという点での苦労もありましたか?

菅野氏:暖かな世界観というところにたどり着くために、個々の要素をそれぞれがどう作っていくのかですが、そこは少し苦労しました。才能ある人がたくさん集まってくれたので、変に魅力同士が喧嘩してしまうようなことが起きないように、それぞれ気持ちよく作れるようにできる限り配慮して、そしてできあがったものが集結した時に、これまで見たことがないゲームになって欲しいと思っていました。

 先ほどもありましたが、共通意識があったことも大きいです。スタッフにはRPGが好きな人や作ってきた人も多かったのですが、みんなに共通していた意識に「RPGってこういうところが楽しかったんだよね」とか、「昔のこういうRPGが好きだったんだよ」という想いがありました。RPGが好きな人に、「ファンタジーライフ」の世界は居心地がいいと思ってもらうには、好きになってもらうにはどうしたらいいのかを、たくさん話し合いました。それによって理想像がまとまっていったように思います。

天野喜孝氏のイラスト、植松伸夫氏の楽曲、ブラウニーブラウンの遊び心溢れる試みと、豊かな才能が集まった「ファンタジーライフ」。そこには多くの苦労と、プレーヤーを楽しませる工夫があった

――RPGの魅力という点で「ファンタジーライフ」では、「会話がとてもユニークで面白かった」という反応も多いようです。テイストが「MOTHER」っぽいと言う声もありました。これはやはり「MOTHER」シリーズで糸井さんと一緒にテキストを担当した戸田昭吾氏の存在が大きかったのですか?

菅野氏:戸田さんをはじめ、ブラウニーブラウンさんが元々持っていた遊び心によるものかなと思います。1つ1つがすごく面白いので、それをうまくまとめつつ、魅力が埋もれないようにするための設計には気を遣いました。

 戸田さんをはじめテキストを担当してもらったスタッフと、街の人々との会話などについて話したのですが、そこで目指したことの中に「2つのセリフだけでその人の人生を語りましょう」というのがあります。街の人々の台詞は昼と夜の2パターンしかないんですが、その2つのテキストで、その人の人生や暮らし、性格などが伝わるようにしようというものです。

――そのキャラクターなりのユーモアであったり、話題であったり。そこから、何をして暮らしていて、どういう人なのか。そういったものを2パターンの会話で伝わるようにしようと……。とてつもない話ですね(笑)。

菅野氏:そうなんです(笑)。もう1つは、全体的に“ボケましょう”という暗黙のルールがあったように思います(笑)。ゲームって自分で遊ぶもの、自分が世界に参加していくものですよね。でも、テキストって“読まされるモノ”になりがちです。ストーリーはある程度仕方がないと思いますけど、自分で人に話しかけた会話なら“ツッコミたくなるテキスト”がいいと。プレーヤーがツッコめる会話なら能動的になれる。プレーヤーがなにか反応したくなる会話なら、それはゲーム的な行為になると思うので。

 そのおかげで、ファンタジールの住民は天然でツッコミ待ちの人ばかりです(笑)。ゲーム内では誰もつっこまないけど、画面の前にいるプレーヤーさんにツッコんでもらう。ただ“読まされるテキスト”ではないと思います。

――なるほど、すごく大事なところだと思います。RPGでの会話ってゲームのヒントであり情報や知識であることが多いですよね。でもそれだけだと不必要なら読まないし、読まされている感も出てきます。その会話がボケでありツッコミであればインタラクティブなものになって、読む面白さ、話しかける楽しさが出てくるんですね。

菅野氏:もっと読みたいって思ってもらって、その結果、その話しかけた相手の人生のようなものをより深く知ってもらえると思うんです。そうすると、世界の中でその人がちゃんと生きているんだなと感じられて、世界観もぐっと深まっていく。それではじめて、ゲーム全体のテーマでもある“それぞれの人生”というものに近づけるのではないかと、テキスト担当のみなさんと話していました。

――かわいらしい外見の中に、恐ろしく高度なものが詰め込まれていますね(笑)。

菅野氏:才能のある人が、みなさんそれぞれ本当に頑張ってくれたおかげですね。ありがたい話です。

「働いて生きる世界は楽しい」、ファンタジックな世界ながら現実的なテーマも

プレーヤーはライフ(職)につき、スター(実績)やリッチ(お金)を稼ぎつつ、ハッピー(幸せ)を集めていく。ファンタジックな世界でありながら現実の大事な要素も豊富に取り入れているのが独特

――要素が多くて、世界も広い、そして深い。その中で、ライフ(職)、ハッピー(幸せ)、スター(実績)、リッチ(お金)など、ファンタジックな表現ながらも現実の中でも大事なものを使っていますよね。夢見がちなところだけじゃなくて、働いて、毎日を楽しむっていう大事なメッセージ性も感じます。

菅野氏:戸田さんとも「働くっていいよね、とか、世界は楽しいんだよ」というのを伝えていこうよと話をしたことがあります。現実的な要素を柔らかい表現で入れてます。ちなみに、スター(実績)は最初“モテール”っていう名前だったんですよ(笑)。

――モテールだと、なんか生々しいですね(笑)。それも確かに大事ですけど。

菅野氏:はい。「モテールはちょっとなぁ」と日野からも指摘されました(笑)。それでスターになりました。

――要素をどこまで豊富にしようかというところに、線引きはあったと思うんです。やりたいことはあるけど、とりあえずやるのはここまでというような。

菅野氏:そうですね。やろうと思えばどこまでもやれるので、どこまで深くするのか、どこまでやるのかというのは、ある意味、勘に頼るところもありました。僕だけじゃなく、関わったみんなそれぞれの勘ですね。

 もっと深く深くシステムを掘り下げていけば、いろいろとできるのは見えるのですが、行き過ぎるとほかの要素がついてこれなくなってしまう。こっちは深いけど、こっちはそうでもない。その差を埋めきれなくならないようバランスには気を遣いました。

 もっともっと深いゲームにはできるし、それを求めているユーザーさんがいるのも理解しています。ですが、“携帯ゲーム機で手軽に楽しめるオープンワールドの魅力”とのバランスも考えて試行錯誤していった結果が、今回の「ファンタジーライフ」になりました。

――システムを奥深くしたり複雑になったりするのは、手軽さとのトレードオフになりますね。

菅野氏:そうなんです。心地よさとのトレードオフというか、深くすればするほど(手触りが)重くなっていきます。それが楽しい人もいるけど、辛くなる人もいるんですよね。ある程度の軽さが必要というか、どこまでやるかというのは、その重さや軽さで考えたところもあります。

 個人的には、アクションゲームが好きですし、ハードなアクション作品を作ってきたスタッフもいます。なので、凝ったものにしようと思えばできなくはないんです。できるけど……というところです。凝っているところがありつつも、基本的にはライトに、子供や女性にも楽しめるアクションにしています。

――連続攻撃はボタン連打だとダメで、リズミカルにボタンを押さないとコンボの最後が出せないところとか、ちょっとアクションに対するこだわりが見えていますよね。

菅野氏:あのあたりはまさにそうですね(笑)。

RPGの根本にある魅力「世界を楽しむ」実現のためにいたるところに仕掛けを

ストーリ中のイベント戦闘は「戦わない」という選択でもオッケー。その柔らかさがまた暖かでユニークな作品を作っている

――豊富さという点では、ライフごとに物語があって、それぞれに登場人物もいます。そこの豊富さもかなりのものですね。

菅野氏:デザイナーからは、「何人作れば気が済むんだ」と怒られたこともありました(笑)。そういう意味でも本当に頑張ってもらいました。ですが、「たくさんの人がそれぞれに暮らしている世界」と感じてもらうには、コピーのような人がたくさんいても実感してもらえないと思ったんです。

 生活感の出し方として例えば、世界をもっと狭くして、そこで暮らしている人々の1日をもっと濃く見せるやり方もあると思うんです。「どうぶつの森」などはそのアプローチですが、それとはまた違うアプローチで、広い世界の中にいろいろな物語がありいろんな人がいる。その全体の広がりで生活感を感じてもらうというデザインにしています。

――それだけ用意しているにも関わらず、楽しませ方はすごくライトですよね。例えば、メインストーリーのイベント戦闘で「戦わない」という選択肢を選んでも話が進みます。プレイしていて驚いたというか「イベント戦闘なのに戦わなくてもいいんだ」と思いました(笑)。

菅野氏:それでもいいのではないかと思いまして(笑)。内部的にも「え、それでいいの?」という意見はあったんですけど、「いいんじゃない」と答えました。

 まずファンタジーゲームの王道の世界観を、すごくベタにやりたいという気持ちがあったのですが、あまりベタすぎると予想外なところがなくなってしまう。でも、ドラマティックな展開とか、裏切りや事件みたいな要素はほかのゲームにもいっぱいありますよね。なので逆の方向にしようと思いました。「バトルしなくていいんだ」とか、「みんな良い人なんだ」とか(笑)。そういう新しさがあってもいいのではないか、このゲームには合っているんのではないかと考えました。

――ストーリーではレベルデザインのような、いわゆるこのボスを倒すにはレベルがいくつ以上必要で、ボスに勝てないと進めないという要素が無いですよね。

菅野氏:レベルデザインはストーリーだと特別なものになっていますが、マップごとにデザインしてもらっています。例えば、ストーリー以外でキリタチ山に行くと、キリタチ山だけで複数のダンジョンがあるようなレベルデザインをしていたり、スムーズなだけでなく、ちょっと覗いてみたところに突然強い敵がいて倒されてしまうというのもオープンワールド系のRPGの面白さだと思うので、そういう場所もところどころにあります。

 ストーリーでは世界を順に巡っていく、ある意味ガイドのような作りにしていますが、あれも本当はもっと違った形にしたかったんです。ストーリーでももっと自由な方がいいと思っていました。最初からどこにでも行けて、それぞれの場所でストーリーが展開される、というような自由さを持たせたかったのですが、それをやるにはより緻密な設計が必要なんですよね。

「世界を楽しむ」を重視してやりこめる要素を詰め込んでいったという。それが、オープンワールドの魅力であり、RPGの根源的な魅力というわけだ

――RPG作りのジレンマのようなところですよね。本当に自由だとプレーヤーがどこに行って何をするかがまったくわからない。順序立てたストーリー展開が成立しなくなるという。

菅野氏:そうですね。それと、このゲームで初めてオープンワールドのRPGを遊ぶ人も多いと思いますし、遊ぶ人が子供だったり女性だと、手放しで自由過ぎると、何をしていいのかわからない人も多いだろうと考えました。

 遊んでくれたユーザーさんからは、「もっとオープンワールドらしく自由にさせて」という意見もありましたけどね。

――本当に自由だと、例えば“その街のイベント”がところどころ個別に点在しているとか、そういう作りになりますよね。オープンワールドのゲームはそういう作りというか、そうならざるを得ないというか。

菅野氏:人それぞれに物語があって、それが緻密に繋がり壮大なものができあがっていくようなものを作りたいという気持ちはありましたが、今回はそういう方向ではなく、3DSでプレイすることも考えて、ストーリーは世界のガイド役になってもらうことにしました。最終的にファンタジールってこういう世界なんだと理解してもらって、そこからは自由に楽しんでもらうほうがいいと判断しました。

――ガイド役のストーリーが終わったあとも、3DSのゲームとしては異様なほどたくさんやりこみ要素を入れていますよね。それこそユーザーさんが、そうしたやりこみ要素をどこまで触ってくれるかもわからない部分があると思うのですが、制作スケジュールとしてはどうだったのでしょうか? スケジュールに間に合わせるのか、度外視というわけではないですけど粘って詰め込めるだけ詰め込んだのですか。

菅野氏:難しいところですが、「現実的な選択をして今の形になった」という感じですね。本当はもっとこうしたいという妄想に近い夢はありましたが「無理です」と(笑)。スタッフと話し合って、「ここはこうしよう」と詰めていきました。異様なほどと言ってもらえましたけど、実はむしろもっともっとやりたいことはあったんですよ。

――スケジューリングの中でもっとやりたいことはあったけど、整えて丸くしたというところでしょうか。携帯機の中にあれだけ詰めて、実はまだまだと感じているというのは、なんとも恐ろしい話ですね。

菅野氏:ユーザーさんに満足してもらえるだけの量が必要だというのは絶対で、あとは時間とのせめぎ合いですよね。「ファンタジーライフ」に関わった全員が頑張ってくれました。

――RPGのどこを重視するかということですが、「触ってもらえるかわからないところにいろいろと用意してあって、それを発見するのが楽しい」というのが重要だと思います。そこが重視されているかどうか。オープンワールド系のRPGってそういう良さですよね。

菅野氏:そうですね。「世界を歩く」、「世界に触れる」というのがどれだけ楽しいか。ここに行ったらどうなるんだろうとか、この人に話しかけると何かあるのかなとか。世界を探索するのが楽しいのかというところですね。

――RPGの原点にある魅力ってそこではないかなと思えますね。

菅野氏:表現の仕方はたくさんあると思いますが、表現がリアルになっても、RPGの根本的な面白さは昔から変わっていないと思うんです。人やクエストに触れ、世界を知って、意外なところに新しい発見がある。そういう良さをちゃんと盛り込みたいという話し合いから、どんどん触ってもらえるかわからないところへの作り込みが進んだという感じですね。

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(山村智美)